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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
二十四章、夢見る鹿島の大円団
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24-(2) とりあえずの一人目

「え、義兄にいさんは、いまどこにいるんですか!」


「だから――」

 と鹿島苦い顔となった。

 目の前には兵器オタクの残念な二枚目こと林氷進介りんぴょうしんすけ。二足機のエースでトップガンの異名を持つ若き英雄も口を開けば女のようにかしましく、勘違いと早合点で突き進んでいく。

 

 ――だから進介さんと話すときは絶対に会話の主導権を握ることです。

 いま、鹿島は決意を新たにして口を開いた。


「……わかりました。もういいです。進介隊長は義兄おにいさんこと天儀司令のいまの居宅はご存じない、ということですね?」

「え、なんの話ですか? 義兄にいさんってば姉ちゃんと結婚するって話を反故ほごにしてトンズラだ。こっちへ帰ってきてから全然連絡ないし。鹿島さんどこにいるか教えてくださいよ。知ってるでしょ?」


「はぁ……」

 と鹿島はため息だ。けれど進介が天儀のことを知らない、というのはよくわかる。

 ――演技ではなさそう。

 天儀の逃亡を手助けするためのだ。鹿島は振り返り、

「ということです。お二人から見てなにか不審点は?」

 といった先には六川公平ろくかわこうへい星守ほしもりあかり。

 

 二人は同時に「ない」というように首を振った。この男はただのバカだ。オイ式部隊のエースも、機体を降りればお調子者という評判通り……。二人からしてもこれ以上質問を続けても時間の無駄だとすぐにわかった。


「ということです。進介さんお手数おかけしました。どうぞ訓練へお戻りください」

「なにがですか。ちょっと鹿島さん義兄にいさんの居場所は――」

 

 進介が去ろうとした鹿島の腕をつかんで引き止めた。進介としても必死だ。姉の沙也加はもういい歳で、もう天儀と婚約していると思い込んでいる。それに天儀もまだ独身。進介が思うに、強引に押しまくれば折れる。進介は気づいたのだ。義兄弟としてしたう天儀の恋愛の性向はきわめて受動的。自分が好きかより、相手が自分をどう思っているかが重要だ。それに進介には絶対的な確信がある。

 ――二人は間違いなく合う。

 性格も趣味も食事の好みも、ありとあらゆるものがだ。

 

 腕を強引に引かれ鹿島が顔をしかめた。すかさず鹿島の背後の二人が動いた。


「進介隊長よしてください」

 と、いったのは、いつでもどこでも行動的な星守でなく六川だった。


「げ、六川公平」

 

 進介がいま初めて気づいたかのように驚いた。二足機のエースは集中力もエース級。眼の前の鹿島に全力で、視界のなかにいたはずの六川の存在に気づかない。そんな男が進介だ。それで戦場で平気なのかといわれれば確かにそうだが、コックピット内での進介の集中力は360度だ。


「進介隊長、僕たちはあなたが知りたい情報は持っていない」

 

 六川からの強い言葉と強い視線。進介は思わず気後れを感じた。進介は十一機撃墜たエースだが、進介をマジマジと見つめてくる男は、そんなエースたちを作戦でつかっていた男だ。どんな猛者にも押し負けない不動の存在感をもっている。

 

「ちょっと六川さんまででてきて、どうしたっていうんですか」

 

 一気にひるむ進介に対して、六川としては自然体だ。繰り返すが死線を越えてきた最前線の軍人に一々気をくれしては、軍の統制を取ることなど不能だ。二足機のエースだろうと盤上の手駒すぎない、という割り切った感情がある。

 引いた進介を見て星守がすかさず割って入った。


「進介隊長、私たちはいま軍警察です。もう、おわかりですよね?」

「また、また冗談いって俺を驚かせようってんでしょう……って、ええ!? マジで!?」

 

 よくよく六川と星守を見てみれば『軍警』の腕章が……。そして軍警察の二人が義兄天儀の居場所を知りたがるということは……。

 ――義兄にいさんやばいぞ。

 進介の肝は一気に冷えあがった。姉の婚約者が軍事法廷で有罪をくらったとなれば目も当てられない。

 

