3-4 はるかの初陣
コックピットに乗り込む。
はるかはアームユニットに腕を通す。
「お父さん……」
幼いころ、研究で忙しいにもかかわらず側にいてくれた父。
「お母さん……」
いつも励ましてくれた、大好きな母。
「まなみちゃん、エリスちゃん……!」
いつも語り合いいつまでも続く関係だった親友。
今はもうそれが無い。
はるかにとって大切なものが、残虐なる敵に奪われてしまった。
いまこそ、その仇を討つべき時だ。
「私は、行くよ!!」
コックピットハッチが閉まる。
モニター類が起動し、はるかは発進態勢を整える。
エアロックが閉まり、外への扉が次々開く。
「光成はるか、赤星、発進します!!」
推進器が唸りを上げる。
赤星は地面を蹴って勢いよく飛び出す。
宇宙空間へ飛び出すと、いきなり敵の艦載機が襲ってきた。
「武器! 武器は!?」
慌てて探すと、いつの間にか赤星が握れる大きさの紅龍が右手にあった。
「何が何だが分かりませんが、ないよりはましね!」
拳銃モードで敵の艦載機を次々と撃ち落とす。
すると、はるかの体に疲労感が出始めた。
「ヤバい、魔法少女物でいう魔力って奴が底をついたかな?」
息も荒くなってる。
早々に敵を倒さないとだめだ。
「ん?」
ふと幻聴が聞こえた。
『1番艦より各艦へ、予定外の要素は起こりえない。 全ては上位決定者の意思の下に』
見渡すと、敵艦隊の中心に一際装飾らしきものが派手な船を見つけた。
「もしかしたら、あの船が親玉って事? だったら!」
紅龍を構える。
体に残る魔力をありったけチャージする。
「お前たちには報いを受けてもらう! これが、みんなの!」
チャージが完了する。
いつでも引き金を引ける。
「仇だ!!!」
引き金を引く。
「アストロ・シュート!!」
放たれた光の矢は、迷いなくまっすぐに宇宙を迸り、
『高エネルギー……!』
1番艦を貫いた。
直後、轟沈した。
『緊急事態発生! 1番艦轟沈。 指揮系統に、支障発生……!』
残った敵艦隊は混乱し始めた。
「提督、敵艦隊が混乱しています!」
「これはまたとない機会だ! 一気に殲滅するぞ!!」
昇は、展開中の部隊に通達した。
それは、《敵中枢と思われる艦が轟沈した。 これに伴い敵艦隊を殲滅されたし》と言う物だ。
「この作戦が終わったら強化服部隊には回収をお願いしたい」
「と、申しますと?」
オペレーターが尋ねる。
「あの強化服に、礼を言わねばならないからな」
それは、力なく漂流している赤星を見ていたからだ。
息が細くなる。
「みんな……、仇は、とったよ……」
力尽きて、はるかは意識を手放した。
こうして、後に語られる「ジュピトリス星域攻防戦」は、連邦軍の勝利で幕を閉じた。
強化服部隊は赤星を回収、ムラクモの格納庫へと収容された。
この時、紅龍はすでに消えていたことは、誰も知らなかった。
ムラクモ格納庫、赤星を見た遊子彦は、
「こいつは、とんでもねぇ代物だぜ。 ジュピトリスが、極秘裏に開発してるって噂を聞いたが」
こんな事を言う。
昇も、連邦軍がジュピトリスに発注して開発した強化服があると言う情報は耳にしている。
実物を見るとなれば、とんでもないことになっていた。
連邦軍の新型強化服をジュピトリスが開発したとなれば、各星域も黙ってはいられなかった。
昇は、それを何としてでも避けたいのが本音だった。
「開けますぜ」
整備員が外部にある非常開放スイッチを押す。
コックピットが開き、意識を失ったはるかが姿を現した。
「女の子!?」
「生命指数がヤバい! 早く医務室へ!!」
すぐに医療班が駆け付け、はるかは医務室へ運ばれた。
その様子を見て、
「彼女が少将の幻視で見た、」
「そうかもしれないな」
昇とレオナは顔を合わせた。
ひとまず、本部へ戻るようブリッジに指示を出し、意識が回復するまで艦長私室で待つことにした。
そのはるかは、夢を見ていた。
そこは地球らしき場所なのか、はるかは訓練に励んでいた。
「しっかりしろ! そうしなかったら、1人前にはなれないぞ!」
教官らしき男の声が響く。
そこではるかは目を覚ました。
「ここは……?」
あたりを見回すと、其処は見慣れない部屋、天井の照明から、ここはどこかの医務室と言う事だけは分かった。
「気が付いたかい?」
医務官らしき白衣の老人が目の前に座っていた。
白髭が特徴的な顔がはるかにインパクトを与えた。
「貴方は?」
「出雲級戦闘艦・ムラクモの医務官を積める三沢幸太郎だ。 あんた、大金星をあげたって?」
幸太郎がユーモアに笑う。
それが、はるかの緊張を解きほぐした。
「金星って?」
「知らないのか? 敵の旗艦を沈めたじゃないか!」
その言葉にはるかははっと思いだす。
確かに、敵の旗艦らしき船を沈めたことを。
「すいません、それ以降は覚えていなくて」
「気にすることはない。 おかげで奴らを倒す糸口が見つかったからな」
かっかと幸太郎は笑いながら通信を繋ぐ。
はるかは、きょとんとした表情で、医務室のベッドに座り続けた。
しばらくして、
「失礼する。 先生、彼女が例の?」
昇が医務室に入って来た。
「貴方は?」
「出雲級戦闘艦ムラクモ艦長の川島昇だ。 君が光成博士のご令嬢のはるかちゃんだね?」
