第23話 潜入
「校門には門番さんが二人……。中には巡回の警備もいるだろうし、宿直の先生もいるだろうね……」
パーシヴァル魔法学院は、ただの学院とは訳が違う。
名門校でなおかつ、重要な物品を保管している場所でもある。
警備も、そこそこ厳重だ。
「バレた時の言い訳、今のうちに考えとこ……」
そんな事を呟きながら、僕は持ち前の身軽さで、塀を軽々と乗り越えた。
どさっ、と問題なく地面に着地し、身を屈めながら、忍び足で校舎に潜入する。
実は僕、こう見えても運動神経がかなり良い。
というのも、吸血鬼になる前は、墓堀の仕事をやっていたのだ。
人里離れた森の奥に穴を掘り、墓所にして。
死体に合わせた棺を作り、それを墓所まで運んで。
棺を綺麗に埋めて、祈ってあげて。
という肉体労働をやっていた。
それを子供の頃からやっていたおかげか、運動神経が非常に鍛えられた。
とは言っても、もう五百年以上も昔の話だけど……。
かつ、かつ。
誰かの足音が、廊下に響き渡った。
僕は反射的に隅っこの方に隠れ、音の原因をやり過ごす。
「宿直かったりー。あー、誰かが来るわけじゃねーのに、巡回する意味あんのかよ。つかこれ、夜勤手当とか出んの?」
聖職者用のケープを羽織った、"先生"だった。
ぶつぶつと愚痴をこぼしつつ、眠そうに欠伸している。
はなから侵入者を探す気もなさそうで、当然の事ながら、僕の横を何事もなく過ぎ去っていった。
「ふぅ……。警備会社の人はともかく、魔法使いに見つかったら、面倒な事になるからね……」
そうして、警戒しつつも、捜索を再開した。
しかし、校内を二時間ほど歩き回ったが──見つからない。
僕は疲れ果てて、階段に座り込んだ。
代わりと言っては何だけど、給湯室で警備会社の男二人が、いかがわしい雰囲気を放っていたのを発見した。
指先を切ってしまったマッチョな後輩に、これまたマッチョな先輩が優しい言葉をかけていたのだ。
盗み見ていた僕は、その様子に釘付けになってしまった。
とはいっても、血が流れる指先をしゃぶっていたのが、すごく羨ましかったからなんだけど。
って、目的の窮極派とは、まったく関係ない話だ……。
「ぜんぜん見つからない……。もしかして、ローブを持ったまま、塀を飛び越えて帰ったのかな?」
それなら、見つからないことにも説明がつく。
僕が諦めて帰る理由にもなる。
仕方ないか。
じゃあ、そろそ……
「なに、してるノ?」
「──ッ!?」
背後から急に声をかけられ、僕は反射的に跳び上がる。
バランスを崩して、危うくこけそうになりながらも、数段下の階段に着地。ばっ、と後ろを振り返ると──
「じっ、ジンユーさん!?」
よく見る龍の少女が、立っていた。
「シーっ。バレるヨ」
「おわっ、ごめんごめん……。でも、どうしてここに?」
その疑問に、ジンユーさんは制服の腕をまくり、隷属紋を露わにする。
「コレ。契約相手の位置がワカル」
「そ、そっか」
おそらく、僕が校内に不法侵入しているのを隷属紋の効果で知って、ここに来たのだろう。
でも、疑問はまだ尽きない。
「念のためなんだけど……理由を聞いてもいい? 僕を止めにきたとか、風紀委員の仕事とか、そういうのじゃないよね?」
「違ェ違ェ。暇だったから、つい……」
「"つい"で、不法侵入するって、けっこう肝が座ってるよね……」
「シュテルに言われたくナイ」
「ぎぐ……っ!」
痛いところを突かれ、なにも言い返せない。
ジンユーさんの、仰る通りでございます……
「……あっ、そうだ。ジンユーさん、馴れ馴れしいかも知れないけど、よかったら僕の事は、"シロ"って呼んでくれないかな?」
「う、ウン……。しっ、"シーロ"、ね。リョーカイ。な、なら、あーしの事も、じ、ジンユーで……」
恥ずかしそうに俯き、言葉が段々と覚束なくなっていくジンユーさん。
彼女なりに、勇気を振り絞って、僕との距離を縮めてくれたのだろう。
当然、その努力に応えるべきだ。
「よろしくね、ジンユー」
「う、ウン! よ、ヨロシク、シーロ!」




