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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
十四章、カサーン撃滅戦
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十四章プロローグ (戦闘の予感)

「うふふ。今日はオイ式部隊の格納庫です。星間戦争の名機を堪能です」

 と、トレードマークのホワイトブロドのツインテールをご機嫌にゆらしながら進むは鹿島容子かしまようこ秘書官だ。


 知ってました? あらゆる備品の在庫チェックも私たち秘書官の管轄。二足機関連の消耗品は整備班にお願いしてもいいのだけれど、私としては、

 ――超重二足機を間近で見れるチャンス。

 なんておいしい場面を他人任せにはできません。是非にも是非にも自分でチェックしたいというものです。

 

 え? 軍務にかこつけておサボりですって? カタリナ従姉ねえさんに怒られるぞって?

 

 ――そんなことはありません! 

 と鹿島は心のなかで握りこぶし。


 二足機はいわゆる高級兵器の部類です。兵器って基本どれもお高いですけど、二足機は最新技術のすいを集めた一級品。それに人形だけにパーツも数が多いんです。そのパーツ一つが超高級品です。こっそりちょろまかしたり、無駄づかいしていないか厳重監視です。これは、そう必要なんですよ。


 鹿島がそんなことを考えているともうオイ式部隊の格納庫前。

 中へ入るとオイル臭と合金の臭いが混ざった独特の匂いが鼻を突く。

 ――うっ!

 と鹿島がしかめつら。


「はは。くさいですか鹿島さん」

 と気さくに声をかけてきたには林氷進介りんぴょうしんすけ。超重二足機オイ式を集中運用する隼人隊はやとたいの隊長だ。


「トップガンさん!」


「どーも。トップガンです。今日は消耗品の在庫確認って兄さんから聞いてますが」

 

 そういって進介は、消耗品のチェックリストのデータを鹿島の手にしている端末へ転送。

 

 鹿島は、

『兄さん』

 というワードに一瞬疑問顔になるが、

 ――あ、天儀司令のことですね。

 とすぐに合点。


 天儀てんぎ司令の気づかいですね。と鹿島は嬉しくなった。私がブリッジをでるときに天儀司令にオイ式の格納庫へ行くって断わってでてきたので、内線でトップガンさんに連絡入れてくれたというわけです。

 

 鹿島はデータがきちんと転送されたことを確認すると、

「あのぉー前々から聞きたかったんですけどいいですか?」

 上目づかいな下手な態度。


「林氷隊長は天儀司令のことをお兄さんって呼びますよね。お二人はどういうご関係?」


「えっとですね。義理の兄弟ですね」


「ご親戚的な? それとも刎頸ふんけいまじわり的な?」

 

 ここで進介が一瞬考える態度。

 姉ちゃんと天儀司令はまだ付き合ってる段階まだ。婚約はおおやけじゃないよな? 俺が勝手にここで、

 ――姉の婚約者なので、天儀司令は俺の義理の兄です。

 なんて、いっていいのか? いや、まずいな。なにせ兄さんは、

 ――元大将軍グランジェネラル

 

 俺も知ったときは驚いたけど、特戦隊が帝の命により発した勅命軍ちょくめいぐんと考えれば、それを預かる将軍は、信頼厚い元大将軍グランジェネラルなんて当然だよな。

 

 そう、進介は天儀が元大将軍グランジェネラルと知ったときは驚きもしたが、すんなりと受け入れていた。


 そして宇宙にでてから進介の姉の林氷沙也加りんぴょうさやかと天儀は付き合っているという勘違いは日々進捗。進介のなかで天儀はもう完全に姉のフィアンセ。

 

 ――ま、いいか。結婚するんだしな。

 

 悲しいかな軍務以外の進介は口だけ達者な、とんだ軽薄子けいはくしだ。


「姉がね究極の玉の輿なんですよ」

 

