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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
二章、真のシナリオ
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2-(1) ランス・ノールの選択

 広大な宇宙にきらめく星々。

 ここは星間一号線と第四星系の間に位置する宙域。

 ここではランス・ノール率いる遊撃群ゆうげきぐん2個艦隊の約300隻も小さな光の点でしかない。


「星間一号線で、星間連合艦隊は敗北!」

 という報せが、第三艦隊旗艦マサカツアカツのブリッジにもたらさていた。


 この一報にランス・ノールは思わず、

 きた――。

 と座席から腰を浮かしそうになった。


 望外の理想的決着。


 ランス・ノールは、一大宇宙会戦の勝敗の予想は星間連合軍勝利であり、

 ――つまりこれをくつがえして勝ったグランダ軍も無事ではない!

 と断定。興奮覚え、ふわふわと浮いた感覚にとらわれた。


 一方、ブリッジ内はこの報せに騒然し、艦内全体に波及してゆき、ついには遊撃群全体が蕩揺とうよう


 ランス・ノールの横に座るシャンテルの顔も青い。


 だが、この蕩揺は敗北を知っての絶望ではなく、

「まだ戦っていないのに負けというのは納得がいかない」

 という承服しかねるという悔しさ。


 戦っていないのにこのまま降伏か、馬鹿らしい。そんな空気すらある。


 ――本当に負けたのか。信じられない。だがこれは天啓だ。

 ランス・ノールは自軍の敗北に、トゥルーエンドへのシナリオを選択するようにと背中を押されたとすら感じた。となれば決断だ。こうなるとランス・ノールは早い。

 

 が、ランス・ノールが決断を音にしてだす前に、

 

「司令長官天童正宗(てんどうまさむね)の発で、武装解除と投降するようにとの指令がでていますが」

 通信オペレーターからの言葉に行動をさえぎられた。


 いかがいたしますか?というような通信オペレーターからの不明瞭な報告。


 普段のランス・ノールなら、

「が、だと?が、とはなんだ?明確に報告にしろ!」

 と修正を加えるところだが、あえて放置。


 そしてブリッジにはやはり、このまま降伏か――。という白けた空気がただよっている。

 

 ランス・ノールは、なるほど敗北での動揺をとは、つまり降伏への不満か。と部下たちの心情を分析。

 ランス・ノールは、これはむしろつごうがいい。とすら思い、


「発、遊撃群司令ランス・ノール。宛、遊撃群の全艦艇へ映像通信を開け。司令部放送をやる」

 通信オペレーターへ指示をだした。


 敗北で動揺する艦隊へ、すぐさま艦隊の方針を示し行動を開始する。いまなら立て続けに明確な方針を示し、仕事を与えれば部下たちの心を掌握できる。そう敗北で動揺し心が宙に浮いているようないまが逆にチャンス。心の隙きにつけ入ることが可能。

 

 ランス・ノールが指示してから3分。


「全艦艇へ通信開通。音声、映像ともにいつでも転送できます」

 という通信オペレーターの報告に、ランス・ノールが、


「司令部放送を開始する」

 と宣言。


 ブリッジには、

「放送開始10秒前、9,8,7――」

 という通信オペレーターの秒読みお声が響いた。同時に通信オペレーターの左手は真っ直ぐ天井へむけ上げている。


「3,2,1,0――」

 で、通信オペレーターが左手を下げた。

 

 放送が開始されたのだ。


 各艦のブリッジや指揮所、休憩室のモニターに、遊撃群司令ランス・ノールの姿が映し出される。


「司令ランス・ノールより客員へ。星間連合艦隊は、星間一号線で敗北した」

 ここで、いったん言葉を切る。


 言葉と同時に、艦隊全体からくやしさがにじみ出ているような感覚を全身で受け驚いたからだ。これは自分の勝手な思い込みではないと、なぜか確信できた。

 

 ランス・ノールは、この感覚に後押しされるように言葉を継ぎ、

「これは星間連合軍全体の敗北を意味するのか!?否だ!」

 と、強く発した。


 遊撃群全体がドッと沸いた。


 星間連合軍で戦いの先鞭を突けるのは第二艦隊。この第二艦隊に精鋭が集められているが、第三艦隊と第四艦隊も最新鋭艦で構成された質の高い戦力だった。兵員たちは、とくに好戦的で士気が高く先走りがち。

 

 ランス・ノールが第三艦隊の司令に擢用てきようされたのは、かれが軍規に厳しい優秀な管理者と目されたからでもある。


 軍内でもタカ派が集まるこの2個の艦隊の思いは、つまるところ戦わずして敗北を認めることが大いに不満。


 彼らは、

 ――降伏とは違う選択肢が欲しい。


「我々が敗北したわけではない。遊撃群は第二級戦闘態勢を維持。これより第二星系方面へ移動を開始する!」


 ランス・ノールが部下たちの望む言葉を吐いていた。


 瞬間、歓声――。

 マサカツアカツのブリッジにだ。生放送中に音を立てるのは不用意に厳禁なのにだ。

 続いて各艦艇から続々と、ランス・ノール支持を表明する反応。


「第一戦隊司令から祝電。麾下の全艦艇は従うとのことです。第二戦隊も同様です」

「第四艦隊の第八機動部隊司令から、忠誠を誓う、だそうです」

「特務艦隊(病院船など)からの支持の表明です」


 などなど、続々と報告が続くなか、1人のオペレーターの、


「発、第四艦隊旗艦カチハヤヒ、司令ユノ・村雨むらさめ――」

 という、ひときわ大きい声が響いた。


 ブリッジが一瞬にして静寂する。


 遊撃群はランス・ノールの第三艦隊と、もう一つユノ・村雨の第四艦隊で構成される。このユノ・村雨司令が反対すればどうなるか、

 ――最悪、二つに分かれての同士討ちとなる。

 と、誰もが想像し、かたずをのんだ。


「英断に従おう――。だそうです。やりました!全軍一致です!」


 興奮のなかに安堵感が混じった報告だった。


 ランス・ノールの下した判断に万歳が三唱された艦すらあった。遊撃群全体が沸いていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ランス・ノールは沸き返る艦隊を前にたしかな感触を覚え、

