縮地考察と卵
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やはり一時期完全にエタりそうになっていたのが尾を引いておりますが、未だ見ていただける方がいらっしゃるようで大変感謝しております。
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光彦に送られ寮に帰宅した陣。
早速EAOにログインするも状況は相変わらず。しかも既に島の探索も終えているので、海賊達から貰ったボートを回収したら本格的にやることが無い。
カルから『この島は皇帝亀の産卵地』という話も聞いていたのだが、それがいつになるかも分からない。
「うーん……。EAOは変に現実とリンクしているから、もしかしたら何か条件とかあるかも知れないな」
陣は一旦ログアウトし、心葉大学のライブラリーデータにアクセス。
調べてみた所、ある種の海亀は満月の前後に産卵するのだそうだ。気温、砂浜の温度も密接な関係があるそうなのだが、これは環境パラメータこそあるものの、四季のような落差の無いEAO内であれば問題ないだろう。
満月は昨日。宣誓式があったのでしょうがないのだが、タイミングを外してしまったかもしれない。
ログインし直して確認するが、確かに浜のあちこちで亀が産卵した形跡がある。
「まぁ、満月前後だっていうならまだ可能性あるだろ。
さて、亀が出るまで何して過ごすかな……」
時間は夜の10時。いつ亀が現れてもいい時間帯ではあるのだが、未だにその姿は見えない。
そして月明かりに照らされた浜は何処か幻想的で、静かに寄せ返す波の音が心地よい。
集中するにはいい時間だと、陣は暫し今後の修練を考えることにした。
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先日の宣誓式で得た『次代当主としての責任感』。そして自分自身があまりにも相馬を知らないという現実。
そう簡単に行かないことは承知しているが、早く次代として名実ともに認められるよう修練を重ねなくてはいけない。
そのバロメーターになるのは、やはり段位であろう。
今の陣は目録。一足飛びにはいかないので、ひとつずつ行を重ねるしか無い。
陣に残る行は鉄砲の土、短刀術の金、歩法の木。
この内、鉄砲と短刀に関しては、実際に修練を重ね、ある程度の上昇を見た所で権江に教えを請うしか無い。疎かにするつもりは無いものの、大学卒業後に実家に戻り集中的に修行をつけてもらってどうにか、と考えている。
ただ、歩法に関してだけは事情が違う。どちらかというと歩法は技としてだけではなく、理としての側面も強いからだ。以前の権江戦で見せた『歩法:枝垂』のような技も存在するのだが、それは相馬流・歩法の髄ではない。
その真髄、最終目的は『縮地の習得』にある。
縮地という言葉には二つの意味がある。術としての縮地と技としての縮地だ。
ゲームや小説でよく語られる『数十メートルの距離を一気に駆け抜ける、ないしその距離を詰める。龍脈に沿って数キロの距離を移動する』ような技は、どちらかというと術の縮地に分類される。人間の身体能力で行う『技』ではなく、むしろ道術、仙術に近いものとなる。当然、これは再現出来るものではなく、これを習得しろと言われても困ってしまうだろう。
翻って技の縮地。これは『相手の機を盗む技術』と言っていい。
人は持続して短期的な集中が出来ない生物である。
例えばペンを凝視して欲しい。30秒〜1分という時間、瞬き一つせずにこれを凝視する、そして凝視し続けるということが難しいことを理解出来るだろう。況やそれが戦闘というストレス状態になれば、その集中できる時間はもっと短くなる。どうしても『集中の隙間』というものが出来てしまうのだ。
未熟な者は視界がずれ、例え達人であっても意識が外れる瞬間がある。その『瞬間』を突く、自らの視線の誘導や体捌きでその『瞬間を生み出す』。その『意識的な死角』に於いて肉薄、ないし攻撃する。そうすると相対している者にとって、あたかも『一足飛びに距離を詰められた、攻撃された』ように感じる。これが『技の縮地』の正体だ。
相馬流の歩法、木行の技は『相手の隙を察知する』『相手の隙を生み出す』『その隙を活かす』の三つに集約している。
歩法:枝垂は大地に蹴脚をし、その爆発力を利用して突進する技。相手の隙を突くことを前提としている。そう考えると、その隙が無いであろう権江に使ったのは破れかぶれもいい所だったのだろう。
「そして、PVPというシステムがあり、様々な力量のプレイヤーと対人戦を行えるこの世界ってのは、その修練を行うには最適だったりするんだよなぁ。
