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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
十四章、カサーン撃滅戦
95/189

14-(5) トップガンvs.ダーティーマーメイド

 超重二足機オイ式の暗い緑色の集団なかに、暗い赤色の機体が一つ。

 トップガン林氷進介の赭熊しゃぐまだ。

 いまコックピット内の進介の目の前のモニターには敵の接近を知らせる、

『エンカウント 180秒前』

 という標示。

 

 180秒後には進介の隼人隊と、ダーティーマーメイドの北斗隊の戦闘が開始されるということだ。

 

 敵はダーティーマーメイドを先頭に猛烈な勢いで迫ってくる。

 だが、進介は慌てない、

 ――食いついてきたな。

 と冷静だ。


「予定通りだ。隼人隊は敵との交戦は避け、このままメテオシャワーゾーンへ」

 そう全機へ通達。

 

「最後尾は遊撃隊ショートストップの、このトップガンの隊が受け持つ。各機は全力で予定の侵入口へ進め!」

 

 進介の威勢に、各機からは返事ではなく、左側のモニターに、

『了解』

 を意味する点滅が表示される。


 隊長機の進介の赭熊しゃぐまには、指揮機能が搭載されている。

 左側のモニターには60機分の機体の簡略情報がズラリだ。


「とくに綾坂あやさか。カサーン作戦前に死ぬなよ。お前に死なれて兄さんから叱責をうけるのは俺だ」

 

 これに綾坂機からは、了解の標示ではなく、

「もう隊長ったら。そう簡単には死にませんから。今日は努力で磨きをかけた適性Aの本気ってのを披露しますって」

 という春日綾坂かすがあやさかの軽口の通信。

 

 進介は応じずに少し笑ってから部隊へ向け。


「敵はダーティーマーメイドを筆頭に天才の集団らしいぞ」

 

 ――あのトリプルエスの……。

 という緊張感ある沈黙。


「対して俺たちはどうだ?」


 ――自分たちは天才とは違うな。

 と隊員たちは思った。

 

 軍内で一目置かれ、軍を真っ二つに線引すれば精鋭の側に一応入れる隼人隊も超一級かといえば明らかに違うからだ。

 

 二足機適性Aと高い評価の綾坂も、

「隼人隊って泥臭いのよね。操縦センス塊揃かたまりぞろいとは程遠いって感じ」

 と思って隊長の進介の次の言葉を待った。


「だが、天儀司令は才能と立場を決めるのは結果だといい切った。天才だから勝てるのではないとな」


「それって勝てば私たちはみんな天才?」

 

 綾坂が思わずチャチャを入れていた。


 天儀がいったとされる言葉を言い換えれば、

 ――勝ったから天才といわれる。

 ということになる。


 任務中の私語は厳禁。普段なら叱責をうけるところだが、

「そうだ」

 と隊長の進介からは肯定の言葉一つ。


勤勉きんべんは才能を淘汰とうたする。とは隊長である俺の座右ざゆうめいだが、隼人隊のモットーでもある。敵の北斗隊は天才集団でダーティーマーメイドはイレギュラーヒューマンなんていわれるらしいが、俺たちの日々の研鑽けんさんはやつらの天才性を凌駕りょうがすると俺は確信している。お前ら今日は隊のモットーを証明しろ!」

 

 いい終わると同時に、進介の左側にある60機の状態が表示されたモニターには、

『了解!』

 の点滅。


 いま、進介は隼人隊全体が燃え上がっているのを感じる。それは一丸となって戦えるという確信でもある。進介は強烈な高揚感こうようかんを覚え、

「特戦隊は勅命軍だ。最後の皇軍である。天京てんけいみかどへオイ式の本領をお見せするぞ。一機も余さずメテオシャワーゾーンを抜けろ! 抜けたら生き残れる!」

 そのまま興奮を吐いていた。


 三レーン陣形の隼人隊。

 三列縦隊の集団がひときわ大きく発光。急速加速用の推進剤をつかい一気に加速先したのだ。

 

 その後ろをトップガン進介の遊撃隊ショートストップが少しくれて続く。

 

 進介は赭熊しゃぐまのコックピット内で、

 ――見ていてくださいよ兄さん!

