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カル達の戦い

投稿ちょっと遅れました!申し訳ありません。

―一方、プリムラが剣銃を作っていた頃、陣は……―


 陣にとって、この島でやるべきことは残り1つ。カル達の戦いを見届ける、それのみとなった。

 残念ながらカル達はプレイヤーでは無い。陣から連絡を取ることが出来ないのだ。

 陣は浜辺で焚き火をしつつ、カル達からの連絡を待つ。


 浜辺は変わらず満天の星。陣は光彦から送ってもらった食材で空腹パラメーターを回復し、寝転がる。

 変わらぬリズムの波の音、その音の中に違うリズムの音が交じる。


「ん?なんだ……」


 目を凝らすと、波間の中に影が見える。

 その影は時折転倒しながら波打ち際へ。


「……ってカルじゃねえか!?大丈夫なのか!」


 陣が走り寄ると、全ての装備を無くして普通のスケルトンと見分けの付かなくなったカルが倒れこんできた。

 その姿は満身創痍。片腕の骨を無くし、半分砕かれた頭蓋から鬼火が見えている。


『まいった……ね……。

 しくじって…しまいました……』


 残った片腕で大事そうに石版を抱えたまま、ガシャンと音を立ててカルは全ての骨を散らし崩れ落ちた。



※---※---※---※

※---※---※

※---※


 陣はカルの骨を集め、焚き火の近くに纏めて置いた。

 通常であれば回復魔法の一つでも使いたいところなのだが、如何せんカルはアンデッド。光魔法に分類される回復魔法とは相性が悪く、所謂『ダメージヒール』という現象によって止めを刺す恐れがあったのだ。


 とは言え、アンデッドを回復させる方法など陣は知らない。

 まだその存在が消えていないことを信じて、放置するくらいしか手段がなかったのだ。


『ん……。やぁ、ジンさんじゃないですか……』


「気付いたかカル。

 大丈夫……という聞き方が合ってるか分からんが、大丈夫なのか?」


 カルはカタカタと頭蓋を揺らすが、まだ体を再構築する事は出来ないらしい。

 そのうちに諦めて、カタと陣の方を向く。


『まだ……駄目っぽいですね……。

 放置しておいて頂ければ、そのうちに回復するでしょう』


「そりゃ良かった。

 それで、なんでまたそんなザマで海から出てきた?

 まさか、挑んだのか?こんな短時間で、あの海竜に」


『…………ジンさんは聞く権利がありますね……。

 本当に、こんなザマでなんで自分だけ……』


 そして、カルの口から何があったのかが語られる。




〓〓???〓〓


 カル達はジンから『ラジエルの書』を譲り受けた後、それでも十分な準備を整えてから挑むことにしていた。

 いくら『その後を考えない』戦いだとはいっても、恨み骨髄の相手だ。一発勝負なのであれば尚更、一矢報いなければ価値もない。


 湿気って使えなくなった火薬を選別して外し、大砲の準備もしっかりと。

 長年、幽霊船として彷徨っていた間に腐ってしまった衝角リムも修理し、速度を出すための帆も貼り終えた。

 さぁ、いよいよ挑戦とゴドフリーを出した瞬間、切り返しも行っていないのに逆風方向に向け疾走し始める。


『カル!報告!』


『駄目です!何かに引っ張られていて舵が効きません!』


 そして、暫く『何か』に引っ張られていくゴドフリー。

 止まった場所は全くの凪。幽霊船であった名残からオールの準備がなく、完全に身動きが取れなくなってしまった。

 時間は明け方。このままではアンデッドであるゴドフリーの船員には辛い時間になってしまう。

 船長とカルのような高レベルアンデッドであればまだいいが、一般船員の連中はダメージを受けてしまうからだ。


『カル、風の機嫌が良くなるまでは待機になりそうじゃ。

 レベルの低い連中は倉庫に目張りでもして突っ込んでおけ、儂らは天幕貼って甲板で待機じゃ』


『了解!』


 カルがいざ駆け出そうとしたその時、後方にいた船員スケルトンがカタカタと騒ぎ出した。


『どうした?』


 船員スケルトンの一体が指差すゴドフリーの後方、そこは船の影になっており、凪の海面に反射して鏡のよう。

 その一部、明暗の境目が急激に盛り上がり、怪しい眼光を煌めかせた。


『敵襲!船長、奴です!』


 カルは素早くマスケット銃を構え、海竜に銃撃を始める。

 船長が船員スケルトンを蹴散らしながら後方へ、船長も海竜を視認し指示を出す。


『後部大砲を斉射!

