117 小さな紙の意図
私は、二人にもう少し学園でゆっくりしていけば言いと言われたのを断って急いで屋敷へと戻る。
ヘレナはずっと私が帰ることに不満そうにしていたけれど、ヴァイオリンの練習があるって言ったら、なんとか帰らせてくれた。
その時のヘレナの心の声も口から出る声もうるさかったな……。
ヴァイオリンの練習があるのも本当だけど、あれ以上学園にいたくなかった。ディランから与えられたミッションの為に事前準備をしっかりしておかないと!
現世は長生きするって決めてるんだから!
ぼんやりと馬車に揺られながら、私はヘレナのことを考える。
なんであんなに好かれてるんだろう……。
そのうちプリクラに仲仔っていう意味がよく分からない文字を書くような友達になってしまうかもしれない。
ニコイチ……? いや、オスカーも入れてサンコイチ? 攻略対象全員入れたら、イツメン?
頭の中で色んな言葉がグルグルと回る。
いつの間にヘレナからの好感度があんなに上がったのか本当に不思議だ。
もしかして見知らぬところでヘレナの両親を凶悪殺人鬼から救ったとかそんなことない? ……全然記憶にないし、あるわけないか。
クシャっという小さな音が聞こえ、自分が小さな紙を踏んでいることに気付いた。
「私のお尻に踏まれるなんて贅沢な紙だね」と馬鹿なことを呟きながら、下敷きになっていた紙を取り出す。
……いつの間に置かれていたんだろう。
内容を確認すると、至ってシンプルな情報だった。ジノの母親の場所が書かれていた。
……どういうこと? ジノを捨てた母親を探せって意味?
この紙をここに置いたのはディランの仕業としか思えないけれど、どうして彼がそんなことをする必要があったのかは理解出来ない。
あの男、私のことを相当暇人だと思っているに違いない。確かにそうだけど!
それと、ジノの母親探しは別だ。それに、どうしてわざわざ平民のジノの母親なんて探す必要があるのよ。
そこまでジノに対して尽くす義理はないはず……。
私はディランと王子が私の家に来たことを思い出す。
考えてみれば、イーサンんちの庭師なのに王子と他国の総帥が動くなんておかしい。厳しい言い方になるけれど、たかが庭師だ。
国のトップが動く必要なんてない。それにあの後、いきなりディランに誘われて彼の国に行くことになったし……。
「う~~ん」と私は必死に頭を捻る。このお馬鹿な脳みそを必死に動かす。
「分からん!!」
暫く考えた後に、大きな声を出す。その声量に驚いたのか、少し馬車が早くなった気がした。
こんな謎解き分かりっこない!
なぞなぞなんて私には無理なんだし、もっと丁寧に文章で全てを説明してよ。情報量少なすぎて、推測だけで動かないといけないなんてきつ過ぎる。
とりあえず、この紙はジノの母親に会いに行けって示唆していると思うから会いに行くけどさ~。
次、ディランに会ったらいっぱい文句言ってやるんだから!
あ~~、一瞬だけでいいから前世に戻りたい。あの平凡な日々が愛おしいよ。




