再会
蒼介は夏映の紹介で、都内にある野菜工場で働く事になった。通勤はマンションにある転送機で行われたのだ。そこで彼は、思わぬ人物に会った。諸戸小春だ。
「諸戸さん、生きてたんだ」
蒼介に対し、彼女はうなずいた。表情に乏しい顔が、さすがに今日は珍しく驚いていた。話を聞くと、偶然彼女も『新天地』が破壊された時、有給休暇をとっていたのだ。
やってる業務は基本ここも『新天地』も同じなため、蒼介も小春も次第に職場に慣れていった。夏映からあの後1回だけ連絡があった。
チャマンカ艦隊は血眼になってショードファ人の拠点を探してるそうだが、見つからないとの話である。銀河はそれだけ広いのだから、無理はない。
そんなある日。工場での残業が終わり、1人で帰宅中の蒼介の眼前に、突如全身真っ白なショードファ人の姿が実体化した。本物を見たのは初めてだがテレビのニュース番組で、その容姿は何度も観ていた。
ショードファ人は手にレイガンを持っていた。あっと思う間もなく引き金が引かれ、おそらくは見えない射線が飛んできたのだろう。が、それは、蒼介の眼前を遮るために発生したシールドが防いだ。
元々こんなケースもあろうかと、夏映に渡されたベルトにシールド発生装置が組みこんである。次の瞬間、今度は夏映がすぐそばに実体化した。彼女はプロテクト・スーツを着ており、手にプラズマ・ソードを持っていた。
腰にさした銃を抜かないのは、撃っても相手のシールドで、防がれると考えてだろう。プラズマ・ソードを持って普通に接近すれば、シールドを突き抜けるのが可能であった。
ショードファ人はレイガンを夏映に向けて撃ったがやはりシールドで防がれたので、彼もしくは彼女の方もプラズマ・ソードを腰から抜き、夏映との間で激しい斬りあいが開始される。
蒼介は恐る恐る、夏映に渡されていた銃をバッグの中から取りだした。銃は普通の物ではない。シールド・クラッシャー銃だ。
引き金を引くと一発目で相手のシールドを無力化し、続けて撃たれた弾丸が敵の体内にとどまって、原子レベルまで分解してしまう。
大変高価な物らしく、チャマンカの一般兵士や警官にも、支給されてないと聞いていた。手が、震える。無理もない。万が一を想定して渡されていたが、ちゃんとした訓練もしてないのだ。
夏映を支援したいのだが、彼女同様敵のショードファ人が頻繁に動いており、狙いをつけるのが難しい。その時である。またもや何かが蒼介の眼前で実体化した。久々に会う結菜である。
彼女の手には銃が握られ、その銃口は蒼介の胸を狙っていた。
「殺す気か!?」
蒼介は、怒号を浴びせた。
「おれを、撃てるのか!?」
「あんたは、チャマンカに協力した」
「ショードファ人が、何をした。あいつらはおれの職場と同僚達を根こそぎ奪っていきやがった」
声が、震えた。知らず知らず手にした銃の銃口を、相手の胸に向けている。引き金を引いて彼女に当たれば、結菜は地上から存在しなくなるのである。それを考えると、不思議な気がした。
次の瞬間結菜は銃をホルスターに戻すと、今度はプラズマ・ソードを抜いた。蒼介もバッグの中からプラズマ・ソードのグリップを取りだす。
グリップのボタンを押すと、プラズマの青い刃が伸びた。大した訓練も受けてないので、勝てる自信が全くない。が、結菜は剣を構えると、蒼介に向かって斬りかかった。
彼もプラズマ・ソードを構える。互いの剣がぶつかりあった。少なくとも結菜は、それほどの剣の使い手とは思えなかった。恐らく先に現れたショードファ人の方が使い手だったのだろう。
結菜の性格を考えると、蒼介を暗殺するという話が出て、自分にもやらせてくれと、ショードファ人の指揮官に頼みこんだに違いない。
結菜の宝石のような目が、蒼介を睨んでいる。どうしても、自分が彼女を殺せるとは思えない。
彼は相手がショードファ人なら、全員八つ裂きにしてやりたいほど憎んでいたが、同じ地球の日本人で喧嘩した事すらない相手を殺せるとは思えなかった。むしろ自分が殺された方が気楽な気もする。
そんな心情が影響したのか、蒼介は、自分の構えたプラズマ・ソードを、相手の繰り出したプラズマ・ソードに叩き落とされてしまった。ためらわずに結菜は自分の剣を、こっちに向かって振りおろす。
が、すぐそばに、チャマンカのポリス・ロボットに似たグレーのロボットが突如実体化し結菜の剣を、自分の手にしたプラズマ・ソードでくいとめた。
「助けに来ました」
ロボットの顔面にあるスピーカーからアナウンサーの話すような流暢な日本語が流れでた。蒼介は、地面に落ちた自分のプラズマ・ソードを拾い、構え直す。
結菜は不利を悟ったのか、自分のベルトのボタンを押し、次の瞬間、消失した。つまりは撤退したのである。横目で夏映の方を見る。彼女はショードファ人と互角に戦っていた。
やはり相手のショードファ人が数での不利を自覚したのか、結菜同様消失する。
「助かったよ。ありがとう」
「護衛ロボットとして当然の義務です」
グレーのロボットが、回答した。
「遅れて、ごめん」
横から夏映が、口をはさんだ。
「一色さんの件がばれたのも、命まで狙われるはめになったのも、想定外だった。今後は24時間護衛をつける」
「このロボットが、常時そばにいるようになるのかな?」
「そうじゃないわ」
夏映がブレスレットをよこした。
「今後はそれをはめていて。あなたに危害を加えるような敵が登場したら、自動的に救難信号が届いて、マイクロ・ワープで護衛ロボットを送りこむから」
言われるままに、蒼介は腕輪を左腕にはめた。少しゆるかったが、はめると自動的に縮んで、ちょうどよい大きさになる。視線に気づいてそちらを見ると、諸戸小春の姿があった。
いつもどこか怯えたような顔をしていたが、今はそれ以上に恐怖を抱いているようだ。さっきまでの修羅場を見てれば当然だが。
「大丈夫かい?」
蒼介はかけよって声をかけた。近くに見えなかったから無事なはずだが、精神的なショックが大きいのかもしれない。
小春の顔は泣き顔で歪んでおり、近寄ると思わぬ事に、向こうから抱きついてきた。
「一色さん、死ぬかと思った」
小春は蒼介の胸に顔をうずめながら、嗚咽混じりの声を放った。
「大丈夫だよ。見ての通り、ぼくには強い護衛がいるからね」
しばらくすると、ようやく気持ちが落ち着いたらしく、小春は1人で自宅へ帰った。
その間、何度もこちらの方を見る。
「色男」
ぼそりと、夏映がつぶやいた。
「よせよ。歳が離れすぎてる」
「愛に歳は、関係ない」
棒読みの口調で夏映がのたまう。
「君だって、オジサンとつきあうのは嫌だろう」
「若い子が好きなくせに」
夏映が勝手に決めつけた。
「あたしは、お金持ってるなら、オジサンでもいい」
「なら、おれは無理だ」
蒼介は笑って答える。