 こんだけ近けりゃ外さねえ!じゃんじゃんぶっ放せ!』


 船長は手に持っていたラジエルの書を懐に入れ、自らもマスケット銃で攻撃。

 船員スケルトンが慌てて下層に降り、程なく砲弾が発射。

 だが、その弾は海竜には当たるものの、何の痛痒も与えてはいなかった。


『ッチ……さすが化け物じゃの、随分と硬ぇじゃねえか!』


 いよいよ姿を表した海竜の威容。

 体長20メートルほどの細長い体を青い鱗に覆わせ、細長い面立とギラギラと輝く双眸。

 体の各部から出る紫色のヒレは、それだけで全てを切り裂けそうなほど鋭く尖っていた。


 海竜は船体後部を破壊しながら甲板にその巨大な頭を乗せ、口からビームのように水流を発射。

 直撃を受けたスケルトン達は吹き飛び、掠っただけのカルも大ダメージを受けてしまう。


 一撃でゴドフリーを半壊させた海竜は、静かに思念を伝えてくる。


『……ソノらじえるノ書ヲ渡シテ貰オウカ……』


『ッケ!誰が見す見すテメエなんぞに渡すかよ!

 オメエら!来るぞ!白兵戦準備しやがれ!』


 船長の号令、カルを始めとしたスケルトンたちは各々の得物を構える。

 船長は自慢のカトラスを抜刀し、海竜に躍り掛った。


『喰らえ!アサルトブレード!』


 船長の曲刀技、アサルトブレードが海竜に当たる。

 だが軽い音と共にそれは弾き飛ばされてしまった。

 船長に続けてカル達も攻撃を加え続けるが、ダメージを与えた者はいない。

 大砲ですらダメージを与えられなかった相手、この結果は当然だろう。


『……無益……。ナラバソノ船を沈メ、海底カラ拾ウトシヨウ……。

 神ノ命ニ背ク愚カヲ知レ!』


 海竜は大きく息を吸い大技の気配。

 舌打ちした船長は、カルにラジエルの書を投げつける。


『カル!お前はこれを持って島へ戻れ!』


『待って下さい船長!私も一緒に……!』


『黙れ!あいつの狙いはコレじゃ!

 奴に目的を達成させるのは業腹じゃからな。嫌がらせ代わりに元の場所に戻してしまえ!』


 船長はカルを小舟に放り投げ、強引に海へ落としてしまう。


『船長ォォォォ!』


 海竜によって起こされた渦に飲み込まれて行く船が、カルが最後に見たゴドフリーの姿だった。



※---※---※---※

※---※---※

※---※


 ゴドフリーの最後を聞いて、陣も言葉がない。

 何の策も無く戦いを挑むと聞いて「無謀だ」と思った事が、正にその通りになってしまった。


『そういう訳で、ジンさんにこのラジエルの書はお返ししたい。

 出来れば元の場所に戻して、二度と奴が触れられないようにしてくれれば嬉しい』


 陣はゴドフリーへ短い黙祷を捧げ、焚き火に薪をくべながら聞く。


「それはいいが……。

 カル、お前さんは一体これからどうするんだ?」


 カルはその暗い鬼火を滾らせ、怨霊がごとき声で答える。


『さぁ……どうしようね……。私一人では船長の敵討も出来ない……。

 あぁ、それよりも……』


 カルの頭蓋が暗い炎に包まれ、宙に浮く。

 今まで、カル達にあった陽気な気配は露と消え、その姿からすれば正しい『闇の眷属』としての本性を剥き出しにする。

 その恨みの念は強烈な殺気を生み出し、陣をして思わず剣銃を抜き放ちそうになるほどだった。


『船長……なんで私を置いて逝ってしまったのですか……!

 私達は……私は……船長と海に居るだけで、それだけで……それだけで良かったのに!!