 鹿島は進介の謎めいた一言に、

「ほう?」

 と疑問顔。


 こんな顔をされれば、もう進介は辛抱たまらない。姉が元大将軍グランジェネラルの婚約者だと自慢したくて仕方ない。


「俺の姉ちゃん沙也加っていうんですけど、天儀司令と付き合っているんですよね」

 

 進介はいい終わると、これでもうわかりますよね? という態度で鹿島を見た。進介の目の前の鹿島は、

「え!」

 と驚き顔だ。十分に意味はつたわったようで進介は気分がいい。ますます饒舌じょうぜつとなっていく。

 

「これは内緒ですよ。まだ非公開情報なんですから。鹿島さんは特別なんで教えました」

 

 進介がニカッと笑った。屈託のない笑顔だ。

 鹿島は重大事実にブンブンうなづく。

 

 こんな様子を近くで見ていた隊員たちからすれば、

 ――あ、また隊長が自慢話してる。

 とあきれ気味。

 

 そう進介は、

 ――内密だ。

 とか、

 ――内々の話なんだが。

 とかいっては自慢の連続。


 人の口には戸はたたない。こんなふうに誰彼と打ち明けていけば当然のごとく……。


「天儀司令は婚約者がいるらしい」

「トップガンの姉らしいよ」

「相手は国軍旗艦大和こくぐんきかんやまと兵器廠長へいきしょうちょうやってた女の人」

「林氷沙也加だって」

 

 最早この話は陸奥改の乗員たちの隊員たちほとんどが知るところだ。

 そしていま、ついには鹿島にまでつたわり、知らぬはほぼ天儀一人だけ。

 

 進介が、

「では在庫確認のついでに好きに見てってくださいと、いいたいところですが格納庫内はご覧のとおりです」

 と、いうと鹿島が格納庫内を見渡した。


 いま格納庫は隊員たちが自機の点検中。格納庫内は散らかっているとまではいえないが、歩きやすいといえる状況でもない。

「俺が案内しますよ。見たい所があれば遠慮なくいってください」

 

 進介が先導を開始。鹿島がつづく。

 鹿島は先を進む進介の背中には威厳。

 ――おぉー。これがトップガンの風格ってやつですね。

 進介から自慢話をしていたときのような軽薄さが消えていた。


「すみませんね。これから発着訓練。隊員たちは飛行前点検中なんですよ」

 

 普通なら、へー、と流してしまうような話だが、鹿島はミリタリー雑誌の『戦史群像せんしぐんぞう』を愛読するミリオタにして歴女のハイブリット。一味違う鹿島の対応は、

「飛行前点検は、緊急発進以外はパイロット自ら必ず行なうんですよね?」

 という一歩踏み込んだものだ。


「ええ、よくご存知で。さすがミリオタにして歴女の鹿島さんだ」


「えへへ。そんな」

 

 テレテレする鹿島に進介から問一つ。

 

「先の星間戦争での二足機の機体不調率ってご存じです?」


「えっと。えーっと……うぅ。わかんないですごめんなさい」


「3割です。あまり知られていませんが、飛んでから整備不良で母艦へ戻った機体は少なくない」

 

 ――え、そんなに多いの。

 と驚く鹿島に進介は話を続ける。


「そしてじつは事故による損耗そんもうは2割にものぼります」


「え、それって」


「そうですね。戦闘と直接関係ない事故死は戦争中ですら少なくない。いえ、戦争中だから多いともいえますね。佳境かきょうな状況となれば整備部品は不足しますし、整備員は不眠不休で慢性的な疲労状態」


「ヒェ。それは整備ミスが発生しそうです……」


「そして発艦した直後に機体の不調に気づけばまだ運がいいほうです。引き返せますからね」


「うわ。そっか。不調に気づくのが戦闘中だったら大変ですね」


「そういうことです。だから俺たちパイロットは整備班を信頼はしていますが、整備班まかせにはけしてしないんです」


「それって最後に信用できるのは自分だけってことですかね?」


「そうともいえますが違いますね」


「違うんですか?」


「ええ、たぶん。真の理由は納得して死にたい。これです」


「ほう?」


「自分がちゃんと点検して事故ったならあきらめもつきます。飛行前に異常はなかったってね。飛行前点検してれば死ななかったかも、なんて死んでも死にきれませんよ」


「重大なんですね。飛行前点検って……」

 と鹿島はしみじみといって格納庫内を見渡した。


 ずらりとハンガーに並ぶ無骨で渋いデザインのオイ式二足機。

 鹿島の目に映る点検中のパイロットたちの顔は真剣だ。

 先程まで何気ない風景が、進介話を聞いてからではまったく別物。

 

