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02

部屋から1歩も出ない私の元に、今日もリリアーナがきていた。

5才にしては落ち着いた様子のリリアーナ。よほど心配なのか、あの日以降、お勉強の時間以外は私の部屋で過ごしている。

リリアーナが幼いなりに私の心配をしている事も伝わっているし、リリアーナの為にも気持ちを切り替えなければとは思う。だけど胸の奥が重くて、泣きそうになるのを抑え込むので精一杯で、ついついリリアーナにすがる様に抱きついてしまう。

貴族の淑女としての行動ではないのは重々承知しているが、前世の記憶を思い出してからというもの、考え方や行動が以前の様に行かなくなっている。身分制度なんてない、平和で豊かな日本で過ごした緩やかで穏やかな日本人としての自分。




「お母様?」

「ん?」

リリアーナが抱きしめられたまま服から顔を上げて私を見た。こちらを伺う様に、不安気に大きな赤い瞳を揺らしている。

「お庭の薔薇がきれいにさいているの。お空も青くてきれいだから・・・今日のお勉強も終わったから・・・お庭に行きませんか?・・・お母様とお庭でお菓子を食べたいです。」

そう言いながらだんだんとうつ向いてしまったリリアーナ。そんなリリアーナを見て益々胃の奥がぎゅうっと縮む気がする。

いつまでも部屋に籠っているわけにはいかない。

きりきりと痛む胃を押さえながらリリアーナを抱きしめた手に力を籠める。

本当にどうにかしなければ。

小さく息をはいて、リリアーナに「そうね。」と返事をすればリリアーナがパッと顔を上げて嬉しそうにはにかんだ。少し、胃の痛みが和らいだ気がする。

リリアーナを抱きしめた手をほどいて歩ける様に手を繋ぐと、リリアーナが軽い足取りで先に歩き出した。私もリリアーナに引っ張られる様にして付いて歩く。

ゲイル様がお昼に家にいる事はないとわかってはいても、胃の奥が縮んで中々足も進まない。

部屋を出て、廊下を進んで、テラスからようやく庭に出た。

季節は初夏。庭の薔薇は満開だった。赤からピンクへのグラデーションを作りながらところ狭しと薔薇が咲いている。薔薇の下には広がる緑の葉。頭上には雲一つなく澄んだ青い空が続いている。

ずっと部屋に閉じ籠っていた私の目に、刺さる様に入ったきた明るさと鮮やかな色に思わず目を閉じてしまう。慣れる様にゆっくりと目を開いていけば、鮮やかな色が視界いっぱいに広がる。

肺に入る土と薔薇と葉の空気。倒れてからようやくまともに息を吸った気がする。頭と身体のもやもやとした物が晴れていく様な気持ちになった。しばらく身体の中の空気を全部入れ換えてしまう様に深呼吸を繰り返していると、繋いだリリアーナの手にぎゅっと力が入った。リリアーナを見ると心配そうに私を見上げていた。倒れてからずっと、リリアーナの私を見る顔はいつもこの顔だった。”もう本当に動かなくては“リリアーナの顔を見ながらそう心の底から思えた。

その場にしゃがみ、両手でリリアーナのほっぺをぎゅっと挟む。かわいい顔は挟まれてもかわいい。ふふっと自然と笑いが込み上げるとリリアーナの瞳に涙が盛り上がった。

















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