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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
二章、真のシナリオ
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2-(3) 可憐なるシャンテル

 ランス・ノールは艦隊の管理を妹のシャンテルへゆだね遊撃群ゆうげきぐん2個艦隊を後にしていた。

 

 けれど背も小さく可憐な少女のようなシャンテル。

 部下はシャンテルを舐めきっていた――。


 シャンテルは兄のランス・ノールが去った翌日の午後には、つけられた属官の1人のレムスから、

「指示に従わず動かない艦があります」

 という報告を受けるはめとなる。

 

 どうして?と、けげんな顔になるシャンテル。


「おそらく、ここだと給糧艦きゅうりょうかんの近くで慰安施設を利用しやすいからでしょうが……」


 属官レムスは間違っても、あんたが甘く見られているからだ、とはいえない。言外につたえるしかない。


「わかりました。でも給糧艦きゅうりょうかん付近の停泊はローテーション。自分だけが、という考えはよくありません。いいふくめて移動させてください。それでもダメなら私が直接お話します」

 

 だが結局レムスからの指示では動かず。シャンテルが直接、横柄な態度の部隊司令に言い聞かせるはめとなった。

 

 翌日からは大変。

 指示無視とサボタージュの山だ。


「報告書が上がっていない艦艇が49隻ほどありますが……」

「補修工事の工作艦がこないとの苦情です。いかがしましょうか」

「艦隊全体に物資の搬入の遅延があります。30パーセントほどの艦艇の補給がとどこおっています」

「第三戦隊旗艦で機関科兵員のストライキです」

「ドック彩天付近で当て逃げです。当てられた方の艦長は相手を撃沈すると息巻いてます。お止めください!」

 

 シャンテルは兄が去った翌日から毎日、問題処理に追われる日々。

 そして今日もシャンテルは部下のわがままを、さとすはめに。

 ――皆さんどうしてお話では、わかっていただけないのでしょうか。

 シャンテルが問題処理を終え嘆息。

 

 兄が去ってから3週間、毎日この調子だ。

 ――らちがあきません。

 と思い悩むシャンテルが属官レムスへ、

「まさか皆さんがこんなに、大きな子供だなんてシャンテルは思いもしませんでした。毎日問題ばかり。お兄さまの苦労もしのばれます」

 思わずもらした。


 レムスは、ランス・ノールの下なら誰もが勤勉に務めるので、お兄さんはこんな苦労はないでしょうね。と思いはしたが、

 ――その外見がいけない。

 とは、まさかいえず。とりあえず、そうですね。と、応じて流した。

 

 レムスはシャンテルにつけられて3週間。最初はうんざりしていたものの、シャンテルには意外にも管理能力があり優秀。現にこうして多発する問題を〝対話〟で処理し続けている。

 

 ――だが、やはり可愛らしい外見が問題だな。完全に舐められている。

 とやはり思うレムス。


「なかなかいっても聞いていただけない場合は、軍ではどうなさるんです?レムスさんも部下がいた立場ですよね」

 

 シャンテルが、毎日同じような問題が起きていて……、というようなニュアンスでいうと、レムスは、

「ああ、実力ですね」

 さも簡単なことだというようにいった。

 

「実力?」


 レムスへ、そう問い返してくるのは、生まれのよさそうなお嬢様。レムスは、はっきりいっていいのか?という迷いもあるが、

「ええ、実力です。暴力のことですね」

 と、口にすると、案の定シャンテルにはおびえの気配。


「え、殴る蹴るですか?」


「それもありますが、パワハラのようなこともしますね。言ってもわからないなら仕方ないです。軍では1人の怠慢で全員が死にますから」


「そういうものなのですか……」


 ショックが大きいというようなシャンテル。

 

 レムスは、

 ――可憐なお嬢さんには過激な話だったか。

 と、失望のような気持ちを覚えた。

 

 レムスは言葉を口にするときに、どうせ教えてもできない。という予想があったのだ。


「ですがね。言ってわからないなら、動物のようにね調教してやるしかありませんよ」


「調教……。そうですか」


 やはりショックが隠しきれないといったシャンテル。シャンテルは、そのまま真剣に黙考し始めてしまった。


 レムスが内心嘆息。

 

