表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レリック・ワールド ~最強の遺跡探索者、銀髪の少女と メイドの自動人形と、終わった世界の謎を解く~  作者: トンエリア
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/27

序章 黒衣のクロウ

 「ソロで遺跡に潜るなんて、自殺志願者かよ」


 ギルドの連中は、俺の顔を見るたびに、判で押したようにそう言って笑う。

 悪いな。その自殺志願者、この稼業を始めてから、一度も死んじゃいないし、負けてもいない。

 俺はクロウ。根っからの、レリック・ハンターだ。


「クロウ!また一人で行く気?いいかげん、仲間の一人くらい作りなって」


 ヴェルクのギルド支部。カウンターのシャノンが、書類をひらひら振りながら、にっと笑った。新人の頃からの腐れ縁だ。今日も安い柑橘の香水。まあ、こいつのこれはもう、空気みたいなもんだ。


「いやー、性に合わなくてさ。一人は気楽でいいんだよ」


 俺たちの商売は、いたって単純だ。地面にぶっ刺さった遺跡に潜って、底に転がってる遺物レリックを拾い、街で金に換える。遠い昔の忘れ物を、命懸けで掘りに行く。まあ、そういう因果な稼業だ。


「気楽ね。で、その気楽なお方に、ちょっと厄介な仕事があるんだけど」


 シャノンが、すっと声を落とした。


「〈人形坑にんぎょうこう〉。わかるよね」


「北の、自動人形オートマタの修理工場の跡だろ? 掘り尽くされた、新人の練習場じゃん」


「そう。その練習場で――新人が三組、続けて担ぎ込まれたの。それも、そこらの駆け出しじゃない。正規品の強化服を着込んだ、金のある連中よ。その装甲が、揃いも揃ってボロ雑巾」


「……は?」


 思わず、聞き返した。

 正規品っていえば、そのへんのあやしい旧式とはわけが違う。それを着込んだ三人組が、まとめてボロ雑巾。掘り尽くされたはずの、練習場で。


「あそこ、もう動くやつなんて一体も残ってないはずだろ」


「だから気味が悪いの。空っぽのはずの遺跡に、いるはずのない『強いの』が出てる。……ね、厄介でしょ?」


 うーん。理屈に合わないな、それは。

 でもまあ、怪我人がでてるってんなら、放っとくのも寝覚めが悪い。俺、こう見えてけっこう気にするタチなんだ。


「わかった。俺が見てくるよ」


「助かる。さすが」


「報酬は弾んでくれよ。家賃の支払いが近いんだ」



 人形坑は、相変わらずしけた遺跡だった。

 半分埋もれた搬入口から、ずるずると下りていく。錆びついた整備アーム、途中までバラされた人形の残骸。足元には、ハンターが落としていった薬莢が散らばってる。

 その薬莢に混じって――見覚えのある、分厚い装甲の破片が転がっていた。正規品強化服の、胸当ての成れの果てだ。ひしゃげて、引き裂かれて、まるで紙細工みたいに。

 ……これを着てたやつが、無事で済んだわけがない。シャノンの話は、どうやら嘘じゃなかったらしい。


 強化服の左膝が、きゅう、と鳴いた。安い潤滑剤しか買ってないせいだ。直そう直そうと思って、毎回忘れる。万全とは、お世辞にも言えない調子だ。

 まあ、いい。それでも、やることは変わらない。


 奥のほうで、床が《《ずん》》と揺れた。

 重い足音が、近づいてくる。

 闇の中から、のっそりと出てきたのは――四本腕の、三メートル超え。胴の真ん中で、赤い複眼がぎらついている。


 〈ヘヴィ・センチネル〉。

 旧時代の、上位個体だ。


 うわ、マジか。こんな浅いところに、こんなのが出るのか。

 そりゃ、正規品を着込んだやつだろうが、ボロ雑巾にされるわけだよ。あいつらにしてみりゃ、勝ち目のない、災害みたいなもんだったろう。


 四本の回転刃が、まとめて頭上から降ってきた。

 ――まあ、でも。

 悪いな。今回は、相手が悪かった。


 地を蹴って、懐に入る。

 でかいやつってのは、間合いの外じゃ厄介でも、内側に潜り込んじまえば、ただの的だ。刃の雨が空を切るより早く、四本の腕を、順番に根元から落とす。最後に、胴の複眼を、ひと突き。

