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第17話:月曜日の座席、鋭すぎる弾道


月曜日の朝。しとしとと冷たい秋雨が降る中、俺はいつも通り、激しく心臓を波打たせながら路線バスへと滑り込んだ。

いつもなら「今日も10歳の肉体はよく動くな」なんて大人の余裕をぶちかましているところだが、今日の俺は明らかに様子がおかしかった。左頬に残る、あの信じられないほど柔らかくて熱い感触のせいで、喉が完全にカラカラに干からびていた。

自動扉がプシューと閉まる。車内を見渡すと、いつもの席に小百合が座っていた。

俺と目が合った瞬間、小百合は借りてきた猫のように背筋をピンと伸ばし、持っていた傘の持ち手をぎゅっと握りしめて窓の外へ顔を向けた。ツインテールの隙間から見える耳の端が、すでに茹でダコのように真っ赤になっている。

俺は胃潰瘍を患っていた前世のサラリーマン時代を思い出すほどの緊張感に包まれながら、彼女の隣の空席へと腰を下ろした。

「……おはよう、小百合」

「おはよう、徹くん……」

小百合の蚊の鳴くような声。ガタゴトと揺れるバスの車内。俺と小百合の間に流れる、あからさまに異常でギクシャクした空気。

数分後、いつもの停留所でプシューと扉が開いた。

雨傘をきちんと畳み、いつものハキハキとした足取りでステップを駆け上がってきたのは、真由美だった。

彼女は濡れた傘をまとめながら通路を歩いてくると、俺たちの前の席にストンと座り、くるりとこちらを振り返った。

「おはよ! 小百合、徹! ……って、何よその空気」

ランドセルのポケットに傘のベルトを押し込みながら、真由美の手がピタリと止まった。その鋭い観察眼が、一瞬にして俺と小百合の異変を捉える。

「怪しすぎるんだけど。小百合はさっきから私の顔も見ないで窓ガラスをじっと睨みつけてるし、徹は徹で、まるで工場の検品で不良品を見つけた時みたいな恐ろしい顔して固まってるじゃない」

(小学生のくせに例えが的確すぎるだろ……!)

中身がおっさんの俺は、真由美の鋭すぎるツッコミに内心で冷や汗をダラダラと流した。大人のポーカーフェイスを必死に維持しようとするが、10歳の少年の肉体は正直で、じわじわと顔に血が上っていく。

真由美は前の座席の背もたれに腕を置き、にやにやとした意地の悪い笑みを浮かべて俺たちの顔にぐっと近づいてきた。

「ふーーーん。わかったわよ。土曜日のデートの帰り道、この私が坂道でバイバイした後に、なんか『あった』わね?」

「ま、真由美ーっ!!」

小百合が顔を真っ赤にして前の座席の真由美をポカポカと叩くが、真由美は完全に確信犯の目で俺をロックオンしている。

「徹、あんた大人の余裕ぶっておきながら、小百合に何したのよ? それとも……小百合のほうから何か仕掛けたの?」

「いや、それは……」

俺が珍しく言葉を詰まらせると、真由美は前の席から身を乗り出し、通路側に伸ばしていた俺の右腕をぐっと引っ張ってきた。

「ずるーい! 私がいない間に抜け駆けするなんてさ。ねえ徹、小百合に何されたか知らないけど、私の方がもっとすごいことしてあげよっか?」

真由美の悪戯っぽくも熱い視線と、小百合の「真由美、ダメー!」という悲鳴が、雨のバス車内で交差する。

40歳のおっさんの防衛線は、月曜日の朝から完全に蜂の巣状態だった。前世の不登校クソガキのタイムラインはどこへやら、俺のやり直し(リスタート)は、2人の少女の過激な熱量に挟まれて、いよいよ制御不能な領域へと突き進んでいた。

(第18話へ続く)

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