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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
十四章、カサーン撃滅戦
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14-(7) トリプルエスの封殺

 ダーティーマーメイドが殺意が迫るなか、春日綾坂かすがあやさかはコックピット内で1秒を数時間にも感じるような状態に置かれていた。

 死を前にして意識が先鋭化し、感覚が鋭敏になったのだ。


考え(プラン)なんてなかった――」

 

 綾坂は、適性Aの才能をぶつければなとかしのげる。とすら思っていたふしがある。


 そう、ダーティーマーメイドが反転してきても、

 ――ま、なんとかなるしょ。

 ということで、綾坂はその先を考えるのは止めていた。


「最愛の兄貴がいる陸奥改への攻撃の阻止」

 最優先事項はこれだ。

 ダーティーマーメイドが反転してきたら、対処はそのときに考えればいい。


「わたし単機戦は得意だし。トップガン進介相手にもいい線いくし。ダーティーマーメイド相手にもわりかし通用するっしょ」


 などと無難に単機戦をこなせばいいと考えていた。だが、相手は適性トリプルエスの神の寵児ちょうじ。それではノープランに近い。いや事実、綾坂はダーティーマーメイドの対艦攻撃の阻止に必死で、実際にダーティーマーメイドが反転してきたときの対処など考えてもいなかったに近い。


 そして綾坂をつつむコックピット内にはけたたましい警告音。

 バランスを崩し、流されるだけの機体。

 極度の緊張と、のしかかるような疲労感。

 

 そこへ、

 ――ズドン!

 という強烈で重い衝撃。

 

 ――上から!?

 と綾坂が驚くなか、コックピット内は暗転。

 

 綾坂に苦悶の表情。

 機体が急速に動いたことによる凄まじいGで体が押しつけられたのだ。

 

 綾坂は衝撃で失神寸前だが、なんとか意識を保ちつつ、

 ――あぁ、これ死んだ。

 と思ったが、どうも違う。

 

 綾坂は朦朧もうろうとするなか状況を探った。

 

 被弾による爆散になってない。焼け焦げる臭いもないから火災もない。なんか生きてる。装甲化されたコックピットのおかげで助かった?

 

 恐らくそうだ。だが、どうも違う。とも綾坂は思う。


 迫ってくるダーティーマーメイド機から感じられたのは異常な殺意。あの気迫からして殺すまで執拗しつように攻撃をしてくるだろうという確証があった。

 

 そこまで考えたが、考えることで残っていた元気もつきたのか、意識が吹き飛びそうなほどの疲労感が襲ってくる。

 

 真っ暗なコックピット内に赤い照明が点灯。

 コックピット内は薄暗いが、これで、

 ――予備電源が起動した。

 ということがわかった。

 

 正面モニターには、デカデカと生命維持装置の再起動の秒読みが表示されている。

 

 薄暗いコックピットなに、

『……さ……か』

 というざらついた音。


『あ、や……か』

 

 瞬間、綾坂がハッとし意識は急激に覚醒。


「通信!?」


『あやさかぁ! 生きてろ!』


「トップガン隊長!」

 

 綾坂が思わず叫んでいた。対してスピーカーからは相変わらずざらついてはいるがトップガン進介の苦笑と声。


『どうなんだその呼び名は。けど、まあいい。生きてたな!』


「はい! 生きてますったら!」

 

 綾坂は疲労など吹き飛び明朗に叫んだが、同時に体中には激痛。

「ッ――!」

 と声にならない苦悶をあげ表情を歪めた。


『天儀司令と、俺と、オイ式に感謝しろよ!』

 

 綾坂は、

 ――は?

 と思ったが隊長進介はダーティーマーメイドとの戦闘に移るということがなんとなく理解できた。

 

 綾坂には状況はまったくわからない。なにせ通信が復活し、生命維持装置が再起動しただけ。状況を知らせてくれる多数のモニターは、ほとんど死んだまま。正面モニターは生命維持装置の状況が表示されているだけだ。


「あっ」

 と綾坂が思いだした。

 

「そういや、アタシ。救援要請連打したわ。アハハ」

 

 そう綾坂は顔を真赤にして泣きながらも途中から定期的に『SOS(救援要請)』のボタンを、

 ――ダン! ダン! ダン!

