36.
「なんでここに来たんだ?」
声が怖いです、王子。
中庭で人の声が聞こえた瞬間、王子の魔法で違う部屋に飛んできた。正確に言えば、飛ばされた、かな。
「あの、その前に一つ、この部屋勝手に使って大丈夫なんですか?」
『学園に侵入しようとしてたやつが何言ってるんだ』
まじそれな☆
「ここは俺の部屋だから大丈夫だ」
へ? 学校にプライベートルームなんてあるの? 初めて聞いたわ。王子の権力凄いな。
「広くて豪華な部屋が用意されているんですね」
「質問には答えただろ。今度は俺の質問に答えろ」
「ヘレナを探してるんですよ」
「……ヘレナを? なんの為に?」
王子は疑わしそうに私を見る。
「あ、また嫌がらせするだろうとか思っています? わざわざ学園に来てまでしませんよ、そんな面倒くさいこと」
『俺に会いに来たんじゃないのか』
前まで、王子にべったりだったもんね。ナメクジのようにべっとりと引っ付いてて、本当気持ち悪い女だったよね。
けど、ここまで追いかけてきたらストーカーです。まだ犯罪には手を染めません。……まだ。
「ヘレナに会うことは可能ですか?」
「ああ、まぁ。けど、今日は特別レッスンがあるって言ってたような」
……仲いいんだ。
って、当たり前じゃん。ヒロインと王子はラブラブに決まっている。
今、なんで、私ちょっともやっとしたんだよ。
むしろ、王子は圧倒的に私よりもヘレナと過ごしている時間が多い。
「どうかしたか?」
「ヘレナと仲が良さそうで私も嬉しいです」
咄嗟に笑顔でそう答えてしまった。
『ムカつくな。婚約者が他の女と仲良くしているのに喜ぶ女がどこにいる』
仰る通りです。
『……というか、俺はなんでまだこいつに執着してるんだ?』
私も聞きたいですよ! なんでまだ婚約破棄しないんですか?
別に婚約破棄を本気で求めているわけじゃないですけど、好きな相手がいて両想いなのに、破棄しない意味が分からないんですよ!
キープして、期待を持たせるなんて、なんて残酷な王子なんだろう。
「ちょっと学校見て回るか?」
王子の突然の提案に私は固まる。
「え、それって大丈夫なんですか?」
「俺の婚約者なんだから、俺が連れて歩いていることには問題ないだろう」
「まぁ、確かにそうですね」
『なんか気乗りじゃないな』
「嫌なのか?」
「いえ、あの、ヴァイオリンどうしようかなって思って」
「持ってたらいいんじゃないのか?」
『こいつは何を言っているんだ』
王子がめんどうくさそうに答える。
「あんまり知られたくないので。特に両親には……あ、王子!」
「今度は何だ?」
「私にヴァイオリン与えたこと両親には言ってないですよね!?」
「仮に言っていたら、もうとっくにお前の耳に入っているだろ」
あ、そっか。
王子は呆れた顔で私を見る。なんか自分の馬鹿さが露になって恥ずかしくなってくる。
「ヴァイオリンのことを隠したいのなら、ここに置いていけばいい。とっとと行くぞ」
そう言って、王子は席を立つ。
王子の言葉に甘えて、ヴァイオリンをソファの上に置き、彼の後を追った。