 と猛烈に奮起ふんき


「これが終われば天儀司令と姉ちゃんの結婚式だろ。姉ちゃんの人生の晴れ舞台に弟から最高のはなえる。絶対に遂行してみせる!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「くそっ。なんて早さだ!」

 

 いま進介の赭熊しゃぐまに、敵の先頭を飛ぶ遊撃隊ショートストップが的確なコースで迫っていた。その正確無比な飛行に、

「あれがダーティーマーメイドかっ!」

 進介は確信した。


「メテオシャワーゾーン入っていないとはいえ、もうかなりデブリが多いぞ。普通はもっとゆるく飛ぶ。それをまったく迷いがない。直進、直進で、方向転換は微修正すらなしの一発決定かよ!」

 

 最後尾で殿しんがりを務める隼人の赭熊しゃぐまに猛烈な勢いで迫るダーティーマーメイド。


 だが、これでいい。と進介は思う。

「あまりに引き離すと敵が追うのをあきらめる可能性があるからな」

 

 ――これでいいんだっ。

 と進介が心中で繰り返した。顔面は蒼白だ。恐怖からではない。緊張でだ。

 

 いま、背中にはトリプルエスのダーティーマーメイドからの巨大なプレッシャー。11機撃墜のトップガンにも余裕などない。


 ――追いつかれる!!

 と判断した瞬間に、進介の左の画面には、先行する三縦隊がメテオシャワーゾーンへ入ったという表示。

 

「よっし。訓練どおり! お前らできるじゃないか!」

 進介は思わず叫んでいた。

 

 残っていた進介率いる遊撃隊ショートストップの集団も進介を残し、メテオシャワーゾーンへ入った。

 

「全機、シャワーゾーンヘイン!」


 このまま俺も入ってもいいが――。

 と進介は思って真横に機動。

 

 瞬間、進介の赭熊しゃぐまが飛んでいたコースには発光が通り過ぎた。

 追ってくるダーティーマーメイドからの上腕火器をつかっての正確無比な射撃。


「やるね。はやってメテオシャワーゾーンへ入ろうとしていたら死んでたぞ」


 回避運動直後に進介の思考は加速。

 ここからのベターな選択肢は二つ! 一つはこのままメテオシャワーゾーンへ入る。無難な選択肢だ。そして、もう一つは、こちらも上腕火器で応戦。これは撃墜を狙うというより牽制だな。射撃後にそのままメテオシャワーゾーンへ入る。

 

 ――だが!

 と進介がカッと目を見開いた。


 コックピット内の進介の正面モニター中央にはダーティーマーメイド機。いま十字の照準にダーティーマーメイド機が重なっている。

 つまり赭熊しゃぐまとダーティーマーメイドは正対していた。


「加速!」

 進介が叫び、手早く加速用の推進剤を少量投入の操作。


 進介の赭熊しゃぐまがダーティーマーメイド機へ流星のごとく突進。

 

 重装甲と超重量、20.3センチ重力砲の直撃にも耐えるとされる機体構造をいかした、

 ――スモウアタック!

 と呼ばれる体当たり攻撃。


 進介の赭熊しゃぐまは弾丸となって、ダーティーマーメイド機へ!

 ダーティーマーメイド機は驚いたように、大きく回避運動。

 

 赭熊しゃぐまのコックピット内では、

「はは! 当たらね!」

 という叫び。だが叫びには明朗さがある。なぜなら――。


「でも驚いたな! わかるぞ!」

 

 そう進介のスモウアタックに対して、ダーティーマーメイドは明らかに動揺していた。進介のスモウアタックを予見していたのなら回避運動は最小限。機体を少しずらすだけでいい。最小限の動きは、その後の素早い反撃を可能にする。


「残念! 避け方がデカすぎて前腕小銃が撃てなかったな!」

 

 そう。ダーティーマーメイドは回避運動が大きすぎ、通り過ぎていく赭熊しゃぐまに反撃の射撃を浴びせることができなかったのだ。二足機適性トリプルエスのダーティーマーメイドには似つかわしくない失態だ。


「ま、撃たれたらやばかったけどな。射撃できないようにやってやったんだ」

 

 オイ式も二足機の例にもれず、背面には推進用すいしんよう噴射口ふんしゃこうが多数ある。オイ式は、そんな場所まで装甲化されているとはいえリスクはあるのは確かだ。

 