 〈黒鴉〉の光刃は、一万年前の装甲だろうが、すぱっと通る。


 ずしゃ、と。三メートルの上位個体が、あっけなく崩れ落ちた。


 息ひとつ、乱れちゃいない。傷なんて、当然ない。

 ……うん。こんなもんか。

 膝がまた、きゅう、と鳴く。これだけはほんと、なんとかしたいな。


 さて。問題は、討伐できたかどうか、じゃない。

 なんでこんなのが、こんな場所にいたのか。だ。


 倒れたセンチネルの後ろ。前に来た時には行き止まりだったはずの壁が、いつの間にかに崩れていた。その奥に、地図にない通路が続いてる。

 お。なんか、ありそうだぞ、これ。

 好奇心は猫を殺すらしいけど、まあ、俺は猫じゃないし。行ってみるか。



 下りていくと、壁の質が、がらっと変わった。

 人形坑のボロとは別物の、継ぎ目のない白。一万年前の輝きを、そのまま閉じ込めたみたいな白だ。工場の、もっと奥。封印されていた区画だ。


 ――一万年前。この星には、バカみたいに進んだ文明があったらしい。

 勝手にものを考える機械とか、いくら使っても減らないエネルギーとか。それが「大崩壊ザ・フォール」っていう一晩で、きれいさっぱり消し飛んだ。なんで滅んだのかは、誰も知らない。知ってた連中は、その晩にまとめて死んじまったからな。聞ける相手がいないってのは、不便なもんだよ。

 俺たちが潜ってるのは、つまりその、死んだ文明の墓場だ。そしてこの白い壁の奥は――墓の中でも、とびきり厳重に封をされた、棺桶の中身ってわけだ。


 突き当たりは、円い小部屋だった。

 光の管がまだ生きていて、ぼんやりと光ってる。死んだ遺跡の中で、ここだけが、息をしていた。


 真ん中の台座。透明なカプセル。

 その中に――女の子が一人、浮いていた。


 銀色の長い髪が、液の中でゆらゆら漂ってる。閉じた目。白い肌。歳は十六、七ってとこか。

 で、着てるのが、丈の長いメイド服なんだよな。なんでまた、こんな墓場の底にメイド。意味がわからない。しかもよく見ると、そのエプロンが、染みひとつなく真っ白で。一万年だぞ。そっちのほうが正直、ちょっとぞっとした。

 死体か?と思ったけど、違った。探査珠が、その体からこれでもかってくらい、光ってる。


 ああ、オートマタか。動く人形だ。さっきの門番が、この通路を塞ぐみたいに突っ立ってた理由が、なんとなく読めた。守ってたんだな。この子を。

 台座のホロが、消えそうに点滅してる。型番、ノクス・アルカ。保全系統、劣化。稼働率、限界域。


「保管装置が限界みたいだな。中身は無事なのか?どの道、自力じゃ起きられそうにないな」


 壊れていても、持って帰って売っぱらえば、たぶん一生遊んで暮らせる金になる。状態の良いオートマタってのは、それくらいの代物だ。


 いや、うん。そういうの、なんか違うよな。

 目の前で誰かが、ぷつっと消えそうになってるのを、見て見ぬふりして金に換える。柄じゃない。


 起こしてみるか。


 〈黒鴉〉の刃を、台座の制御端子に当てる。この双剣、武器でもあるけど、旧時代の鍵でもあってさ。内蔵の解錠術式ハッキングを、慎重に流し込む。劣化した装置が、赤く悲鳴をあげる。手順をひとつ間違えたら、機体ごと黒焦げだ。汗が目に入る。うわ、しみる。それでも、凍りついた起動シーケンスを、一個ずつ起こしていく。


 しばらくして――最後のホロが、緑に灯った。

 カプセルが、霧みたいに散る。液が床に吸われて、女の子の体が、ぐらっと前に傾いだ。倒れる。考えるより先に体が動いて、受け止めてた。冷たくて、重い。けど、腕の中の感触は、ちゃんと、人だった。

 目が、開く。光る、銀の目。鼻先で、俺を見てる。


《起動。視覚、聴覚、運動機能、正常。人格、再構成、完了》


 最初は、機械みたいな声。それがふっと、ほどけた。

 女の子は俺の腕の中で、ゆっくりと瞬きをして――それから、ふわ、と微笑んだ。


「あら」


 第一声、それか。


「お、起きたか。よかったよかった」


「ええ。おかげさまで。……ずいぶん手荒に起こしてくださったみたいですけど」


 女の子は俺の腕からそっと自分で立って、乱れた銀髪を指で梳いた。寝起きとは思えない、品のいい仕草。なのに目尻はやわらかく下がっていて、まるで手のかかる子を見るみたいな目で、俺を見てる。


