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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
二十章、小惑星カサーンの戦い
146/189

20-(4) 妄動

 ――って、おい!

 心中で悲痛する春日丞助かすがじょうすけは、目下、危機的状況。飛び込み台の強引に立たされ、後ろから蹴落とされたらまさにこんな気分なんだろう。強引な妹の綾坂あやさかに手を引かれて第一応接室内へ。

 

 いま、ここでは戦隊司令官天儀(てんぎ)と捕虜フェイ・オーエン中佐の会談が行なわれているのだ。そんなところへ下っ端の自分が乱入していいわけはない。


「ちょっと綾坂なにしに! って、丞助さんまで!?」

 

 部屋に入った丞助の耳にとどいた第一声は聞き慣れたマリア・綾瀬あやせ・アルテュセールのもの。

 ――あれ、誰も居ないんじゃないのか。

 いや、人はいる。天儀とフェイ中佐だ。その二人以外はいないと思って室内へ入ったのだ。


「あれ、アヤセなんで?! てか何人いるのよ」

 

 部屋には司令天儀とフェイ中佐以外に人がずらりだ。

 兄を引きずり込んだ綾坂も驚きだ。

 えっと、あれは特務機関とくむきかん(軍警察)の偉い人で、なんかやたら陰険な目つきのゴツい人たちが6人も? え、あ、あれって親衛隊じゃない。惑星降下作戦(アース・アタック)に参加した白兵戦の超エリート。天儀司令に絶対忠誠の荒くれども、この船に乗ってたの?! げ、てか黒耀こくようもいるじゃない。

 

「え、なんで……天儀司令とフェイ中佐の二人しかいないんじゃ……」

 

 驚いて面々を見る綾坂。

 天井にはシャンデリア、木目の美しい家具、豪華な部屋に天儀とフェイの他に9人。兄と自分を入れれば部外者が11人の大所帯。

 ソファーに腰をおろしたり壁にもたれかかったり、それぞれ思い思いの格好で部屋でくつろいでいる感じだ。ただ、親衛隊だけは天儀へぴったり、フェイ中佐から目を離さない構えだ。


「だ、だまされた……」

 とフェイ中佐が呪うようにいった。


「だましてはいない。俺は会うとはいったが、他のことは知らん」

「私は要求は全部飲むと天儀司令は快諾したと、そこの女から聞いたぞ」

 

 フェイが恨めしげに黒耀を見たが、黒耀はツンとした態度だ。


「あら、私も知りません。天儀司令に万事任せるとわれたから、そうお伝えしたまでです。中佐殿が天儀司令に会いたい、会いたいとうわごとのようにいうので叶えてさしあげたのに」

 

 そして天儀は傲岸だ。


「要求を知ったところで、できんこともある。ガキじゃあるまい理解しろ」

 

 フェイは押し黙るしかない。なにせ天儀の後ろには高身長の筋骨隆々の男が6人。自分との間を取り持った黒耀とかいう女が同席しているのはまだわかるが、こんな屈強な男どもを引き連れてくるとは思いもよらない。

 

 天儀が、そんなフェイの恨めしげな視線に気づき、

「これは俺の体の一部だ。俺は星系軍の最高峰、大将軍グランジェネラルの地位あったのだぞ。こいつらはダメだといっても常に俺の影にように従ってくる。ま、そういうことなので気にするな」

 このいいようにフェイ以外も面々は苦笑い。嘘だからだ。天儀は普段こんな屈強なボディーガードをつれて艦内を練り歩いてなどいない。


「で、フェイ・オーエン。俺に話とはなんだ」

「なんだと、いわれても……」

 

 フェイが苦々しくいった。

 

 ――あてが外れた。

 

 まさにその一言につきる。こんな状況で決行は無理だ。一対一ならあるいは、と思っていたのだ。それがこんな大勢いては難しい。いや、不可能。とくに親衛隊とか呼ばれている豪華な軍服に身を包んだ男どもが厄介。計画は断念するしかない。

 

