無人島
リアルで事情がありバタバタしておりました。遅れましたが更新致します。
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時間を置けば通常フィールドに戻れるのではないかと淡い期待を抱いていた陣だったが、ログインした先はしっかりと特殊フィールドのビーチだった。あまりの不親切設計に段々とむかっ腹が立ってきた陣だったが、ここで一人苛つくのも建設的ではないと気を取り直し、海辺に沿って歩き出す。
どうやらこの島は全周10kmほどの小さな島。一部岩場になっていたので、海岸沿いは砂浜だけではないようだ。
島の内側を見ると、どの地点から見ても鬱蒼とした森に繋がる。まずは起点になるベースキャンプを構築して、そこを中心にして探索をしてみるしかない。
まずは近場の木を切り倒そうとしたのだが、斧なのどの重量系武器なら兎も角、剣銃では重さが足りず切り倒すことが出来なかった。ここに時間を掛けるのは勿体無いと、とりあえずは木の間に大きな葉を渡し、環境パラメータが雨天時になった場合の逃げ場所を作る。この葉がかなり頑丈な物だったので、ついでに下段にも渡しハンモック代わりに。浜側には目印になるよう、適当に拾った流木を置いておく。
次はマッピングなのだが、この特殊フィードはマップ機能が働かない仕様らしく、メニューもグレーアウト表示のままになっている。当然フリーハンドでマッピングする機能もないので、脳内で地図を描くしかない状況。
クエストの内容は『幽霊船と海蛇の秘密を暴き、クエストをクリア』すること。これだけ見ると、『幽霊船と海蛇の秘密を暴く』ことがクリア条件を満たすための必須項目になると思える。一番怪しいのは島の中心地点だ。だが直ぐにそこへ向かうわけには行かない。
期限も特に区切られて無く、ヒントも全くない状態なのだ。長期戦を前提に腰を据える必要がある。
まずは幸いな事に、EAOには『喉が乾く』というパラメーターは存在しない。なので、リアルに漂流した場合一番最初に難儀する『水の確保』を考えなくてもいいのは大きなアドバンテージなる。だが『腹が空く』というパラメーターは存在する。空腹パラメーターのゲージが無くなる毎にステータスにマイナス補正がかかり、最終的には戦闘行動時もゆっくりと歩く程度の速度しか出なくなる。
エリアシティでは空腹ゲージがなくなってしまっても最悪構わないのだが、この特殊フィールドでは何が起こるか分からない。出来れば先に食材を見つけ、後顧の憂いを無くしておきたい。
次にこの島の『脅威度』の判定。陣にとって『海域』自体が初めて訪れるエリアになるのだが、それ以上に特殊になるであろうこのエリア。当然出現するモンスターも分からず、どれくらいの脅威がそこに潜んでいるか分からないのだ。
その二つを考えれば、迂闊に中心部に近寄るのは危険だろう。
まずはベースキャンプを中心に北西エリアの探索、問題なければ北東と回り込み北側を制覇。最低そこまでは探索した後に中心部へアタックするのがいいだろう。
「うし、じゃあまずは周囲を探って見るかね」
陣はそう独り言ち、装備を水着から血狼の長衣に変更。フル装備に戻した後に、森に分け入っていくのだった。
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1日かけて探索した結果、陣は北エリアを踏破していた。
しかし、その結果は惨憺たる有り様。一言で言えば。
「敵がいねえ、ロクな食材もねえ……」
のである。
敵がいないのは兎も角、危険な虫や毒持ちの動物がいないのはありがたい。現実の森林と同じようにそういった存在がいたとするなら、探索の難易度も一気に跳ね上がってしまうだろう。しかし、作り物めいた森はまともな食材を陣にもたらさなかった。正体の分からない『酸っぱ苦い』果物は手に入るのだが、それしか実っていなかったのだ。
「うぅ、こんな下らないことでフレンド連中の手を借りるのも馬鹿らしいしなぁ……。
我慢できなくは無いし、これで空腹ゲージ回復するか」
しょうがなく、陣はもそもそと酸っぱ苦い果物をかじる。
ただでさえ訳も分からず放り込まれた特殊クエスト、自ら望んで来た訳では無い特殊フィールドな上、入手できる食材も不味いとなればごりごりとモチベーションが削られる。手元に美味いであろう『紅玉蟹』があるのもいただけない。これだけ不味いものしかなければ、思わず食ってしまいたくなるのだ。ある種の壮絶な『お預け』状態であり、それも陣の精神力を削りにかかってくる。
「あぁ、駄目だ。本格的にやる気なくなってくる……。一回ログアウトして飯食ってこよう……」
折角早めに夕飯を食べログインしたのに、あまり収穫の無い無人島1日目になってしまった。
―翌日、早朝
「昨日の反省も踏まえて、今日は海岸に罠を仕掛けておこう!」
陣は森の恵みに見切りをつけ、海の幸にターゲットを絞ることにした。
EAO攻略Wikiの情報で、『海域』にも満潮、干潮があることが分かったからだ。満潮は朝と夜、干潮は夕方と深夜に起こるらしい。満潮の時に岩場で罠を張り、干潮時に魚を引き上げる罠を張るのだ。
少なくとも島の北側には敵はいないと判明しているので、ダッシュで枝を拾い集めていく。適当に格子状に組み、蔦で補強、簡易ではあるが枝で網を作る。
本当ならちゃんとした網なり、釣り道具を送ってもらったほうが効率はいいはずなのだが……。時間帯が早朝だったこともあり、誰もログインしていなかったのだ。
