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夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


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第11話 夫の気遣い

 普段なら「勝手なことをしないで」と突っぱねるところだが、今の私にはこの険悪な空気をどうにかするだけの心の余裕がなかった。

(……お願い、します)

 私が弱々しく許可を出した瞬間、カチリと頭の奥でスイッチが切り替わった。


『うっひょー! 唐揚げじゃん! しかもポテトまである!』

 私の体は弾かれたようにテーブルへ向かい、買ってきたばかりの唐揚げを指で摘むと、躊躇ちゅうちょなく口に放り込んだ。

『んまーっ! 夫ちゃんマジ神! このジャンクな味が疲れた体に染み渡るわー!』


 突然のギャル全開の奇声に、不貞腐れていた健太郎さんが驚いて顔を上げた。

「えっ……そーぽよちゃん?」

『そーだよー! 夫ちゃん、マジで最高!』

 そーぽよは脂でテカった指を舐めながら、ソファに座る健太郎さんの懐に勢いよく飛び込んだ。


(ちょっと! 何をしているの、離れなさい!)

 脳内で私が絶叫するが、そーぽよは全く意に介さない。

「ちょ、そーぽよちゃん、服が油で……」

『そんなの気にしないの! ねえ夫ちゃん、ゆいぽんの代わりにアタシが言っとくわ』

 そーぽよは健太郎さんの首に腕を回し、至近距離で彼の目を見つめた。


『ゆいぽんさー、本当は夫ちゃんが手伝ってくれて、超嬉しかったんだよ!』

(やめて! 勝手なことを言わないで!)


『でもさ、あの子マジで不器用で完璧主義だから、自分の予定が狂うとどうしていいかわかんなくてテンパっちゃうの。それに今日は仕事でゴタゴタがあってさ、もーマジ限界って心境だったわけ。そんで、甘え方とか頼り方がわかんなくて、つい理論武装してキレちゃうぶきっちょさんなの!』


(ああっ、もう! 恥ずかしい! それ以上はやめてって!)

 私は脳内で顔を覆って身悶えした。私の本音を、こんなにも直球で、しかも自分の口から暴露されるなんて、拷問以外の何物でもない。


 健太郎さんは目を丸くし、それから少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた。

「……そうだったのか。結衣、本当は喜んでくれてたんだね。僕の方こそ、結衣のこだわりを理解せずに勝手なことをしてごめん」

『そーそー! 夫婦なんだから、お互い様っしょ!』


 そーぽよはテーブルからもう一つ唐揚げを摘み取ると、強引に健太郎さんの口に突っ込んだ。

 『ほら、夫ちゃんも食べて! 一緒に食べたらカロリーゼロだから!』

「んぐっ……」

 唐揚げを押し込まれた健太郎さんは、口をもぐもぐさせながら、やがて吹き出した。

「あはは! カロリーゼロって、どんな理屈だよ。でも……うん、美味しいな」


 彼が笑ってくれたことで、部屋に立ち込めていた険悪な空気が一瞬にして霧散していくのがわかった。

『っしょー! じゃあアタシはポテトいただきまーす!』

 ソニアは健太郎さんの膝の上で、行儀悪くファストフードを貪り食う。私は意識だけの金縛り状態の中で、ジャンクフードの暴力的な旨味と脂質が体内に取り込まれていくのを、ただ無力に感じていた。


 +++


 ピピピピピ。

 リビングにタイマーの音が響き渡る。一時間が経過した合図だ。

『あーあ、もう時間か。じゃあね夫ちゃん、あとはゆいぽんまかせたよ!』

 そんな無責任な捨て台詞を残して、ふっと頭の奥の重力が元に戻る。


「……っ」

 主導権を取り戻した私は、健太郎さんの膝の上に乗っているという現在の状況に気づき、慌てて飛び退いた。

 顔がカッと熱くなる。ソニアにすべてを代弁されてしまった恥ずかしさと、素直になれなかった自分への不甲斐なさで、私は胸の前で両手をきつく握り締めた。


「結衣」

 健太郎さんが、立ち上がって私を優しく見つめている。

「……その、唐揚げ、美味しかったです」

 私は顔を真っ赤にして俯きながら、震える声で紡いだ。

「買ってきてくれて、ありがとうございました。お掃除も……すごく助かりました。本当に、嬉しかったです」

 これまでの私なら、絶対に言えなかったであろう素直な感謝の言葉。それを口にできたのは、紛れもなくソニアが作ってくれたきっかけのおかげだった。


 健太郎さんはふっと表情を和らげ、私の頭を優しく撫でてくれた。

「うん。僕も、結衣のルーティンを崩しちゃってごめんね」

 彼は笑いながら、こう続けた。

「今度はちゃんとマニュアルを読んで、ルール通りに四十五度の角度で掃除機かけるよ」


「……ふふっ」

 その言葉に、私は思わず小さく吹き出してしまった。

「ふふ、じゃあ明日は僕が夕食当番ね。完璧な栄養バランスの温野菜を作るよ」

「期待しています。でも、味付けの分量は私が監視しますからね」


 二人で顔を見合わせて笑い合う。冷え込んだ空気が嘘のように、私たちの距離は少しだけ縮まっていた。

 テーブルの上に残された空のプラスチック容器を見つめながら、私は密かに心の中で、乱暴に空気を変えてくれた親友に感謝の念を送った。

(……ありがとう、ソニア)

〈べ、別にゆいぽんのためじゃないし! アタシが唐揚げ食べたかっただけだし!〉


 脳内でツンデレな反応を返すそーぽよの声に、私はもう一度だけ、小さく微笑んだ。

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