陽が昇る
「そういえば、イリーナ。君は夜が明ける前に帰るって言ってたけど……」
「ええ、そのつもりだったけど……?」
「もうすぐ夜明けだけど大丈夫かい?」
「えっ!?」
慌てて辺りを見回すも、この部屋からは外の様子は見れないし、時計もない。
そういえば、私は一体何時間寝ていたの……!?
「今、何時なの……!?」
そう聞くと、チーニアは左腕についている小型の時計を取り出して時間を確認する。
「今は……六時前だね……」
「六時前……っていうかあなたそんな高そうなものを持っているの?」
「貴族の家からの盗品だよ。それよりいいのかい? 送っていこうか」
「送れないでしょうから大丈夫……それより、ここらへんで鳥がいる場所を知らない!!??」
今の私が最後に触ったのは、ルフィナだ。
つまり、このままだと、羽根を生やして飛ぶことができない。
要するに、自室へと帰ることができないのだ。
「急に鳥ってどうしたんだ。ここらへんで見かけるのは黒いやつかな。ゴミをよく漁ってるよ」
それは、おそらくカラスの亜種かなんかだったはず。
この世界の生物についても勉強しましたが、大抵が元の世界のとは少し違っていました。
カラスに関していえば、無茶苦茶頭がよくなってるとかだったはず。
「ありがとう。とりあえずここの場所は帰りながら覚えることにするから、また今夜、ここに来るね」
そういって、部屋に備え付けの扉を大きく開けて、外へと駆けだす。
といってもどこかの二階のようですぐさま階段を下り、玄関らしき扉へと走る。
扉を開けると、そこは夜に私がいたような裏路地のなかではまだ広い方の場所でした。
とりあえず鳥を探すためにも、壁を蹴って建物の屋根へと駆けのぼると、そこには既に半分昇りかけていた陽がいました。
「早く、カラスっぽいのを見つけないと!」
そう思い、すぐさま四方を見渡しながら、屋根の上を強く踏みしめながらに跳んでいく。
しかし、全力で探しているというのに、カラスが見つかることはなかった。
気づいたら私は元の、最初にいた屋根の上辺りまで戻ってきていた。
「はぁ、はぁ、全然いない……カラス……どこなの……」
急いでいたために全力を出していた私は、息を切らし、肩で呼吸をしながら、それでも周りを全力で見回していた。
すると、後ろから肩を叩かれる。
普段だったら気づいていてもおかしくないほどに、警戒をしていないその存在に今の私は気づくことができなかった。
急に叩かれ、吃驚して振り返ると同時、すぐさま距離を取ると、そこにいたのはルフィナだった。
「あ、ごめんなさい……驚かせるつもりはなかったんです。叩かないで……」
「いえ、こちらも急で驚いただけだから、叩いたりなんて……。それでなんの用なの? というかどうやって屋根の上に……」
「いえ、その……ここまでは魔法で……飛んできたんです。むしろ、どうやったら壁を蹴って登れるんですか……?」
確かに、あの時は私以外、外に出ていなかったはずなのに、この少女はまるでその瞬間を見ていたかのように、私にそう尋ねてきた。
「見ていたの?」
「それについては今夜にでも……それより鳥を探しているんですよね……?」
そういうと、少女の赤く綺麗な目は、突如として色を失う。
「えっとそうだけど……」
「いました……。そこを三つ行った先の屋根の下に、二羽……」
すぐに色が戻ったと思うと、私の後ろを指さして、目の前の少女はそう言った。
「えっ、場所がわかるの……?」
「はい……イリーナさんの……身体能力があれば捕まえられると思います……」
「あ、ありがとう、ただお願いしたいことが……」
「安心、してください……見られたくないことがあるなら、私が見ることはないので……」
それだけ言うと、私は彼女に背を向けて、言われた方向へと走っていく。
すぐに言われた場所につくと、本当にカラスみたいなのが二羽そこにいた。
私は上から、カラスに襲い掛かり、何とか、身体に触れることができ、そのままカラスの姿になってお城へと飛び去った。
ルフィナのおかげで、なんとか時間には間に合い、私が部屋に入って人に戻った時には三十分経っていた。
「さて、急いで身だしなみを整えないと……」
そういって私は普段だったら、あまり入ることはない朝風呂へと向かうのだった。