 進介のバックモニターには上腕火器をかまえなおすダーティーマーメイド機。

 だが、その行動はもう遅い。

 

 進介は、

「まずは俺の勝ちだ!」

 そう啖呵たんかってメテオシャワーゾーンのなかへ入っていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 メテオシャワーゾーン方向へ飛んでいくオイ式部隊を、猛追するダーティーマーメイドと北斗隊――。


 ダーティーマーメイドことリリヤのコックピット内には、

『隊長! ダーティーマーメイド! もっとゆるく飛んで! デブリにぶつかります!』

 という副隊長真神からの悲鳴に近い進言。

 

 けれどリリヤは聞こえていないかのようにまったく応じない。悪意をはらんだ無視ではない。真神の聞こえてはいるが、リリヤの目の前には、もうオイ式部隊の最後尾。リリヤは戦闘に没頭していた。

 

 だが、副隊長の真神からすればたまらない、

「ダーティーマーメイド、このままだと孤立します!」

 と再度進言。


 真神の想像の先には、メテオシャワーゾーン直前で敵が全機反転。ダーティーマーメイドが取り囲まれるさまがうかんでいた。

 

 適性トリプルエスという天才中の天才も5ダースの敵に取り囲まれれば、

 ――どう考えても危うい!

 それをいまダーティーマーメイドは意にも介さず単独飛行だ。

 

 だが、リリヤは真神の危惧を一蹴。


「反転してくるわけないでしょ! アンタ頭悪い!」


「どうして!」

 

 どうしてわかるのか。と真神はいいたい。敵の最強が1機で孤立。60機で袋叩きにできるまたとないチャンス。

 

 ――どう考えたって俺なら、この頭の狂った淫売をボコボコに!

 とリリヤへ憎悪を向けた。


 そう副隊長の真神としては進言とは逆に、むしろオイ式部隊に反転して欲しい。

 反転してくれればオイ式部隊へ追いつけるからだ。

 

 そしてダーティーマーメイドとて60機に襲われれば無事ではすまないが、下手をすると半数はぐらいは沈黙させて死んでくれるだろう。

 

 仮にあっさりやられたとしても――。

 と真神は思う。

 

 副隊長の真神には、リリヤを失っても部隊を指揮して戦い抜くどころか、

「俺なら撃破する自信がある!」

 隊長を失っても伝統ある精鋭部隊は動揺しない。


 59対60の戦い。けれど北斗隊とオイ式部隊では個々のポテンシャルも、集団戦も圧倒的に北斗隊が上。ダーティーマーメイドという餌に食いつき、足止めされ、陣形を乱しているところに、自分が指揮する北斗隊を突っ込ませ勝つ!

 

 真神はリリヤを忌嫌けんきしている。むしろ死んで欲しいぐらいで、

 ――総軍司令官の李紫龍りしりゅうも。

 と真神は思う。


 李紫龍は誰がどう見ても規律を守らず逸脱行動の多いリリヤを嫌っている。北斗隊がダーティーマーメイドを失って戻っても不問にするだろう。


「リリヤが死んでくれ、自分はオイ式部隊の撃破という武勲をたずさえて帰還し隊長に昇格」


 とても美味しい想像だ。

 それが真神の目の前の正面モニターには、反転の気配など見せずにひたすらメテオシャワーゾーンへ向かうオイ式部隊。

 

 ――なんで反転しない! チャンスだろ!

 と苦く思い。

「どうしてダーティーマーメイドに敵が反転してこないと確証できるんだ」

 さらに苦々しく吐いた。

 

 真神は敵が反転すると予見した。

 ダーティーマーメイドは敵の反転はないと断定した。

 そして結果は――、

「反転なしだと! 次々とメテオシャワーゾーンへ逃げ込んでる!」

 内心見下しているダーティーマーメイドがわかることが、真神にはわからなかった。この屈辱は大きい。

 

 屈辱感にさいなまれる真神に、

「下手くそ! 早くこい!」

 というリリヤからの罵声。


「くそっ! 俺の適性はA+(エープラ)だぞ!」

 

 真神は憎悪すら忘れるぐらいに慌て、ダーティーマーメイド機を追った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おっそーい」

 とリリヤが喜々として叫んだ。

 

