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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
十三章、カサーン計画
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13-(閑話) ビーハイブ班

 陸奥改むつかい――。

 ブリーフィングルームの一つ――。

 この8人分の椅子と机が並んだ部屋には、新品特有の匂いがただよっている。

 

 そう陸奥改は陸奥を近代化改修したゆえに〝陸奥改〟。しかも完了したてのホヤホヤだ。

 部屋によっては、いまだに壁も床も、そして天井のあかりも新品。ホワイトボードなどの備え付けの設備も、まだ誰も触れていないことがひと目でわかる光沢を放っている。

 

 そんな部屋に男女が2人。


「もう少しだけ――」


「おい。どうするんだ人に見られたら」


「だいじょうぶよ。アヤセは15時30分までブリッジよ。あと15分はこない」


黒耀こくようがいるだろ。あいつは5分前行動の5分前行動が基本。そろそろくるぞ」

「ここくる前に資料室によってからくるってメッセージあったわよ。5分は遅れるって」

 

 丞助じょうすけが、はぁーっと嘆息。

 いま春日丞助かすがじょうすけの目の前には太陽のようなオレンジ髪のつむじ。腕のなかでは、春日綾坂かすがあやさかが顔をうずめていた。

 

 まっ――。仕方ないか。

 と丞助は思う。


「艦内じゃ2人きりなれる場所なんて限られてるからなぁ」


「というかほぼないでしょ。バカ兄貴ったら」


「高官にでもならないと相部屋が基本だからな大抵は」


「そうよ。わたしは私室っていっても4人の相部屋。いやんなっちゃう」


「兄貴としては、その4人部屋に呼びつけて、マッサージさせたり雑用させたりする、お前が信じられないよ」


「いえいえ、役得じゃない。女子4人の部屋に入れるだなんて」


「ま、確かに同僚どもからは、うらやましがられてる。俺が奴隷どれいのごとく、こき使われてる実態を知らないからなぁ」

 

 そして綾坂の相部屋の女子たちからは、

 ――なにこの人。ちょっとキモい。

 というさげすみの視線。

 

 目の前で大の男が妹に小間使いにされるさまは、情けないというより不気味さを伴った不信感をいだかせる。

 

 ――なんで綾坂に呼びつけられてる俺が変な目で見られるんだよ。理不尽だろこれ!

 丞助からすれば非難されるべきは妹の綾坂だ。


 そんな不遇のあつかいの丞助が綾坂の頭をなでながら、

「俺たちのほうは、8人部屋で雑魚寝だよ」

 ウンザリだというようにいうと、綾坂が顔をあげて、

「でしょ?」

 と笑った。


「なにが、でしょ? なんだよ」


「いいの。とにかく、こうやって可愛い妹を抱きしめて、元気をチャージしときなさい」


「チャージねぇ……」

 と丞助が微妙な顔。

 

 ――男の俺がチャージしたら、溜まった欲求は……。

 丞助は赤面。頭をブンブンと振った。

 ――やばい。あとでトレーニングルームにでもいって発散しよう。

 

 だが丞助は知らない。運動は恋愛絡みの欲求不満の解消には、まったく役立たない。むしろ生理学的には、異性への欲求を増大させる因子が多い。

 丞助が視線を下げると、そこには胸板におでこを押しつけてくる妹の綾坂。


「元気をチャージしたいのはお前だろ」

 そういって丞助は笑うと、

「ね?」

 と要求するように綾坂が顔をあげた。

 

 丞助がけげんに、なんだよ。というように綾坂を見た……。


『チュッして――』


『バカお前――』


『一瞬でいいからさ。それで元気出るから――』


『ちょっと待て。ここは場所がまずい――』


『早く。もう黒耀がきちゃう――』

 

 そんな恋人同士のささやきをする2人にとっては、約15分の時間などあっという間だ。

丞助の前には綾坂の形の良い唇。

 

