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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
十二章、カサーンへ向けて!
77/189

12-(3) フレンズ

黒耀こくよう、筆頭秘書官の鹿島かしまさんから連絡あった?」


「ええ、アンタと2人いっしょにブリッジへですってね。綾坂あやさかにもあったのね」


 綾坂が自信ありげにうなづいていう。

「ついに今日、白黒つくわよ。覚悟しなさい」


「ま、この黒耀の作戦案が採用でしょうけどね」

 

 女子2人の視線がぶつかり火花が散った。

 そしてどちらともなくブリッジへと歩みだしたのだった――。


 春日綾坂かすがあやさかと黒耀るいの2人は揃って陸奥改むつブリッジへでむいた。

 2人は司令天儀(てんぎ)への敬礼を終えると、緊張の面持ちのまま司令天儀のデスクへ向かって作戦案のデータを送信。

 

 天儀はさっそく提出された作戦案の確認を開始した。

 

 2人にとって緊張の瞬間だ。

 綾坂も黒耀も目の前で作戦案に目をとおす天儀に目が釘づけ。ゴクリとつばを飲む。

 2人の目に映る天儀は無言。表情にもこれといった変化はない。

 

 天儀はまず綾坂へ目を向け、

「綾坂、やはり意外な才能を示したな」

 と、いった。

 

 瞬間、黒耀の顔には焦りの色。天儀の口からでた言葉はどう考えても綾坂の作戦案への肯定的な評価だ。

 

 けれど司令天儀は次の瞬間には、

「この作戦の大筋は悪くない。ただもっと煮つめろ。これでは実行は無理だ」

 と続けた。

 

 とたんに黒耀はフフンという喜色とともに綾坂へ、

 ――そらみなさい。

 という見下げた視線。素人が作戦つくろうだなんて身のほど知らずなんですよといわんばかりだ。

 

 ――なによアンタも素人でしょ!

 とムッとする綾坂は、にらみ返すことで応戦。


「で、黒耀。君の作戦だが」

 

 黒耀が慌てて居住まいを正す。


「非常に高いレベルにはあるが、君はもっと具体性のある作戦に修正しなおせ。一言でいえばこの作戦は複雑怪奇ふくざつかいきに過ぎる」


 今度は綾坂が口元に手をやり、

 ――ぷークスクス。

 というような擬音が聞こえそうな顔で黒耀を煽った。

 

 黒耀は思わず、なんですかお猿のくせに! と叫びそうになるも、なんとか感情を抑えきり、苦い顔でそっぽを向くしかない。

 

 ここで叫び声でもあげれば負けを認めるようなもの。それに場所はブリッジ。聴衆がいるなかで挑発にのっては恥ずかしいというものだ。

 

 ――腹立たしいですけどここは辛抱ね。

 と黒耀は自重。そう彼女はブリッジの通信オペレーター。ブリッジで醜態しゅうたいをさらすと仕事がしにくい。

 

 天儀はそんな2人を交互に見てから怒るどころか笑って、

「やはり仲がいいな」

 と一言。


「全然、黒耀とは腐れ縁です」

 そっぽを向く綾坂に、

「無神経、ガサツ、わがまま。お猿の綾坂さんは見てて飽きませんから」

 黒耀がチクリと刺したからさあ大変。お互いの髪の毛を引っ張らんばかりのにらみ合い。

 

「なによそれ!」


「ほんとのことじゃない!」

 

 そこへ天儀が、

「2人とも作戦案は修正して再提出。あれぐらいにはなれ」

 と重くいってあごでしゃくった。

 

 あごでしゃくった先には天童愛てんどうあい

 黒耀と綾坂の視線が、粛々(しゅくしゅく)と作業をする天童愛へとそそがれる。

 2人の目に映るは深雪の美女。


 綾坂も黒耀も身にキュッとした緊張感を覚え、

「旧星間連合軍の第五艦隊司令官――」

 そう同時に思った。


 ――もと150隻規模の艦隊の司令官って……私たちと比べれば天上人てんじょうびとじゃない。

 

 ――確かにあれぐらいになれば参謀本部には確実に入れるわね。

 