 目の前には赤黒い赭熊色しゃぐまいろの1機。

 リリヤの正面モニターには敵機の識別コードにつけ加えられた、

 ――トップガン。

 というアピール。


「オイ式で、トップガン。林氷進介ね! 星間戦争の英雄の一人! でもリリヤのほうが強い! トップガンなんていっても逃げてばっかのデブじゃん!」

 

 そしてモニターには、そのトップガンの機体の噴射口の光。リリヤが上腕火器を手早く操作。短く射撃。

 モニター内のオイ式は避けた。


「で、避けてからの~!」


 リリヤがトップガン進介の次の動きを予測。


「そのまま背面装甲に頼ってメテオシャワーゾーンへ逃げ込んじゃう?」

 とリリヤが凶悪に笑った。


 リリヤの二足機適性はトリプルエス。背面を見せて安易な直進してくれれば、装甲を縫っての精密射撃などたやすい。

 メテオシャワーゾーンへ向かってくれれば撃墜確定だ。


「それとも上腕火器で牽制でもしてからメテオシャワーゾーンへ行く?」

 

 リリヤにとって、どちらを選択されようが結局は撃墜だが、こちらのほうがマシな選択肢だ。背面を見せて飛び去ろうとすればリリヤには一切リスクなく一方的にショットできる。回避運動を考えないでいいので狙いを定めることに意識を集中でき、照準するのも楽だ。

 

 リリヤの目の前のトップガンが反転。


「反転! 二つ目ね! いい判断!」

 とリリヤは叫ぶも勝ちを確信。


「でも、それってメテオシャワーゾーンには逃げ込めないってことだよ! アンタは終わった!」

 

 が、次の瞬間にリリヤの目には、

 ――敵機の機体正面。

 リリヤにとって想定外の行動。


 なぜなら、こんなときはメテオシャワーゾーンに向かって弓なりに飛び射撃しつつ離脱をはかるのだ。

 メテオシャワーゾーンを背にして、リリヤの方へ向いては逃げられない。


「えっ!」

 リリヤがトップガン進介の思わぬ行動に驚いていた。驚いた瞬間には、もう目の前に超加速して迫る赭熊色しゃぐまいろの超重二足機。

 

 ――しまった!

 とリリヤが瞬間的に機体操作。

 

 直後にリリヤの機体があった場所を赤黒い超重二足機が猛烈なスピードで通り過ぎていた。


「頭おかしい!」

 と、わめくリリヤの目の前からトップガン進介が悠然とメテオシャワーゾーンに消えていった。

 

 きわめて口惜しい状況に、

「リリヤが避けてあげなきゃ衝突事故だよ! カミカゼでもする気なの! 死ぬのはアンタ1人にして!」

 リリヤからは悪態しかでない。

 

 現実はアニメとは違う。大気圏内でも宇宙でも飛行中にぶつかれば単なる衝突事故。双方の機体がバラバラだ。

 

 そう。オイ式の『スモウアタック』など目の前にするまで信じられないのが普通だ。

 

 そこにやっと追いつた副隊長の真神と北斗隊。

 真神はメテオシャワーゾーンを前に停止するダーティーマーメイド機へ。


「追撃しますか?」


『当たり前!』


「では――」

 と真神がいう前にもうリリヤはメテオシャワーゾーンへ向かっている。


「ダーティーマーメイド。対艦攻撃装備の破棄を――!」


『だから、それしたら敵艦を攻撃できないでしょ!』


「ですが――!」


『あの鈍重な二足機が入ったのよ。はるかに飛行性能に優れる天太星が飛べないわけないじゃん!』

 

 けれど真神はじめ隊員たちはからすれば、デブリの流れの激しいメテオシャワーゾーンへ重い対艦攻撃装備を破棄しないで入るなど正気の沙汰ではない。証拠に、まだデブリの薄いすなかを追撃するのにも四苦八苦だ。

 

『送った!』

 と叫んでくるリリヤに、

 ――なにを送った?