水着に着替えた後、自作の網を持って岩場のスポットへ。上面がギリギリ海面下になるよう海に潜りながら罠を設置。底面に隙間が出来ないよう岩で押さえる。餌になるか不明だが、森で入手した酸っぱ苦い果物を刻んで海に投入。大学の講義が終わる頃に戻れば、EAO時間で夕方、干潮になる。
どうか上手くかかりますようにと柏手を打ち、陣はログアウトした。
―そして夕方。
「あぁ、ぜんっぜん駄目だ……」
講義が終わりEAOに戻ってきた陣。彼を待っていたのは、食べる所も少ないであろう小魚一匹の収穫であった。
もしかしたらこのフィールドそのものに食材の設定がされていないのかもしれない。
もしかしたらと淡い期待を込めて焼いてみても、骨ばかりで食べる身が異様に少なく、味もなんか変に苦く不味い。
「本当は今頃『海域』の海の幸を満喫してたはずなのになぁ……。
なんで俺はこんな所にいるんだ……」
やけになって魚を貪ってみてもやはり不味いものは不味い。景色だけはいいので、それも相まって無性に情けなくなり泣けてくる。
敵がいないから食材ドロップも無い、採取できる食材は妙に不味い。EAOに於いても食を重視する陣にとって、とことん相性の悪いフィールドであった。
〓〓心葉大学・学生寮〓〓
さすがに我慢しきれないと判断した陣は光彦の手を借りようとしたのだが、タイミングが悪いことにログインしていなかった。
しょうがないとログアウトし直接頼もうと自室を訪ねたのだが、実家に帰省しているとかで寮にもいなかった。
理由が理由だけに、帰省した相手に連絡を取ってまで助力を願うのもどうかと思ったが、このままだと干からびると光彦のモバイルにコールする。
「というわけで光彦、頼むから食材を送ってくれ。このままだと俺は精神的に死ぬ」
『いや、それは構わないんだが、水穂嬢とかに頼めばよかったのではないか?
俺も今忙しくてな、そうそう頻繁にログイン出来ないんだ。
それと、メールで送れるアイテムには制限があるぞ?
同一アイテムなら複数個送れるんだが、複数アイテムは送れない。あまり複雑なレシピだと無理が出るぞ』
「こんなくだらん事にお前以外の奴を巻き込めるかよ。
つーか、どっぷりEAOに浸かってる連中だと、空腹パラメーター誤魔化したいだけなら糞不味い食材でも別にいいじゃんとか言いそうじゃないか。剣歯とかに頼むと『兄貴の頼みだ』とか言って、際限なく送って来そうだしな。
あぁ、送るのは卵と食パンだけでいいぞ」
『お前……それはラピ◯タのパン作るつもりか……。確かに冒険譚にはシンプルな料理が似合うが、ゲーム内でそれをやらずともよかろうに。クエストクリアが第一優先事項と分かってるのだろうな?
手隙のタイミングを見て送っておいてやるから、さっさとクリアして早く戻ってこい。
元々のインペリアル・カーバンクルの入手が遠い話になってしまっていて気持ちが悪いんだ』
クエストクリアするまでは如何ともし難い。文句を言いたくても、こういった事象にEAOの運営が介入することはない。ただでさえ不介入を貫く運営陣の事。事情があるから戻してくれと連絡した所で、下手すれば返答すら寄越さない可能性もある。
兎も角、光彦に頼んだことで食事の問題はクリアされた。
いいタイミングなのでこの日の探索は切り上げ、いよいよ明日、本命と睨んでいる中心のエリアに陣は突入することにした。
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頼んだ通り光彦から送られてきた食材。
減りに減った空腹ゲージをようやく満たし、陣は鬱蒼とした森に分け入っていく。
相変わらず敵も出現せず危険を感じない森なのだが、それだけに妙な違和感がある。
張り出した蔦や木の根に苦労しながら島の中心に辿り着いた陣。
そこには陣が予想していたような派手なイベントは無かったのだが、一つの石版が置いてあった。
ET CONVERTIT ME AD MARE,
そう書かれた石版。当然のように意味が分からない陣は片っ端からメールを送ると、ナトリからチャットが入った。
『それ、多分ラテン語なの。意味は多分「私を海に戻せ」って書いてあると思うの。
さすがレアイベント。起こりの派手さに比べてやってることはお使いクエストって意味が分からないの。
とっととクリアして海鮮BBQやって欲しいの、空腹ゲージを減らして待ってるの』
「いつクリア出来るかわからないんだから止めなさい。
それよりインペリアルカーバンクルの情報はなにか入ってないか?」
『まったく無いの。さすがに誰も入手していないレアともなると情報の集まりも悪いの。
クエスト攻略に命かけてるプレイヤーにも当たってるんだけど、未だに掠りもしないの』
「分かっちゃいたけど、さすがにそっちは長期戦だな。
こっち片付かない事にはなんともしようがないから、さっさとクリア方法探すわ……」
ナトリに礼を言い、チャットをオフにする。
とりあえず手持ちの情報も無い陣は、石版を手遊びながら海へと向かう。正直言うとこのヒントにしろ、運営に遊ばれている感もあり面白くはないのだが、この段階では誘導通りに進むしか無い。
ベースキャンプにしていたビーチに到着した陣が、海に石版を投入しようと振りかぶると。
『その石版を譲ってもらえないか?』
振り返った陣の目の前に、一体のスケルトンが何時の間にか忍び寄っていた。
本格的に動き出すまでもう少しかかりそうです。展開遅くて申し訳ありません。




