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境界守  作者: 琥珀猫
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- 立夏に偲ぶ - (2)

 祖母の三回忌が過ぎた頃、ようやく喪失感が薄れて頭がシャッキリしたのか、朝ごはんの最中に祖父が突如、大掃除をすると宣言した。

 まだ、時期ではないのにと思ったが、一家総出で不要なもの(意外と出るもんだ)をあちらこちらから引っ張り出していたら、押し入れの奥に行李こうりが一つあった。開けてみると中には、古いアルバムが何冊か入っていた。

 皆を呼び集め、慎重にめくってみると、父や叔父叔母の幼少時、祖父母の婚礼時の写真。はたまた祖母の女学生時代の可憐な写真などが、綺麗に貼られていた。

 どうやら祖母が個人的に保管していたアルバムのようだ。

 一同思わず時を忘れて見ていたが、さて掃除の続きをと元のように仕舞おうとしたとき、行李の底に封筒があった。

 取り上げてみると、封はされておらずやや厚みがあり、表面の下の方に『叶わなかった想い』と小さく書かれていた。

 思わずみんなして祖父の顔を窺った。眉を寄せていた祖父は、出して見ろと私にいった。

 中には写真が一枚と、黄ばんだ一冊のノートだった。

 写っていたのは、女学生姿の若かりし祖母と一人の青年(二十代後半ぐらいだから祖父ではない)の二人。祖母は泣くのをこらえているような、微妙な笑顔で青年に腕を絡めている。対して青年は、苛立たしい表情を隠すこともせず、うつむき加減で己の手に持っているもの(祖母に触らせないように若干遠ざけている)を見つめている。カラー写真ではないのでよくわからないが、たくさんの花がついている枝のようである。

 「……焼けていなかったのか……」

 思い当たるのか祖父は呟いた。

 「これおじいちゃんじゃないよね」

 妹が遠慮なく祖父に尋ねる。

 「この人は義兄さんの親友で静子(祖母の名だ)の婚約者だった人だ。だが結納の日に断りに来て、以来行方知れずになった。これはその日、静子がねだって無理やり撮ってもらったもんだ。儂もそこにいたから、よく覚えとるよ」

 祖父母は幼馴染みだったらしいから、その場に居合わせていたのだろう。

 だが祖父の表情には、これ以上話はしたくないとしかめ面をしている。

 私はノートを祖父に差し出し、「中身読んでみる?」と聞いた。

 祖父は一応ノートを受け取ったが、表紙の文字をじっと見るだけで、頁をめくることなく私に渡すと、「おまえが見て好きに処分しろ」と低く呟き、部屋から出て行った――。

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