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4-1 はるか、地球に立つ!

第1迎撃艦隊は補給を済ませると、重力ジャンプの準備を始めた。

「前方に障害物はありません!」

「加速準備、よし!」

 ブリッジクルーたちが掛け声を出しあって確認する。

 重力ジャンプは、初速が秒速約1200kmを超えなければ、ジャンプが出来ない。

 そのため、あの凄まじい衝撃が来るわけだ。


「各員、衝撃に備えよ!」

 昇が叫ぶ。

 クルーたちは、それを合図に備えた。

 カウントダウンが始まる。

 緊張感が迸る。

 機関室のプラズマ反応炉が唸り出す。


 そして、

「重力ジャンプ、開始!」

 昇の掛け声と共に、第1迎撃艦隊はジャンプを始めた。

 無事に亜空間回廊に突入できた。


「艦長、地球に到着後はどうなさいますか?」

「参謀長官に、今後の日程について話し合う。 それと、彼女についてもな」

「了解です」


 やり取りを終えて昇は、ブリッジを後にする。

 廊下を歩いていると、

「昇!」

 レオナが駆け寄った。


 昇は、やれやれとため息をついて、

「どうしたんだ?」

 尋ねてみた。

「先生が彼女の体を調べたらとんでもない事がわかったから、すぐに医務室に来てほしいって」

 幸太郎がはるかを検査したら、あることが判明したから来てほしいという。

「わかった。 すぐに出頭する。 それに、地球に着いたら何を食べるか、考えておけよ」

 2人は会話しながら食堂へ向かった。


 翌日、第1迎撃艦隊は地球圏にたどり着いた。

「艦長、参謀本部より入電、《作戦の勝利は、素晴らしい功績だ。 しかし、我々の戦いは、始まったばかりである。 今後は迅速に対応できるよう、訓練に励み、更なる武勲を期待する》、以上です。 艦長、返電は?」

「今後の打ち合わせの期間をかねて、各艦の乗員に1週間の休暇をとらせてほしいと伝えてくれ。 私も、疲れているからな」

 昇は、そう言うとモニターを見た。


 まもなく月周回軌道基地のドックに接岸する。

 艦長にとっては、これが非常に神経を使う。

 少しのズレが大きな事故に繋がりかねないからだ。


 そのため、接岸は重大な責任が伴うのだ。

 慎重かつ大きく動く。

 そして、

「固定アーム、接続します!」

 艦体を固定するロッキングアームが、ムラクモたちをしっかりとつかんだ。

 左舷側に連絡通路が伸びて接岸が完了した。


「接岸終了。 艦長、お疲れ様でした」

「この瞬間が一番気を遣うんだ。 これで私もゆっくり休める」

 昇は、そう言いながらブリッジを出る。

 そして、タブレット端末を見る。


 そこには、はるかの体について、重要機密ともいえる情報が表示されていた。

(彼女は単位機械生命体と初めて交戦した際、その返り血を浴びて、混血状態。 現状ではしばらくの監視を必要とする、場合によっては隔離拘束もやむなしと考える)


 その情報は、外部に洩れてはならないと幸太郎が念を入れた検査結果だ。

 もし、この情報が洩れたら最悪はるかは人類の敵となりうるかもしれない。

 その事態だけは、何としても避けたい。


(ん? 追記として、彼女には特殊な力を有していると考える。 試験の際は極力使用を控えるよう釘を刺してほしい?)