昇の質問に、はるかは驚いた。
「どうして私のことを?」
「勝手に調べてすまなかったね。 君の携帯端末からIDを確認させてもらったよ。 お父上のことは、残念だったね」
昇はそう言うと、差し入れのミルクを渡す。
「ありがとうございます。 父とはどういう関係で?」
「知事になる以前からお世話になっていてね。 私は博士から色々学ばせてもらったよ」
昇は気さくに話しかけ、
「さて、本題として君の今後の処遇についてだが……」
「あの! お願いがあるんです!」
はるかは昇にせがむ。
「私を、この船のパイロットに入れてください!!」
その言葉に、
(あの幻視の通りだな)
昇はほくそ笑む。
「わかった。 ただし私から条件がある」
「……?」
はるかは、昇の言葉に首をかしげる。
「君のセンスは、所見で十分理解できた。 だが、荒削りな部分が目立つ。 そこでだ、私の推薦で連邦士官学校名物《地獄の3日間》をクリアしてもらう」
「卒業試験のあれか!? そんなの無茶ですよ!」
幸太郎は声を荒げた。
地獄の3日間とは、連邦軍士官学校卒業試験で、想像を絶する内容で脱落者も多い。
これをクリアすれば、晴れて正規軍に入隊できるとあって、多くの兵士たちが必死に挑んでいる。
この厳しい試験を飛び入りで編入させて訓練させるのは、無理があると言う言葉もうなずける。
「だが、この試験をクリアした暁には、私の艦の所属とする。 悪くない条件ではあるが、地獄の3日間は甘くはないぞ」
「望むところです! 私、強くなりたいんです! みんなと同じ悲しい思いをさせないために! 私自身も!!」
その決意は幸太郎を唸らせた。
「うーむ、これはとんでもない原石やも知れんぞ。 少将、何かあったらワシに知らせてくれ」
「ああ。」
その時、
「間も無く長距離重力ジャンプを開始します。 乗組員は、開始の衝撃に備えてください」
館内アナウンスが長距離重力ジャンプを始めることを知らせる。
「衝撃に備えろ、かなりのデカい衝撃が来るぞ!」
昇がそう言い終えた途端、
「わわわわわっ!!」
凄まじい揺れがはるかを襲う。
重力ジャンプの開始時は、とんでもないほどの衝撃がかかる。
それだけに、この瞬間が気を抜けなくなる場面だ。
そうしなければ、転んだりしてしまうのだ。
それだけに、重力ジャンプは一番気を使わなければならない。
「さて、基地にはジュピトリスから多くの難民が来ているはずだが、先生、基地に繋げてくれないか?」
「はいよ」
幸太郎は通信モニターを基地とつなぐ。
昇は基地司令に話をし始めた。
その間、はるかはベッドに横たわる。
(頑張らなくちゃ。 お父さんが遺した赤星を最高に動かせるように……!)
2日後、第1迎撃艦隊は補給のため第7宇宙基地へ立ち寄った。
約12時間の滞在が許可され、はるかもそこでのんびり過ごすことにした。
はるかは少し浮かない表情をしていた。
無理もない。
大切な友人が殺されたと言う事実が、今も彼女の心に影を落とし込んでいる。
おまけに、昇とレオナの監視までついている。
「あら、そんなに落ち込まないで。 お姉さんが、ちゃんと守ってあげるから」
レオナは穏やかな笑顔ではるかに寄り添った。
はるかはその時に見てしまった。
彼女の一部がものすごく豊かであることを。
自分の一部と比べれば、何とも言えない妖艶さが醸し出されていた。
「れ、レオナさんは、どうやったらそんな魅力的になれるのですか?」
はるかはヤキモチを妬きながらレオナに訊ねる。
こんな未来でも、年頃の女は可愛いものだ。
「……?」
レオナは、その発言が理解できなかったが、年頃の悩みであることは理解できた。
「お年頃ね。 大丈夫よ、貴方もいつかは私みたいになれるわ」
レオナがそう言いながらはるかの頭をなでる。
唇から漏れる吐息が甘くて心地がいい感じがした。
「さて、お腹が空いてると思うから、基地の食堂へ行きましょう。 少将のおすすめドリンク、有るでしょ?」
「ああ、わざわざ地球のレシピを取り寄せたらしいからな」
昇たちに連れられ、はるかは基地の中央食堂へと向かった。
中央食堂では、ジュピトリスから避難してきた人々が、傷ついた心と空腹を癒していた。
「みんな、ジュピトリスから無事に避難してきたけど、大丈夫かな?」
やはり、故郷を追われたもの故か、はるかは悲しげになった。
「まぁ、貴方だけじゃないわ。 みんなそれぞれ前を向いた人たちもいるから」
レオナはそう言いながら席に座る。
はるかもそれに続く。
「お待たせ」
昇が、ドリンクを持ってきた。
はるかはそれを知っていたのか、
「あ、それ! 宇宙タピオカの後釜の1つ、ギャラクシー・バナナジュース!」
ギャラクシー・バナナジュースとは、コスモ・イモージーと同じく宇宙タピオカの後釜候補として名高いドリンク。
ソーラーコロニーと呼ばれる施設で育てられた《ギャラクシー・バナナ》と、地球産ミルクと混ぜて作る人気ドリンクだ。
「私のおすすめは、この《クラッシュクッキーズ》なんだが?」
昇に勧められ、はるかはバナナジュースを飲む。
その味は傷ついた心が満たされる味だった
遂にはるかが初陣を飾りました!!
これからはるかが、どう成長するのか、楽しみです!!
次回もお楽しみに!!