 ――まずい。止めとこ。

 と思い。自身を静止する理由を頭のなかで探した。

 

 まずもって人に見られたらまずいだろ。たとえ俺と綾坂が兄妹じゃなくても、こんな目撃されたら、

 ――お盛んなバカなカップルって。

 噂になること必至。今日中に艦内を駆け回って、明日には天儀司令から呼び出し、

「自由恋愛けっこう。だが自重しろ!」

 と叱責しっせきとともに鉄拳制裁だ。それに2人の関係はそれだけではすまない。

 

 それに俺には、個室で2人きりだし平気なんて甘い考えはないぞ。こういう油断が一番危ない。あまりにお約束のシチュエーションだ。なにより、

 ――そろそろ黒耀がくる。

 直前にわかりやすいリスクが迫ってて、あえて踏み込むってのは愚かだ。


 けれども意志に反して体は正直。丞助は妹の唇から視線が外せないどころか、いまにも吸い寄せられんばかり。

 それに昔から綾坂に、こき使われてる丞助にとって、妹に命じられれば、なすがままというのは体質にして条件反射に近い。ついつい丞助は吸い寄せられるように、腕の中の綾坂へ顔が近づいていき……。

 

 そこに、

「コホン!」

 という咳払いが響いた。しかも特大にわざとらしいやつがだ。

 

 瞬間、はぜるように離れる丞助と綾坂。

 

 2人は視認する前に、部屋には2人以外の人間がいるということに気づいたのだ。

 丞助も綾坂も真っ赤な顔で視線を泳がせ、綾坂などはわざとらしい口笛。


「お猿の綾坂! 発情してんじゃないわよ!」

 と黒耀こくようるいが綾坂を指弾。横ではマリア・綾瀬あやせ・アルテュセールが目をうるませ。

「うぅ……やっぱり。もう、そこまで仲は進んでるんだぁ……」


「ち、違うわよ」

 

 綾坂が真っ赤になって叫んだ。

 なお、丞助は完全にへたれている。対応は妹の綾坂まかせで、自身は素知らぬ素振り。春日丞助、かつて二足機パイロットを目指した好男児は、見てくれはいいが最低だ。だが、繰り返すが見てくれはいいし、挫折を知る丞助は他人へ優しい。そしてリーダ気質。

 

 ――二枚目で。

 ――優しくて。

 ――頼りがいがあるように見える。

 というのが丞助のうわつらだ。中身は推して知るべし。ヘタレだ。


「なにが違うのよお猿の綾坂。このおよんでいい訳って見苦しわよ」


「いえ、むしろアヤセ的には言い訳はしてくださいとお願いします。嘘でもです。兄妹でって不潔すぎますから」

 

 2人からの糾弾に、綾坂がウッとつまるが反撃。


「はー、なに想像してるのぉ? 不謹慎はそっちでしょ!」

 

 黒耀が、言うに事欠いて! とカッとなって綾坂へつめよった。


「はぁ? 発情メス猿がよくいうわね!」


「ほー、では問いましょう。黒耀さんはアタシと兄貴がなにをしようとしてたと思ったの?」

 

 思わぬ反撃で、黒耀には恥ずかしさが先行した怒りで頭が沸騰。

 ――なにしようとしてたって! 一つに決まってんじゃない!

 真っ赤になって沈黙。

 

 うぶな黒耀に変わって、

「き、キスしようとしてたぁ」

 と涙目でいったのはアヤセだった。しかも指をさしてだ。そのようすからは非難の色がありありと見て取れる。黒耀もアヤセに便乗、

 ――どうなの。キスしようとしてたでしょ?

