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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
十四章、カサーン撃滅戦
99/189

14-(9) 戦闘の余韻

 陸奥改のブリッジの指揮区画――。

 

「主砲四基十二門、一斉謝!」

 という鹿島かしまの可愛らしい声が響いていた。

 

 台詞こそ勇ましいが、鹿島は緊張と顔は真っ赤。声はうわずっている。

 

 秘書官の鹿島容子かしまようこは、トレードマークのホワイトブロンドのツインテールもカチコチだ。

 

 なぜって。と鹿島は思う。

 この主砲発射の宣言は、敵殲滅の決定打。この戦いの終わりを意味しますから。つまり私、鹿島は超大任をまかされちゃったわけです。緊張もしちゃいますよ。


 トップガン進介に率いられた隼人隊は、見事に敵をメテオシャワーゾーンへ誘い込み、陸奥改以下11隻が待ち受ける宙域まで誘引。反転して戦闘を展開したのちに、敵を最終的なキルゾーンへと誘い込んでいた。


「そしてなんとです。キルゾーンへ対空砲火として斉射されるのは機銃ではなく、41センチ超重力砲! 戦艦の主砲は機関銃みたいにバババアって連射できません。だから一発勝負。外しちゃったから意味ありません」


 このきわめて難しいタイミングを読むのは天儀。

 鹿島は、天儀の横に立ち、いまかいまかとドキドキだった。

 

 そしてついに、

 ――ポンッ。

 と鹿島の肩に降りた天儀の手。


 発射のときだ! という意味だ。

 そして鹿島の肩に降りてきた天儀の手には心なしかたさがある。

 

 ――あ、天儀司令も緊張してるんだ。

 と鹿島は思い少し安心。

 鹿島は肩で天儀の手の感触を覚えつつ、跳ねるようにして真っ直ぐ右手をあげ主砲発射を宣言。


 いま、敵の北斗隊は41センチ超重力砲の閃光に呑まれ、12本のエネルギーの本流が、容赦なくダーティーマーメイドの北斗隊を襲った。


「やった――?」

 と鹿島は戦況が表示されるモニターをのぞき込むが疑問顔。文字と数字ばかりで意味がわからない。

 

 むむ。天儀司令はこの数字と文字ばかりの戦況マップを見て、タイミングを主砲発射の読み取ったんですよね。なら、どこかに情報が……。と鹿島が思って、画面に見入るもやはりわからない。


「どうだろうな。まだ戦いたいようなら我が弟に殄滅てんめつを命じるが」


「やっぱり。主砲での対空砲火なんて小さい艦載機には効力薄いのでは?」


「そのとおりですよ鹿島さん。天儀司令ったらたんなる撃ちたがりですからね」

 と鹿島の疑問に答えたのは天儀ではなく、作戦参与の天童愛てんどうあいだ。


「天儀司令あの規模の敵に、エネルギー拡散型の対空弾頭なんて高価な砲弾つかう意味あったんです?」


「あるだろ。戦艦での対空砲火では連射無理だ。それにお高い弾頭は、空間制圧には最も効果的な兵器。問題ない」


 当然だという天儀に、天童愛があきれて首を振った。

 

 そう。この最終的に主砲斉射にて戦いを終わらせるという案は司令官天儀の発案だった。

 一応、天童愛は作戦会議では疑問を提示しておいた。

 ――敵の規模が中途半端で、主砲を対空砲火につかうには微妙ですからね。

 ということだ。

 

 陸奥改は対空兵装も充実している。そして麾下は10隻。ダーティーマーメイドの北斗隊の規模なら11隻の対空機銃だけで十分だ。特殊弾頭まで投入しても過剰火力。軍費の無駄づかいだ。


 そこに、

「敵艦載機隊、離脱を開始! 続々とメテオシャワーゾーンへ侵入を開始しています!」

 という報告。

 

「あ、逃げた!」

 鹿島が叫ぶと天童愛も、

「勝ちましたわね」

 ほっと一息。自身の持ち場へ戻っていく。

 

 ブリッジにも、勝った。とう空気がただよったが、

「弾着観測の報告!」

 天儀からは厳しい一言。あわてて観測員が報告に入った。


「弾頭は予定座標で炸裂。先行していた20機規模に直撃し、半数以上が被弾したと思われます。メテオシャワーゾーンに引きあげた敵機は、1、2、3……、総勢36機です」

 

 報告に天儀からは、

「なるほど……」

 とだけ一言。

 

 これが鹿島からすればもどかしい。だって、どう考えたって追撃すべきですよ。ということだかだ。鹿島はしんぼうたまらない。


「追撃はお命じになります?」


「まさか」

 と天儀が笑った。小馬鹿にしたような笑いだが、鹿島はそこは気にせず、

 ――なんで?