 綾坂も黒耀も先程までのいがみ合いなど忘れて真剣な顔。ゴクリとつばを飲んだ。


 一方の見られている天童愛といえば――。

「戦うといって戦場へと急行したわりにずいぶんと暇ね」

 と目の前の操作卓コンソールに目を落とし作業中。

 

 特戦隊は真っ黒な宇宙を進みながらも訓練、訓練で、また訓練。事件といえば足柄京子あしがらきょうこの件ぐらいだ。狼の足柄は小動物の鹿島かしまをいたぶって楽しもうとしていた。それも天童愛のひとにらみで解決。

 

 あの方ったら。と天童愛が心中で苦笑。

 わたくしちょっと見ただけなのに、ずいぶんと驚いて青い顔でしたこと。そんなに怖かったかしら?

 

 そんなことを思う天童愛のコンソールには健常なネットワーク状況と平穏な仮想空間。システム保護に問題なしだ。

 

 天童愛の陸奥改での仕事はもっぱらブリッジ責任者と電子戦要員として仮想空間の監視。そしてあともう一つ重要、いや大人気の仕事が一つ。

 

 特戦隊の隊員たちへの訓辞だ。

 

 天童愛は攻勢最強。この若さで歴戦し、名将のかんむりが相応しいというのが天童愛の一面でもある。

 

 発端は天儀から、

「隊員たちから天童愛の戦術講義が聞きたいという要望が多い。悪いが一度やってくれ」

 頼まれたのが始まりだ。

 

 それはちょっと。と、渋る天童愛に天儀は、

「じゃあ訓示でいい。適当に喋って満足させてくれ」

 と指示。それでも渋る天童愛。


「ご自分でおやりになれば?」


「〝天童愛に〟という要望だ。俺がしゃしゃり出てみろ大ブーイングだ」

 

 天儀が乱暴にいって決定。

 

 翌日、戦隊内のネットワークに、

> 天童愛(作戦参与)による訓辞

> 参加希望者は某日某時間までに艦内事務まで申請のこと

 とでると――。


「天童愛将軍の訓示だって!」

 と大好評。申込みが殺到。1回だけのつもりが、その日だけでも3回。定期的に深雪の美女の訓辞の会ともいえるイベントが模様されるようになっていた。

 

 悲しいかな骨のずいまで兵士の天童愛。戦いについて喋りだすと止まらなかった。


 天童愛は操作卓コンソールに目を落としながら、

「戦闘はもちろんなく、作戦づくりも命じられず。これでは肩すかしですね」

 とも思い。フフッと笑う。

 

 そう特戦隊にきてからの天童愛は、けして口にはできないけれどずいぶんと暇だ。


「けれど――。なぜか悪い気はしません」


 陸奥改でのゆとりは天童愛に先の戦争の喧騒を、もうずいぶんと遠い昔のことのように感じさせていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 綾坂と黒耀はブリッジをあとにするとさっそく資料室へ。

 2人はこれから作戦案の練り直しだ。

 

「作り直せかー」

 と綾坂がいうと、

「あら、作り直すのは綾坂だけでしょ」

 そう黒耀がすまして応じた。


「え?」


「私は〝修正しろ〟っていわれたわ」


「あ、わたしも!」

 

 自身の勘違いに慌てる綾坂に黒耀はあきれて嘆息だ。


「ほんと話聞いてないのね」


「あはは、天童愛さんに見とれちゃってついね」


「ま、わからないでもないわね。でも天儀司令ったら天童愛あれぐらいになれって」


「なっちゃったら歴史に名を残せるレベルね」

 

 2人は同時に笑うともう資料室が目の前だった。


 陸奥改の資料室――。

 15分後――。

 資料室には向かい合って座る綾坂と黒耀。

 

 そこへ2名があらわれた。

 

 1人はマリア・綾瀬あやせ・アルテュセール。

 そしてもう1人は春日丞助かすがじょうすけ

 

 黒耀が連れ立って資料室へあらわれた2人へ、

「あら、そうやって並ぶと付き合ってるみたいね。お似合いじゃない」

 と軽口すると、2人はとたんに耳まで真っ赤。

 