 検査結果を読み終えて、昇は基地の売店へと向かった。


基地内では、はるかがレオナに連れられて食堂に来ていた。

「まぁ、食べなさい。 お父様が死んだ辛さは、わかるから」

「ありがとございます。 レオナさんは、どうして軍に?」

 黒毛地球牛のハンバーグを食べながら、はるかはレオナにこんな質問をぶつけた。


 何故、彼女は兵士なのかを。

 はるかは、それを知りたかった。

「私はね、パパたちが殺されたの。 『土星独立紛争』って、知ってる? 私の両親がそれに巻き込まれて死んだの」


 土星独立紛争とは、土星圏の経済的独立を掲げて連邦と武力衝突した星歴史上で最悪の紛争だ。

 独立を謳う独裁的指導者が、連邦移民や、他星域からの観光客を虐殺したり、物価に莫大な関税をつけて、儲けを得ようとしていた。


 そんな土星圏に対して、連邦は、独裁政治の強制排除を敢行、指導者は殺害され、土星圏は平和になった。

 しかし、独裁政治思想を受け継いだ元高官らが、独立紛争を再開させるべく土星各域でテロを頻発させている。

 これが、星歴220年現在における宇宙の治安状況だ。

「今は親戚のお世話になっているから、問題ないわ。 でも、あの紛争だけは、許せなかった、それだけよ」


 レオナは、両親を殺した高官の言葉を思い出して歯ぎしりする。

『お前たちの幸せは、終わりを告げる! 我らが神の為に!!』

 幼い頃、両親は目の前で殺された。

 その時レオナは誓った。


 こいつらを殺して、両親の仇をとると。

 しかし、紛争事態は収束したものの、未だに治安が悪い。

 レオナは、軍に入隊して昇と出会い、現在に至るのだった。


「だけど、レオナさんはいい人なんです! そんな貴方が心を憎しみで染めてはいけない!」

 はるかは、自分と同じ人が目の前にがいる事に深く悲しんだ。

 だからこそ、自分がその人と同じ道をたどるわけにはいかない。

 それが人間だから。


「ありがとうね。 私もこれで区切りが付けられたわ」

 レオナは何かつきものが落ちたような笑顔を見せる。

 そこへ、

「いたいた」


 昇が飲み物を以てやって来た。

 しかも、はるかの大好物、

「「宇宙タピオカ!! それも、山本の新作!?」」

「ああ。 丁度山本にデリバリーを頼んでおいてね。 新作のコズミック・ベリーミックスを頼んだんだ」


 異口同音で叫ぶ2人を見ながら、昇はそれを置いて売店にて購入ダウンロードした《宇宙経済新聞》を読み始めた。

「ん? 《表現統制機構が訴訟したアニメヒロインの描写を巡る裁判は、統制機構の敗訴に終わる。 統制機構はこれを不服として控訴する構えを見せる》?」


 昇はその記事に関心を持つ。

「統制機構はほんと、いやなんですよ! 好きな表現をして何が悪いのでしょうか?」

「女性差別根絶を謳って、アニメを滅ぼすなんて、不愉快ね」


 はるかとレオナも同意見だ。

 いつの時代でも、エンタメ業界は社会情勢に左右されやすいのがさだめである。

 こうしたフェミニストたちの活動は目に余ってしまうからだ。

 そうした事態にも配慮しなければ、過激に走るかわからない。


 事実、VRアイドルの『七瀬みーこ』のライブに乱入して中止に追いやったフェミニスト活動家が起こした事件は有名な話である。

 逮捕された活動家は、「2次元と現実の女性の区別がつかなくなる前に一刻も早い削除を」と供述していることから、相当過激な思想を持っていたと言う。


 こうした思想を持ったフェミニストは、一刻も早く対処しなくては、ならない。

 現在でも、フェミニスト対策は徹底的に進めており、表現の自由は守られている。

 しかし、フェミニストたちの活動を完全に封じきれる訳もなく、表現の自由を根絶する為に戦い続けている。


 それは、連邦でも頭を悩ませている。

 軍の憲兵が対処できる範囲は、限られているのが現状で、これが原因になるケースが後を断たない。

 また、フェミニストの活動も年々活発になり、表現の自由も危うい状況になりつつあった。

 これに対して、連邦はフェミニスト活動家の一斉排除を目的とした独立治安維持部隊を結成した。


 非人道的な活動はせず、フェミたちに対する平和的な説得ややむを得ない場合の武力排除を目的としている。

 そうしたおかげで、表現の自由は均衡を保っている。

「でも、フェミたちだって、自分たちなりの信念を持っているじゃない? そんな事でいいの?」

 レオナは付け合わせの宇宙ニンジンを口に運ぶ。

 フェミには彼らなりの信念を持っている。


 それに配慮しなければ、軍が批判されかねないからだ。

「心配ないよ。 彼らは無事にやっているから」

 そう言いながら、昇は宇宙タピオカを飲む。

 三十路でタピオカを飲む男の姿は、何処か哀愁が漂っている。

「あ、これ、とっても美味しい! ラグランジュ3で生産された宇宙イチゴを中心に、コスモ・ラズベリーとかをミックスしてますね!」


 はるかが率直な感想を言う。

 やはり、流行りものに飛びつくのは、女子らしい振舞いだ。

「それと、留意しておくべきことがある」

「……?」

 はるかは首をかしげる。

 それはこれからの処遇についてだった。


「君の端末に登録されているアプリケーションやSNSアカウントは削除させてもらう」

「やはり、機密保持ですか?」

 はるかは腹をくくる。

 兵士として、覚悟しなければならない、その自覚があった。

「無論だ。 今後は軍の支給アプリを使ってもらう」

 そう言いながら、昇ははるかの携帯端末から全てのアプリを削除し、軍が支給している専用アプリをインストールした。


 軍が支給するアプリは、仲間の位置情報などを確認できたりと、意外と利便性がある優れものだ。

「さぁ、地球へ降りるぞ。 参謀長官に挨拶するからな」

「は、はい!!」

 こうしてはるかは、地球へ降り立った。


 地球に降り立ったはるかは、とても緊張していた。

 人類発祥の星でもあるここは、どの店も活気づいていて、賑わいがある。

 はるかにとっては、それが新鮮に見えた。

 中には、地球でしか売っていない珍しい物や、ここでしか味わえない体験など、色々な物や事が沢山あった。


「地球の地上は初めてかな?」

「はい。 私、木星宙域で生まれたので」

 はるかは、何だか嬉しそうだった。

 そこはやはり、年相応の少女と言ったところか。

 そんな微笑ましい様子にレオナはほくそ笑む。


「でも、お腹が減って来たわ。 昇、何かおごってくれんでしょ?」

「勿論だ。 今回は料亭『将』を予約しておいた」

 どうやら、昇は行きつけの料亭を予約していたようだ。

 しかも、格式が高い地球食の店だ。


「あ、さすが昇ね! あそこの料理は美味しいから!」

 地球食は文字通り地球の料理の総称である。

 地球の食文化の多様性は、各宙域でもトップクラスだ。

「料亭・将のランチって、ハイクオリティでお値打ち価格と聞いています!!」

 はるかはその話に割って入って来た。


 それもそのはずだ。

 料亭・将は夕食時ディナーは格式に相応しい懐石コースだが、昼食時ランチは、そのノウハウを生かしたハイクオリティプライスの定食が人気だ。

 中でもダントツで人気なのは、東アジア諸国産エンマコオロギを使った『コオロギ唐揚げ定食』だ。


 特に卵と油が詰まったメスのコオロギは絶品と、グルメ雑誌に取り上げられるほどだ。

「あそこのコオロギ唐揚げ、食べてみたかったんです!!」

「そうか、私は地球へ帰ったらいつもこれを食べると決めていてね。 君の分もおごるよ」

 昇がウィンクすると、はるかは大喜びではねた。

 この日の昼下がり、最高になりそうだ。

と言うわけではるかが地球に降り立つ第4話!

はるかを待ち受ける過酷な運命とは!?

第4話、こうご期待!!

感想とかもあったら是非!!

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