今度『煉獄』のPK連中と、まず間違いなく大規模戦をするって話だったから修練には丁度いいんだけど……。まぁこのフィールド出ないことには始まらないか……」
砂浜が見える岩場を見つけ寝転がり、陣は皇帝亀が来るその時を待つ。
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かさと細やかな物音がして、陣は浅い眠りから目覚めた。
「……やっぱなんだかんだ言って疲れてるんだな……」
頭を振りながら起き上がると、一匹の大きな亀が浜に上がってきた所だった。
海賊船『ゴドフリー』の船長室で見た固体よりもかなり小さい。流石にその生の中で最後の卵である皇帝亀の卵を産むほど長く生きた固体では無いだろう。
そう上手く行くはず無いかとちょっとだけ落胆する陣、だが次第に初めて見る亀の産卵に夢中になる。
のったらのったらと砂浜を掻き分け上がってくる亀を、内心「頑張れ!」「もうちょっとだ!」と応援する陣。
亀はついに丁度いい位置についたのか、穴を掘り産卵を始める。
「おお……。本当に亀って産卵の時泣くんだな……」
涙を流しながら産卵する亀を見て感動する。
厳密にはそれは涙ではなく余計な塩分を排出しているだけなのだが、ここでそれを言及するのは野暮というものであろう。
産卵を終えた亀は、のったらとした動きで海へ戻っていく。
「ありがとう亀……。なんかいいもの見させてもらった…‥って、おい、ちょっと待て……」
そして、その一匹と入れ替わるように、皇帝亀の大群が浜へ上がってくる。
その数、浜全てを埋め尽くさんばかり。
「……いや、さすがに多すぎるんじゃないかい……?」
この惨状は皇帝亀の生態のせいだったりする。
皇帝亀は『皇帝』と名前がついているにも関わらずとても臆病なモンスターである。
なので、まず少数の皇帝亀が産卵し、自身の天敵である海棲モンスターが、子亀の天敵である鳥類モンスターがいない事を確かめてから一斉に産卵するのだ。陣が確認した産卵の跡は先遣隊のようなものであって、まさに今日『本隊』の産卵となったのである。
無数の皇帝亀はそこかしこで穴を掘り産卵。一匹だけであれば感動的なシーンも、これだけ無数になるとホラーかコメディである。
陣は、正に惨状とも呼べる砂浜を見て呆然と呟く。
「ここまで来ると情緒もへったくれもねえな……。あ、デカイのが他の吹き飛ばしてる……。あ〜あ、場所考えずに掘り返しまくるから撹拌されて卵吹っ飛んでるじゃねえか……。なんつう有り様だ……あれ、孵化すりゃいいけど……」
陣の目から見ると悲惨な状況だが、亀から見るとまた違う。
彼ら、いや、卵を産むのだから『彼女ら』か。彼女らからしてみれば産卵というのはある意味戦場なのだろう。他の固体より少しでも有利な場所で、一匹でも多くの孵化した子孫が海へ帰れる場所へ産みたい。そう願っているのかもしれない。
と、現実逃避した所で目の前の有り様が変わるわけでも無い。
いたたまれなくなった陣は、静かにそっとログアウトするのだった。
―翌日・朝―
寮から出る前にログインした陣は、砂浜の状況を見る。
前日、あれだけの様相だった浜は更に悲惨な事になっていた。なんと、産み付けられた卵が一夜にして孵ったらしく、浜が卵の殻だらけに。
「いくらゲームって言っても、これは流石にファンタジーも行き過ぎじゃねえか……?普通2ヶ月くらい掛かるんだろ……。孵化するのちょっと楽しみにしてたのに……」
昨日、他の亀を吹き飛ばして猛威を振るっていた固体、その固体が産卵した場所を見ると、輝く宝石が一つ残されていた。
「うーわ……これが皇帝亀の卵かよ……。
これの為にカル達は海竜に呪われたっていうのに、こんな冗談みたいにあっさりと……駄目だ、本気でもやもやする……。
カル達に会えても、このことは言わないほうがいいな。流石に哀れ過ぎる」
これはこの島が皇帝亀の大産卵地だからこそなのだが、確かに一回目のチャレンジで手に入れられてしまってはカル達も浮かばれないだろう。彼らのことであるから、「しょうがない」と笑い飛ばしそうな事でもあるのだが。
陣はアイテムストレージに皇帝亀の卵を放り込み、カル達には黙っていようと心に決めてログアウトした。
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『はっはっは!ジンさん、久しぶりに話せたと思ったら、また面白可笑しい事になってるねぇ……。
まぁ棚ボタだと思っておきなって!』
「笑い事じゃないんだがなぁ。んでプリムラの方はどうなんだよ?