 ――あらやっぱりアヤセって丞助に気があるのね。

 黒耀があきれた。


 丞助は陸奥改の厨房ちゅうぼうで働く調理師ちょうりし。黒髪にそれなりの身長に、すらりとした体型。さすが元パイロット志望。キリリとした二枚目だ。制服を着崩し腕まくりしている姿もきまっている。


 そしてアヤセは軽く読モはこなせそうなスタイル。秘書官だけあって身だしなみもきちんとしておりよそおいには隙きがない。

 2人が並ぶとまるで美男美女のカップルだ。


 だが赤くなって照れる2人を目の前にして黙っていられないのが綾坂だ。

 

 綾坂は、

「なに赤くなってるのバカ兄貴!」

 と真っ赤になって怒鳴り、返す刀で、

「黒耀もバカいってんじゃないの!」

 と怒鳴った。

 

 黒耀は怒鳴られても覚めた目でため息一つ。

 ――ほら、これがいるから丞助とお付き合いなんて無理よ。

 そんなことを思う黒耀の前では。


「ごめんねアヤセ。バカ兄貴の彼女だなんていやでしょ」


「いえ、そんな」


 アヤセはなんともいえないという顔だ。

 ――はぁ、アホらし。

 黒耀がムスッとした思いをかかえるなか丞助とアヤセも着席。

 

 丞助が、

「で、作戦案は天儀司令にはどういわれた?」

 と切りだした。


「ダメでしたね。私も綾坂のもね」


「でーも見込みありともいわれたわよ」

 

 アヤセがもったいぶる2人へ、

「え、それって採用されたの、されなかったの?」

 といって答えを迫った。


「修正して再提出ですって、綾坂の作戦は修正どころじゃすみそうにないと思いますけどね」


「なるほどな。だから俺たち呼んで、4人で話し合いか」


「そうよ。さしずめ作戦案づくりの作戦会議。兄貴もちょっとは役立ってよね」


「はぁ。役立ってるだろ。そもそも誤字脱字の最終チェックしたのは俺だ」


「でさ兄貴。私の作戦、天儀司令に煮つめろっていわれたのよ。どう言う意味だと思う」

 

 妹の唐突に丞助は困惑。

 ――なにいってんだこいつは。

 と、いう思いが口にはでないが顔にでた。

 

 綾坂はとたんにカッチーン! ときて怒り心頭。


「兄貴って調理師でしょ。煮つめてよ私の作戦! 可愛い妹のお願いよ。早くやりなさいよ!」


「はぁ、物理的に煮つめて作戦が良くなるなら、作戦は参謀本部じゃなく食膳係しょくぜんがかりへ任せておけばいいんじゃないかしら」

 

 黒耀があきれていうと、綾坂がムカッとしてにらみつけた。


「私だってそんなことわかってるわよ。けどね。完璧と思って提出して、全否定でないまでも、ひと目見ただけであっさり直せっていわれたのよ。どこが悪いかわけわかなんないわよ」


「あーら、わかんないの? あいかわらずお猿の脳みそね」


「じゃあアンタ、あれでなにが悪いかわかったの?」


 黒耀が視線を反らして無視。

 

 ――結局アンタもわかってないんじゃない!

 そもそも綾坂と黒耀が、とアヤセに声かけたのは、4人で話し合えば問題点がわかるかもというのが理由だ。

 

 そんなことを思いだした綾坂は、黒曜の態度に腹立ちがおさまらない。


「あんたの作戦案も兄貴に調理してもらったらぁ。三日三晩煮込んで骨だけにすれば現実的な作戦になるかもしれないわよ?」

 

 黒耀は無視で対抗。相手にしていられないばかりにツンとした表情で、綾坂の挑発にも応じず黙々と自身の携帯端末を操作。丞助とアヤセの2人に自分の作戦案を転送する。


 一方の無視された綾坂といえば、背筋を伸ばし、しかめつらを作り、左手で胸の高さまで携帯端末を持ちあげた。

 先程のブリッジでの天儀の真似だ。


「黒耀、具体性のある作戦へ修正し直せ」

 

