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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
十六章、紫龍の帰還
111/189

16-(1) 狂気再び

*この章からプロローグ・エピローグを取りやめました。

 国軍旗艦ザルモクシス率いる1個艦隊には不気味な静けさがただよっていた……。

 突然開始された緊急の放送が理由だ。

 人々が目にするモニターにはシャンテル・ノール・セレスティア第一執政代理。大きなぱっちりとした瞳にカーキ色の髪の毛の少女のような女性が不気味な笑顔で立っている。


 ――なぜ不気味に感じるのか?

 と考えればわからないが、普通こういった放送で画面に映っているのは威厳ただよわせたしかめつらの中年や老人だ。

 

 それにシャンテルのすぐ後ろにはリリヤことアイリ・リリス・阿南あなん二足機集団総隊長。さらにうしろには年配の艦隊のお歴々がずらり。モニター一枚に軍中枢の半分近くが集まった状態といってもいい。をひと目見ただけで、

 ――なにか重大な発表がある。

 というのは誰にでもわかった。


 放送5分前に号令がかかり、慌てて立った兵員たちといえば画面前で『気をつけ』の姿勢。

 いま、全艦150隻前後のブリッジのモニターというモニター、食堂、トレーニング施設、リラクゼーションサロン、休憩室。そして私室までも。艦内のあらゆるモニターには笑顔のシャンテルが映しだされている。


 最初は驚き黙ってモニターの前に直立していた兵員たちの間には早々に小さなざわめき。放送の意図がわからずヒソヒソと会話を開始したのだ。


「どうも執政司令部が動いたらしい」

「執政司令部といえばシャンテル嬢の腰巾着の副官レムスか。やつも不気味な男だな」

紫龍しりゅう将軍を熱烈に支持していた高官が何名か逮捕されたとい噂を聞いたが」

「そういえば何名かの高官が画面にないな」

「まさか、また公開処刑をやるんじゃないのか……」

「というか紫龍将軍はどうしたんだ?」

「それだ。紫龍将軍がこんな放送を許すはずがない」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 緊急放送一時間前――。

 ザルモクシス大会議室――。

 いま、この部屋は執政司令部のレムスからの通達で集められた艦隊の高官たちでざわついていた。

 壇上にシャンテルがリリヤを引き連れて姿をあらわすと、ざわめきはおさまり視線は壇上へと集まった。


「重大発表です」

 と、ニコリというシャンテルをけげんな顔で眺める高官たち。

 

 いつものシャンテル嬢と違い気分良さげだな。と誰もが思った。李紫龍りしりゅうが軍を統括するようになってからシャンテルの笑顔には常に憂鬱ゆううつな色が混じっていったのだ。それがいまの壇上のシャンテルは、まるで紫龍がくる前のような雰囲気。


「李紫龍将軍が未明に急死しました。軍令第666号規定で艦隊の指揮権は、このシャンテル・ノール・セレスティアに移ります。これからはまた皆さんの唯一の上官ですよ。また以前のように厳しく行きますからね」


 室内に衝撃が走り水を打ったように静まり返った。にわかに信じがたいが、冗談で口にされることではない。なにより勝手に死人にされては紫龍が本人が黙っていない。

「死んだ」

 と発表したなら死んだのだろう。

 ことはそれだけではない高官たちの誰もが、シャンテル嬢と紫龍将軍は埋めがたい溝を知っている。いや2人は憎みあっていたというほうが正しという状態だ。そして画面内の上機嫌なシャンテル。

 ――まさか……。

 という嫌な予感を覚えた。

 

「そ、その死因は?」

 そんな声がどこからともなくあがった。

 

 紫龍は昨日まで元気だったのだ。軍務をこなす紫龍の姿を多くのものが目撃している。勤務後には決まって深酒をするという噂はったが、健康上の問題を抱えていたようにはとても見えない。


「ご病気を抱えていたんですね。おかわいそうに」


「というと死因は疾患ですか?」


「奥様の死を受け入れられなくて悩んでおられましたからね。それで死にました」

 と応じられても高官たちからすれば不気味だ。なにせ死をいうシャンテルは笑顔だ。それに答えが曖昧あいまいではっきりしない。

 