 という疑問顔を天儀へ向けた。

 

「蛇に足を描き加えるようなものだな」


「むむ。ヘビさんに足?」


「つまりな。メテオシャワーゾーン内での飛行はデブリの回避だけで精一杯だ。戦闘を仕掛けるなど自殺行為。この戦闘での特戦隊側の被害は、綾坂のオイ式が1機大破しただけ。たった1機だぞ。これはパーフェクトゲームといっていい。そこにメテオシャワーゾーン内への追撃など仕掛ければどうなる?」


「えーっと。成果は乏しく、対して隼人隊の損害の危険は大きい?」


「そうだな。隼人隊を追撃のためにメテオシャワーゾーンなどに入れても、ほぼ成果なしで損害のほうが大きいだけだ」


「なるほど。勝ちにケチが付きますね。それで蛇足」

 

 天儀が、そうだ。とうなづいてから言葉を継ぐ。


「それに敵は勝手に減るさ」


「むむ、勝手に減る?」

 と鹿島にはわからない。


「そうさ。敵は20時間以上飛んでのこの攻撃だ。いまの彼らは疲労のピークにあるだろう。しかも我らの追撃を遮断するためにメテオシャワーゾーンに入ったのだろうが、あんな超危険地帯の飛行など戦争でしかありえん。敗北して疲れはてた末に、あんなところに逃げ込めばどうなるか」


「……どうなっちゃうんですかね?」


「半数でも母艦に戻れるかどうかだな」

 

 天儀が哀憐あいれんの感情をただよわせていった。


 鹿島は、星系軍では捕虜や降伏には速やかに人道的措置をなんていいますけど、

 ――殺しにきた敵をあわれむなんて。

 と思った。


 この戦いで天儀司令が弟と親しみを込めて呼ぶトップガンさんも、作戦づくりを命じた綾坂さんも殺されかけてますよ? 天儀司令はどういうおつもりなんでしょうか。


 けれど鹿島は数秒おいてから、

 ――敗者をむごくにあつかわない。

 これも名将の条件かも? と思いなおし取りあえず黙っておいた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そのころ陸奥改の医務室では春日綾坂かすがあやさかがベッドに横たわっていた。

 ベッドの横には兄の春日丞助かすがじょうすけ

 丞助はいま意識のない綾坂の手を握ってやっている。

 

「むちゃしやがって……」


「……綾坂、いってました。兄貴を死んじゃうって必死だったって」

 といったのはマリア・綾瀬あやせ・アルテュセール。アヤセは丞助のうしろに立っていた綾坂を見守っていた。


「綾坂の機体が大破して収容されたって聞いて、第一格納庫へ駆けつけた俺は驚いたよ。コックピットがひしゃげてた。あんなことってあるんだな」

 

 綾坂のオイ式は一見すれば少しの弾痕だんこん左上腕部ひだりじょうわんぶ欠損けっそんしているだけに見えたが、装甲の合間から的確に射撃をうけたせいで、いざ綾坂をコックピットからだそうとしたら、さあ大変。

 

 装甲化されたコックピットが変形して機体から取りだせないのはもちろん。いびつにゆがんで搭乗口も救出孔きゅうしゅつこうも開かない。

 

 丞助は整備班が綾坂救出に四苦八苦するさまを見て、

 ――ダーティーマーメイドは妹を執拗に殺しにかかっていた。

 と知ってゾッとした。

 

 弾痕はほとんどコックピットに集中しているのだ。それはきわめて凶暴な殺意のあとといえる。

 

 ――もう五体満足ではない。

 と丞助はあきらめた。

 

 そしていまベッドの上で安らかな顔の綾坂。つい先程まで死地にいたとはとても思えない。

 

 消沈する丞助とアヤセ。病室内は暗い空気。そこへ、ドタドタという音ともに、

「綾坂は!」

 とう声。

 

 2人は、心配を声にしたら、こんな感じなのかと驚いて病室の入口を見た。

 入り口には肩で息する黒耀こくようるい。

 心配で駆けつけたというのがよくわかる。


「無事なの? 平気でしょ? 死なないわよね? ねえ! ねえったら!」

 

 黒耀が必死になるも、丞助とアヤセは応じてこない。

 黒耀は床が抜け落ちた感覚になってよろめいた。

 が、そこは気丈な黒耀だ。タタッ! とベッドに駆け寄り。


「死ぬなんて許さないわよ! カサーン作戦前じゃない! いっしょに作戦成功させようって約束したじゃない!」

 

 黒耀が涙ならがらに綾坂にすがりつき、顔を布団に押しつけ涙を流さんばかりだ。


「綾坂ったら!!」

 という絶叫。けれど、そこに、

「スースー、スー」

 という寝息。そう、このシリアスな空気には似つかわしくない寝息。

 

 黒耀が違和感を思いムクリと顔をあげた。

 寝息は綾坂からだ。すぐにわかった。

 

 ジッと綾坂の顔を凝視。傷一つなくととのった美人顔。

 ――生きているのはわかったが、どうも違うわね。いえ、冷静になって考えてみれば。

 と黒耀は思う。

 

 黒耀の目には真っ白で、よく病院で見るようなベッド。しかもパイプ製の結構安物の。


「瀕死で集中治療が必要な人間がパイプ製のベッドに寝てるかしら……」

 という特大の疑念が黒耀を冷静にさせた。

 