 綾坂が男声を作っていうと、無視を決め込んでいた黒耀のこめかみがイラリとピクリと動いた。

 

 丞助とアヤセにも、なぜかそれが天儀司令のものまねだとつたわり、2人が思わず吹きだした。


「具体性がないって、実行不可能ってことでしょ。かなり下げた評価じゃないのこれ」

 

 黒耀がガタッと立ちあがり、

「はあぁ?? あんたもダメ出しされてたじゃない。そこの男に煮つめてもらえって、早く調理場にでも行って煮てもらいなさいよ!」

 丞助を指さしいった。堪えていただけに黒耀の言葉は止まらない。


「いつものようにお兄ちゃーんって甘えなさいよ。ばーか、ばーか!」

 

 幼稚だが呵責かしゃくない反撃に綾坂は真っ赤、

「な、な、な」

 とまともに声もでない。

 

 丞助は右手で顔をおおって恥ずかしそうにうつむくしかなく。

 普段2人を仲裁するアヤセは、もう止めるのも面倒くさいとため息だ。

 

 参謀本部志望の黒耀は今回かなり入れ込んで、作戦案を練りに練って提出した。

 

 それを司令天儀は綾坂の作戦案とさほど変わらない時間で確認し終えていた。黒耀には自分の作戦案が綾坂のそれと似たような評価をされたというのがよくわかって悔しかった。

 

 ――悪い点がわかんないのは綾坂だけじゃないのよ!

 というのが黒耀の心の叫び。


 だけどね参謀本部志望の私にはプライドがあるの。それに綾坂がみっともなくお兄ちゃ~んって丞助に泣きつくから私が困ってるっていえないじゃない!

 

 綾坂と黒耀はガタッと同時に立ちあがりにらみ合うと。


「いったわね。じゃあ煮てもらいましょうよ」


「ええ、いいわよ。2人いっしょに作戦案を煮込んでもらいましょうか」

 

 ヒートアップする2人に、

「あの厨房には、衛生上の問題から許可がないと入れませんよ」

 アヤセが引き気味に仲裁。このままほかっておくと、とんでもないことになりそうだ。


「だから兄貴にやってもらうのよ。なんのための調理師の特技兵よ。役立ちなさいよ妹のために!」


「そうね。作戦案の完成に調理師の特技兵が役立つなんてないわよ。丞助も喜んで煮てくれるわ!」

 

 アヤセの仲裁は逆効果。ますます燃え上がる2人に。アヤセはアハハと笑顔を引きつらせて硬直。

 

 興奮した2人が、

「「早く煮なさいよ!!」」

 と、丞助へ迫った。

 

 けれど丞助はいきり立つ2人へ向け伏し目がちに、

「やめてくれ」

 と絞りだすように口にする。まるで頭を抱えんばかり。

 

 丞助は年下の女2人の勝手なものいいに怒ってはいない。ただ勘弁してくれというものがにじみでいる。弱々しいく悲惨だ。

 

 これではキリリとした二枚目もだいなし優柔不断な頼れない男。リーダーシップもかけらもなくデートでもリードなんてとても望めないお子さま。

 

 綾坂も黒耀も言い過ぎたとは思っても、

「かわいそう助けてあげなきゃ」

 なんてキュンとくるわけもなく。丞助にひそかにあこがれるアヤセも見たくないものを見たという感じだ。

 

 そう3人の男性対する感性は一般的な若年の女性のそれだ。

 

 ――あいかわらず残念な二枚目。見事なヘタレぶりね。

 ――兄貴って情けないったら。

 ――丞助さん。そんな態度だから綾坂に迫られるのを断れないんですよ。


 一般論として男女が組めばおのずと女性は男性にリードを求める。男が体格と体力に優れるからだ。まさかと思うかもしれないが、なにごとにつけても物事の決定権は力がものをいう。力の指標の最小単位は膂力りょりょくだ。男女で比べれば残念ながら男が強い。

 