 ……許さん……許さン……ユRUサNN……YURUSANN……。

 KUKA……KUKAKAKAKAKA!!!』


 カルは狂ったような哄笑と共に、その姿をふいと消した。

 カルが居た場所には、一つの石版がぽつんと置かれるだけだった。


 陣は、カルが残したラジエルの書を手に取り、彼の無念を思う。

 元々に於いて、カルはこんな最後を迎えなければならないほどの悪行を成したのだろうか。

 彼らは、その海竜に出会ってしまった。それだけでは無いのか。

 それでこれは無いだろう、この結末は無いだろう。

 何故その海竜にいいように振り回され、最後には叩き潰されなければならないのだ。

 その、ささやかな願いごと、粉微塵に蹂躙されなければならないのだ。


 ならば、陣にしても叩き潰さねばならない。

 この理不尽を、その傲慢を、微塵に切り裂き磨り潰さねばならないだろう。

 そうでなければ、自分は『相馬陣』では無い。


 陣は焚き火に銃剣を突き入れ、その火を吹き飛ばす。

 熾き火のようにちろちろと燃え残る木片が、陣を闇よりも暗く浮かび上がらせる。


「カル、お前の無念は受け取った……。

 未だ目録とは言え、俺も相馬の一人。全霊を懸けて奴は滅ぼす」


 そう呟く陣の姿は、先ほどのカルと比するほど暗く冷たいものであった。



〓〓心葉大学・学生寮〓〓


 陣はEAOをログアウトし、大学のライブラリデータから目的の情報を探していた。

 カルから聞いたゴドフリーの最後、そこからいくつかの情報を得たこともあり、敵の正体を見定められるかと思ったのだ。


「ラハブ……。こいつか、カル達をったのは」


 そして、ついに陣は相手がラハブだと行き着いた。

 天より堕した者、紅海の悪魔、リヴァイアサンと同一視される怪物。

 神の命によりラジエルの書を探し出した海の支配者。


 原初に生み出されし者(リヴァイアサン)と違い武器が通用しないという特性は無いらしい。ただ、大砲すら通じなかった事を考えれば相当な堅牢さとタフネスを誇っていることは想像に難くない。

 陣の武器は拳と剣銃。それはあくまでも物理的なものに偏っており、果たしてそれが通用するかの保証は無い。


 そして、こういう時に頼りになる光彦は私用でまた実家に戻っており不在。モバイルフォンにも反応しない事から忙しいのだろう。

 ゲーム内の事とはいえ、今の陣の声を水穂に聞かせたくないので妹にも聞けない。変な所で勘のいい彼女の事だ、陣の精神状態を察知しいらぬ心配をかけてしまう恐れがある。


 だが、行き当たりばったりで戦うには危険な相手だ。無策で当たればカル達の二の舞いになってしまう。


「そう考えると俺の交友関係って狭いな……。さて、どうするか……」


 手詰まりを感じた陣は何くれとなくライブラリをスクロール、データ閲覧者の中に一人の署名を見つけた。


 心葉大学宗教学科非常勤講師、三迫。

 天才鬼才を数多く擁する心葉大学。それ故、教鞭を取る講師陣も優秀だ。

 中でもこの三迫という女性。その優秀さ以上に専門分野以外に於いても網羅する変態的な知識量で知れ渡っている女傑。また、その奇行は陣の耳にも届くほどという人だ。

 その三迫がこのデータを閲覧しているなら、このラハブについてもかなり詳しい可能性が高い。


「三迫先生か……。あんまり繋がりある人じゃないけど、背に腹は変えられないか。

 光彦と入れ違いになったら謝るとして、近日中に会えないかメールしておこう」


 陣は寮に備え付けられている端末からその旨をメールで送り、日課の夜の鍛錬を始めるためにジャージに着替えた。


 武術という一芸で大学に入っている陣は、特例で夜間の外出も無許可で行える。

 これは、いつ何時も鍛錬をするための措置であり、早朝、夜間のロードワーク等をする時にいちいち許可を得るのは陣も寮監も手間になると判断されたためだ。

 カルの怨念に当てられたと自覚する陣。通常以上に念入りに体を動かし、汗と共に悪い気を体から押し流していく。カルの無念は晴らす。だが、それに当てられて冷静さを失えば勝てる勝負も危うくなるだろう。ただでさえ勝ち目を見いだせていないのだ。せめて思考だけでもクリアにしておく必要がある。


 軽く走り込みを終えた陣は寮に戻り、浴場で軽く汗を流す。

 毎日の習慣で寮監に挨拶をしようと寮監質を覗くと、見慣れぬ女性が寮監とお茶を飲んでいた。


 陣の姿を見た寮監は陣を手招きし、その女性を紹介する。


「あ、相馬君。先程から三迫先生がお待ちですよ」


「って早っ!?さっきメール送ったばかりなんですけど!?」


 素知らぬふりでお茶を飲む女性はちらと陣を見、悠然と話しかけた。


「貴様が相馬か。それでオレに何の用だ?」


「なんかまた濃いのが出たな!?」


 そうして、心葉大学の夜は更けて行く。

新キャラ登場。

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