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全部で7話の予定です。

今日は2話投稿です。

今日は王立学園の卒業パーティー。

これは単なるパーティーではなく、デビュタント予行演習の意味合いもある大切な行事であり、私たち生徒会が取り仕切る最初の一大イベントでもある。

いつもは閉め切られている大きなホールは煌びやかな装飾に彩られ、今日のために着飾った学生たちを続々と迎え入れている。

どうやら今のところ順調のようだ。


「セシル、こんなところにいたのか」

「なぁんだ、アルか…」

 

後ろから声をかけられて慌てて振り向くと、見慣れた仏頂面が睨んでいた。

装飾の陰からこっそり会場内を覗いている姿は高位貴族の令嬢として他人に見せてよいものではないため焦ったが、相手が同じ生徒会役員であり友人でもあるアルフォンスであったことで胸を撫でおろした。


「なんだとはなんだ。突然いなくなったパートナーを探しに来たというのに」

「ごめんなさい。なんだか心配で…。でも順調そうで安心したわ」

「あれだけ時間をかけたんだ、順調でなくては困る」


そう言って鼻を鳴らし不遜な態度に見せているが、どうやらアルフォンスも同じ気持ちだったようでやや緩んだ口元に安堵の様子が見える。

そう、私たち生徒会役員は皆、このパーティーの準備に多くの時間と労力をかけてきた。

企画から会場内の装飾、立食のメニュー、招待状のデザインに至るまで、パーティーに関わるほとんど全てのことを生徒会役員が決めるのだが、今年は特に大変だった。

今年の卒業生にこの国の第一王子がいるからだ。

王族がいるので失敗は許されないうえ、前生徒会長である王子の手前、昨年のパーティーを真似ただけといった芸のないことはできない。

私たちは何度も議論を重ね、あらゆるサンプルを取り寄せ比較検討し、時に険悪になりながらも協力し合ってこの日を迎えた。

これだけ頑張ったのだから絶対に成功させたい。

とはいえ料理や音楽などは業者を手配しているので、パーティーが始まりさえすれば生徒会役員がすることは決して多くない。

招待客である学生達をお迎えすること、業者の仕事が滞りなく行われているのかチェックして不備があればそれを指摘すること、そして万が一不測の事態が起きた時に対処することくらいのものだ。

しかもなんと今日は二年生役員が中心になってそれらを行ってくれるとのことで、一年生役員の私とアルフォンスは他の招待客と同じようにパーティーに出席しろと言われていた。