 黒耀がギロっと丞助とアヤセを見た。とっさに視線をそらす2人。

 これで黒耀は大体さっした。

 

 そこに、

「黒耀、重たい。あと勝手に殺さないで」

 とう声。綾坂の顔は赤い。綾坂からすれば、喧嘩友達の黒耀にこうも心配されてはとまどうというものだ。とたんに黒耀に険悪な色。


「死ねばよかったのに」


「あー! それ酷い! 冗談でも負傷兵にいっちゃダメやつなんだからね!」


 とたんに室内には爆笑。

 アヤセが笑いを噛み殺しながらいう。

 

「黒耀、安心して綾坂の診断は、全身打撲ってやつですね。つまり軽傷で重大な外傷なし。ピンピンしてます。10分前までオレンジゼリー食べてご満悦でしたから」


「そう。ここに運び込まれたときは体が痛い痛いってわめきまくった割りにな。この場合の全身打撲って無傷って意味だろ?」

 

 丞助がそういうと病室にはまた笑い。


「俺は綾坂をCT取ってAI診断にかけたあとの軍医の顔が忘れないよ」


「……うーむ。これは無傷だね。でも手当がでるように一応診断名をつけとくよ。っていってましたね」

 アヤセが軍医の真似をしていった。


「はぁ。なんなのそれは」

 

 黒耀がヘナヘナといった。なんやかんやいっても黒耀は綾坂が心配だったのだ。


「ま、俺も残りの人生を綾坂の車椅子を押してすごすぐらいは覚悟してたけどな」


「アヤセ的には、いまも散々こきつかわれているので、そうなっても現状と大差なしと思いますけど」

 

 あきれる3人に対して、とうの綾坂ときたら、

「えーでも。負傷兵よ。負傷兵。優しくしてね兄貴」

 と甘え顔だ。

 

 病室にはまた笑い。

 

 そんな、ほがらかな空気のなかを、

「ああ、名誉の負傷だ。たとえ軽傷でもな」

 という厳しい声が走った。

 

 驚いて病室の入口を見る丞助たち。

 そこに立つのはパイロットスーツの好男児。トップガン林氷進介りんぴょうしんすけだった。

 

 場はとたんに緊張。

 丞助を始め、アヤセ、黒耀、そして綾坂にもトップガンの進介が見舞いにきたというのはわかる。けれど特戦隊の戦術機隊隊長の見舞いだ。相手は戦隊の高官で、対して丞助たちは下っ端だ。身構えないはずがない。

 

 進介は脇目も振らずまずは丞助へ近づき、

「私のつたない指揮で、あなたの妹さんを必要ない死地にさらしたことを謝罪する」

 といってサッと頭をさげた。

 

 特戦隊で五指に入ろう偉い男から、しかも戦争の英油から頭を下げられ、どうすればいいのかわからない丞助。


「いえ、そんな……」

 と戸惑った。

 

 頭をあげた進介は続けて、

「そして、あやさかぁ! バカ野郎!」

 と一喝。けれど綾坂は悪びれた態度で頭をかきかき。


「あ、へへへ。どーも」


「どうもじゃない! どうするつもりだった。死んでたぞ!」


「えっとあれです。愛の力でスーパーバリアが張られて無敵なと……」

 

 綾坂はヤケクソだ。隊長の進介は軍務に関しては度が過ぎて真面目だ。綾坂は、

 ――わたしって命令違反して、飛び出したわけで……。

 と思えば、

 ――ビンタの一発ぐらいしかたないな。

 と苦笑い。

 

 が、状況は綾坂の予想に反した。


「だが、よくやった。ちゅうちょせず、クロスファイアに飛び込んだお前に神影を見た。お前が行かなければ、ダーティーマーメイドは確実に陸奥改へのアタックを成功させていたろう」

 

 綾坂は想定外に褒めちぎられ、どうしていいのかわからず半笑い。

 

 そんな妹に変わって丞助が、

「お言葉ありがとうございます。ですが隊長殿。それは褒めすぎでは……こいつ行き当たりばったりですよ」

 妹が調子に乗るんでそれぐらいに。というように丞助がいった。


 けれど進介は、いや、と丞助の言葉を制し、

「仮にあの状況で対艦攻撃を決められていれば、特戦隊の沽券こけんにかかわる。綾坂の一挙は我々の面目をたもった。よくやった」

 熱くいって、綾坂の手を握ってから病室をでていった。

 

 綾坂は手を熱く握られ驚くだけ。

 丞助たちも、ただあっけにとられてトップガン進介を見送った。


 そう。特戦隊はダーティーマーメイドに対して結果こそ完封だが、状況的には1機に対して、60機プラス11隻という構図だったのだ。これで、たった1機に対艦攻撃を決められれば、失態どころの話ではない。

 

 進介と、そして天儀にとって、あの綾坂の無謀な突貫は特戦隊の面目をたもった。特戦隊は勅命軍。勅命軍とは帝の軍をいう。つまり、綾坂の思い切りは皇帝の面目をたもったといえる。

 

 皇軍とも呼ばれる時代から軍歴をもつ進介は生粋のグランダ軍人。この事実は大きかった。

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