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暗殺

「申し訳ありません」

 結菜が、ワキーファ准将に謝罪した。深々と、地球の日本風に頭を下げている。

「いや。君とわがショードファ人の兵と、2人だけで行かせた自分も迂闊だった。相手が丸腰の民間人1人なら、あっさり始末できると考えたのだ。ソースケはゲーマーとして優秀だそうだが、どこまで実戦で役に立つかわからんしな。気にせんでいい。君も初の戦闘で疲れたろう。ゆっくり休んで英気を養ってくれたまえ」

 気落ちした結菜が普段の彼女とはうって変わったスローな動きで、まるで足を引きずるようにその場を去った後、瀬戸口が近づいてきた。

「おれに刺客をやらせてください」

 元自衛官が頼みこむ。

「あの子も筋はいいけど、やはり人1人殺すのは、荷が重すぎます。ましてや以前は、一色蒼介と同じ職場だったそうですし。そこまで親しくなかったと聞きましたが、一緒に仕事してれば情もわきます」

「それでもよいが、是非刺客になってほしい男がいるのだ」

 ワキーファが視線を変えた。その先には、穂刈がいる。

「君は以前ソースケと、同じ職場にいたそうだな。彼に巧みに近づいて、殺害するのだ。君ならソースケも安心して会うだろうしな」

 穂刈の表情からは、何も読みとれない。以前ワキーファは、穂刈の脳内をスキャンしたが、何も出てこなかった。

 出てきたのは、彼自身が語った通りチャマンカ人の統治に疑問を抱いた彼が、対立するショードファ人に接触してきたという記憶である。

 が、チャマンカ人なら疑似の記憶を植えつける等朝飯前で、鵜呑みにするつもりはなかった。穂刈を試す意味でも、よい機会である。


                   

 ホロホンが鳴った。携帯型のテレビ電話だ。元々はチャマンカ製だ。今はチャマンカだけでなく、地球のメーカーも各種製造・販売している。

 明治維新で西洋の文明がどっと入ってきた頃の日本も、こんなふうだったのかもしれないと、蒼介は考えたりする。彼が電話に出ると久々に見る顔がホログラムで浮かびあがる。穂刈だった。

「しばらくだな」

 どこか、寂しげに穂刈が話した。彼には、ふさわしくない表情だ。

「元気そうですね」

 蒼介が答えた。自分でも、語調が硬いのがわかる。まるでフリーザーから出したばかりのアイス・キューブだ。

「お前はきっとおれなんか、軽蔑してるだろうな。ついカッとなってチャマンカ野郎をなぐったけど、今考えればやりすぎだった。チャマンカ人が来たおかげで、色々地球がよくなったのも確かだしな」

「用件は、何ですか?」

 恐る恐る蒼介が聞く。

「たまには1杯やろうじゃないか。おれから、奢るよ。お前には、迷惑かけた。本当は他のみんなにも謝りたいが、例のテロで死んじまったしな」

「ぼくが生き残ったの、何で知ってるんですか」

「実はお前が都内で歩いてるのを偶然見かけたんだ。声をかけようとしたけど、ちょっと離れてたんで」

「生きてたの、おれだけじゃないですよ。小春ちゃんも、無事でした」

「そうなんだ」

 穂刈の声が、嬉しそうにはずんだ。「だったら彼女も連れてきてよ。久々に飲もうや。アルコールが彼女ダメならカフェとかでもいいけど」

 少し迷ったが蒼介は、会う事にした。元々悪感情はない。気さくな男だったので、むしろ好意を抱いていた。穂刈はむしろ最初の頃は、チャマンカ人に対して肯定的だったのだ。

 自衛官を辞めた後なかなか良い職場が見つからず、チャマンカが来た時は無職だったが『新天地』で働けるようになり、条件も良かったので喜んでいたのである。

 それがいつしか唐突にチャマンカの悪口を吐くようになり、あげくの果てに『新天地』に来ていたソワール大佐をなぐり、仕事を辞めてしまったのだ。

 たまたま蒼介はその時その場に居合わせたがソワールの態度も不自然で、普段の彼なら口にしないような罵詈雑言を穂刈に吐いた。穂刈も悪いが、あんな言葉を浴びせられては、殴りたくなるのも無理はない。

 穂刈との通話の後で、蒼介は小春にホロホンで電話する。穂刈と会う話をすると、彼女の立体映像は露骨に嫌な顔をした。

「あたし、チャマンカ批判する人許さない」

「わかったよ。参加を強制するつもりはないから」

 蒼介は3日後に新宿の居酒屋で、穂刈と会った。店内は客で混雑している。蒼介と穂刈はビールと料理を頼んだ。

「今はどこで働いてるの?」

「都内の工場です。八王子にあるんですけど、マイクロ・ワープで自分の部屋から、工場からちょっと離れた所にあるワープ・ステーションで通勤してるので、楽ですね。チャマンカ人が来たおかげで、通勤は楽になりましたよ。鉄道会社やバス、タクシー、自動車会社はだいぶ影響受けましたけど。でも昔と違って失業手当がたくさん出るし、失業者にはぼくが行ってる野菜工場とか、再エネの発電所とか、別の仕事がもらえますしね」

 いつのまにか、2時間が経過しようとしていた。

「そういえば田舎の新潟から送ってきた日本酒があるんだ。いっぱい送られてきたんで、良かったら持ってけよ」

 穂刈が自分のバッグから一升瓶を取りだした。

「本当ですか。ありがとうございます」

 蒼介は、酒に目がない。持参したバッグに何とか入ったので、それに入れ、穂刈と別れた。

付近にマイクロ・ワープ・ステーションがないので電車で帰る事にした。

鉄道会社に影響があるのでマイクロ・ワープ・ステーションの設置場所は限られており、通勤以外での利用は電車賃よりも高額だった。

 蒼介は途中トイレに行きたくなり、駅に向かう途中で公園を見つけたので、そこの公衆トイレに向かう。

洗面所のそばにバッグを置き、個室に入った。用をたした後個室から出ると、洗面所に置いたバッグがない。

 目の前が真っ暗になる。しばらくそこから動けなかったが、気を取り直し、あわててトイレの外に出ると、蒼介のバッグを持って走り去る20代ぐらいの男の姿があった。

 常に携帯してるショック・ガンも、バッグの中だ。あれば、あいつを撃てたのに。そう考えるといらだった。走って後を追ったのだが、追いつきそうにない。

 道路に車が待機しており、運転席に、別の男の姿があった。盗っ人が車の助手席に乗りこむと、車はすぐに発車する。蒼介はポケットに入れてたホロホンでそれを撮影し、やはりホロホンで警察に電話した。

 車のナンバーも車種も色も画像に映ったので、それを伝える。犯人は、早くも翌日発見される。バッグを盗んだ男の住むアパートで、盗んだ本人と車の運転手が見つかったのだ。

 ただし2人とも遺体でだった。盗まれた日本酒の一升瓶はほとんど飲まれた後である。

 検視の結果、2人とも体内から地球にはない、ショードファ人が暗殺によく使う無味無臭の毒物が発見され、死因はその毒によるものと断定された。

同じ毒が、一升瓶に残った酒の中からも検出されたのだ。




 

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