もし忙しいなら戻ってから渡すが」
講座が終わり寮に戻った後、陣は早速プリムラに連絡を取り、新しい剣銃を作る余裕があるか確認を取る。
彼女はEAOに於けるトップ生産職の一角。個人的な友好があるとは言え、無理な優遇は両人とも恨みを買いかねない。
そう問う陣に対して、プリムラは心配ないと笑い飛ばす。
『ぶっちゃけ攻略も全然進んでないからねえ。
中間層のプレイヤーも一線級の武具を装備するようになってきたがね。数打ちの武具なんざ興味無いし、そっちにも手を出したら生産を初めて間もないプレイヤーの経験値を奪うことになっちまう。
攻略組の武具が新調されないから、正直アタシら生産組のトッププレイヤー連中もヒマなのさ。
手持ちの仕事で優先する必要があるものも無いから、皇帝亀の卵渡してくれるならスグにかかるよ?』
「そりゃ有難い」
陣は早速メールに皇帝亀の卵を添付してプリムラに送る。
届いたよーというプリムラの気楽な声、これでこちらも一段落だ。
カル達の戦いには不介入と決めている陣だったが、いつ必要になるか分からない。現実の鍛冶は相当な時間がかかるものだが、EAOの生産ではどういう扱いになっているのだろうか。
「急かす訳じゃないが、いい武器が必要になるかもしれなくてな。どれくらいの時間で出来るんだ?」
うーんと考える声、少々の間が開いてからプリムラの返答が来る。
『とりあえず必要素材から高レベルなレシピになる可能性もあるからね。
モノがモノだけに準備はしっかり整えたい。
ジンさんは知らないかもしれないけど、高レベルの武具を生産する時は、補助職の人に可能な限りステータスアップ魔法を使ってもらうのが定石でね。
補助職やってる知り合いにヘルプの依頼かけたから、そいつが来次第で出来るさね。
生産自体は時間かからないから、早ければ今夜にでもそっちに送れるかな。いい機会だから作ってる所も見てもらいたかったけど、今回はしょうがないさね』
それだけ早く出来るなら問題ないと言い、改めてプリムラにお願いしてからチャットを切る。
昨日、料亭でお土産に貰ったタモギタケで夕飯でも作るかと、陣は寮の食堂に向かった。
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―同日・夜―
プリムラは生産の準備をしながら補助職の到着を待っていた。
事前に準備しておいた剣銃に組み込むための銃の機構。
刀身を打つ為のウーツ鋼のインゴット、魔力伝導率を上げるための魔法銀。強度を上げるために無理を言って仕入れた『煉獄』に生息するモンスター、『鎧竜』のレアドロップ品である『鎧竜の芯金』。
そして、それらを融合する触媒として使われる『皇帝亀の卵』。
ジン用の剣銃が高レベルレシピであると分かった日から、この日のために準備しておいた素材の数々。
トップ生産職であるプリムラをして、今まで生産してきた武器の中で最高難易度になるだろうという予感に武者震いが起こる。
思えば、ジンは不思議な男だ。
剣歯との戦いで、初心者からしたらありえない勝利をもぎ取り、また垂涎モノであろうプリムラの武具作成を断ったプレイヤー。
高レベルプレイヤーであるアクアの兄であり、同じく高レベルプレイヤーであるライトの現実の親友であり、そしてEAOを始めてから2ヶ月ほどで『箱庭』のミオソティス、『四神会』の朱雀を始めとした高レベルプレイヤーとも友誼を結んだ。
それだけではない。冗談のような事件に巻き込まれ、大いに笑わせてくれるプレイヤーなのだ。
そして、公式イベントで見た、ジンの戦場。
たった一人で最難関であろうエリアシティ北区を守り抜き、グレンデルとの死闘すら勝ち抜いた。
全プレイヤー中、最短で『格上殺し』の二つ名すら付き、今後、最前線で活躍するであろうプレイヤー。
そのプレイヤーの傍らに、ついに自分の作品が携えられるのだ。
それを喜ばないようでは、それに興奮しないようでは、生産職をやっている価値などないではないかとプリムラは思う。
「プリムラの姉さん〜。来たっすよ〜。あっしを呼ぶってこたー相当なブツをやるんすね?」
高レベルレシピの生産をする時、いつも頼んでいる補助職の女性プレイヤーがやってきた。
喋り方はおかしい彼女ではあるが、その補助魔法の腕は確か。生産工程毎に最適な補助をしてくれる彼女がいれば、プリムラはトップ生産職と言われているその腕を遺憾なく発揮できるのだ。
「今日は剣銃士のジンさんの武器をやるよ!いつものように頼むさね」
「おー、噂の『格上殺し』の武器っすか!?