「遊撃群は移動終了後に、第二星系の守備の任務につく。以上!」

 と、放送を終了した。

 

 旗艦マサカツアカツのブリッジにも活気が満ちている。

 だが、ただ1人シャンテルだけが真っ青。


 シャンテルからすればとんでもないことだ。兄は衆をぎょしていると思いこんで、喝采に乗せられ、上滑りすることがある。子供の頃の話だが、兄も自分もこれでよく口惜し思いをしていたのだ。


 セレスティアルという家名にたかるアリは多いが、

 ――なーんだ偽モノなんだ。きたいはずれ。

 と思われれば、向けられていた厚意は冷淡な無視か、責めの言葉となる。

 

 お山の大将、担ぎ上げられた神輿も、担ぎ手が散ってしまえば虚しいものだ。


「お兄さま、いけません!本隊は敗北しているのです。条約違反になります。速やかに降伏してグランダ軍の指示に従わなければ」


 ランス・ノールは、妹の言葉を黙殺。通信オペレーターへ、

「政府へ第二星系方面へ移動する旨をつたえろ。放送どおりだ。我々は第二星系守備につくと通達しておけ」

 と、指示をだした。


 だが、シャンテルは食い下がる。今回は子供の頃と問題の質が違う。悲しい思いをする程度はすまない。


「政府もすぐに降伏します。そうなれば私たちは反乱軍です。犯罪者ですよ!」


 大きな瞳をいっぱいに開き、必死に訴えるシャンテル。

 ランス・ノールは、そんな妹へ努めて表情を柔らかくしてから顔を向けた。


「第二星系の守備につくとつたえれば、それがそのまま反乱とはならないよ」

 そう優しげにいうランス・ノール。


 ――お兄さまは、ずるいです。

 シャンテルは、なにもいうことができなくなってしまった。


 ランス・ノールは、しぶしぶと黙りこんだシャンテルを諭すように、

「大丈夫さ」

 と、いって笑顔を一つ。


 この笑顔にシャンテルは弱い。昔からだった。父が死んだとき、そして母が死んだとき。そして本家へ引き取られて辛い日々が続いていたとき。兄の笑顔に常に救われていた。

 シャンテルは、この兄のこの顔を見ると、将来の見通しがそこまで悪くないもだと、危機感が和らぎ心のなかに安らぎが広がる。

 

 今回もお兄さまのいうとおり上手くいくかのもしれないのは確かです。いえ、いままでのお兄さまの回りくどく、日常を生きるにはこっけいなほど壮大な将来計画が外れたことはないですが……。

 

 シャンテルは、いまはまだ兄が何を考えているか確証が持てなく悪い予感しかない。だが、それは自分の単なる老婆心、このまま本当にうまくいくかもしれないと思う。

 

 シャンテルが不安を押しのけるようにため息を一つしてから、わかりました。と、駄々をこねる子供に折れるような色をだした。


「その笑顔のあとには、必ず良いことがあります。シャンテルはお兄さまを信じます」


 ランス・ノールが少し片眉を上げて口元で笑う。さも自信ありげにだ。

 

「危なげな兄ですまないと思っているよ。でもただ生きていては、幸福はつかめない。積極的に進む必要がある」

 

 シャンテルが、これにクスリと笑いながら思いを口にする。


「小さいころは、チョコをいただきましたね」

 

 ランス・ノールが何の話だ?というようにシャンテルを見た。


「幼いころ私が一人泣いていると、笑顔で慰めてくれた後にチョコをくださいました。どこから持ってきたのか知れませんでしたので、とても不思議でした。私が出処をたずねると、決まってお兄さまは自身の金目銀目(オッドアイ)をお指しになって、魔法の目が幸福を見つけてくれると、はぐらかしてばかりでしたけれど」


 ランス・ノールの表情に、ああ、というような表情。思い出したと、うなづいた。


「あのとき、シャンテルはお兄さまを魔法使いだと思いました。お菓子はめったにいただけませんでしたから。今回もそうなりますね」


「そうとも。危ないことは何度かあったが、上手く行かなかったことは一度としてない」

 

 ランス・ノールが、そういって再び笑顔を向けると同時に、オペレーターからの、


「第四艦隊司令ユノ・村雨から通信です」

 この報告にランス・ノールが、シャンテルへ待てというように手をかざした。表情は真剣だ。


 第四艦隊は遊撃群司令ランス・ノールの指揮下にあるとはいえ、ランス・ノールとユノ・村雨とは艦隊司令官という立場は同格。ユノ・村雨が支持の見返りに、なんらかの要求をしてくる可能性はある。

 

 緊張するブリッジ。


 シャンテルは、あの方には自信にあふれて突き進む矜邁きょうまいなところがあります。お兄さまを支持した理由によっては、大幅な権限譲渡を要求してくるかもしれませんね。などと思った。


 いま兄を見つめる妹のシャンテルの瞳はうれいいを帯びている。

 ランス・ノールは妹の愁いへ、

 

「問題ないだろう。第四艦隊は、第三艦隊よりはるかに交戦主義者が多い。司令のユノ・村雨にからしてそうだ。それに、やつは貪婪とんらんで出世と保身にしか興味がない」

 と口早にいってから通信を開くように命じたのだった。

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