「私は会食ていどのことを思っていたのだ。つまらん房での生活。捕虜用の不味い飯。たまにはいいものが食いたいだろ」

「――なるほど」

「わかるだろ」

「だが、残念。それならまた不味い飯を食うはめになったわけだ」

「ふん。陸奥改にはろくなコックがいないということか。戦争の勝利者、天下の元帥も戦争が終わればあつかいは軽々しいものだな」

 

 あえて強気にでるフェイに、天儀が少し笑った。


「俺は敵だからといって無下にはあつかわない。お前らには最高のおもてなしをした。捕虜房の食事を作っていたのは、そこの春日丞助。特級厨師だ。歴代最年少のな。お前も特級厨師ぐらいは知ってるだろ」


「な――っ」

 と驚くフェイの顔には、どおりで美味いはずだ。という言葉が浮きでていた。

 

 そうかしまった、とフェイは自分の浅はかさを呪った。天儀は元大将軍グランジェネラルにして戦争の勝利者。率いる隊は小なりといえども、超一流の料理人が乗り込んでいてもなんの不思議もない。

 

 そして吹き出す女子三人。綾坂だけでなく、アヤセも黒耀もフェイの狼狽っぷりがあまりに見事でついついプフっと吹いてしまい、さらにクスクスっと小さな笑い声まででてしまっていた。

 

 若い女性たちからでた自然な失笑。もう、フェイは恥ずかしさで耳まで真っ赤だ。

 そう、不味いだなんていったのは嘘八百。適当な理由付けと言い訳のため。雑な嘘は簡単に見破られ抗弁の効果などなし、フェイ中佐はたんなる恥さらし。綾坂たちからの失笑だけを産んでしまっていた。


「で、本題に戻そう。俺とさしで会いたいという話だが――」

「もういったろ、世間話が目的だ。私はお前の戦争の自慢話でも聞いてやろうと気を使ったのだよ。食事をしながらな。みなまでいわせるな恥ずかしい」

 

 が、天儀はフェイを正面から見据え、

「俺は知っているぞ。お前がしたかったことをな」

 といってフェイ中佐を鋭く見てから、ふところから端末を取りだした。天儀の手にはデザインやメーカーは違えど誰もが持っている携帯通信機器。

 

「なんだそれは? まさか連絡先の交換でもしようというのではあるまいな」


「ま、それもいいが」

 と天儀はいって画面をタッチし操作を開始。

 放置されたフェイといえば不機嫌だ。


「ならまずは私の私物を返すんだな。そうだ、せめて私の電子書籍の端末を返せ。不当な捕虜あつかいで房のなかでは暇でしょうがない。私の端末のなかには自慢のコレクションが500冊ほどだ。いまでは出回っていないデータも多いぞ。返してもらえるのなら陸奥改のクルーたちにも無償でデータを配ってやっていい」

「ほう、フェイ中佐は読書家か」

 

 天儀が端末の操作を終え顔をあげて応じていた。


「そうだ。私物の持ち込みが制限される宇宙船で読書は最良の趣味。無限の時間と空間を手にするようなものだ」

「ま、わからんでもない」

「では返せ」

「……で、そのコレクションのなかに聖書は入っているのか?」

「聖書だと? 私は無神論者だ」

「そうか、じゃあダメだな」

 

 あまりに天儀があっさりいったせいで、

「なに――!」

 とフェイが目を怒らせた。返してやらんこともないというような思わせぶりな態度を取られたせいもあり腹に据えかねる。

 

 フェイが威圧するように一歩でた。

 フェイの身長は平均以上だ。痩せ型でもない。対して天儀は小さい。

 天儀のうしろにひかえている親衛隊の男どもの体貌から、

 ――おい、それ以上近づくな。

 という険しさが立った。部屋は一触即発。丞助、綾坂、アヤセ、そして黒耀もどうなることかとハラハラ。だが、そんななか天儀だけが涼しげだ。

 