 そして一般的に女性が男性に求める要素に「気づかい」というのがあるが、これには「たよれる男」という要素もふくまれる。デートで歩調も合わせず勝手にスタスタと歩いて行かれては幻滅だが、デートコースもまともに組めず行き先も決まらない、小さなアクシデントの対応にもまずさを見せれば大きく減点、サヨウナラというものだ。一日の別れ際には、今日は楽しかったよ。またね。と作った笑顔。二度目はない。


 まさに頼れない男の典型の丞助に、綾坂と黒曜には苦い顔。そしてアヤセまで幻滅の顔。


「綾坂はパイロット。アヤセは主力艦の主計長ができる一等秘書官。黒耀は士官学校でたブリッジ要員で、将来は艦内で船務科を取りまとめる立場になる」


「だからなによ兄貴」

 

 綾坂が幻滅する女子3人を代表して応じた。


「対して俺はたんなる調理師。最下層。悲惨だ。いや不幸だ。最低だ。情けない」


 パイロットの綾坂、秘書官のアヤセ、ブリッジ勤務の黒耀。どれも人にいって恥ずかしいものではない。パイロット、秘書官は言わずもがな。通信オペレーターというブリッジ勤務もグレードの高い職種だ。

 

 対して調理師はどうか。職業に貴賎きせんなしといっても現実は非情である。確かにけして恥ずかしいものではないが、艦内では完全に下っ端だ。


 そう丞助は職種でいじられるとみじめめさにさいなまれ、言い返すことができない。

 

 丞助は女子3人の無神経に、

 ――やめてくれ!

 と心中で悲痛の叫び。

 

 普段は俺にグループの取りまとめをゆだねるくせに、冗談で職種でいじったり、気に入らないと特技兵のくせにって押さえつけてくる。理不尽だろこれって!

 

 対して女子3人は。

 ――だからって無様に頭をかかえられてもね。

 ――兄貴ったら私たちそんなの気にしてないんだけど?

 ――あはは、丞助さん自信持ってくださいよ。


 綾坂は兄妹の気軽さから、なにこいつと見下げるだけ。黒耀は甘ったれの男にかける言葉はなしといった態度。こうなると残りはアヤセしかいない。

 

 アヤセは仕方なしにフォローに入る。


「ほらね。毎日美味しいお食事がいただけるのは、丞助さんのおかげなんですから」


「そういえば昨日はメロンがついてたわね。3日続けて生鮮食品なんて栄養管理課もやるじゃない。しかもメロンってランクの高い嗜好品しこうひんの部類でしょ」


「そうそう3日続けてメロンでしたね。その前はドライフルーツでしたけど」

 

 黒耀がスタイルのいい美人2人の言葉に、

「え――」

 という擬音がぴったりの顔。


 黒耀の配膳には、そんなものはなかった。

 

 綾坂のものいいとアヤセの応じ方だと、何を注文しても、ついてくる特別枠的な一品に聞こえるんだけれど? と黒曜は動揺。

 

 綾坂は、この黒耀の「え、メロンなんてなかったんだけど?」という反応を見逃さない。にんまりと笑い。


「あ、黒耀さんには、なかったのかしら。ごめんなさいねぇ」


「あら、いいのよ。たーんと食べてブクブク太ってくださいねぇ」

 

 綾坂は女性としては背が高くスタイルもよい。同じくスタイルの良いアヤセ。綾坂とアヤセの2人が並んで歩くと華があった。2人は陸奥改の艦内ではちょっとした注目を集めている。

 

 対して口元のホクロは目を引くが、特段に容姿に優れてるわけではなく、2人と比べれば十人並みの黒耀。メロンの差はこれだった。


「お前らは目立つからな。厨房でもよく話題になってる。調理中の話題の一つは綾坂派とアヤセ派の論争だよ」

 

 綾坂はへーっと悪い気はしないという顔。アヤセは照れ顔。

 

「でも思うのよね。美人でいいなら鹿島さんや、天童愛さんもそうじゃない。なぜにわたしやアヤセ?」


「そうねぇ。天童さんの髪の真っ黒な毛、水もしたたるようで綺麗よねぇ」

 アヤセが手を前に組んでうっとりといった。


「かたや主計部秘書課、しかも主計学校主席卒。将来の主計総監しゅけいそうかん。かたや海賊討伐の実行部隊を率いたうえに、星間戦争の名将。2人とも高嶺の花。特技兵の俺たちにどうしろと……」