 と責めるように綾坂へ迫った。

 

「そうね」

 綾坂が胸を反らして、むしろ認めた。

 黒耀とアヤセが同時に驚きの表情。

 ――前々から気づいてたけど、こうも開き直られるとムカつくわね

 ――うぅ。なにが悪いの? って開き直られると、アヤセ的には反論がないです。

 そんなふうに驚き黙り込む2人に綾坂は継ぐ。


「おでこにチュってね」


「「えぇーー!」」

 

 2人が同時に叫んでいた。


「なにを想像してたかしらないけど、これぐらい普通よ」

 

 綾坂の強弁に黒耀もアヤセも絶句。

 

 綾坂は髪の毛をかきあげた。綾坂は余裕を見せつけるつもりなのだろうが、そのさまは誰がどう見ても、

 ――苦しい言い訳を仕草でごまかした。

 というやつだ。

 けれど綾坂はさらに強弁して自己正当化。


「アタシと兄貴が、普通よりちょーっと仲いいのは認めるけどさ。黒耀ったらどんな卑猥ひわいな想像してたのぉ?」


「あ、おでこにか。それなら普通ですよね。アヤセ的にはもっと恋愛的な大人なチューとか思って。あはは、早とちりでした」


「バカいって。つごうのいいように解釈してんじゃないわよ! どう見ても丞助が、あのままこのお猿を押し倒しそうだったじゃない。私たちもう少し遅かったら、もっとぶっ飛んだ珍事を目撃だったかもしれないのよ!」

 

 けれどアヤセは、昔から丞助へ淡い恋をいだいている。加えて恋敵こいがたきが親友の綾坂だなんて認めたくないというのも昔からの思考だ。


「いやー。それはどうでしょうかぁ」

 と、白を切り、さらに、アヤセは、なんのことだか。と、かまととぶった。


「あらー。黒耀って想像たくましいのね。わたしはそんなつもりゼーロ。兄貴もでしょ!」

 

 丞助が、

 ――ブンブン。

 と青い顔でうなづいた。


「ほら! 盛りがついてるのはアンタじゃないの!」


「違う!」

 

 そう、アヤセが脱落した結果、形成は逆転していた。

 綾坂は逃げ口上こうじょうは超一級だ。

 頭脳派の黒耀は、物事を順序立てて考えるだけに言葉が遅い。対して綾坂は、考えるより先に口が動く。

 

 火花を散らし、にらみ合う綾坂と黒耀。

 

 女子3人のかしましい論争から、アヤセ1人が外れていた。

 そしてアヤセからすれば、綾坂がなにかにつけて元気いっぱいでいきり立つのは平常運転。日常の風景だ。対して黒耀は――。

 

 黒耀って外面は物静かで、おとなしい女子って感じなんですよね。内心はどうかはともかくです。クールたれって感じで、なにかにつけてしゃにかまえた態度。とアヤセが思った。

 

 アヤセから黒耀へ疑惑の視線。けれど綾坂とバトル中の黒耀は気づかない。


「アヤセ的には前々から気がついてるんですけどぉ。黒耀って丞助さんに気がありますよね?」


 不意打ちだった。

「へっ?!」

 と黒耀は全身で動揺。その顔から火が吹くような恥ずかしそうな態度に、


「ほら!」

 とアヤセが黒耀を指さした。


「ちがっ、ちがう! 丞助を好きなのはアヤセでしょ!」


「蒸気がでんばかりに顔を真赤にしていわれても、アヤセとしては説得力ゼロですがぁ?」


「あっー! ダメだかんね! 黒耀まで! アヤセも兄貴はアタシんだからね!」


 今日も綾坂、黒耀、アヤセは平常運転。いつもどおりに、裏切り、裏切られの勝者なきプチ応仁の乱に発展。

 

 そして女子3人のいい争いを、じゃっかん引き気味に丞助が眺めるのも、いつもどおりの平常運転。

 

 丞助は、そんないつも風景を目の前にして、

 ――あ、はは。止めなきゃ。

 と思うも青い顔で眺めるだけで精一杯。これもいつもどおりだ。

 

 なにせこの喧嘩の原因は、突き詰めていけば、

 ――俺になるんだよな。

 ということで、仲裁に入れば3人から集中砲火は必至。自殺行為だ。

 

 そもそも。と丞助は思う。

 ――黙っていても、最後には俺に……。

 などとようすをうかがっていると案の定。


「ちょっと兄貴にもなんかいいなさいよ!」

「そうよ。丞助がいけないでしょ!」

「丞助さん。このアヤセが正しいですよね?」


 ――ほらきた。

 丞助がから笑い。なにをどうしようと最後には丞助にすべての厄災が落ちてくる。

 

 ――俺も男だ。もうこうなったら!