 天儀は近づいてきたフェイ中佐へ、端末を向け親指でポチッと画面の赤い丸をタッチ。

 赤い丸のなかにはなにか文字が……。フェイには『再生』という文字に見えた。

 すぐに室内には端末からの音が響いた。


『バカな! 型落ちとはいえ120機の二足機にそくきが押されているだと?!』

『テオドシウス・ウォールが崩壊――! 基地仮想空間の外縁防壁(がいえんぼうへき)が突破されました。中枢部分の陥落まであと13分!』

『なに!? 早すぎるぞ。陸奥改の電子攻撃は基地の高射砲の射撃管制装置に全力だったろ。なぜに基地中枢にアタックできる』

『攻撃はカグツチからです! これは信じられない量の攻勢パターンだ……!』

『戦力少しといえどもカサーン基地の防壁は一級品のはずだ。テオドシウス・ウォールは神世級戦艦じんきょきゅうせんかんの5隻から同時にサイバーアタックをうけても持ちこたえれるのではないのか』

『……残念ながら……、粉砕されました……』

『もういい! 特選隊の戦術統合システムへの妨害どうなっている!』

『特選隊の防壁への浸透率3%! 突破できません!』

『くそ――!』

『いかがいたしますか……』

『こうなったら本当に遭難をよそおう! いまから俺たちは本気で遭難者。いいな!』

 

 天儀がまた画面を親指でタッチした。今度は『停止』のボタンだ。

 フェイは脂汗をうかべ顔は真っ青。


「なっ……」

「どうだ懺悔ざんげしたい気分だろ? 聖書が入っていれば君の電子書籍のコレクションは返してやったんだがな。あれは悔恨かいこんには最適だぞ」

「……ど、どうやって録音した。……いや、そうか! わかったぞ! カサーン基地にスパイでも入れていたのだろ!」

「なにを驚いている。電子戦では俺たちが圧倒していたのだぞ。開始20分で基地のコントールの7割を奪取していた。お前らがなかでなにをしているか知ろうと思えば簡単だ」

「嘘だ! 画面に出ていた電子戦状況は拮抗だった」

「戦いの要衝をAI任せにしすぎたな。そいつはカグツチから操作して表示させていただけだ。カグツチの指揮官は六花ろっか天童愛てんどうあいだ。言い逃れはできんぞ」

「天童愛だと!?」

 

 たしかに電子戦の申し子と呼ばれる女なら、フェイが見ていた画面の表示を偽造するなど、赤子の手をひねるより簡単だろう。

 フェイの身体が前後に揺れていた。全部バレていた、と思えば絶望でめまいしかない。

 

 丞助が進みでて、

偽装投降ぎそうとうこうは重罪です。フェイ・オーエン中佐、あなたの身柄はただちに特務機関へ引き渡され惑星ミアンへ送還です」

 そうフェイへ宣告した。


「だから――っ、降伏などしていない。遭難だ!」

「残念ですが、そのいいわけは軍事法廷でお願いします。遭難信号をだした時点で、戦意なし・戦闘不能。降伏と同意義です」

 丞助がいいおわると、秘書官アヤセが進みでて、

「フェイ中佐、あなたは特戦隊からの救援の申し出でを承諾してしまっています。いい逃れは難しいでしょうね」

 といった。戦闘記録を取っていたのはアヤセだ。基地側とどんなやり取りがあったのかよく知っている。

 

 二人から責められるようにいわれたフェイといえば丞助から毅然としていわれた時点で、すでに押し黙ってしまっていた。背が高く目鼻立ちのとおった男がキリリとすれば、それだけで威風があるものだ。丞助より二回りは歳上のフェイは、あっさり気圧されてしまったのだ。フェイの総身に屈辱がしみていた。

 

 唇を噛みしめ打ちひしがれるしかないフェイの顔色はどす黒い。後悔か、絶望か、もうフェイ自身にもわからない。ただ、いま立つ場所は奈落の底というだけだ。そこへ天儀からの追い打ちの一撃。


「遭難者をよそおって、戦闘を継続していたとは驚きだ。よくて禁固275年。まともに判決をくらえば銃殺ではなく、即執行の絞首刑だ。バカなことをしたな」


「天儀ー!」

 とフェイが吠えて飛んだ。が、天儀の前にはすぐに人の壁。親衛隊の6人だ。フェイ中佐は四肢をばたつかせるどころか、すぐに指一本も動かないほど締め付けを屈強な男どもからくらうことに。

