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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
四章、天地鳴動
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4-(3) 驕傲非天ユノ・村雨

「で、ランス・ノールへ会いたいってつたえといたんでしょね?」

 と、確認の言葉をだしたのは第四艦隊司令のユノ・村雨むらさめ

 

 場所はカチハヤヒから発射された接続艇ランチ。ユノ・村雨は副官セルビスをともないランス・ノールの戻ってきた総旗艦マサカツアカツへ向かっている。

 接続艇ランチは座席数30人ていどの広さ。座席の横にある窓は外部の風景が投影されるモニターだ。

 

 副官のセルビスは上官ユノ・村雨から問へメガネの下の表情は一切動かさずに、

「はい。会議前に、お時間を割いていただけるそうです。マサカツアカツへ入って45分で会議ですので15分ていどの時間を取っていただけるでしょう」

 と予定もそえてつたえた。

 

 ――李紫龍りしりゅうの2個艦隊へ対応会議。

 これがユノ・村雨がマサカツアカツへの向かっている理由。李紫龍は星間戦争最高の英雄。ファリガ、ミアンノバで第一執政として政務に忙しいランス・ノールも直接対応のため艦隊へと戻っていた。

 

 そつのないセルビスの応じへ、ユノ・村雨は気分良さげに、じゃあいいわ。とうなづき、星々が映しだされた窓へ目をやった。


 星々のなかには縦長の流線型のボディのマサカツアカツ艦影。

 

 船体中央にはブリッジ、その前後に2基づつ41センチ連装重力砲が合計4基、上面に縦一列に砲塔群、下面に発着甲板という一般型の宇宙戦艦。このタイプは海上に浮かぶ船の下面が艦載機発着ようの飛行甲板になっていると想像すればいい。


「さすが一般型の傑作といわれる次世代型軍用宇宙船、神世級戦艦じんよゆうせんかんね。見てるだけで惚れ惚れするわ」

 そう口にするユノ・村雨は上機嫌。


 当然だ。ユノ・村雨は汚職が露見し逮捕および軍籍剥奪は秒読みのような状態だった。それがとつじょとして状況が一転し展望が開けた。地獄の淵から救われた開放感で気分は上々なのもうなづける。


 前々から意識の高さが違うとは思ってはいたけれどランス・ノールはすごいわね。本当に独立してしまうだなんて、おかげで私は独立国家の重鎮。神聖セレスティアル万々歳ってとこよ。ユノ・村雨はマサカツアカツの威容を眺めながら、そんなことを思った。


「そういえば独立したのに、艦隊名は別名がついただけで第三艦隊と第四艦隊のままなのね。艦艇名の変更もなし。てっきり第一艦隊と第二艦隊とかになると思ってたわ」


「兵員たちの思い入れもありますからすえおいたようです。ただ総旗艦マサカツアカツは改名の予定があるそうですが」

 

 だが話題を振った当人のユノ・村雨は、

「ふ~ん」

 と興味なさげ。


 セルビスは、

 ――興味がないなら一々聞くな。

 と思うももちろん表情にはださない


「ユノの第四艦隊の別名は鋒武ほうぶ艦隊ですって。で、ユノは緋天ひてん将軍。かっこいいんだか悪いんだか」

 そういってユノ・村雨は口元に失笑を見せながら、

「ねえ、どういう意味だと思う?」

 という問を続けた。


 セルビスの眉間の深いたてじわが少し動き、はあ――?というようなあいまいな反応。

 

 セルビスからすれば、

 ――文字の意味について。

 聞かれているのか、

 ――別称をつけられた意図を。

 問われているのか、わからない。ただ、セルビスの上官ユノ・村雨の教養は侮蔑を感じるほどに低い。


 ――この女はバカなので前者の可能性が高いが、後者である可能性も捨てきれん。

 どっちだ?というのが、セルビスが即答できなかった理由。

 

 セルビスが続けて、ハズレを引くと理不尽な叱責はもちろん不機嫌になるぞ。これが面倒くさい。と無表情の下で思う。

 

 そう〝あばずれ姫〟と艦隊高官たちから陰口を叩かれるユノ・村雨は、いったん不機嫌になると引きずることがある。カチハヤヒに戻ってから、あばずれ姫様の憂さ晴らしの対象になるのは側近であるセルビスたち艦隊高官。あばずれ姫ユノ・村雨のいびりは執拗にして陰湿だ。

 

 ユノ・村雨は応じに不器用さを見せる副官のセルビスへいら立ちを露骨にし、

「だからぁ。鋒武ほうぶ艦隊の鋒武の意味よ。アンタ小難しいことだけは得意でしょ。教えてよ」

 勉強ができるだけで、つかえないわね。といようにいった。


「あ、えっと――言葉の意味ですね?」


「そうよ。さっさと教えなさいよ」

 