 シャンテルの気弱な態度。とても実力行使の教育的指導などおこなえそうない。

 つまり、この混乱状態はランス・ノールが帰ってくるまで続くだろう、というのはよういに想像できる。属官としてつけられたレムスの苦労も続くというものだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そして、ここにもシャンテルを舐めきった女が1人……。


「あの、お人形ちゃんになにができるってのよ。あんたも、そう思わない?」

 

 悪態をつくのは第四艦隊司令ユノ・村雨。

 話の相手をしているのはメガネの気難しそうな中年。彼は副官セルビスだ。

 

 ここはカチハヤヒのブリッジ。

 ユノ・村雨は指揮座に浅くだらしなく座り足ぐみ、業務中とは思えない横柄な態度。肘掛けにもたれかかり退屈を隠そうとしない。

 

 ユノ・村雨の行儀の悪さを前にして、セルビスの表情はまったく変わらない。彼からすれば上司の傍若ぼうじゃくぶりは慣れたことだ。


 ――あばずれ姫。


 これは外面そとづらだけはいい、わがままなユノ・村雨を指した隠語。カチハヤヒの高官やブリッジ要員たちからユノ・村雨はそう呼ばれていた。


「ねえ、アイス」

 不機嫌にいうユノ・村雨。

 

 メガネの副官セルビスは表情も変えずに、少し首を動かし近くの兵員へ指示。

 すぐにチョコミントのアイスがガラス器にオシャレに盛られてでてきた。


 不機嫌にアイスにスプーンの先端を差し込むユノ・村雨。

 セルビスは、これではまるで執事だな。いや、そんな上等なものではないか。ただの使用人だなこれは。と自嘲じちょうした。

 

「ちょっと」

 気がきかないわね。というようなユノ・村雨。


 セルビスが跳ねるように、

「ハッ!」

 と、返事をして、

「いつものでよろしいですか?」

 そう確認してからまた兵員へ指示。

 

 すぐに『柚子ゆずサイダー』とラッピングされたビンジュースが運ばれてきた。

 

 お気に入りのサイダーが運ばれてきてもユノ・村雨はまだ不機嫌。ユノ・村雨からすれば、アイスを口に入れれば喉が渇く。毎度のことなのに使えない男ね。そんな思いだ。

 早く入れなさいよ。と、グラスを突き出すユノ・村雨。

 

 やはりセルビスの表情は変わらない。慣れた手つきでグラスへそそいだ。辺りに清涼感ある柚子の香りがただよう。


「これよ。ユノのお気に入りなんだから」

 

 セルビスは、やっと機嫌の直った上官を目にし、

 ――この女、死ねばいいのに。

 と表情を一切変えずに思ったのだった。


 ときは敗戦から3週間あまり、第二星系で守備という名目で武装解除を逃れたランス・ノールの遊撃群2個艦隊は大規模軍用ドッグ彩天(さいてん)を中心とした宙域ちゅういきに駐留していた。

 ドッグ彩天は、ファリガとミアンノバのという二つの入植惑星の間に位置し利便性もよく、軍専用とういこともあり民間船とのトラブルも生じにくい場所だ。


 そこでの遊撃軍2個艦隊を待っていたのは、

 ――単調な警戒任務の日々。


 ユノ・村雨は退屈そのもの。敵が攻めてくるってわけでもないのに、毎日、毎日、飽きんのよこれ。と、フラストレーションが溜まっていた。


 遊撃軍をここまで連れてきた当人のランス・ノールといえば、第二星系入りしてから艦隊の責任者に妹のシャンテルを残し、ファリガとミアンノバの議員たちと密会を繰り返している。


 そう、つまるところユノ・村雨の不満とやる気のない態度は、

「9個中1個の艦隊司令であるユノが、なーんで半民反軍の素人娘の下に置かれなきゃなんないのよ」

 これが原因。

 

