第十四章 山頂、あるいは最後に腹が鳴ること
朝、出発のとき、アールがいた。
どこにいたのかわからなかった。気づいたら、荷物を持って列の中にいた。誰も何も言わなかった。カイが一度だけ見て、前を向いた。
「アール」エリィは言った。「うん」「昨夜はどこにいましたか」「そのへん」「そのへん、とは」「そのへん」
エリィはその答えをひとまず受け取った。アールはそういう人だった。どこかにいて、気づいたらいた。それで十分だった。
山道が、急になった。足元が岩になった。手を使わないと登れない場所があった。カイが先に登って、手を貸した。カエルは手を借りなかった。ヴェルト師は音もなく登った。老人がどうやって登っているのかが、見ていてもわからなかった。
金属の音が、近かった。今日は最初から近かった。近いというより、もう山全体に満ちている感じがした。耳の外から来ていた。耳の内側から来ていた。体の中と外で、同時に鳴っていた。
「聞こえていますか」エリィはカイに聞いた。「何が」「金属の音」
カイは少し立ち止まった。「……聞こえる。今日は」「今日は、ですか」「今まではわからなかった。でも今日は、確かに聞こえる」
エリィはその答えを頭の中に置いた。今日は聞こえる。山頂が近いから。何かが近いから。
腹が、鳴った。「……」「行くぞ」カイが言った。何も言わなかったのに近かった。「はい」エリィは言った。
山頂に出た。出た、というより——開けた、という感じがした。岩と岩の間を抜けたら、急に、何もなくなった。遮るものがなかった。空が、広かった。どこまでも。
地面が、金色だった。近づいてわかった。金貨だった。
一面に、金貨が敷き詰められていた。埋まっているのではなく、置かれていた。積み重なっているのでもなく、一枚ずつ、丁寧に並んでいた。踏むと、音がした。
金属の音だった。エリィは足元を見た。金貨が一枚、足の下にあった。踏んだ。音がした。その音だった。ずっと聞こえていた音が、これだった。金貨が踏まれる音が、山を通して聞こえていた。
「……ずっとこれだったんですか」エリィは言った。声が少し上ずった。「うん」とそのものが言った。「数えていましたか、ずっと」「数えてはいない。鳴っていただけ」「踏まれるたびに」「踏まれなくても鳴る。風が吹いても鳴る。誰かが近づくだけでも鳴る。ここにあるから、鳴る」
エリィは金貨の野原を見渡した。どこまで続いているかわからなかった。地平の向こうまで、金が続いていた。空と金と、それだけだった。
カエルが立っていた。動かなかった。金貨の上に立って、遠くを見ていた。取ろうとしていなかった。ただ、見ていた。
アールが、一枚だけ拾って、表と裏を見て、また置いた。
カイは金貨を踏まないように歩いていた。踏まないようにしながら、それが不可能だとわかっていた。
水盤は、野原の中心にあった。石でできていた。古かった。縁に文字が彫ってあった。読もうとしたが、今日は読めなかった。でも触ると、指先に何かが伝わってきた。熱くも冷たくもない、別の何かが。
水が張ってあった。動かない水だった。でも淀んでいなかった。山の水みたいに、澄んでいた。
エリィは荷物を下ろした。内側のポケットに手を入れた。青みを帯びた板が、指に触れた。取り出した。「使えばわかる」と師に言われていた。使う時がきたら、という言葉だった。ここだと思った。
水盤の縁に膝をついた。板を水の上に、そっと置いた。何か言おうとした。言葉が出てこなかった。言葉がなくてもいいと思った。ただ、ここに届いてくれ、と思いながら、板を水面に触れさせた。
板が、沈んだ。音がしなかった。でも水面が、一度だけ、静かに揺れた。揺れて、また止まった。
水の中に、何かが映った。山ではなかった。空でもなかった。見覚えのない場所だった。でも、そこに子供がいた。火の前で、温かそうにしていた。一瞬だけ映って、消えた。
エリィはしばらくそこに座っていた。「あの集落の子ですか」エリィはそのものに聞いた。「さあ」とそのものは言った。「でも、火は消えていない」
ヴェルト師は水盤から少し離れた場所に立っていた。金貨の野原の中で、一人だけ、遠くを見ていた。山の下の方を。来た道を。老人が何を見ているのかは、エリィには見えなかった。
「師」「うん」エリィは内側のポケットに手を入れた。白い板が、残っていた。「これを」エリィは言った。「師に渡します」
ヴェルト師は振り返った。エリィを見た。「なぜそう思う」「わかりません」エリィは言った。「でも手が動きました」
老人はしばらくエリィを見た。それから、少しだけ、目を細めた。「お前は正確だな」と言った。「よく言われますが、意味がわかっていないです」「わからなくていい」
エリィは板を持った手を伸ばした。老人の肩に、板を当てた。触れた瞬間に——
ヴェルト師の肩が、少し下がった。下がった、というのは正確ではなかった。何かが、外れた。長い間そこにあったものが、少しだけ、外に出た。老人の顔が変わった。変わった、というより——年齢が出た。今まで見えなかった年齢が、一瞬だけ、出た。何百年分かのものが、一瞬だけ、外に出た。
板は、消えた。