「なるほど、まだ手が届きそうって意味で私たちなわけね」

 

 こんな話題に黒耀は完全に蚊帳かやの外。

 ――別にモテたいてわけじゃないけれど。

 と黒耀は不機嫌のかたまり、

「軍人は容姿じゃないのよ。やめてくださらない。そういったさかりのついた下品な話は」

 そうピシャリというとノート型の端末に目を落とし作戦案の修正を開始。


 綾坂も小気味よさげに、フフンと笑ってから作業を開始。丞助とアヤセも2人の作戦案に目を通し始めた。


 司令天儀のいう修正すべき点はどこか。4人は洗い出しから始めなければならない。


 そして30分後――。

 丞助、綾坂、黒耀、アヤセの四人はそれぞれの思う点のピックアップを完了。

 

「黒耀はまず人に読んでもらうって気あるの。というか一々行動への細かい説明って必要なの。読んでそんした気分になるんだけど」


「あら、綾坂のは行動への行動付けと、所要時間がところどころ抜けてるんですけど。お猿がお腹が空いたからバナナに手をのばすような組み立てじゃないこれ」

 

 綾坂と黒耀は、お互い相手の問題点を手厳しく批判。感情的で話にならない。

 アヤセは気づきはしても2人へ気を使ってなかなか口にはできない。

 こんな状況でまともに意見がいえるのは丞助だけだ。

 

 丞助が冷静に口を開いた。


「綾坂の作戦案は間隙かんげきが多いって印象だな」


「え、どいうことよ兄貴?」


「えっとな。作戦は単純なほどいいが、行動と行動のつなぎにまったく説明がない。ひどいと突然、目標の攻略が完了している。これはどうなんだ?」


 綾坂は兄の冷静な指摘にぐうの音もでない。

 続いて丞助は黒耀へ目をむけた。

 

 黒耀は身構える。丞助はヘタレていなければキリリとした二枚目。堅物の黒耀でも見つめられるとドキリとする。いや堅物のだからこそ、二枚目の何気ない行動に弱い。

 

「対して黒耀の作戦案は細かすぎるな。読むのも大変だ。それに二足機の発進の仕方なんて記入する必要はないんじゃないか」


「ま、さすが元二足機パイロット志望だけありますね」

 

 丞助は動揺ぎみの黒耀へ冷静に、

「悪いけどそうだ」

 と、はっきりといった。


「俺は元々が二足機乗りだっただけに二足機隊の行動部分は特に目につくんだ。そんな元二足機パイロットの視点で悪いが、黒耀のは二足機の行動プランだけ見ても煩雑はんざつな行動が多いと思う」


 黒耀がシュンとしてうなづいた。


「つまりだ。綾坂の案は穴だらけ。黒耀の案は詰め込みすぎ」

 

 丞助はいった瞬間に、

 ――あれこれって?

 と思い、

「2人で作戦案を考えるというのではだめなのか?」

 気づくと思いついたままに口にしていた。

「なるほどアヤセ的にはも、それは思いました。それぞれ良いところがあり、悪いところがある。これですね」


「そう思うんだよ。2人の案を折衷せっちゅうすればより良い物ができそうじゃないか?」


「あ、でも天儀司令は、わざわざ綾坂と黒耀の2人別々に作戦を立てるようにいったんですよね? じゃあダメなんじゃ」


「そうか……」

 と丞助は一考してから、

「アヤセは天儀司令の秘書官だろ。なにかヒントになりそうなことはないのか。天儀司令お性向とか、性格的なものもこのさい考慮して作戦案を作るべきだと思う。そうすれば全体の印象もよくなるだろ?」

 といった。


「残念。秘書官といっても司令官周りの仕事は、ほとんど鹿島さんがこなすから私は天儀司令と話すことなんてほとんどないです」


「そうか――」

 

 ついに案がなくなった丞助が黙考。

 

