海賊
1周間お休みをいただきました。
「ッチ!」
陣は忍び寄っていたスケルトンに剣銃一閃、だがスケルトンの装備するカトラスに防がれてしまう。
相手はスケルトンの筈なのだが、妙に反応が良い上動きが素早い。
スケルトンの切り落としを刃先で受け滑らせ、頭蓋に向けて『相馬流抜刀術:水鏡』をカウンターで放つ。だが、陣の鋭い斬撃を紙一重で避け、逆に腕を絡めとらんと巻き付いてくる。
炎錐を避けられた段階で『ただの』スケルトンではないと感じた陣は距離を取り観察。体は通常のスケルトンと差異は見られないのだが、持っているカトラスの質が相当いい。纏っているボロも元は豪奢な服だったのだろう、高価そうな深い蒼を湛えた生地が見て取れる。
『ちょ!?待てって!』
案外このスケルトンは強敵だ、言葉を喋ることからも普通の下級モンスターでは無いのかもしれない。
片手では分が悪いかと石版をアイテムストレージに放り込み、改めて剣銃を構える陣。
スケルトンということは『炎』が弱点だろうか。炎属性の弾倉を剣銃に装填し、低い姿勢で突っ込む。
これ幸いと突かれるカトラスを、更に姿勢を低く、転ぶ寸前まで屈めて避ける。そのまま骨の足を剣銃で払い、スケルトンの胸骨を踏みつけ零距離射撃。『相馬流砲術:落土』がスケルトンの頭蓋を燃やす。
かつて火縄銃が主力だった戦国時代、当時の土の技は弓術が担っていた。だが、銃の持つ長大な射程距離と、たとえ素人であっても短い習得期間で一端の兵となれる特性から、時流は銃に傾くと当時の相馬当主は考えていた。
勿論、当時の銃には重大な欠点がある。先込め式であった火縄銃は一発一発を装填するのに時間がかかり、装填手がいる場合を除き次々と放つ事も出来ず接近戦を余儀なくされるのだ。それを改善する『早合』という、所謂カートリッジの原型のような物も開発されていたが、やはり限界があった。
弓術も同じく、『番え・引き・放つ』と動作が必要な点は同じだったが、その特性からより近接戦の重要度が増した。それもあってか、組打術・抜刀術が得意な陣と弓術よりも砲術のほうが相性が良かったのは、ある意味皮肉なことなのだろう。
陣はスケルトンを踏みつけたまま剣銃を突きつけ問いかける。
「いきなり襲いかかってくるとはどういう了見だテメエは?」
『いや、襲いかかってないから!問答無用で襲いかかられたのはこっちだから!
僕はその石版を譲って欲しいって声かけただけだよ!?』
耐久力が高いのかモンスターとしてのレベルが高いのか、スケルトンは頭蓋を燃やしたまま器用に叫ぶ。
ん?と思い返すと、確かにこのスケルトンはそう言っていたような気がする。
様子を見る限り特に敵対的でも無い。モンスターだと討伐しようとしてしまったのは陣の早合点のようだった。
陣はバツの悪い顔でスケルトンの手骨を取り立ち上がらせ、パタパタと頭蓋を叩いて鎮火させる。
「いやぁ、悪い悪い。でもお前さんも悪いぞ。
気配なく後ろから忍び寄られて、しかもその相手がスケルトンじゃな。反射的に切り捨てられても文句は言えねえぞ?」
『どこかの目が怖い暗殺者じゃないんだから後ろに立ったくらいで切り捨てないでよ……。
というか普通、その状況だったら驚いて逃げるとかするんじゃないかな?反射的に斬ろうとするってあんまり無いと思うよ?』
そんなもんかねと頭を掻きながら、アイテムストレージから石版を取り出す。
スケルトンは眼の奥の鬼火を輝かせて陣に詰め寄った。
『それ!それを譲って欲しいんだよ!
