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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
二十四章、夢見る鹿島の大円団
174/189

24-(8) 思わぬ犯人

天童愛てんどうあいさん、あなたは特戦隊で天儀てんぎ司令に絶大に信頼されていましたね」

 

 天童愛に向けられた六川公平ろくかわこうへいの問は糾弾するようだ。天童愛は、

「……そんなこと」

 と思わずひるんだ。

 

 そう、そんなことあるのだ。部隊管理から、その他いろいろ重要な仕事を任されていた。元敵だというのに、

 ――天儀司令ったら……。

 まっすぐ信頼してくれていた、と天童愛はいまでも感じることがあるぐらいに。


「いえ、でも、信頼というなら鹿島かしまさんのほうが――」

「え、でも天儀司令は私と愛さんは特戦隊の両輪だって。私たち二人がいないと特戦隊はまわらないっていってましたよ? 旧星間連合きゅうせいかんれんごうの愛さんだってとっても信頼されたんですよ」

 

 自信持ってください、別け隔てなんてなかった。という鹿島に天童愛は幻滅顔。いえ、そういう意味じゃない、

 ――鹿島さんったら相変わらずなんですね。

 といいたいが、鹿島のボケっぷりがあまりに見事だ。それに状況的に、少しは疑われているわたくしを助けようとか思わないんですか、お友達でしょ。などとは、いいたくてもいえない。

 

「けれどわたくしだって、お兄様とここにいたわけでデータを改ざんするなんて無理な芸当というものですよ。ねえ鹿島さん?」


 いま、天童愛の眼の前には厳しく迫ってくる六川と星守。元同軍とか、同じ組織で一緒に苦労したとか、そういう感傷は乗り越えて質問してますから、という意気込みの二人に、

 ――わたくしの肩を持ってくれといっても土台無理。

 などということは、すぐにわかる。ならば、ここは少し抜けている鹿島容子を味方につけるべき。援軍としては少々、いや、だいぶ頼りないが仕方ない。孤軍奮闘こぐんふんとうは分が悪い。

 

 が、鹿島は……。


「いえ、愛さんはここにくる前に特戦隊にいたじゃないですか。しかも特戦隊では実質的に電子戦の責任者。これって、とってもすごいです」

「あ、あの鹿島さん?」

 

 天童愛の期待が虚しく散っていた。戦力として期待できないと、わかっていたけれど、足まで引っ張られると怒りすら浮かんでこない。


大規模改装だいきぼかいそうで、陸奥改の電子兵装って最新式ですし、六花ろっかの天童愛と渾名あだなされる愛さんならいけちゃうかも。カサーンせんで小惑星基地のシステムも、ものの数十分で乗っ取っちゃいましたよね」


 もう天童愛はあきらめた。鼻息荒く、すごいと評価してくれる鹿島は、こんなことって普通できませんよ。でも愛さんなら行けるんじゃないかって私思うんです。とまだ力説している。ま、力む鹿島に対して、天童愛はもう脱力しかないが……。


「そうですか……。称賛ありがとうございます鹿島さん」

「ほう、カサーンのシステムは防御において最高評価のテオドシウス・ウォールだ。あれを奪取するのに一時間を割ったのか。愛は相変わらずすごいね」

 

 が、兄から褒められても、天童愛には嬉しさなどない。ただ虚脱感あるのみ。


「はい。お兄様も、ありがとうございます」

 

 そんななんか六川と星守からの真剣な眼差しは変わらない。

 ――どうか正直に!

 といわんばかり。

 

「はぁ。これでは犯人と決めつけられたようなものね。ほんとありもしない自供してしまう免罪めんざいのかたたちの気持ちが、わたくし、いまわかりました」

「ですが、厳重にプロテクトされた軍のデータベースを改ざんするなど不可能に近い行為をできるとなれば、愛さんか正宗さです。いいんです。私も六川さんも元部下として覚悟できてますから、どうぞ!」

 

 どうぞって……。と天童愛は戸惑った。ゲロって意味かしら? もう二人とも眼の前のことにとらわれて視野狭窄しやきょうさくね。むしろ愛は冷静になっていた。どうしてって、どう考えたって自分は犯人ではないのだ。夢遊病のように、知らずにそんな高度なハッキングをやってのける自信もない。

 

「はい、はい。お二人の真剣な気持ちは、わかりましたけれど、わたくしにはそんな記憶はございませんから。それともお二人は、このわたくしが夢遊病者のように知らずに改ざんでもしたというのかしら」

 

 が、この言葉に普段つとめて冷静な六川ですら、

「電子戦科の適性評価がダブル・エスのあなたならできる」

 この言葉だ。天童愛はまたもため息しかない。


「はぁ。もっと疑うべき相手がいるでしょうに……忘れていません? 特に鹿島さん、あなたは知っていてしかるべきでは?」

「へ? 天童兄妹より電子戦が優れた人……?」

「はい、それを認めるのは少々しゃくですか。わたくしたち兄妹より優れた人です」

「ふむり。フーム……。私がわかっちゃう人ですか……。天儀司令ご本人は電子戦はてんでだめでしたし……そうなると……。天儀司令を庇いたい人で有能な人……ハッ! 私!?」

 

 紆余曲折うよきょくせつ、自信過剰のとんでもない結論を導きだした鹿島。それを見守っていた天童愛は引きつった笑い。あなた電子戦の専門教育なんてうけてないでしょ! と突っ込む気力も浮かんでこない。


「六川も星守も本当にわからなくて?」

「えっと……すみません。思い当たりません。六川さんは、わかります?」

 