「お怪我はありませんか?」


「いや……って、いきなり俺の心配?」


「ああ、ごめんなさい。まだ名乗ってもいませんでしたね」


 女の子は裾をつまんで、ゆっくりと頭を下げた。やわらかい、丁寧なお辞儀だった。


「ノクス・アルカと申します。長いので、ノア、と。助けていただいて、ありがとうございます」


「クロウだ。いやー、礼はいいって。気まぐれみたいなもんだしさ」


 にしても、調子が狂うな。

 起こしたばっかのオートマタってのは、もっとこう、警戒したり、敵か味方か探ったりするもんだと思ってた。なのにこの子は、自分を勝手に叩き起こした男相手に、ご近所さんみたいな顔で、にこにこ笑ってる。


「ノア……でいいか?お前さ、自分がなんでこんなとこで寝てたか、覚えてる?」


 ノアは少し、目を伏せた。微笑みは消えなかったけど、その奥が、ちょっとだけ遠くなる。


「いいえ。それが、ほとんど。わたし、どこかの御方にお仕えするメイドだったようです。それだけは、体が覚えています。でも、お顔も、お名前も、いつのことかも。すっかり」


「一万年だってさ。お前が寝てたの」


「あら。寝坊にしても、ひどいですね」


 ふふ、とノアは笑った。


 一万年寝て、記憶もすっからかんで、それでこの余裕か。うん、この子はなかなか、肝が据わってる。嫌いじゃないな、こういうの。


「行くあて、あるのか。記憶がないってことは」


「いいえ。命令も、帰る場所も、何も」


「だよなあ」


 俺は、頭の後ろを掻いた。


 まあ、こうなると、答えは一個しかない。一万年ぶりに目を覚まして、行き先も思い出もない女の子を、こんな穴ぐらに置いてけぼりにして帰る――なんてのは、どう転んでも、俺の柄じゃない。


「じゃ、来いよ。俺と」


「よろしいので?」


「いいって。記憶の手がかりだって、外をうろついてりゃ、そのうち何か引っかかるかもしれないしさ。とりあえず、ここを出よう」


 そう言ったら、ノアはきょとんとして、それから、ふわっと笑った。今度は、影のない、まっすぐな笑顔で。


「ふふ。変な人ですね、ご主人様は」


「ご主人様じゃないって。クロウでいいよ」


「いいえ。ご主人様、です」


 ノアはにこにこ笑ったまま、譲らない。


「だって――あなた、放っておいたら、すぐ行き倒れそうなんですもの。これはもう、わたしが見ているしかないでしょう?」


「いや、行き倒れはしないって……」


「ご主人様」


 なんか、押し切られた。

 と、ノアの視線がふっと、俺の足元に落ちた。


「あら。その膝、嫌な音がしていますね。安い潤滑剤の劣化でしょう。じっとしていてください。すぐ直してしまいますから」


 ノアはその場にしゃがんで、俺の強化服の膝に手を当てた。指先が、淡く光る。手つきが、丁寧で慣れていて、なんだろう、あったかい。きゅう、と鳴っていたあの音が、嘘みたいに止まった。


「はい、できました。ね?わたし、結構役に立つんですよ」


 得意げに見上げてくる、その顔。

 うん。これは、敵わないな。



 穴を出るころには、もう、すっかり夜だった。

 ノアは最初、俺の半歩うしろを、鼻歌でも歌いそうな足取りでついてきていた。

 搬入口の脇には、おんぼろの四駆を停めてある。腹が減ってた。何か食って帰るか――そう言おうとしたら、


「お家に着いたら、まずちゃんとしたものを、お作りしますね」


 と、先に言われた。

 まいったな。

 気づけばノアは、もう俺の半歩前を歩いている。こうして、気楽なはずだったソロ生活に、世話焼きのメイドが一人、増えた。


 助手席のドアを開けてやると、ノアは「あら、ご丁寧に」と、ちょこんと乗り込む。そうして、もう今夜の献立を、楽しげに考えはじめた。

 俺はため息をひとつついて、エンジンをかけた。



※カクヨムにも同時投稿しています。


面白い、続きが気になると思ってくださったら、ぜひブックマークと、応援をお願いします!

執筆の最大の励みになります!  


毎日20時30分に更新予定です。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