「なるほど悩みですか。メンタルヘルスに問題となれば、その失礼ですが……」


「大丈夫ですよ問を口になさってください。ことは総軍司令官の死です。いま聞きたいことをはっきり聞いておかないときっと後悔してしまいますから」


「では失礼させていただいて、つまるところストレスが原因の自殺でしょうか?」


「ええ自殺です」


 とたんに室内が嫌な空気に包まれた。

 シャンテルは最初は病死のようにいって、直後には自殺と応じたのだ。どう考えてもおかしい。

 

 ――お前なにをした。

 という疑惑の目がシャンテルへと集まった。

 シャンテルのうしろに控えているリリヤの目がギラリとし艦隊高官たちを威嚇するように見てから吠えた。

 

「ちょっとなに疑ってるの! 心も調子を崩せば病気! 精神病で自殺は病死と同じじゃない! 全然おかしくない! もんくあるの!」

 

 すごんでいう姿は完全な恫喝だ。もはや開き直り清々しいぐらいの態度。

 これで、シャンテル嬢に入れ知恵したのはこいつだな、と誰もが思った。艦隊内で孤立していたシャンテルが頼れる相手は少ない。二足機集団総隊長リリヤはその数少ないうちの1人だ。

 

 そんななか部屋の入口では扉が物々しい音で開いた。

 

「執政代理にご報告です。反乱を企てたものを逮捕しました!」

 

 そういって入ってきたのは副官レムス。

 副官レムスのあとに憲兵に引き立てられて入ってきたのは後ろ手に拘束された中年8名。全員が艦隊で重要なポストについているものたちだ。室内は騒然とした。

 憲兵にこづかれながら歩かされる8名の服装は乱れ、目元や口元に青あざ。そしてどんよりとして気力を失った目。

 高官たち顔が凍りつき室内には寒気が走った。

 

 副官レムスは紫龍の暗殺という凶事を知ると、すぐさま艦隊に配備されている憲兵隊の掌握に走ったのだった。憲兵隊長を説得し協力をとりつけ、シャンテルへ反抗を企てそうなものを逮捕したのだ。


「あら、驚いた。なんてことでしょう。それにしても皆さん揃って痛々しいお姿で。どうしたことなんでしょうかこれは」


 引き立てられてきたものたちを哀れんでいうシャンテルに、

「反抗しましたのでちょっとね」

 レムスが嫌味な笑いかたをして小さく拳を振る動作。殴る蹴るをしたということだ。逮捕後に8名を襲ったのは法的な尋問ではなく、声をだす気力を失うほどの拷問。

 

「そうですか仕方ないですね。でも暴力はいけませよ」


 このやりとり集められた高官たちは唖然として見守っていた。みな真っ青だ。高官たちの誰もが程度の差はあれ、李紫龍支持だったのだ。

 ――自分が縛り上げられていてもおかしくない。

 と、ゾッとしていた。

 

 そんな恐怖のなかで8名が壇上に並べられた。

 

 シャンテルがスッと腰から拳銃を抜いて肩の高さに持ち一番端に立つ男に近づいた。

 近づかれた男は恐怖で顔をゆがませ脂汗を浮かべている。

 以前、シャンテルは本国から派遣されてきた軍高官をみずから公開処刑している。そんな女が拳銃を手に自分の前に立っているのだ。生きた心地はしない。


「レムスさん反乱は軍規ではどのようなあつかいになっていますか?」

 

 見上げながらいうシャンテル。なんとも滑稽な情景だが、男が平均的な身長でもシャンテルが小柄なのでどうしてもそうなる。


「上官への武力行動は死刑もしくは禁錮きんこで送還ですね」


「ということです。はい、さようなら」

 

 ――パーン!