 が、星守が問とともに見たさきには、目を開いてだんまりの六川公平という男。星守はこの表情の意味を知っている。

 ――あ、思考停止してるやつだ。

 と思ってため息。


「すみません。ホワイトフラッグ。愛さん、答えをお教えてください。いえ、愚昧ぐまいな私たちをどうぞ犯人へ嚮導きょうどうしてください」

「はぁー。二人まで視野狭窄なのね。しかたないわね」

 

 星守は面目ない、と小さくなるばかりだ。


「お兄様はわかりますよね?」

「どうだろう。難しいな。あのテオドシウス・ウォールをものの数十分で突破した電子戦兵員より優秀な人物となると、そうはいない。そうなるとやはり愛が犯人か。しかも天儀を庇ってとなると、その特戦隊とやらでは二人は恋仲だったのかな。おお、これは憎き敵に妹を取られてしまったようだね」

「もう、お兄様までご冗談を!」

 

 妹の厳しい顔に、ハハっと笑って応じるこの余裕。六川、星守、そして鹿島も、

 ――ああ、天童正宗てんどうまさむねは答えを知っているな。

 と思わせるには十分だった。場の空気は正宗から答えを望む雰囲気だが、憤慨やるかたないと天童愛がさきに発言した。


「フェイドアウトガールでしょうに。皆さんしっかりしてください」

「あ、千宮氷華せんぐうひょうか!」

 

 思わず叫んだ鹿島だが、にわかに信じがたくもある。だって、鹿島の知る千宮氷華はジト目で「マタサイ行き!」と嫉妬を吐く怖い人なだけ。


「でも、氷華さん、いえ、千宮局長ってそんなに優秀なんですかね。愛さんよりも?」


 天童愛の戦闘での電子戦指揮を、目の前で見ていただけに、そのインパクトは絶大。天童愛より優秀な人なんて、神の子とすら呼ばれる天童正宗ぐらいとしか思えない。


「そうですよ。あの女のせいで、星間連合軍は負けたといっても過言ではないぐらいですから。あの女が星間連合軍からグランダ艦隊を目くらまししたせいで、こちらは布陣が後手に回って……」

 

 悔しさににじむ天童愛に鹿島は、アハハ、と流してから、

「正宗さんよりも?」

 と、問いかけた。鹿島にはどうしても信じられない。目の前の正宗の存在感には、それほどに超然としたものがある。


「さあ、勝負は戦ってみなければわからない。優劣を知りたければ、直接電子戦しかない。が、結果だけ見れば星間連合軍艦隊はグランダ艦隊を一時的にしろロストしたという事実だけだ」

「つまり?」

「千宮氷華の優秀さは証明済みってことだね」

「お~。じゃあ犯人は氷華さん……」

 

 ありうる話です、と鹿島は思った。なにせ千宮氷華は天儀の彼女。これだけで犯行の動機は十分。


「天儀司令を庇いたくて、その超絶した電子戦能力をつかってデータを改ざんした。なるほど真相が見えてきましたよこれは」

 

 盛りあがる鹿島に対して、星守は違った。気落ち気味だ。なぜなら、

「……なんか。もっとも単純な答えになったような……」

 私たちのいままでの苦労はなんだったのかと、疲労感がどっと押し寄せてきていた。


「まだ犯人と断定できるわけではありませんが、かなり濃厚な黒が判明したんです。ほら、お二人ともしっかりしなすってください」

「愛さん……」

「それにしてもです。どうして千宮氷華のところへ最初にいかなかったのかしら? 優秀な二人なのに不思議なことね」

「いえ、その……」

 

 糾弾にめずらしく動揺する六川の横で、

「あっ!」

 と星守が声をあげた。その場しのぎの機転なら女子の星守のほうが得意だ。


「だって、そうそう簡単に口を割るわけないですから! まずは外堀から埋めて、千宮氷華に喋らざるを得ない状況を作ってから、だから……。えっとだから、そういうわけです。仕方ない。いままでの足をつかった努力は無駄じゃない」

 

 この言い訳まるだしの苦しい言葉に、

「それだ!」

 と六川まで乗ったので情けない。天童愛は今日何度目かわからない息をまた吐くはめに。


「では、本命がわかったところで、どうします?」


「どうしますって……」

 と、戸惑う三人に、天童愛が壁にかけられた時計を指さした。もう、時間は午後二時近い。午前十時ごろにここにきて、ずいぶんと時間がたっていた。


「もう、いい時間ね。三人とも腹ペコで帰るつもり? それともここで食べていきます? 選ばせてあげますから、どうぞ思うようにいいなすってください」

 

 途端に、

 ――グー。

 という大きな音が部屋に響いた。六川はあえての仏頂面。星守は赤面。鹿島は頭をカキカキ。誰が音の犯人かはわからないけれど、

「あー、じゃあご馳走になる方向でー」

 と鹿島は胸の前で小さく手をあげていた。食べたい、といいだせば、お腹を鳴らしたのは自分といっているよう。場にはそんな空気があったのだ。

 

 状況を見守っていた正宗が笑った。つられて全員がつられて笑った。

 食事となれば、雑談。雑談となれば鹿島のしつこいミリオタ質問が炸裂さくれつした。そして始まれば長い。すぐに日が暮れ辺りは真っ暗。

 

 ――これはいまから帰るのは無理だね。

 と誰がいったか、結局、鹿島たちは泊めてもらい翌日帰路についたのだった

 

 監視下に正宗とそれに寄り添う天童愛。そんな二人に、喜べる訪問者などまずこない。誰もが鹿島の止まらない質問を時間がすぎても見逃したのは、そんな理由があったのかもしれない。

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