 と思う真神。

 

 真神の目の前の正面モニターには、

 ――カサーン流星群帯(カサーン・メテオシャワーゾーン)の観測記録。

 というマップ情報。


『これで、できるでしょ!』


「はっ?」

 と困惑するなか、もうダーティーマーメイドの姿はメテオシャワーゾーンなかへ。

 

 真神が再度マップ情報を確認するも、

「おぃい!」

 と叫んでいた。


「2年前の観測記録! これで飛べというのか!」

 

 デブリの流れの激しいメテオシャワーゾーンの2年前のマップ情報などほとんど役立たない。けれど真神のモニターの大マップには、障害物なきがごとく飛んでゆくダーティーマーメイド機をしめす点の明滅めいめつ

 

「くそっ! 我々もダーティーマーメイドに続く。オイ式部隊を補足するぞ!」


 北斗隊もメテオシャワーゾーンへ突入した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 トップガン進介の隼人隊は、4つの部隊に別れメテオシャワーゾーン内を飛んでいた。

 それぞれの隊の間には無数のデブリ。流れも早い。


「仮に追いつかれ交戦となっても隊間での相互扶助無理だな」

 と進介は思った。

 

 けれどこれも、

 ――想定通り。

 というもので、隼人隊にとっては、ここ数日の訓練で経験したことだった。


 それに隼人隊が4隊の相互扶助が無理ならば、敵のダーティーマーメイドの率いる4隊も同様だ。いや、敵はメテオシャワーゾーン内を飛ぶということだけに必至のはずだ。まともな戦闘などできないだろう。

 

「無理に交戦を仕掛ければデブリに衝突だ」

 

 進介は、隼人隊へデブリ内での交戦を徹底的に避けろと厳命してある。

 

 仮に攻撃してくれれば、こちらの思うつぼでもある。攻撃と激しく流動するデブリの回避の両立はきわめて困難。いかに天才集団といえどもオイ式を撃墜するどころではない。脱落多数だろう。

 

 そして、いま、そのメテオシャワーゾーンを、遊撃隊ショートストップを率いて飛ぶトップガン進介。

 

 進介は、

「それにしてもあの驚きかた。完全に意表をついてたな」

 そういってクスリと笑った。


 進介はメテオシャワーゾーンへ入る直前のダーティーマーメイドの動揺を思いだしたのだ。

 

「スモウアタックは、トリプルエス様にとって想定外だったか」

 

 ――でも俺からいわせれば格上と戦うならアレ以外の手はない。

 と進介は思う。


 背後にダーティーマーメイドを抱えたままメテオシャワーゾーンへ進めばどうなるか。

 最悪撃墜。良くて重大な機体損傷だ。


「仮にうまくかわしてメテオシャワーゾーンとしてもね。それじゃダメだ」

 と進介は思う。

 

 一切の反撃行動なしでメテオシャワーゾーン入れば、

「そこで格付けチェックは終了する」

 からだ。

 

 適性トリプルエスという超天才のダーティーマーメイドから一方的な追撃を受ければ、その実力差は明白となって彼我の優劣は決定となる。


「こうなっちゃうと、そのあとにメテオシャワーゾーンからでて反転して交戦するときにえらく手こずるのは間違いないんだよな。そうなると逃げるだけじゃダメ。だけど教科書通りの反転じゃダーティーマーメイドには通用しない。ならもうスモウアタックしか手はないじゃん?」

 

 戦場を支配するのは状況で、才能ではない。ダーティーマーメイドは超加速して迫る赭熊しゃぐまに狼狽。

 

 いかに強力な武器を手にしていても、それを敵へ振るわなければ効力など発揮しようがない。が、逆にいえば匕首あいくちひとつ。つたない才能でも機先を制すれば相手を痛烈に刺せる。

 

 進介のスモウアタックという大胆は状況を支配したということだ。

 だが、ダーティーマーメイドが無傷で健在というのも、また状況だ。


「最終奥義の一つをつかってしまったぞ。どうすんだ俺!」

 進介のひたいには脂汗。

 

「次は別の手でいくしかない」

 と、苦しくもらした。

 

 が、そんな手はあるのか。と進介は必死に思考。努力に努力を重ねオイ式という機体を知りつくしている。引き出しは多い。全部開ければ、あらゆる場面で、どんな行動が正解かというのが見つかるはずなのだ。必ず答えがあるはずだが……。


 次に進介がダーティーマーメイドへ安易なスモウアタックを仕掛ければ、間違いなく赭熊しゃぐまは装甲の間を的確に射撃され爆散。進介はホワイトフラッグをあげる間もないだろう。

 

 進介の前の前にメテオシャワーゾーンの終わりが迫っていた。

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