 ユノ・村雨は外に吐いて気持ちがスッとしたのか、

「まあ、でも。私を信用しないってのはわかるけれどね」

 そういって皮肉な笑みを浮かべた。そして上着から私用の携帯端末を取り出しいじり始める。


 悪態を横で聞かされる副官のセルビスは、全く表情にはださずに、

 ――アンタの仕事への態度もプロとはとても思えないが?夜の営業が得意なだけだろ。

 と反感を持つも、セルビスもこの人事には理解できないものを感じていた。

 

 彼の尊敬するランス・ノールが責任者として残したシャンテル・ノール・セレスティアはただの可愛らしいお嬢さん。艦隊を管理できるようにはとても見えない。現に目の前には上官のユノ・村雨の、この横柄な態度と悪態だ。

 

 セルビスからすれば、ランス・ノール司令はセレスティアルの家名さえあれば、艦隊の重しとなると本気で思っているのか?と疑問が大きい。

 

 軍は実力主義。特に第三艦隊と第四艦隊はその傾向が強い。血の重さ、などでだけではおさまりきらない。


 遊撃軍の高官たちは、あのランス・ノール指名であり、偉大な上官の妹だから、という理由で一応はシャンテルに従う形を取っているが、内心はシャンテルの存在などほとんど無視していた。


 ――ピコーン、ピコーン。

 ブリッジに軽快なゲーム音。ユノ・村雨がゲームアプリを開いていた。

 だが、セルビス始めブリッジ内の面々は謹恪きんかくな態度を崩さない。


「で、ランス・ノールはいつ帰ってくるの?」


 携帯端末に目を落としたままセルビスへと問いかけるユノ・村雨。


「今日、ファリガ議会の重鎮グナエウス氏との会談が実現したとのことなので、変更がなければ3週間後かと」


「ふーん、グナエウスってファリガ一惑星だけじゃなく、本国議会にも顔が利く第二星系の大物政治家じゃない。宙域に駐留するだけなのに、なんでそんな政界のドンに会う必要があんのよ。なにする気なんでしょうね。ユノ、それだけは楽しみだわ」


 ユノ・村雨が携帯端末をいじりながらの言葉を終えた次の瞬間、

「旗艦マサカツアカツから緊急電。いえ、これは司令部放送です!」

 という報告がカチハヤヒのブリッジに響いた。


「なに?」

 セルビスの変わらなかった表情にけげんな色がでた。


 セルビスからして、いやブリッジ内の全員からしても、いきなりの司令部放送とは不可思議だった。こういった放送は事前に通告があり、どんなに遅くとも12時間ぐらい前には知らせがある。この前の敗戦時のランス・ノールの緊急放送は超例外だ。

 

 驚くセルビスに、ユノ・村雨が、

「いいわよ。繋ぎなさいよ。どうせ見なきゃなんないんだから」

 というと、モニターには映像が投影される。そこにはカーキ色の巻き毛に大きな瞳、二重のまぶたのシャンテルがむちを持って立っていたのだった。

 シャンテルの艦での当初の立場はランス・ノールの私設秘書。肩書は「司令佐官」。これは軍では佐官扱い。

 

 現状のシャンテルは「司令代理」という肩書となる。司令代理は、この場合2個艦隊のという連合艦隊の長なので、将官相当という破格の立場。任された規模が小さければ〝相当〟は当然下がる。


「指名制度」

 は、軍艦へ乗り込むのに軍籍を持たないものへ階級相当の立場を与える制度である。なお、民間向けのセレモニーでの一日艦長などは、この制度に則っている。

 *技術系には、これとは別の制度がある。

 

 そもそもとして星系軍の軍用宇宙船(俗に言う宇宙戦艦、宇宙軍艦)には半民半軍という立場のものも多いし、非戦闘員も乗り込んでいる。二足機戦術機(人形汎用戦闘機)などの整備士は軍籍でないものが多い。


 シャンテルが兄ランス・ノールからつけられた属官は8人。

 レムスの年齢は30代のラテン系を設定。外見はチャラい男。

 属官8人の年齢は30代から50代まで。事務処理能力長けた人材。

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