 丞助は覚悟を決め、

「ふっ。モテル男はつらいぜ」

 一度はいってみたい台詞集から1つチョイス。同時に前髪をかきあげるポーズ。

 

 恋する女子3人の不満が、天譴となって丞助へ降りそそいだのだった……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それにしてもこの部屋って広いわよね~」

 というのは綾坂。イスに座って伸びをしたりと機嫌よさげだ。

 

 10分後、ブリーフィングルームは和気あいあいとした空気となっていた。

 女子3人は丞助へ怒りをぶつけ取り敢えず形をつけて不毛な争いに決着。丞助たちは、第一回作戦会議を前にした準備作業に入ろうとしていた。


「綾坂ったらおバカね。そんなに広くはないでしょ」


「えーだってアタシたち4人へ与えられた専用の作業室じゃない」


「だからなによ?」

 つっけんどんに応じる黒耀。

 

 丞助は、

 ――ほかっておくと、また喧嘩だ。

 と思い、

「3人に対して8人部屋。破格の待遇だな。俺たちの階級を考えてもな」

 と割ってい入った。


「そうよ。わかってるじゃない兄貴。宇宙船にいての空間スペースはきわめて有限的。こんな新品で専用の作業部屋。宇宙での勤務が当たり前の私からいわせれば、超がつく高待遇なんだから」

 

 黒耀へ当てつけのようにいう綾坂。

 黒耀は船務科の花形ブリッジ要員といえども宇宙での本格的な宇宙での勤務は初だ。こういったことへの認識には甘さがある。


 丞助、綾坂、黒耀の3人は正式に小惑星カサーン基地攻略のための作戦づくりを行なう、

『カサーン作戦計画班(通称:ビーハイブ班)』

 として任命されていた。


「天儀司令ってあれでいて気づかい多いよねぇ。この部屋の使用登録にアヤセも加えてくれてるでしょ」


「そりゃあ。このアヤセがいなければ作戦書の正式な形がわかりませんから。修正点を正式な書類に反映するのは秘書官ですよ」


 丞助が一同を見渡し、

「さて始めるか。まずは天童愛さんから指摘された点の修正だ」

 4人は作業に取り掛かったのだった――。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 2時間後――。

 

 綾坂が、

「つっかれたー」

 といって両手を伸ばして机へばたり。音をあげた。

 

 丞助が、

「あとは図の修正だけだし最悪の場合でも俺一人でもできる。今日は終わりにしよう」

 今日の作業は終了を宣言。

 

 そのまま夕食までの時間つぶしの雑談へ。

 4人の手には飲料のパック。

 

 紅茶のパックを手にした黒耀が、

天儀てんぎ司令って天童愛てんどうあいさんへどうしてあんなに甘いのかしら?」

 という話題。同時に他の面々が、

 ――あー、それね。

 という表情。他の3人も同じ問題意識があったのだ。


「天儀司令って元帥げんすいでしょ?」


「あら、綾坂でも知ってるのね」


「そりゃあねぇ。で、天童愛さんは中将でしょ。二階級差じゃない」


「将官という階層での二階級は、私たちの内での階級差とは隔絶よ。だいたい元帥なんて現役がなるもんじゃないわよ」

 