 丞助が黙れば場には沈黙とは行かないのがこの4人。

 花の乙女に沈黙は苦痛。

 考えこむ丞助の横に、綾坂と黒耀がまたいい争いを開始。


「アンタね。この作戦忙しすぎるのよ。例えばほらここの戦術機隊つかった橋頭堡きょうとうほの確保。これわたしの所属する戦術機隊でこんなことやれっていっても無理よ」


「あーら、それは綾坂さんのレベルが低くて隊の足を引っ張ってるだけでなくて」


「違うわよ。こんな作戦、第四次星間戦争に参加した主力の戦術機隊だって難しいわよ」

 

 アヤセが見かね仲裁に入るが綾坂と黒耀はさらにヒートアップ。

 

 ついには――、

「もう! なんで2人はそうなの! 毎回、毎回、私が間に入って気をつかって。アヤセ的には最低ですがぁ?」

 アヤセも参戦。2人の戦いは3すくみの巴戦に発展だ。


 この様子を眺めるのは完全に3人から存在を忘れられた感のある丞助。

 

 ――まただ。

 と丞助は思った。

 

 2人に押されて仲裁役が多いけど、アヤセあれでいてわがまま。俺と2人でいるときのアヤセって姫って感じなんだよな。私はね。アヤセ的にはね。と自分の話ばかり。ま、いいんだけど。でもさ、さんざんサービスさせて、手も握らせないって俺としては残念だよ。やっぱ調理師はアウトオブ眼中ってことだろ。チクショウ。

 

 そんなことを思う丞助がため息一つ。

 

 丞助の眺める先には女子3人の喧騒けんそう

 

 ――うんで、これで三国鼎立とはいかないんだよなぁ。

 と丞助は眺めるだけだ。ここに仲裁とばかりに自分が加わると3人から集中砲火をうけフルボッコ。これを幾度となく経験している。

 

「あら、アヤセ。アンタだって席の座り順とか絶対に譲らないじゃない。私たちがどれだけ気をつかってることか。気づいてないと思ってるの? 綾坂がいないとそこのヘタレの丞助の隣に毎回ちゃっかりおさまるじゃない」


「あー! 黒耀そのいいかた酷い! アヤセは実際自分ファーストなとこちょいちょいあるけどさ。誰だって自分大好きなのは当たり前でしょ!」


 綾坂がフォローか微妙な論調でアヤセの肩を持つ。


「黒耀は丞助さんに興味ないんでしょ。だったら私が丞助さんの隣でもいいじゃないですか。それとも黒耀も丞助に気があるの? ならいってよ。交代制にしてあげますから!」


「そうはいってない! それにアヤセは私の参謀本部の夢。やめろっていうし。お友だちなら応援してよ!」

「無謀な夢を止めるってお友だちとしての当然の務めです! アヤセは間違ってませんから」


「あー! アヤセ。兄貴を狙ってるの?! 絶対ダメだかんね!」

 

 2人がくっつき1人を攻撃したと思ったら、次は同盟していた2人がいい争い。手を組んだかと思ったら、同盟者をあっさり切り捨て敵へ加担。そんなこんなで3人の争いは離合集散りごうしゅうさんを繰り返しまさにプチ応仁の乱。勝利者不在の戦いへと進んでいき、愚かさが愚かさを呼んで収集がつかない。


 丞助は綾坂と黒耀、アヤセを順に見てから、

「お前らまたじゃれあって、本当に仲がいいな」

 と溜息混じりにいった。

 

 そうすると3人は、

「「「仲なんて良くない。『兄貴・丞助・丞助さん』は黙ってて!!!」」」

 と同時に叫んだ。

 

 息もぴったり。

 丞助がたまらず腹を抱えるように笑っていた。

 

 丞助の大笑いに綾坂も黒耀も、そしてアヤセも毒気を抜かれ冷静に。

 3人は我に返って恥ずかしそうな顔をしてから作戦案づくりへ。資料室には静けさ戻ったのだった。

*調理師といっても丞助は民間人ではなく、栄養管理課の配給・食膳係しょくぜんがかりの軍人。栄養管理課は、補給全般を管理する経理局の下にある部署。

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