僕らはとある事情で森には踏み入ることが出来なくてね。石版がある場所は分かっているのに、この島は無人島だから誰かに取りに行って貰う訳にもいかない。
だから君が持ってるそれは喉から手が出るほど欲しいんだ』
カタカタと笑うスケルトン。
さっきから妙に陽気だ。スケルトンは生者に嫉妬する陰性のモンスターじゃなかったのだろうか。
普段であれば渡してしまうであろう使い道の分からないアイテムではあるのだが、クエストのキーアイテムになっている可能性も高く、おいそれと渡していいものか考えてしまう。
「別に譲るのはいいんだが、俺もこの状況に困ってるんだ。
この島の脱出に石版が必要かもしれなくてな」
『あぁ、それなら僕等が相談に乗れると思うよ。
詳しくはウチのキャプテンと会って見てからになるけど、石版と交換だったら駄目とは言わないだろうから』
ちょっと離れててねと言って、スケルトンは照明弾を打ち上げる。
一瞬辺りが眩く照らされ、元の暗さを取り戻した時、海蛇と戦っていた『幽霊船』が陣の目の前に浮かんでいた。
『僕の名前はカル。海賊船「ゴドフリー」の副船長をやっている者さ』
自慢気に語るカルは『凄いんだぞ』とドヤ顔(骨?)だが、武器がちょっと良い以外は通常のスケルトンと違いが分からないのだった。
〓〓???・幽霊船〓〓
幽霊船から降ろされた縄梯子を登ると、さすがに乗り過ぎだろうという数のスケルトンが陣を待ち構えていた。
ボロボロに錆びた剣やカトラスで武装する骨骨骨。陣が部外者だからだろうか、それとも不躾に乗り込んだ生者だからだろうか。囲うモンスター達は敵対心に溢れ、今にも襲いかからんと身構えている。
陣は抜剣し、スケルトン達を睨み付ける。
「おいおい、随分と手が込んだ罠じゃねえか。
骨粉になるまで粉砕してやるからかかって来いやコラ!」
『あぁもう!ジンさん剣銃仕舞って!
お前達も!つーかこんな所で油売ってないで仕事してください!』
しぶしぶと武器を仕舞い散っていくスケルトン達。武器を仕舞われるとカイとの見分けがまったくつかないので困る。
仕事に戻ったスケルトンたちは、アンデッドとは思えぬ手際の良さで船の手入れをしている。
不思議に思った陣が観察スキルで確認すると、通常のスケルトンでは無く『パイレーツ・スケルトン』だった。さすが海賊の成れの果て、海の仕事は得意なのだろう。
「それでカルよ、そのキャプテンは何処にいるんだ?」
『困ったことに姿が見えないのですよ……。
私達には海の呪いがかけられていてあまり船から離れることが出来ないんで、必ず船の何処かには居るはずなのですが』
困ったように言うカル。陣も手伝ってやりたいところだが、見分けがつかないので役に立たない。
イベント進みそうだったのにどうするかなと頭を掻いていると、トントンと後ろから叩かれた。
「ん?」
振り返ると、先程まで陣を囲っていたスケルトンの一体が、お詫びとばかりに自分の頭蓋骨を差し出していた。
「いらんわ!というかいっそキモい!」
陣はわしっと頭蓋骨を掴み、ものっそい勢いで海へ放り投げる。
『あぁ!キャプテーーーン!』
どうやらあれがキャプテンだったらしい。それにしてもさっきから何なのだろうこのノリは。
頭蓋骨を放り投げられたスケルトンは慌てて取りに向かい、カルはその後を追ってがっしゃがっしゃと走りだす。
折角進展したはずの状況が、むしろ後退してるんじゃないかと思う陣だった。
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陣は頭蓋骨を改修した両骨から船長室に案内される。