物騒な二つ名の割に結構いい男だって聞いてるっすよ?ご本人はいないんすか?」
きょろきょろと周りを見る女性プレイヤーに、プリムラは肩を竦めて答える。
「残念ながらレアクエストに巻き込まれて暫く戻ってこれないのさ。
御託はいいから始めるよ!」
落胆したのか、渋い顔の彼女を放置してプリムラは炉にウーツ鋼のインゴットを投入。
柔らかくなったインゴットを刀身に整形、その間にも魔法銀を丁寧に混ぜ込んでいく。
何度も何度も槌を振るう様は、どこか祈りにも似ている。珠のように流れる汗を拭おうともせず、無心に、自分が作った武器を使い活躍するジンを思い浮かべながら槌を振るう。
そして、刀身の鍛錬が佳境に入り、鎧竜の芯金を混ぜ始めた時それは起こった。
「うわっ!?なんかぱちぱち弾けてるっすよ!?」
そう、ウーツや魔法銀と違い、鎧竜の芯金は金属では無く生体素材、通常混じり合わずに拒否反応を示してしまうのだ。
すかさずプリムラは『皇帝亀の卵』を投入する。
そうすると、それまで派手に弾けていた刀身が即座に落ち着き、黒に程近い深赤を湛え始めた。
その刀身を水で焼入れ、すっと目の高さに刀身を持ち曲がりが無いかを確認。
事前に準備しておいた銃機構を鍔に組み入れ、柄にすべり止めの皮を巻く。
最後に全体をチェックし、完成。
出来上がった武器は、禍々しくも美しい色を湛え、相応しい持ち手を待つように佇んでいた。
「あ、姉さん……。まさかこいつって……」
「ちょっと待ってな、鑑定しちまうから。
……あ〜、やっぱり伝説級だ。自分で作っておいてアレだけど、また難儀な……」
今の自分が作れる最高級の武器が出来たであろう喜びなど吹き飛び、プリムラは今後ジンを襲うであろう厄介事を思い嘆息する。
補助職の彼女はプリムラの言葉に驚き、目を見開いて尋ねる。
「ま、まさかこれ公開しちまうんですかい!?」
「当然本人の確認は取るけど、公開せざるを得ないさね。
ただでさえ注目度の高いプレイヤーなのに、こんな業物ぶら下げてたら騒ぎになる。
遅かれ早かれバレるなら、自分から公開する方がまだ面倒事を減らせるさね。
ただ、減らせるってだけで0には出来ない。もしジンさんがこれを使わないでストレージの肥やしにしてくれるなら話は早いんだけどねえ……」
「折角手に入れたレア武器使わないって事もないっすし、しょうがないですねい」
「問題は再現性が無いって事さねぇ。
手にい入れた経緯そのものはコメディみたいなモンだけど、素材の一つは完全ランダムのレアクエストで手に入るS級レアアイテム。まだ通常のボスレアとかなら生体素材の組み合わせで他の武器も伝説級狙えるかもだけど、現状それも出来ないからねぇ……」
これからジンに舞い降りる災難を思い、やはりため息しか出ないプリムラであった。
今回は縮地の考察ということで、この色んな作品に使われる技を考察してみました。
素早い動きの代名詞に使われるようなこの技ですが、そんな夢の様な便利な技じゃないですよという。
EAOの世界では魔術・魔法という便利な物がありますので術としての縮地というのもありえそうですが、現時点ではあくまで技としての縮地を考察してみました。
そして卵。
プロットを立てる際、実はこの章でこの剣を出すかどうかちょっと悩んだのですが、ここで出しておかないとこの先出す機会がなさそうだなぁと思い。かなり強引に出さざるを得ない状態になってしまったので、構成能力の低さに反省仕切りです。