「えっと、これってどういう状況か説明してもらえませんかね」

「ダメです」

 

 鹿島がすかさずきっぱりはっきり断った。どうしてって、どう考えても進介が首を突っ込んでくると面倒なるからだ。絶対に早合点からの思い込みの合わせ技でろくなことにならない。


「そうね。あなたが知ると面倒くさいことになるので」

「確かに進介隊長は知らなくていい」

「え、ちょっと俺の扱い!」

 

 いくらなんでも酷すぎる。たずねてきたのはそっちで、進介はアポイントメントもないのにこころよく出迎えたのだ。しかも訓練中だったのを抜けだして。


「でも進介隊長は天儀司令の居場所をご存じないんですよね?」

「ええ、まあ、そうですけど……」

 

 そうですけども鹿島さん。いくらなんでも、つかえないとわかったので用済みなんて扱いはやめてくださいよ。これでもトップガンなんて呼ばれるエースなんですよ。が、鹿島は進介の気持ちなど一切汲んでくれなかった。

 

「じゃあもう用はすんだので私たちはこれで――」

「ちょーっと、ちょっと! それはない! たずねてきたのは鹿島さんたちじゃないか」

 

 慌てて引き止める進介に鹿島はにべもない。


「問題ありません。トップガンさんはどうせ知らないだろうって思ってましたから。消去法の意味で最初にきたんです」

「えぇ……」

「進介隊長、残念ながら事実だ。僕たちがここへ寄ったのは、たまたまあなたが一番近くにいたというだけにすぎない」

「そうですね。軍司令部へ行くもののついでです。通り道にたまたまいたので、ついでに確認しておかない手はないって感じです」

 

 六川と星守も無情な宣告を進介へ告げた。

 鹿島たちは、それでも食い下がってくる進介へ、それでは、と挨拶して放置。基地をあとにしたのだった。


「進介隊長は本当になにも知らないようでしたね」

 星守があとにした基地を振り返りながらいった。


「兄よ弟よと呼び合う仲だったので、もしかしてと思ったんですけどねぇ」

「でも鹿島さんの考えって悪い線ではなかったと思います。それにトップガン進介をたずねるという考えは私たちにはありませんでしたから」

「でも残念。なにも知りませんでした。あれだけコケにすれば真っ赤になって天儀司令の居場所を喋るとおもったんですけどね」

「鹿島さんってば策士ですね」

 

 星守がクスリと笑った。最初は鹿島の参加に不満だったが、こうしていっしょになって捜査を始めてみれば意外に気が合うのだ。


「で、六川さん。私と鹿島さんは進介隊長は白だと思いましたけど、六川さんから見てどうでした?」

「僕が見るに進介隊長はいささか秘密の厳守には向かない性格をしているようだ。彼が天儀元帥からなにも知らされていなくても何一つ不思議はない」

 

 六川が一顧いっこだにせずバッサリ切り捨てたので二人は思わず笑ってしまった。六川は冗談をいったつもりではないだが、という困惑した表情。


「他に天儀の居場所を知っていそうな人いえば……」

「うふふ、私まだ心当たりがありますよ」

「おお、さすが鹿島さん」

「これぞ本命です。楽しみにしていてください」

 

 すっかりうちとけている鹿島と星守。

 

 ――もうすっかり仲良しか。

 六川が眺める先には笑顔で話す星守。あまり見せない表情だ。普段はしかめつらか、ふてくられた表情ばかり。六川は鹿島を参加さてやはり正解だったと思った。

 正義感が強く生真面目な星守に、努力家で明るい性格の鹿島。星守は当初は鹿島の参加に懐疑的、ありていにいうと不満で鹿島に対してツンとした態度だったが、鹿島がニコニコ顔でしつこいので折れたのだ。それほど鹿島には邪気がない。六川はこれはいいチームかも知れないなと思った。

 三人は次の目的地へ向かったのだった。

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