老人はしばらくそのままで立っていた。エリィは何も言わなかった。何も言う必要がなかった。「ありがとう」とヴェルト師は言った。エリィはその言葉を聞いた。今まで老人からその言葉を聞いたことがなかった。「わかりました」とエリィは言った。それだけ言った。
老人は、また遠くを見た。今度は、来た道ではなく、もっと遠い方を。山の向こうの、北の方角を。
エリィは荷物を持ち直した。本が、中にあった。手を入れて、取り出した。何も書かれていない革の表紙を、また見た。持った瞬間にこれだ、と思ったときと同じ感触だった。重くなかった。ただ、あった。
開こうとした。手が止まった。止めた、のではなかった。止まった。庭のときと同じだった。考えるより先に、手が止まった。
「開かないのか」カエルが来た。「開きませんでした」「なぜ」
エリィは少し考えた。「まだ答えが出ていないので」「答えが出たら開くのか」「そうかもしれません。でも」「でも」「答えが出たら、開かなくてもいいかもしれないと、少し思っています」
カエルはしばらくエリィを見た。「子供みたいなことを言う」「子供なので」「そうだったな」
エリィは本を、荷物に戻した。そっと入れた。底に、ちゃんと収まった。重さが、肩に戻った。いつもと同じ重さだった。でも、ここに来る前より、少し、馴染んだ気がした。
「カエルさん」エリィは言った。「なんだ」「受け取りましたか。何か」
カエルは金貨の野原を見た。「わからない」「わかりませんか」「わからない」カエルは言った。「でも」「でも」「花が好きだったかもしれない、とわかった。それは、ここに来なければわからなかった」
エリィはその言葉を聞いた。「それが」エリィは言った。「受け取ったものじゃないですか」カエルは少し間を置いた。「……小さいな」「小さくないと思いますが」「お前はそう思うか」「思います」
カエルは金貨の野原を、もう一度見た。手を出さなかった。触れなかった。ただ見た。それだけだった。
そのものが、エリィの隣に来た。「何かを受け取ったか」「わかりません」エリィは言った。「でも」「でも」「問いを持ったまま帰れる気がします」「それが受け取ったものかもしれない」「そうかもしれません」エリィは言った。「でも最初から持っていた気もします」「最初から持っていたものを、ちゃんと持っていると確かめた、かもしれない」
エリィはその言い方を頭の中に置いた。確かめた。持っていると、確かめた。「そうかもしれません」エリィは言った。
愚者が、野原の端に立っていた。金貨を踏んでいた。でも拾っていなかった。取ろうとしていなかった。ただ、野原を見ていた。見渡していた。その目が——さっきの庭ではなく、橋ではなく、谷でもなく——今まで見たどの顔とも違う顔をしていた。疲れているのかもしれなかった。欲しいものがずっとあり続けることが、どういうことかを、初めて考えているのかもしれなかった。
エリィはそれを見たが、何も言わなかった。言えることがなかった。言えることがなかったが、見ていた。それだけだった。
腹が、鳴った。山頂で。金貨の野原の真ん中で。空の下で。はっきりと、大きく。
「……」
誰も何も言わなかった。カイが息を吐いた。カエルが、どこか遠くを見たまま、口の端を少しだけ動かした。アールが振り返って、また前を向いた。ルーメンが何か言いかけて、止まった。ヴェルト師が、遠くを見たまま、肩が少し揺れた。
「すみません」エリィは言った。
「謝るな」カイが言った。「もう慣れた」カエルが言った。「諦めた」アールが言った。初めて喋った。
「……」エリィは少し考えた。「アールさんも慣れましたか」「ずっと慣れてた」「ずっといたんですか」「いた」「どこに」「そのへん」
エリィはその答えをひとまず受け取った。
金属の音が、鳴っていた。踏まれていない金貨が、風に揺れて鳴っていた。山頂の風は静かで、でも確かにあった。金貨が、触れ合って、鳴っていた。一定ではなかった。風の気まぐれで、鳴ったり止まったりした。でも消えなかった。
エリィは荷物を持った。本が入っていた。板はもうなかった。二枚とも、使い切った。でも残念とも思わなかった。もったいないとも思わなかった。ここで使うものだったと、ただそれだけだった。
「帰れますか」エリィはそのものに聞いた。「帰れる」「道は」「来た道と同じじゃない」「違いますか」「帰り道は短い。行きの半分もない」「なぜですか」「来た時に通ったから」
エリィはその答えを頭の中に置いた。来た時に通ったから、短い。通ったことは、残る。「わかりました」エリィは言った。
一行は、山を下り始めた。
金貨の音が、後ろから聞こえていた。踏むたびに、足元で鳴った。遠ざかるにつれて、小さくなった。でも消えなかった。山頂に、金貨はあり続けるから。鳴り続けるから。
これからもここへ来る人がいる。金を求めて来る人が、きっと来る。
エリィは振り返らなかった。
腹が、また鳴った。「……」「わかった」とカイが言った。「次の宿で食わせる」「ありがとうございます」「礼はいい。早く降りろ」「はい」
エリィは前を向いた。道が、続いていた。
金属の音が、遠くなった。でも消えなかった。山の中で、静かに、確かに、鳴り続けていた。
何かを数えていた。あるいは、ただ、そこにいた。