 軍だけでなく、どんな組織も上に行けば行くほど人数が多いなどという組織構造などありえない。


「で、愛さんの態度って不味いんじゃって私はたまに思うのだけれど」


「なるほどねー。わたしたちから見た天儀司令って鷹揚おうようで、たよれる先輩ってかんじで、部下の言動に細かく口を差し挟まないけど」

 と綾坂がいうと、アヤセが、

「規律が乱れないかが、黒耀には心配なわけですね」

 と継いだ。


「私ね。ブリッジだと愛さんがよく天儀司令にお小言をいってるのを見るわ。あれって見せられるほうは戸惑うのよね」

 

 アヤセが、わかるかも。という顔をした。秘書官のアヤセにもブリッジ当番の日がある。そんなときに、見かけるのだ。


「甘いといえば鹿島かしまさんにもだよね」


「いえ、アヤセ的には鹿島さんに甘いには当然かと。殺人的な仕事量ですよ」


「あー、前にもアヤセいってたね。鹿島さんは寝てないんじゃないかって」

 

 そういえば。と黒耀がいってから、

「ブリッジで独自に作った作戦案を天儀司令に〝見てください作っちゃいました〟ってニコニコ顔で提出してるのよく見るわね」

 半分あきれいった。


「マジ?」

 綾坂が青い顔で問い返すと、

「マジよ」

 と黒耀も信じられないけどというふんいきで応じた。

 

 2人につづいて丞助もコーヒー牛乳のパック片手に、

 ――マジかよ。

 と顔を青くして思った。

 

 今回、3人は実際に作戦づくりにたずさわってみて、その作業がいかに大変か肌で理解できた。それを秘書官の鹿島容子かしまようこは、

 ――定期的に作戦案を提出。

 とは3人からすれば驚きだ。

 ここに、

 ――戦隊の主計管理を完璧にこなしながら。

 と附則つけば3人は「さすが主計部の至宝」と思うしかなく。

「アハハ。鹿島さんが大目に見られてるのは当然かも」

 綾坂が代表して思いを述べた。


「そうなるとやっぱり目立つのは天童愛さんよ」

 

 黒耀が紅茶のパックのストローを口に運びながら話題を戻した。

 

 丞助と綾坂、そして黒耀が同時に、

 ――絶対零度のブリザードを顔面にうけ、雪に埋もれる司令天儀。

 という姿を想像し部屋には苦い空気。


 ブリッジで天童愛の小言をあびるときの天儀は一方的なやられようだ。というのはブリッジ勤務のない丞助と綾坂にも想像にかたくない。

 

 そんな部屋にとつじょ4人以外の声。

 

「だそうだ天童作戦参与。もう少し俺に優しくしてくれてもいいのではないか?」


「バカおっしゃって。天儀司令がルーズ。これがいけませんね。まずはご自身の行動をおあらためになってください」

 

 瞬間、4人が、

 ――ガタガタ!

 という音とともに立ちあがり敬礼。

 

 敬礼する4人は特大級の気まずさ、

 ――聞かれてた!

 と青くなるしかない。

 

 この小さな部屋に天儀と天童愛が入ってきたのに気づかなかった。ありえない事態の理由はすぐに理解できた。

 

 ――扉が開いていたのだ。

 先程こうして休憩に入る前に飲み物のパックを買いにでて戻ったときだ。

 

 綾坂は、

 ――バカ兄貴! ちゃんと閉めなさいよ!

 と思い。黒耀も、

 ――丞助が最後に入ったでしょ! なにやってんのよ!

 と、にらみ。アヤセは、

 ――丞助さんしっかりしてくださいよ!

 非難の目。

 

 丞助は、

 ――そんな俺のせいかよー!

 と悲痛。愛さんの噂話をしてたのは2人だろ。と女子3人から向けられた理不尽に抗弁したいができるはずもなく。

 

 丞助は代表して、

「どうしてここへ……」

 と引きつった笑いで問いかけた。


「彼女が君たちのことが、どうしても心配だというからな。時間があったので様子を見にきたのさ」

 

 天儀が天童愛をクイッとあごで指していった。

 丞助たちの視線が天童愛へ。

 ――本当に?