 鹿島は、

 ――命がけの点検。

 と思いキュッと身が引きしまった。


「一見形式的なものにも見えますけどね。これで生死が別れます」

 

 言葉を口にする進介には峻厳さがただよっている。

 鹿島もそんな進介を見て真剣にうなづいた。


『勤勉は才能を淘汰とうたする』

 これが林氷進介の座右ざゆうめい。日常では軽薄子。調子のいい弟の進介は、兵士としては妥協を一切許さない一流。


「そういえば鹿島さんは兄へ、よく作戦案を提出してるって聞きましたけど?」


「えへへ。恥ずかしながら」

 またもテレテレする鹿島が続けて口にしようとした、

 ――天儀司令は優しいですよ。私の作戦熱心に聞いてくれますし。この前なんか。

 という言葉は、

「俺も見習って作戦を提出しようと思います。越権行為とも思ったんですが」

 進介の発言にさえぎられた。


「え!?」

 と驚く鹿島。

 

 トップガンからでたのはとんでもない爆弾発言だ。

 なぜなら、

「カサーンの作戦はもう決まっちゃってますけど?」

 ということで、いまさら11機撃墜の戦争の英雄が、

 ――俺が作った作戦を採用してくれ。

 という横槍とはいただけない。


 鹿島が、割り込みですか、という顔で進介を見た。

 

 進介は少し笑って。

「違いますよ。別の敵への対応作戦。カサーン基地とは関係ない」

 

 それでも鹿島は、はあ? とわからない顔。

 秘書官の鹿島は近々敵がくるなんて話は聞いていない。


「俺たち特戦隊はもう敵へ補足されてる」


「ええ!? まさか!」


「まさかもなにも、敵地へ入って直進してるんですよ。補足されていないほうがおかしい」

 

 断言する進介に鹿島は半信半疑。

 補足されているということは、つまり敵はなんらかの対応をしてくるということだ。そして単純に考えれば、

 ――特戦隊撃破のための敵がやってくる?

 と鹿島は思いさっそく質問。

 

「どんな敵がきちゃうんですか?」


「比較的小規模な高速部隊」

 進介が即答。明朗に断言した。進介の目にはもう明確に敵の姿が見えているようですらある。


「ほう。高速ですか」


「そう。きっと高速打撃部隊こうそくだげきぶたいだ」


「ほー。打撃部隊ということは母艦部隊ですね。しかも速度の早い高速母艦の。母艦は二足機運用に特化した軍用宇宙船ですから。となるとトップガンさんの出番ですね」

 

 進介が鼻笑びしょう。鹿島の言葉と同時にだしたファイト! という仕草があまりに緊張感がなかったのだ。


「ええ、だから俺から兄さんへ作戦を上申しようと思ってます」


「向かってくる敵が二足機部隊なら、隼人隊の隊長のトップガンさんの専門ですものね」

 

 笑っていう鹿島だが次の瞬間には、やはりわからない。なにがわからないかといえば。


「でも、なんでトップガンさんにはわかるんですか。高速速打撃部隊がくるって」

 

 理由を教えてという顔の鹿島に進介は、

「この状況ならどう考えたってそうじゃないですか」

 とだけいった。


 鹿島の頭の中を、

 ――根拠は? どんな二足機部隊がくるの? 精鋭かな? そもそも正確な規模は?

 などなど疑問がぐるぐる回るが、進介はカツカツと先を行ってしまい鹿島は慌てて追いかけるしかなかった。

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