 筋肉の下敷きになったフェイからはうめき声すらでない。ただ、か細い呼吸音だけがかすかに聞こえる程度。

 

「偽装投降からの暗殺行為か。罪を重ねたな――」

 

 天儀が冷えた声でいった。

 特務機関の男を先頭に、フェイ・オーエン中佐は親衛隊に引きずられながらの退場となった。

 

 ――天儀司令は人が悪い。

 丞助は心の底からゾッとした。

 

 丞助はもとからして天儀司令がカサーン基地の遭難信号を疑っていたということを黒耀から聞かされている。それに丞助自身も今回の一連の事件を語るときの天儀司令には、いちいちフェイ中佐への底冷えした感情が見え隠れしていた。

 天儀司令はフェイ中佐の極刑を確定させるために最後にいらぬ一撃でとどめを刺した。そう、感じた。


「俺と戦うということはそういうことだ。嘘で塗り固めればごまかせると生ぬるい打算を持った思ったあいつが悪い。自業自得だ」


 丞助の視線を感じた天儀がそういった。


「戦いに感傷はない、ということでしょうか?」

「違うな。あいつは戦闘を継続していた。だから俺は最後まで戦った。それだけだ」

「最後まで戦うとはどういうことでしょう……」

「確実に相手の息の根を止める。有効打ではなくノックアウト。判定勝ちではなく一本勝ち。最もわかりやすい勝利の形だ」

 

 言葉を吐く天儀の目に感情の色がない。丞助は思わずゴクリとつばを飲み込んだ。

 丞助が天儀の迫力に気圧されるなか女性陣ときたら呑気なものだ。


「ランス・ノールが戦いを無理強いするために兵士たちをカサーン基地に監禁したというのは嘘。遭難信号も嘘。嘘の理由は特選隊をだまして倒すため。陰謀の出処はフェイ・オーエン中佐その人。こんな感じ?」

「あら、おバカな綾坂のわりには事件の内容をよく把握してるじゃない」

「ちょっと! 黒耀、あんたって一々、アタシに絡んでくるわよね」

「はーい。ストップ。ストップ。二人とも天儀司令の前ですよ? ところかまわず喧嘩は、そろそろ厳重注意をもらうことになるとアヤセ的には思います」

 

 アヤセの仲裁に黒耀につかみかかろうとしていた綾坂は停止。黒耀も、悪かったわよ、とボソリといった。

 

「しかし知らぬは俺と綾坂だけか……」

 といって丞助がアヤセと綾坂を見た。


「そんな目で見ないでくださいよ丞助さん。私はこの部屋に入るまで知らなかったんですから。面会の記録を取れって呼び出されてきてみれば、フェイ中佐の嘘を暴くっていうじゃないですか。もう、ビックリですよ」

「あっ! じゃあ黒耀は知ってたの?」

「そりゃあまあ……。私は今回の件では天儀司令から直接指示をうけて動いていたから」

 

 黒耀が歯切れ悪くいった。


「ちょっと、ちょっと教えてよね。私、天儀司令とフェイ中佐が二人きりなんて絶対に危ないと思って乱入なんてしちゃったじゃない」

「そんなのはアンタの勝手じゃない」

「気がきいっかなーい。だからモテないのね~」

「ちょっとそれは関係ないでしょ。それに私は、いわば密命をうけて動いてたのよ。機密をホイホイ喋れるわけないでしょ。そう、密命よ。喋れない。仕方ない」

 

 ムッとした顔の綾坂に、

「まあ、綾坂、黒耀を責めてやるな。友人といえども喋れないことはあるし、喋られては困ることも司令官の私としてはるのだがな」

 と天儀がいったので仕方ない。さすがの綾坂も司令官の天儀にいわれては不承不承ふしょうぶしょうで、黒耀への糾弾をあきらめた。


「じつのところ遭難信号が嘘だったのは輸送艇からの通報でも発覚していた。輸送艇で定例の捕虜への聴取を行なったら、何人もが我先にと喋ったそうだ」

「罪を逃れたい一心というやつですね」

「アヤセ的には茶番劇に付き合わされた部下もかわいそうに思います」

「なんか、わかってみればあっけないのねー。謎なんてなにもないじゃない」

 