 という視線だ。

 

 4人からして、お友だちとはいえあの天童愛が自分たちのことを心配してくれたというのはにわかに信じがたい。四人のなかの不等号は、

――天童愛>天儀。

 たんに天儀司令が様子を見に行くついでに天童愛さんを誘ったのでは、というものだ。それに天儀は頼れる先輩風の司令官だ。心配して見にくることはありえそうだ。

 

 が、天童愛が否定も肯定もせず、恥ずかしそうにプイッとそっぽを向いた。

 ――あ、事実か。

 と4人は同時に思うと同時に嬉しくもなった

 いまの天童愛の見せた態度は明らかに照れ隠しだ。


 だがそれだけに4人は気まずい。

 心配してくれた天童愛へ、丞助たちがやっていたことといえば、

 ――天童愛の噂話。

 それも天儀司令への態度が不敬ではという。

 

 ひいてはそれは天童愛への不敬なわけで。3人には、

 ――天儀司令は私たち・俺たちを叱責するだろうな。

 という嫌な予感しかない。

 

 けれど天儀といえば、

「天童愛と鹿島容子かしまようこは特戦隊の両輪。どちらが欠けても特戦隊はまっすぐには進まない」

 といって笑った。


 天儀からいわせれば特戦隊は、天童愛が麾下の艦艇を管理し、鹿島容子が雑務の一切を取り仕切る。という両輪で成り立っている。

 

 これを天儀流に言い換えれば、

 ――特戦隊は二頭立ての馬車。

 ということだ。

 俺はこの二頭の馬を上手く御して走る必要がある。と天儀は思う。

 

 このためには天童愛と鹿島容子から絶対的な信望を得ておくことは妥協できない絶対条件。

 

 ――たとえへりくだってでも信頼を得る。

 という決意と信念。それで戦隊全体の士気が低下すれば問題だが、そうでなければ何だってするというのが天儀の覚悟だ。

 

 そんなことを思った天儀が笑いつついう。


「俺を氷漬けにすることで彼女が気持ちよく働けるなら甘んじてうけるさ」


「あら、マゾですこと」

 

 天童愛がツンとしていった。

 天儀が笑貌しょうぼうを見せた。

 瞬間、丞助、綾坂、黒耀の3人は天儀の度量の大きさを感じた。不思議だったが、理由は何となくわかる。

 

 ――天儀司令が愛さんを呑んでしまっているわね。

 と黒耀は思い。綾坂とアヤセも、

 ――これって天儀司令と愛さんだと天儀司令が完全に上だよね。

 天儀を尊敬の目で見た。

 

 なお丞助1人が、

 ――うらやましい。俺もああなりたい。

 という羨望せんぼうの眼差し。

 

 丞助は妹の綾坂だけでなく、黒耀にもアヤセにも頭を押さえつけられてばかりだ。


「あら、これではわたくしがわがまま娘みたいじゃないかしら」

 

 天童愛が冗談をいうと、場に笑いが起こったのだった。

*次回の更新は11/23(木)か11/25(土)の予定です。


・カサーン作戦計画班(通称:ビーハイブ班)

 小惑星カサーンにある基地攻略の計画を立てる班。班員は班長の春日丞助かすがじょうすけ、そして春日綾坂、黒耀るい、マリア・綾瀬あやせ・アルテュセールの4人。

 ビーハイブは蜂の巣。

 ヒット・ア・ビーハイブ(蜂を叩く)。天儀がカサーン基地を蜂の巣に例えたことからこの名称が採用。

 

 作戦の正式名は『小惑星カサーン基地攻略作戦』。非匿名ひとくめいは『ビーハイブ』。このことから同作戦は『ビーハイブ作戦』と呼ばれる。

 特戦隊内では「カサーン作戦」、「カサーン攻略作戦」。

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