 と連打していたのだ。

 

 勝ち気で無鉄砲な綾坂からして、ダーティーマーメイドとの単機戦など正気ではない。早く助けにこいというものだ。

 ――戦いは多数で。

 これは基本だ。


 そして、これが功を奏した。

 

 ダーティーマーメイドに一方的になぶられる綾坂機。

 隼人隊はやとたい隊長でトップガンの林氷進介りんぴょうしんすけを始め隼人隊の面々は救援要請を受けるまでもなく気づいていたが助けに入れない。

 

 ――まず場所がまずい。

 と進介たちは思った。


 綾坂機がなぶられるのは、対空砲火の真っ只中。助けたいのは山々だがきわめて難しい。綾坂機は損傷して流されながらも対空砲火が当たっていないのが奇跡だ。

 

 進介が、

「バカ野郎どうしろと! だから待てって!」

 と悪態をつくと同時にモニターには、

『緊急通信』

 の表示と同時に天儀の怒声。


『進介! 綾坂を助けろ!』

 

 綾坂の必死の救援要請連打は陸奥改にとどいていたのだ。


『体当たりだ! 対空砲火を止めてやった。特別だぞ! やれ!』

 

 驚く進介に、天儀からのむちゃな指示。

 

 ――体当たり。

 とは、ダーティーマーメイドにスモウアタックを仕掛けて綾坂機を救えという意味だろう。だが、もうすでに進介はダーティーマーメイドにスモウアタックは見せてしまっている。スモウアタックを仕掛けようものなら――。

 

「華麗に回避されてからの精密射撃。俺があっさり撃墜されてしまうだけ!」

 というのが容易に想像できるのがいただけない。


「ですがっ!」

 進介が苦しく叫んだ。

 

『違う! 綾坂だ!』


 進介がハッとして、素早く機体操作。超加速用の推進剤を投入。

 

 スモウアタックが狙った先はダーティーマーメイドではなく、

 ――綾坂のオイ式!

 

 ダーティーマーメイドが止めの一撃を加える寸前、進介は綾坂機を体当たりで跳ね飛ばし、

「からの! 射撃!」

 と12.7センチをブッパ。

 

 ダーティーマーメイド機は驚いたように離れていった。


 進介は綾坂機へ衝突と同時に、衝突の衝撃を利用しダーティーマーメイド機へ正対。射撃という離れ業披露。これならダーティーマーメイドを直接狙ったのと違いきはしょうじないし、ただちに攻撃に転じることができる。


 救援要請に気づいた天儀のとっさの判断と、トップガン進介の空戦技術。そして、

 ――20.3センチ重力砲の直撃を受けても大丈夫。

 というキャッチフレーズのオイ式の強固な機体構造が綾坂を死から救っていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 いったん離脱したリリヤが次の標的と捉えたのは、赤黒い赭熊色しゃぐまいろのオイ式。

 

「トップガンだね。ふ~ん。あんな下手くそをね」

 

 いまのリリヤは、せっかくの楽しい止めを阻止され、とんびに油揚げをさらわれたような状態だ。

 

 リリヤは自分を強烈に不幸と定義している。そんなリリヤの前で、進介はナイトのように颯爽とあらわれ味方を救った。

 

 ――リリヤだってお兄ちゃんに助けてもらいたい。

 という黒々とした感情。リリヤにとって日常は地獄だ。心が嫉妬の渦へと沈んでいく。

 

 リリヤが、

「リリヤなら見捨てるのに――!」

 強烈に憎悪を吐いてから、機体を赭熊しゃぐまへ向け加速。

 

 ダーティーマーメイドとトップガン進介の戦いが開始された。

 

 迫るダーティーマーメイド機を前に、ゆるく加速しつつ12.7センチをかまえる赭熊しゃぐま

 最初の交差を前に12.7センチが火を吹いた。

 

 瞬間、リリヤは、

 ――進路を見抜かれた!

 と機体をひねって回避。


「じょうず!」

 リリヤが思わずうめいた。


 対して進介はコックピット内で、

「得意なんだろ正対からの交差。だけどな交差なんて、させてやんねーから!」

 そう叫んでいた。


 いったん距離を取ったほうがいいね。とリリヤは判断。

 

 進介からすれば願ったり叶ったりだ。

 赭熊しゃぐまを手早く操作し、12.7センチをかまえなおし狙撃モード。

 

 いまダーティーマーメイド機は、進介の赭熊しゃぐまを軸に円を描くように飛んでいる。それはまるで獲物のようすをうかがっているようだ。

 

 進介は赭熊を旋回させつつ、よく狙って一発!

 泳ぐように進むダーティーマーメイド機に、二足機の兵装とは考えられないような太い軌跡を残して弾丸が飛んでゆく。

 

 が、当たらない。

 12.7の砲弾はダーティーマーメイドを掠めもしなかった。


「知ってるんだから精度悪いって。しかも無理して照準プログラム組んだせいで、オイ式の照準プログラムはガバガバ」


 けれどリリヤの正面モニターの端の小さなウィンドウには、狙撃モードを止めない赭熊しゃぐま


「ふ~ん。あきらめないんだ。無駄だと思うけどね」

 

 リリヤが冷ややかな視線でウィンドウを眺めていると、12.7センチの先端部分が発光。また進介が射撃したのだ。

 

 ――ズキューン! ズキューン! ズキューン!