そしてもし何かあったら補佐をすれば良いらしい。

これは今年は新入生なのだから楽しめという先輩方の計らいだと思うのだが、結局開場前の最終確認には参加させてもらった。

そこからは他の招待客に混ざれば良かったのだが、入場が始まるとどうしても気になってしまって、今度はこっそり全体が見える場所に移動していたのだった。

アルフォンスと私は便宜上パーティーに参加する際のパートナーとなっていたのだが、急にいなくなったので迷惑をかけてしまったようだ。

申し訳なく思ったが、隣を見ると結局彼も私と同様に会場内を覗き込んでいた。


「ほら、会長を見てみろよ」


言われて促された方を見ると、そこには我らが生徒会長の姿があった。

公爵家令息である彼は会場内にて生徒会役員の中で最も重要な役割であるホスト役として緊張した面持ちで皆を出迎えている。


「あらまあ、表情も動きもカチコチと音がしそうなほど固いわね」

「さっき胃薬を渡したんだが、あれでは効いていなさそうだな」

「私たちは気楽だけれど、会長はホスト役だものね。あんなに緊張して…なんだか可哀そう」

「そう言うならホスト役を変わってやればよかったのに」


笑いながら簡単そうに言われたことがなんだか腹立たしくなって隣の男を睨む。


「あら、その言葉はあなたにこそ言いたいわね。だいたい、留学生かつ一年生の私なんかができるお仕事じゃないわよ」

「それを言うなら俺だって一年生だ」

「でもあなた一応この国の王子じゃない。それにあなたのお兄様は一年生の時から生徒会長もホスト役もしていたと聞いたけど」


そう、私の隣で軽口をたたく仏頂面のこの男は、こう見えてこの国の第二王子だ。

私にとっては留学先での数少ない友人の一人ではあるけど、血統は紛れもなく高貴。

一年生から生徒会役員をしているのもそれが理由の一つだ。

本当は生徒会長も本日のホスト役もアルフォンスにとの声があったのだが、彼はどちらにも首を縦に振らなかった。


「あいつは目立ちたがり屋なんだよ。その点俺は奥ゆかしいからな」


やれやれと肩をすくめる姿を見ると、二年生になったところで何かしら理由をつけてやりたがらないのだろうと容易に想像できる。

そのあまりのやる気のなさにあきれてしまうが、一緒に生徒会活動をしていく中で彼の仕事ぶりを知っているので、勿体ないという気持ちのほうが強い。

不思議と人を引き寄せていつの間にか味方を増やしていたりするし、指示も的確で迷いがないし、実は真面目で仕事も速くて正確。

皆の先頭に立つ彼の姿を見てみたいと思っているのは私だけではないと思うのだけど、彼は決して前に出ようとせず裏方でいようとしている節がある。


「とにかく今俺たちにできることはパーティーを楽しむことだ。そろそろ戻ろう」


この話は終わりだと暗に言われてしまったが、確かにこのままここにいるわけにもいかないので同意する。

会場に戻りがてら周囲を見ていると、さらに入場者が増えて色とりどりのドレスが目に入ってきた。

その中でも一際目立つ色に目が留まった。


「皆様、とても素敵だわ。あ…あれはアンネリーセ様ね、とても素敵な赤いドレス…。うっとりしてしまうわ」

「ああ、アンネリーセ・ブラーウ公爵令嬢か。いかにも高位貴族という目立つ出で立ちだな」

「あそこまでの赤はなかなか上品に着こなせないのよ。私のようなぼんやり地味顔ではまず無理ね。だからこそ憧れるの」


長い銀色の髪を美しく結い上げ、体のラインがでる赤いドレスを優雅に着こなしているアンネリーセ様は王立学園の中でも屈指の美女であり、また完璧な淑女として名高い。

現在学園に通う女生徒はみな彼女を手本にして美しさ、知性、優雅さを磨いていると言っても過言ではない程であり、男女問わず憧れの存在だ。

かくいう私もその一人。

うっとり見つめていたが、ふと疑問が思い浮かんで首をかしげる。


「あら、でもなぜパートナーも連れずお一人なのかしら。アンネリーセ様は第一王子の婚約者じゃない。王子はどうしたの?」


社交の予行演習という観点からこのパーティーは原則パートナー必須となっている。

学園の学生同士で各自自由にパートナーを選ぶことができるので、パーティー間近になると学園全体が浮足立つ。

将来はほとんどが政略結婚となる貴族令息令嬢からすると、この時だけは政略に関わらず心から好きな相手とパートナーになれる絶好の機会となるからだ。

しかしその中にあっても地に足がついている人たちがいる。

それが既に婚約済みの令息令嬢だ。

婚約者がいるのであれば、わざわざ婚約者以外を伴うのは大きなルール違反に他ならない。

そのため学園内に婚約者がいれば当然パートナーは婚約者になるし、在籍していないのであれば例外的にパーティーには一人で参加することになる。

そして私の憧れの淑女であるアンネリーセ様はアルフォンスの兄である第一王子の婚約者様。

となると当然パートナーは王子であるはずなのに、彼女が一人とは…嫌な予感しかしない。

考えたくもない仮説が思い浮かんで眉を寄せていると、隣のアルフォンスが入り口の方を向いたまま小さく声を漏らした。


「おいおい、あいつ正気かよ」


その声につられて私が視線を走らせるのと同時に、音楽隊が一度演奏をやめ新たにファンファーレを奏で始めた。

そこには信じられない光景があった。


「嘘でしょ…」


件の王子がとある令嬢と睦まじく腕を組んで、時折視線を合わせて微笑み合いながら入場してきたのだ。

二人の登場に会場内は騒めいた。

私たちと同じようにあまりの驚きに声が漏れたものが少なくなかったのだろう。

しかしそんな周りのことなどお構いなしに、王子は直立したまま軽く微笑み、令嬢は可愛らしいものの淑女とは言い難い拙いカーテシーをしてから堂々とホールに入ったのだった。


「セシル、これは大変なことになるぞ」

「そうね、急ぎましょう」


私たち生徒会役員の本日の仕事は万が一不測の事態が起きた時の対処。

今、明らかに不測の事態が起きようとしていた。

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