少年少女二人
日が傾きかける時間。
広い廊下から一人分の足音が聞こえてきていた。
足音は少しづつこの部屋へと向かっている。
それが誰で、何の用なのかも全て理解していた。
しばらくして、足音が止むと、扉を叩く音が聞こえてくる。
入っていいという旨の言葉を外に掛けると、返事が一つと共に扉は開かれる。
中に入ってきたのは、朱色の髪をして、頭以外の全身を鎧で覆った人。
彼は、こちらに向けて頭を下げると、カチャカチャという、金属音を響かせながらこちらへと歩いてくる。
「調子はどうですか、姫様」
優しい笑顔をこちらへと向けながら。
◇◇◇
あの事件からどれほど経ったのだろうか。
正確に数えてはいないけれど、かなりの日数が経過していた。
その期間と、国内最大規模の医療をふんだんに使ったことで、私の身体はすっかり回復していた。
まだ指先の痺れだけ治ることがなく、残念ながら完治は厳しいと言われてしまったけれど、それほど影響するものでもなかった。
数日前から訓練や授業も再開し、先生方も久しぶりに顔が見れて嬉しいと、そう言ってくれた。
まぁ、結構その後で絞られたけど……。
ともかく、その甲斐あってか私はすっかり回復し、そして今日はとある日なのだ。
そのため、今こうして私の目の前には、全身鎧のアーリャが立っている。
「ええ、ばっちり。アーリャは……その恰好で行くの?」
「はい。この姿が一番戦いやすいんです。何か不都合でも?」
どう考えても動きにくいでしょ、とか機動力なさそう、とか音がうるさい、とか色々と言いたいことはあったけど、まぁいいかと置いておくことにした。
いちいち、鎧のすばらしさを語られても私にはわからないし。
「うん、まぁ別にいいんじゃない? それにしても本当についてくるんだね……」
「はい、俺は姫様の護衛ですから」
そんなことは知っている。
けれど、もっといい方法があるはずだ。
「なんで引き留めたりしないの? そっちの方が確実じゃない?」
「姫様引き留めたら行くのやめるんです? どうせ行くでしょう。そういうことです」
流石はアーリャ。というしかないくらいに見事私の考えなんて読まれているようだった。
ほんと、敵わないや。
「それに、俺に与えられた命は姫様と四六時中傍にいてその身を守ることですから。別に姫様がどこに行こうと問題はないんですよ」
「アーリャそういうの屁理屈っていうんだよ……」
「存じております」
なんとも、いい顔をしたまま彼はそう、間なく返す。
「だろうね……」
知っていたよ。
口元を軽くにやけさせながら、私はそう返した。
「さて、姫様の方の準備はよろしいのですか?」
ベッドに腰かけていた私に手を差し伸べ、リードしながら私を立たせる。
「ええ、元から準備なんてほとんどないんだけどね」
右太腿の裏を一瞬ちらっと見やった後、すぐに目線を戻す。
「それはよかった。ただ姫様その恰好で行くには少し、今夜は冷えるかと」
そう言って、私のクローゼットの中から一着の上着を取り出す。
躊躇なく開けられるのすごいよね……と思いながらその上着を受け取る。
「ありがとう。それじゃ行こうか」
受け取った上着に手を通し、コトリの方へと歩を進める。
コトリに「少し借りるね」と言いながら触れ、すぐに窓際へと戻る。
「姫様。今、楽しいですか?」
「ええ、とっても」
「外の世界が怖くはないですか?」
「怖いのかもしれない。けどそれ以上に輝いていて、私はこの世界が好きだよ」
それ以上聞くことはなかった。
二人、窓際に立って、この世界を見下ろす。ああ、なんて綺麗で、広い世界だろう。
「――――行くよ」
そうして、窓から二人、手をつないで翔んだ。
本当はもっと続ける気でしたが、もともと10万単位で区切りつけようと思っていたので、これにて終了とさせていただきます。まだわかっていないことも多々ある中での終了となり誠にもうしわけございません。楽しんでいただけた方が一人でもいるならば幸いです。
ありがとうございます。