 という乾いた音が響いた。

 言葉が終わるか終わらないかで、男があごのしたから頭部を撃ち抜かれていた。

 

 とたんに室内には怒号。


「やめてくれ!」

「殺さないでくれ!」

「これはおかしい!」

「法的手続きをふめ!」

 

 だが、よく見れば阿鼻叫喚しているのは残った壇上の7名だけ。

 いまや殺人ショーの観衆となりさがった艦隊高官たちは恐怖で凍りつき声もでない。

 そこに7回の銃声。どたどたと崩れ落ちる肉体。

 

 室内に血の匂いが充満するなか、シャンテルが艦隊高官たちへ振り向いた。

 

 そのパッチリとした瞳は曇天として凶悪に満ちている。

 ――こうなりたくなかったらいうことを聞け。

 艦隊高官たちはそう理解した。


「シャンテル・ノール・セレスティア万歳!」

 とレムスが叫んだ。

 室内には次々と万歳三唱。

 

 艦隊高官たちが我も忘れて、

「ばんざいー! ばんざいー!」

 と復唱していた。


 ここで黙っていれば間違いなくシャンテルは、

 ――目の色が気に入りません。

 というだけで、

「はい反乱」

 といって、あっさり引き金を引くだろう。普段は虫も殺せないような可憐さだが、この女の生に対する感情は恐ろしく軽い。

 

 そう、ここでの万歳三唱には生死がかかっているのだ。そして、

 ――より大きな声で叫べば忠誠心をしめせる。

 必死であり滑稽だった。

 

 目の前の死は自身の生を強烈にとうとく感じさせるもする。艦隊高官たちはシャンテルにもう逆らえない。

 ――残った皆さんには兄もわたくしも期待していますよ。

 笑顔でいわれても、生きているってすばらしいでしょ? というふくみを持った恫喝でしかない。死にたくなかったら必死になって働け、と婉曲にいっているだけだと艦隊高官たちは理解しゾッとした。

 

 主亡き艦隊で高官たちは保身に走り、国軍はシャンテルの私物と化した。可憐な少女のような女はふたたび軍の女王、専制君主へと返り咲いた。艦隊高官たちはシャンテルが艦隊をどのようにするのか気が気でない……。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「レムスさん憲兵隊の掌握は見事でした」

 

 シャンテルは艦隊に李紫龍りしりゅうの死をつげ終わると、そういってレムスをねぎらった。言葉とともにシャンテルからは自然と笑貌しょうぼうがでていた。一段落つき安心したのだ。

 ねぎらわれたレムスといえば、ニヘラと表情が崩れそうになるのを必死で自制。シャンテル信者のレムスにとって、自然な笑顔はたまらないご褒美。

 レムスはサッと一礼。シャンテルが敬礼より頭をさげるほうを好むことを知っているからだ。


「高官たちは日和見ひよりみですから、彼らが李紫龍に従っていたのは強いものになびいていたにすぎません。信念がありません」


「あら、レムスさんは信念で上官につかえているのですか?」

 

 レムスが、ええ、と爽やかに笑って応じた。


「信念のない彼らはより強いほう、つまりはより有利なほうにつくだけです。そして我が軍で艦隊内の警察権をにぎっているのは憲兵隊ですから憲兵隊が味方したほうが正義です」


「なるほどいい見込みです。敵との戦闘状態では憲兵隊はたんなるいち部隊にすぎませんが、内向きには強力な権限を持っています」


「憲兵隊はキング・ランス・ノールの選抜。もはや親衛隊に等しい。しかも憲兵隊の隊長は血統主義者。彼らはランス・ノールの妹君に絶対忠誠ですよ」


「親衛隊ですか。ま、憲兵隊は兄が軍を掌握するために再編しなおした組織ですから」

「執政代理も作りますか?」


 レムスがいたずらげにいうと、シャンテルが口元に指をやり、

 ――?

 という顔。レムスにとって、こんなとぼけた表情もたまらない。


「シャンテル様の親衛隊ですよ。執政司令部から選抜して作りましょう」


「あら、兄の憲兵隊のほうがよくなくて? 出世できるのは兄のもとですよ」


「俺はシャンテル執政代理がいいんです。シャンテル武装親衛隊でどうでしょうか?」


「なるほど――」

 とシャンテルが考える素振り。

 