 つまないー、というようすでいう綾坂に部屋には笑いが起こった。が、ここで黙っていた丞助が疑念顔で、

「あれ、でも……」

 といった。部屋中の視線が丞助へ集中。


「なによ兄貴、なんか気になることでもあるの。万事無事解決じゃない」

「いや、なにか重要なことを忘れているような気が……」

「いやねー兄貴ったら相変わらず暗いんだから。当初の予定こそ外れたものの一連のカサーン事件の処理は兄貴が処理したんだから喜んだらどうなの。調理場以外を仕切った特技兵なんてそうはいないわよ」

 

 妹の悪態にもなか丞助がハッとして、

「ノーム・コール大尉の殺害の件は……?」

 といって顔をあげた。

 

 ――あ……。

 という面々の顔。そう、今回の逮捕劇ではフェイ・オーエンの陰謀が発覚しただけで、ノーム・コール大尉を誰が殺害したか、重大な部分が完全に不明のまま。そんななか一番に考えを口にしたのは黒耀るい。参謀本部を目指す頭脳の回転力は抜群だ。


「ノーム・コール大尉の殺害はフェイ中佐によるもの、ということかしら?」


「なんでよ?」

 と、すかさず綾坂が食いついた。黒耀の言葉は少し飛躍している。


「殺人事件が起きれば艦内はちょっとした騒ぎになるじゃない」

「あっ……」

「そう、必ずフェイ中佐に聴取が行なわれるわ。今回のようにね。そこで天儀司令以外にはなにも喋らないと黙秘すれば――」

「なるほど天儀司令が直接聴取に現れる可能性もある。現れた天儀司令へ、暗殺を仕掛ける。こうね」

「現にこうして会えたわけだし……」

 

 黒耀が言葉を終えると、丞助、綾坂、アヤセ、そして黒耀の視線が天儀へ。

 ――で、答えはどうなんですか?

 という視線だ。そんな視線に天儀は、

「さあな――」

 と否定的に応じた。コール大尉の死にフェイ中佐が関わったかはまったくもって不明だ。天儀が知っているのは、天童愛からわたされたデータからの、悪辣あくらつな背信行為だけ。


 そんななか4人はもう止まらない。いま、劇的な逮捕を目の前にして興奮冷めやらない。コール大尉殺害について大議論に発展した。


 が、コール大尉の死の真相は意外にあっけないものだった……。

 

 翌日、陸奥改ブリッジ――。

 秘書官アヤセは、

「検死をした軍医からの報告書です。コール大尉は自殺だそうです。コール大尉は宗教上の理由で自殺をはばかって他殺を偽装した、というのが特務機関の結論です」

 そう司令官天儀へ報告した。


「理由は? 自殺するぐらいならなにか思い詰めたことでもあったはずだ」

「……それが特務機関の話だと不明だそうです」

「なんだと――」

「コール大尉の陸奥改でのメンタルヘルスのチェックは良好。フェイ中佐や、もう一人の捕虜からの聴取でもコール大尉が死を決断するような理由は思いあたらないそうです」

「衝動的に死んだということか」

「そういうことになりますね……」


「……わからんものだ」

 と天儀はいって嘆息した。アヤセにこれ以上聞いても仕方ない。証拠に聞かれるアヤセも困り顔だ。

 

 結局、ノーム・コール大尉の自殺の動機は不明。これで片付けられた。捕虜になったことに絶望したとか、フェイ中佐の陰謀に加担したことで軍事法廷での有罪は確定、罪人となることを恥じたとか、色々いわれたが真相は闇の中だ。

 

 ただ一つ、あれ以来、

 ――陸奥改には幽霊がでる。

 といわれるようになった。旧星間連合軍きゅうせいかんれんごうぐんの軍服を着た寂しげな幽霊。場所は二番房の付近。ふらりと現れては、ゆらりと消えていく、そんな幽霊だ。

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