物が幽霊船だけに随分と古びてはいるが、黒壇の執務机やいかにもな海賊旗、十字に飾られたカトラスや棚に飾られた高そうな酒。一つ一つの物が随分な高級品のようなのだが、ありがちな下世話さが無い。ふざけた行動に判断を誤りそうになるが、この船長、センスだけは良いようだ。
当の船長は棚から酒瓶を一つ取り出し、勝手にラッパ飲みを始めてブチブチと愚痴を言う。
『軽いスケルトンジョークなのに投げ飛ばすとは酷いのじゃ』
「分かりにくいわ!」
非常に分かりにくい冗談を流し、陣は目の前のスケルトンを眺める。
立派なキャプテンコートに着替えたスケルトンは確かにキャプテンなのだろう。明らかに他の骸骨共とは格が違うと伺える。着装したカトラスも宝石で飾り立てられており、随分とお高い武器のようだ。
陣の突っ込みが嬉しいのか、カカカと陽気に酒を飲むのはいいのだが、飲んだ端から骨の間から漏れている。それでもアルコールが染みるのか仄かに骨が桜色に。
『まぁまぁ、キャプテンも久しぶりに生きている人と会えたのではしゃいでしまったんでしょう。
それでジンさん、早速あの石版を見せてもらってもいいですか?』
陣はストレージから石版を取り出し、古風なテーブルの上に置く。
「これが島の中央で手に入れた石版だ」
『おぉ、これが!
ワシらは海の呪いで陸地に上がれんでの。場所は分かっているのに手出しが出来ずに悔しい思いをしていたのじゃ。
それで、カルから聞いていると思うがこれを譲ってくれんかのう……。ワシらにはこれが必要なんじゃ』
「聞いちゃいるが俺も困ったことになっていてな。はいそうですかと渡すわけにもいかんのよ」
陣はこの島に至る経緯を説明する。
仲間とシェルビーチで遊んでいる時、突発的に海蛇に襲われ津波に飲み込まれる。漂流した先がこの島であり、現状どうにも脱出手段が無い事。この石版がこの島からの脱出に何らかの形で関わっている可能性がある事。
事情を聞いた船長は『ふむ』と呟き黙りこみ、すんなり交渉に入ると思っていたカルがそわそわと骨を鳴らす。
『なるほどのう……。帰還石で帰れないとなると、どうやらお前さんも中途半端に海の呪いにかけられた可能性があるのう』
「カルや船長さんがかかってるって言う呪か?でも俺は森にも踏み込めるし状況は違うようだが」
『そこはお前さんが生者だからとか、理由はあるだろうがの』
考えてみれば分からない話ではない。この呪いを『イベント』に置き換えてみればしっくり来る話ではあるのだ。
イベントに巻き込まれてクリアするまで脱出出来ないのは、呪いにかけられて解くまで自由になれないのと同義だろう。そう考えればこのスケルトン達もイベントに関わっているのかもしれない。ならば、このスケルトン達の呪いを調べればイベントクリアに近づく可能性も高い。
「その呪いってのは一体何なんだ?」
『海神の呪いじゃよ。お前さんが見たと言う海蛇、儂等はアレを通称で「リヴァイアサン」と呼んでいるんだがの。
財宝目当てに遠征していた所をアレに捕まって、罰とばかりに呪いをかけられた。そしてこうやってスケルトンになっても呪いが解けずに海を彷徨ってるわけじゃな。何が逆鱗に触れたのか分からんが、死んでも解けない呪いとは陰湿なものじゃ。
あ、儂等をそこらの略奪を生業にする海賊と同じに見るでないぞ?古代財宝狙いのトレジャーハンターじゃからな?』
ほれほれとコートの前を開け、肋骨を見せびらかしてくる船長。
いや、立派な骨をお持ちで。
『当然儂等も呪いを解くために様々な情報を集めた。海から離れられないため得られる事は少なかったが、長い間彷徨っていれば積み重なって見えることもあっての。
お主が見つけたその石版、いやタブレットじゃな。それは「ラジエルの書」と呼ばれる天界の書物、その欠片と言われているそうなのじゃ。「リヴァイアサン」はそれを求めて海を彷徨うのだそうじゃ。