 セルビスはじゃっかん慌てるしぐさをだしつつ、

 ――なんだというのだ。とうとつに。いつも言葉の意味など気にせんだろ。

 と心に浮かんだ反感を押し殺し、

鋒武ほうぶほうは切っ先のことなので、武は武力や軍事力を――」

 説明を開始するもユノ・村雨は最後まで聞かず、

「わかるわよ武は!バカにしてんの?」

 吐き捨てるようにさえぎり、結論を急かした。


「ハッ!失礼しました。切っ先と武力をあわせて、鋒武は〝切り込み隊長〟という意味ではないでしょか?」

 

 ユノ・村雨は悪くないわねという顔で問を続ける。


「じゃあ緋天ひてんは?」


「緋は赤色なので女性を意味しているのでは?天は頭、つまり組頭とか頭取とかの組織のトップと解釈して、緋色の天で女性のトップというような意味ではないでしょうか」

 

 へー、とユノ・村雨は上機嫌で納得。

 

 ただセルビスはもっともらしい説明をつけただけで実際のところは正しいかなど知らいない。真の意味は命名したランス・ノールの胸中にしかない。ランス・ノールの胸中を正確に推測できるのは妹のシャンテルぐらいだろう。


 鋒武ほうぶはセルビスのいったとおりだが、緋天ひてん非天ひてんに通じる。非天は阿修羅のことだ。尊大な内面を持つランス・ノールはやはり性格に癖がある。賛美のなかに皮肉を混ぜて、ユノ・村雨の三面性をやゆしていた。

 

 鋒武緋天ほうぶひてんの意味を知ってますます上機嫌のユノ・村雨。上向きた気分を、

「てか思うのよね私。そもそも第二星系を薄く包囲してる敵艦艇を各個撃破すればいいって。速攻即戦!ランス・ノールも戦術家としては大したことないわよ。ユノが総軍司令官なら華麗な機動戦でもう星系封鎖は解除されてたわね」

 そのまま外へと吐いた。


 完全に軽口。無責任な発言といってもいい。

 

 セルビスは不快を感じつつも、

「おお、素晴らしい。さすがです」

 と、讃仰さんぎょうするような態度で応じるもメガネの下では、

 ――バカなのかこの女は?

 とあきれた。


 こちらが排除の部隊を差し向ければ封鎖を形成している敵艦艇は、事前に察知して逃げてしまうだろう。排除部隊が目的地についたころにはからの空間だけだ。


 これで排除は成功したかに見えるが、敵がいなければ当然派遣した部隊は引き上げる。そうなれば逃げた敵は元の位置に戻るだけだ。これでは意味がない。

「派遣して、逃げられて、敵がいないので帰ると敵は元の位置に――」

 この繰り返しになる。

 

 ――あばずれ姫の華麗な機動戦は空回りの連続だろうな。

 というのがセルビスのあきれの理由だ。


 ただ、こうなると、

 ――では派遣した部隊をそのまま守備につかせれば?

 という簡単な答えが想像できる。これで敵は戻ってくることができない。だが、

「それは無理だな」

 というのがセルビスの結論。


 星系封鎖を解くためには1個艦隊を細切れにして、星系内にバラバラに配置する必要がある。そんなことをすれば、

 ――逆に各個撃破を受ける。

 

 現にいま李紫龍の2個艦隊が派遣されてきている。仮に星系封鎖解除にこだわって戦力を分派していたら、李紫龍に各個撃破される危険がでていて、きわめて深刻な事態となっていたはず。そうなれば、いま自分たちはおおあらわ。戦力の後退および集結作業に追われ、不眠不休の貫徹作業。眠る暇などないような状態だったろう。

 

 ――こんなことは少し考えればわかる。


 だが、セレスティアルはそんなことおくびにも出さずに、

「第一執政にもお考えがあるのでしょう。武力衝突となると問題は大きくなり、各惑星は神聖セレスティアルの独立を認証に二の足を踏む可能性があります。星系封鎖という戦略は即時効果があるような代物ではありませんし、好きにさせておくというのは外交上においては得策ではないでしょうか」

 と別の角度からユノ・村雨の論をやんわりたしなめた。

 

 あばずれ姫が、第一執政ランス・ノール前で失言、低能を露見すれば、ユノ・村雨を助けているセルビスも責任を問われ、とばっちりをくらいかねない。

 

 だがユノ・村雨の応じは、

「ふーん。ユノよくわかんなーい」

 つまんない話し、というように一蹴。馬耳東風だ。


 セルビスは心中で激しく舌打ち、

「チッ――バカが――!」

 と痛烈に思うも、目を伏せ感情の色を消し、心を埋没させるようにやりすごした。


 こんなやり取りを続けるうちに接続艇ランチは、もうマサカツアカツへ収容されようとしている。

 

 ユノ・村雨はニヤつきつつ、

「さーて第一執政様のお手並みをはいけんね。相手は星間戦争せいかんせんそう最高の英雄の李紫龍よ。どうおっぱらうのか。いえ、どうやって倒すのか楽しみね」

 誰へとなく言葉を口にし伸びをしていた。

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