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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第四話 魔法少女の冒険!
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第四話15 『名古屋市一周旅行⑮』

「私がどこから聞いたか、ってことは別にどうだって良いと思いますけれど。だって、それを話したところで別に誰かがメリットを受ける訳でもないですし。ただ、私としてもどれぐらい世間と乖離しているかということについて、少し覚えておきたいことでもありますから」

「つまり、ただの暇つぶしであると?」


 暇つぶしで知識を得ることは、特段珍しいことでもないのだろうけれど、しかしながらそれを考えるというのは意外と厄介で、頭が良くなければ調べようともしないだろうし、調べたところでその知識を蓄えることも出来ない。スマートフォンの普及によってスマートフォンを使った人間の頭脳は衰えていく――なんて話も出たことがあるけれど、しかしそれが正しいかと言われると甚だ疑問である。結局のところ、頭脳が衰えていくと判断出来るのは何でも自分で考えようとしないで全てスマートフォン頼りにするところだと思う。……例えば、書けば良いのに漢字を、文章を、英文を、全てスマートフォンで書くようになってしまって、手書きを怠ってしまったら書き方を忘れてしまうのは自然の摂理だと思う。憂鬱とか囂しいとか喧喧囂囂とかペンで書けるかと言われると出来る人間は年々減っているだろう。


「資格を取ることは大事ですからねぇ。特に漢字検定は年々その重要性が改めて注目されたようですよ。……最近は家で過ごす人も増えてきているそうですし、そういう新しい仕組みが生まれるのも時代の流れ、だと思いませんか?」


 そうだろうか――現に僕らは今、名古屋市一周旅行というクレイジーな企画を行っている。一日しか経過していないはずだけれど、何だか一年ぐらい旅しているような気分だ。……流石にそれは言い過ぎか? というか、いつになったら僕は家に帰ることが出来るのだろうか……。


「流石に一年も旅をしている、というのは言い過ぎだと思うがね。だって、正味数時間ですよ? そんな時間もかかっているように見えないのに、どうして一年もかかっている風に見えるのか……」

「ウラシマ効果、って奴ですかね?」


 相対性理論により、時間の流れはどんな状態でも不変ではないということは証明されている。例えばスカイツリーの展望台付近に設置されている時計と、地上に設置されている時計とでは、時間の流れが僅かに違っていた。とはいえ、展望台は地上四百五十メートルで、その遅延は僅か十億分の四秒にしか満たない。アインシュタインの一般相対性理論では、重力をより多く受けるならば、時間の進みはゆっくりとなる――その仮説をついに立証することが出来た、という訳だ。

 相対性理論には、一般相対性理論と特殊相対性理論があり、良くSFの世界で語られるのは後者だ。一般相対性理論が重力に影響されるなら、特殊相対性理論は速度に影響される。相対速度が速ければ速いほど時間の進みは少なくなっていき、それが光速――時速三万キロメートルになればゼロとなる、というものだ。理論上、光速で移動すれば、仮に地上で一年経過していても、こちらでは一瞬――なんてことも有り得るのだ。

 途方もないことではあるけれど、しかしながらこれは立証されている。航空機に乗せられている時計は、僅かに時間が遅れているのだという。

 しかし、この理論が実証されるとなると、タイムマシンは――正確には過去と未来を往来出来るタイムマシンは、実現しないということになるのだろうな。どれだけ頑張っても、過去へ行くことは出来ないのだろうから。


「……タイムマシンは、切ないの」

「どうした、いきなり。……何かタイムマシンに悪い思い出でもあるのか?」


 いきなりクレアがそんなことを言い出したので、僕は深掘りしてみたくなった。別に間違ってはいないと思うし、それについては色々と話をまとめておくとして。


「タイムマシンというのは、やっぱり誰しも考えるものでね。……魔法使いである私達だって、考えるものなんだよ。どうやって時間を超越することが出来るのか? ということをね」


 答えたのはクララさんだった。クララさんも久しぶりのコメントだと思いますけれど、コメントはそれだけで良いですか? どうせまた数ヶ月更新が空くと思いますよ。


「そうなったらその時ですねえ。……まあ、それはそれとして、それでもやっぱりタイムマシンの理論を導き出すことは出来ない。我々だって優秀だとしても、科学技術を知り尽くしてる訳ではないからね」

「……仮に生み出していたら、それはそれで末恐ろしいことになっていただろうけれど」


 きっと冗談抜きで世界の科学技術が二段階ぐらい飛び級で進化していそうだ。


「世界の技術力はそう簡単には進化しませんよ。……魔法に頼っている以上は、難しいでしょうねえ」


 最上さんの言うことも尤もだった。とはいえ僕は今まで魔法に頼り切りであることはあまり考えていなかった訳だけれど……。魔法使いもそうなると大変だよな。便利屋扱いで色んな場所に駆り出される訳だろ。それなりに特例を設けて貰わないと割に合わない気がするけれど。


「そういうことを考えてくれる人間は少ないんですよ、覚えておいた方が良いですね。……大半の人間はこうも思っているはずです。魔法使いは便利な道具だ。我々人類の成長のためには、彼らの犠牲も厭わない――と」

『次は終点、栄です。どなた様もお忘れ物のないようにご注意下さい――』


 最上さんのちょっとホラーな結論を聞いたところで、タイムアップとなった。バスはいつの間にか高速道路を降りて終点のバスターミナルへと到着しようとしていた。……にしても、本当に栄まで一本のバスで来ることが出来るとは。あの辺りに家がある人達は、鉄道を使わずとも名古屋市まで直通出来るんだろ? 羨ましいばかりだね。


「あそこも名古屋市といえば名古屋市なのですが……。まぁ、名古屋市は広いですからね、そういう感想を抱くのも致し方ありませんか」


 最上さんの言葉とは裏腹に、僕達は疲れていた。そりゃあそうだ――今日はずっとバスに乗りっぱなしだ。旅行なら観光の一つや二つもするんだろうけれど、残念なことにそもそもここは僕達が住んでいる名古屋市――観光なんて勝手知ったるところばかりで、知らない物の方が少なかったりする訳だ。


「まあ、面白かったですよ。またいつか遠出したいですけれどね。そうだな……、例えば大阪とか」

「良いですねえ。大阪ならひのとりを使って行きたいです」


 どうしてそう普通に一直線で向かおうと思わないんです?

 最上さんにそうツッコミしようとしたけれど――もう今日は疲れた。僕はツッコミを放棄した。別に僕がツッコミの専売特許を持っている訳でもないし、僕が突っ込まなければ世界が崩壊する訳でもないのだ。そんな世界系を描いている訳でもないし。

 という訳で、長い長い名古屋市一周旅行は幕を下ろすのであった。

 ……クレアの感想は、また後で聞くことにしよう。

 今は、お互い疲れている訳だし。

 


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