 武装親衛隊は悪くはありません。しかもわたくしの親衛隊に目に見える力を持たせれば軍の掌統しょうとうにはきわめて便利ですから。とシャンテルは思った。


 一方レムスはレムスで――。

 俺が隊長で徐々に拡張してもらいゆくゆくは艦隊規模。このほうが一軍官僚よりはるかに面白いシナリオだ。

 ランス・ノールのしたで、そこそこの出世。出世欲がないわけではないが野心的とはいいがたかったのがレムスだが、

 ――このまま軍官僚で終わるよりやはり出世だな。

 と飛躍を夢見始めていた。

 

「親衛隊の件は兄に相談してみます。わたくしが名だけの艦隊のトップとなめられがちなおは、やはり目に見える形の力がないからだと思いますから」


 レムスは、ハッ! と切れのいい返事でうやうやしく一礼。

 顔上げつつレムスは、そんなことより見た目。シャンテル嬢は少女のような容姿が一番の問題ですけどね。と思いブリッジをあとにした。


「あいつスケベよ。シャンテルさんのことずっと変な目で見てた」

 

 レムスがでていくとリリヤがいった。

 シャンテルは、ええ、とうなづいてから。


「でも仕事はできてつかえますよ。憲兵隊の素早い掌握は見事です」


「ふん、どうだろ。憲兵隊は黙っててもシャンテルさんの味方だったと思う」

 

 が、シャンテルはフフっと笑うだけだ。リリヤはムッとした。


「あと、あいつ夜は超自分勝手。奉仕させるだけさせて、満足したらグーグー寝ちゃうんだから。リリヤにはちっともしてくれなかった。あいつ顔もはいいけど男前は他にもいるしさぁ。それっきりにしてやったんだから」

 

 シャンテルはリリヤから飛びでた下世話な話題に、あらと驚き顔。そして苦笑。


「人は一面だけでは判断できませんね。従順な顔の下には尊大な自我。ご忠告感謝します」


「シャンテルさんはあの男気に入っているの?」

 とリリヤがたずねた。


 リリヤにも仮にシャンテル親衛隊が創設されるなら、あの男が隊長になるような予感はする。そうなるとシャンテルはあの男をかなり信用しているということになる。いや、信用せざるを得ない。重要な仕事を任せればシャンテルとレムスの関係は縮まるだろう。


 リリヤはシャンテルの一番の友だちを自負している。もやっと嫉妬し、思わずたずねたのだ。が、そんなリリヤの淡い嫉妬も杞憂に終わる。


「家畜としては最高です。憂い顔で死ねと命じれば死んでくれそうですし。でも男性としては見たこともありませんね。なぜか従順な生き物ぐらいに思ってました」


「アハハ。眼中なしか。いい気味」

 リリヤがざまあみろとばかりに笑った。


「では作戦会議を招集しましょう。状況は一刻を争います。こんなところに長居はできません。早々に惑星ファリガへ戻ります」


「うん! もう好きにできるよね。シャンテルさんのやりたいようにさ。二足機隊が必要だったらいってね。全力で協力するよ」


「ええ、ありがとうございます。でも今回は秘策があります。リリヤさんに苦労してもらうまでもありませんよ」


「秘策?」


「李紫龍に働いてもらおうと思ってます」


「え、死んでるのに?」


「わたくしたちを散々にこきつかったのですから死体になっても残務処理していただかないとね」


 リリヤは含みのあることをいうシャンテルに疑問も視線を向けたがそれ以上は問わずに、

「死人に一働きだなんてシャンテルさんも人使いが荒いね」

 といって笑った。なにもかもうまくいく。そんな予感でリリヤの胸はいっぱいだ。

 

 シャンテルが死人をどうつかうか。まだ誰も知らない……。

 前書きのとおりこの章から「プロローグ・エピローグ」を取りやめました。

 鹿島が本編へ完全に合流したというのが大きな理由です。加えて話の進行を遅延する原因となっているとも思ったからです。

 

 プロローグとエピローグを毎回入れれば、ストリー作りや構成を意識して書けるかもしれないとも思ってやってみました。ゴツゴツで歪な形の私も、無理やり重箱に押し込めれば、面がととのい四角くなるかも? といような感じです。

 

 プロローグとエピローグの部分はキャラの説明や世界観の説明に使ったりもしましたし、サイドストーリー的ものを展開したり。ようは定まっていなかったんですね……。

 今後、話が進み必要性があると感じれば復活もします。

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