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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
十章、軍令部の亡霊
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十章プロローグ (鹿島の調査)

「星間連合軍の軍令部ぐんれいぶとは――」

 秘書官鹿島容子ひしょかんかしまようこ陸奥改むつかいの資料室で調べ物開始。

 

 完璧に温度管理された無機質な部屋には中央には調べ物ができるように机と椅子。その周囲にはデータが収まっている棚がぐるりと並んでいる。

 そして部屋には用紙とインクの独特な匂い。


「宇宙を当たり前に行き来する時代になっても紙の資料はなくならないんですね」

 と思う鹿島はこの匂いがなんとも好きだ。


 鹿島がここで調べ物をしている理由は、

「鹿島――!」

 というブリッジに響いた天儀の一声から始まった。

 

 大声で呼ばれた鹿島が、そんなに大声でいわなくても聞こえます。恥ずかしいです! と慌てて天儀のもとへ行くと、

「惑星ミアンの入る前に調べて欲しい2人がいる」

 とうとつにそう命じられた。


「え、はい」

 と面食らう鹿島が思う。


 身元調査って――。普通は情報科のなかでも船務科せんむかとか庶務係の兵員ではなく本物の情報部員、それも諜報活動的な特別訓練を受けたエリートが担当する仕事ですよね? なぜに私なんかに。

 

 鹿島のこの疑問が顔にでていたのか天儀は、

「君の最高軍司令部(コジョレ)の尊皇派リストを見て驚いた。きわめて精緻せいちで詳細。それでいて明解だ」

 と理由を口にした。

 

 あ、なるほど。と鹿島が納得。

 天儀司令は、私が2日前に提出した最高軍司令部(コジョレ)の尊皇派リストの内容を評価して、あえて本来秘書官が行なわないような仕事を命じてきたと!

 

 つまり、

 ――できる女って評価されたってことじゃないですか!

 鹿島は心中で嬉々としたが、ほほにキュッと力を入れてニヘラと笑いそうになった口元を引き締めた。

 

 ――ダメ喜んじゃ。ゆるい女って思われちゃう。それぐらい当たり前って顔していなきゃ。

 鹿島は背筋を伸ばして天儀の次の言葉を待った。


「旧軍令部の六川公平ろくかわこうへい。こいつは軍令部長ぐんれいぶちょうだ。そして星守ほしもりあかり。こいつは軍令副長ぐんれいふくちょう。この2人は天童正宗の懐刀だったやつらだな。こいつらがいまどうしてるか調べろ」


「ぐんれいぶ? ふところがたな?」


「戦後解散させられた軍令部は星間連合軍トップの司令長官の下にあった司令長官直卒の組織で――」

 そこで天儀がとうとつに言葉を切った。

 

 鹿島は、

 ――続きは?

 という目で天儀を見るが、

「いや、なんでみなまで教えねばならん。鹿島あとは自分で調べろ」

 といって放り出されてしまい、いま現在にいたって資料室で調査を開始という感じだ。

 

 そして資料室の鹿島は、

「星間連合軍の中枢いた人間のことなに天童愛てんどうあいさんへ聞かずに、私に命じたということにきっと意味があるんですね」

 つごうよく解釈しごきげんだ。


 そう星間連合軍の六川公平(元軍令部長)と星守あかり(元軍礼服長)のことを知りたければ、星間連合軍出身の天童愛に聞けば早い。

 けれど鹿島はさして難しく考えず、ただ命じられたことが嬉しい。非番ひばんを返上、寝る時間を削って資料室に座っていた。


 いま鹿島の目にするモニターの画面には旧軍令部の情報。

 旧軍令部とは――。

 全軍の長たる連合艦隊司令長官(天童正宗)の意向を強く反映するための組織。

 

 なるほど。グランダ軍でいえば大将軍の直下の大将軍府だいしょうぐんふ(正式名称:参謀軍令部さんぼうぐんれいぶ)みたいなものですね。


 職権しょっけん内容は――。

 戦争指導、作戦立案、綱紀粛正こうきしゅくせい、教育計画。

 特に天童正宗時代の軍令部は権力を強化され、軍内で対立する参謀本部と電子戦司令部フィフス・フォースを排除。星間連合軍の機能を軍令部の一極集中化を推し進めた。加えて軍令副長星守あかりが軍警察を直轄し軍内の不正を厳しく摘発。反正宗派の諸軍を骨抜きにした。


 ほー。なんか星間連合軍では嫌われてそうな組織ですね。特に強力に綱紀粛正を推し進めたあたりが恨みを買ってそうです。


 で、肝心の六川さんと、星守さんはいまどうなっちゃってるんでしょか――。

 鹿島は旧軍中枢にいたのだから当然最高軍司令部(コジョレ)でも中枢いそうですね。などと思いつつ検索。

 画面にはすぐに検索結果。


『六川公平(33歳):第二資料整理室だいにしりょうせいりしつ・管理長』

 

 うへ……閑職です。やることなさそうです。


『星守あかり(24歳):第二資料整理室・管理官』

 

 ……泣けます。管理官って、つまりたんなる職員。星守さんは肩書きすらないです。


 これ左遷させんなんてレベルじゃないですよ。いじめ目的のめっちゃ閑職かんしょくじゃないですか。2人とも星間連合軍でどんだけ嫌われてたんですか――!


 そこで鹿島が、うん? と気づく。

 

 星守あかりの履歴には、

『――最高軍司令部(コジョレ)組織整備案の提出』

 という15分前に新情報がある。


 おー。星守さんは閑職に回されたのにやる気ですん。めげない女性なんですね。その這いあがってやろう気持ち。私的には大尊敬です。

 

 だが次に目に入った、

『――24日13時15分提出、同日13時16分、却下・返却』

 という文字に鹿島は唖然あぜん


「え!?たった1分って、審査もされずに窓口で突き返されてるじゃないですか!」


 鹿島はこんな人たち調べてどうするのだろうと嫌な予感。もしかして、いま私どうでもいい雑用を押しつけられてる? え、もしかして私ってこの2人同様嫌がらせ受けてる? 天儀司令のパワハラ? などと一瞬思ったが、とにかく調べた……。

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