 と激しい擬音が聞こえてきそうな射撃が三連発。

 

 リリヤは、あえて砲弾の軌跡間を泳ぐようにして進み。赭熊じゃぐまとの距離を急激につめた。

 

 12.7センチの射撃モードから解き、機体を加速させるまでには時間がかかる。そして12.7センチ砲は長砲身。砲身が長すぎて近接交差での射撃には向かない。

 

 そして、いま赭熊しゃぐまへ直進するリリヤには、

 ――射撃モードを解除して、上腕火器をかまえる、そして射撃でしょ。

 と次に赭熊しゃぐまが見せるであろう行動が手に取るようにわかる。

 

 肉薄された状態での12.7センチの射撃は無理なのだ。砲身が長すぎ取り回しできないからだ。交差では上腕火器に切り替えるしかない。


「でも、あんたが上腕火器をかまえる動作に入る頃に交差! リリヤの勝ち!」

 

 リリヤが凶悪に吠え。交差!

 が、綾坂機のとの交差とは違い。リリヤ機がひねるように回避運動を混ぜて、射撃できなかった。

 赭熊しゃぐまがリリヤの予想に反して12.7センチを射撃したからだ。


「それ! すごい!」

 リリヤが思わず賛嘆。

 

 交差する瞬間リリヤは見た。赭熊しゃぐまが12.7センチ砲身部分を手で握って射撃するのを。そう、確かにこれなら近接した相手への取り回しも楽だ。


 リリヤ機と赭熊しゃぐまが再び距離を取った。

 赭熊しゃぐまが12.7センチを射撃。だが、当たらない!


「12.7センチなんて当たんないでしょ。それをいっぱい撃っちゃってさ」

 

 リリヤは3度目の交差へ入った。


「次はどうするの?」

 リリヤは口走りってから思う。

 

 次の手は恐らくないよね。だって1度目は12.7センチの射撃で進路妨害して交差を阻止。2度目は砲身を握って無理に射撃して交差を無効に。他にやれそうなことってないからね。

 

 あとは超重二足機オイ式のお得意のスモウアタック? そんなのやったら幻滅。スモウアタックはもう2回も見たから、とたんに撃墜だよ。

 

 そしてリリヤの正面モニターには上腕火器をかまえる赭熊しゃぐま

 リリヤの粘り勝ちだ。敵はやはりもう手はない。交差は成立する。

 

 リリヤの目の前には待ちに待ち、望んだ瞬間。

 

「爆散しろ!」

 と叫んで射撃!

 

 が、リリヤ機の上腕火器の細かい発光は宇宙の闇に虚しく吸い込まれた。


「オイ式はな! スモウアタックと12.7センチだけじゃないんだよ!」

 

 オイ式が激烈な加速で真上へ上昇。リリヤ機の射撃を回避していた。

 そうオイ式の売りの一つは加速性能だ。

 

 トップガン林氷進介は、

 ――ウエポンマスター。

 兵器マニアにしてオイ式を知り尽くす者。

 

 リリヤ機が上昇する赭熊しゃぐまを猛追。

 リリヤの小さな体には強烈なGが。

「くっ!」

 リリヤが歯を食いしばって赭熊しゃぐまに迫る。

 

 そこを狙いすましたかのように、赭熊しゃぐまが12.7センチを射撃。

 リリヤは回避。


「無駄玉でしょ! それ! 知ってるもう残弾ろくにない。エネルギーもからっけつ。その超重二足機で、天太星と渡り合うってそいうことになるから!」

 

 リリヤ機が赭熊しゃぐまに追いつくまであと10秒もない。


「12.7センチの使い方は、一撃必中だけじゃないんだよ!」

 と進介が叫んだ。

 同時にリリヤ機へ十字砲火クロスファイア

 58機のオイ式から12.7センチが一斉されていた。

 

 驚くリリヤの視線の端には、オイ式の堵列とれつがあった。

 リリヤは顔面蒼白。目を見開いて、

 ――しまった! ハメたのね!

 と狼狽するがもう遅い。


 そうリリヤは進介に上手く誘導され、隼人隊が射撃体勢で待ち受けるキルスポットに誘い込まれていたのだ。

 

 リリヤが十字砲火をうける直前に目撃したのは、縦5列、横6列という二枚の超重二足機の重厚な壁だ。

 

 そして、いまリリヤ機が58本の閃光に呑まれた――。

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