それを海に持ち込めば必ずアレは姿を表す。儂等はそこでアレに総力戦を仕掛けるつもりなのよ』
リヴァイアサン。
ゲームやファンタジーに触れる機会があれば一度は聞いた事があるだろう。旧約聖書によれば神が天地創造の5日目に創り出された海を司る神獣。ただ、これは海賊達の間違いであった。
神秘を司る天使「ラジエル」。その知が編纂された「ラジエルの書」。古くは楽園を追放された人間の祖「アダム」に与えられた物だったのだが、罪を犯して追放された人に神秘が託されたことを嫉妬した天使によってその書は海に捨てられる。
その書の回収を命じられた海の魔物。時にリヴァイアサンと同一視される混沌の象徴。
その名は『ラハブ』。
「あんなモンスター相手に総力戦か……。しかも明らかに相手のテリトリーであろう海上で……ね。
勝算は?策はあるんかよ?」
『無い。と言うよりも必要が無い。
いい加減儂等も彷徨い始めて長いでの。今となっては生前の意識を保ってるのはカルと儂だけじゃ。
その「ラジエルの書」も欠片とはいえ貴重品。もはや再び手に入れることは出来ないじゃろう。
ならば、これを最後と総力戦を挑みたい。勝って積年の恨みを晴らせれば良し、負けて海の藻屑となっても良し。
お主の腕は良さそうだが、そういう理由で付き合えとは言わんよ。負けても構わんという相手に付き合わせるのは道義に悖るからの。ただ、その石版は何があろうと譲って貰わねばな』
陣は腕を組んで考え込む。
心情的には力は貸せないまでも、この石版は渡してやりたい。陣には想像も及ばぬほど、このスケルトンたちはあの海蛇に対して恨みを溜め込んでいるのだろう。乾坤一擲、最後の戦いを挑みたいという戦士たちを止める術を陣は持ちあわせてはいない。
ただ、この期に及んでシステムは沈黙を保ったまま。スケルトンたちに助力すればいいのか、このクエストと彼らは全くの無関係で石版を渡してしまったらクリア出来なくなってしまうのか。判断する情報が無さ過ぎる。
陣が考え込んでいるのを見て、船長がかしゃんと手を叩く。
『すまんすまん、儂等の都合ばかり話してしまったな!
譲って貰えるなら当然礼は尽くす。お主は生者だから儂等のように海に縛らられることも無い。呪いも中途半端なようじゃから、この島さえ出れば元に戻れるじゃろう。
リヴァイアサンがいる間はこの海域は荒れるのじゃが、儂等が勝つか、ラジエルの書を手に入れれば奴も何処かに消えるだろう。そうなれば小型のボートでも海を渡れるから、それと交換というのはどうじゃろう?
もしもアレに勝つことが出来たなら、儂等の船で近くの街まで運んでも良い。なんなら儂の体も付けるぞ?』
「骨貰ってどうしろと!?
いや、それが本当なら確かにボートと交換でもいいかもな。
……よし、それじゃ小型ボートと交換だ。それと、気分のいい話じゃないだろうが、その呪いを受けることになった原因の話を聞かせてくれよ」
クエストの内容は「幽霊船と海蛇の秘密を暴け」、ならば一連のイベントが終わった後即座に開放されるかどうかは不明なのだ。
彼らは終われば開放されると言っているが保証は無い。だが必死な彼らを袖にするのも忍びないと陣は感じていたのだ。
ちょっとでもクエストクリアの確度を上げる、その程度が落とし所だろう。
『別に構わないぞ。儂等が狙っていたお宝、アレに呪いをかけられる原因になったのは「皇帝亀の卵」と呼ばれる財宝じゃよ。
一般的には「インペリアルカーバンクル」と呼ばれているのじゃな』
陣は一瞬唖然とし、口を半開きにしたまま船長を見る。
ひょんな所から、最初に探していたアイテムの名前が転がり出てきた。




