(十五章エピローグ) 夢見る鹿島の大作戦!
「ところで愛さんは料理ってできます?」
鹿島容子に問いかけられたのは作戦参与の天童愛。
ここは陸奥改のスイーツパーラー。
天童愛と鹿島は2人がけのテーブルに向かい合って座り、2人の目の前には逆三角形の容器に果物やジャムとクリームが層になりトップにはふんだんな果実をのせたパフェ。
天童愛の前にブルーを基調とした海の波を連想させるパフェ。トップには白と水色の寒天にマスカット。対して鹿島の前にはバニラと赤いシロップの層が美しいトップには真っ赤ないちごの山のパフェ。
2人はいま、それをつついて女子トークだ。
なぜ料理の話? と天童愛は思ったが、
――そうですね。
一瞬考えいたずら心。
「かき氷とか得意ですよ」
「へ!?」
「あと、そうめんとか、ザルうどん。冷奴もそうですね」
すまし顔でいう天童愛に対して、質問した鹿島といえば困惑顔。トレードマークのホワイトブロンドおツインテールごとはてなマークだ。
――え、愛さんのなかではかき氷も手料理?
鹿島は、一応料理といえば料理ですけどぉ、と苦い笑い。しかも天童愛から続けてでたのは簡単そうなレシピばかり。違うそうじゃないと鹿島はいいたい。
それこそ、
――インスタントやできあいものでチョチョイのチョイですよそれ。
そうめんはほぼ茹でるだけ、ザルうどんも同様。冷奴など盛るだけだ。
どう考えたって面を手打ち、豆腐は大豆から、とは思えない。
――そこから作ってるなら、そりゃあすごいですけどぉ。
天童愛の口ぶりからしても、そうじゃないというのはわかる。
鹿島はムムッと考えた。
あ、そうだ。天童愛さんって星間連合で資産価値が十指に入る資産六節グループのご令嬢です。実家は超大金持ちってやつです。なんで軍人さんやってるのかって人でした。意外と世間ずれしてるのかも?
「あはは、そうなんですか」
鹿島は気をつかって愛想笑い。それらが手料理だと本気で思い込んでいるなら、女子としてはちょっとヤバイ。仮に食事は毎回インスタントや外食。包丁? なにそれ? 料理できずという女子でも、かき氷をもって料理できます! とはならない。
でも直球で、
「そんなの料理じゃないですよ」
という勇気も鹿島にはなし。それらを本気で料理と思っているなら間違いなく傷つく。
そ、それにかき氷もピンきりです。すっごい盛々の、そうだ。それこそ目の前のパフェさんみたいなお店ででるようなかき氷のこと言ってるのかもしれないですしね!
鹿島は頭のなかで愛想笑いを必死に正当化。
天童愛が、
――フフ。
と笑った。魅力的な微笑。けれど吹きだすような笑いかた。
だって鹿島さんったら私が、かき氷っていってからの顔がまるで百面相。コロコロ変わって面白いんですもの。
天童愛は楽しくなってついつい、
「アイスも得意ですよ」
といってしまった。
「え! アイスはすごいです! 昔お母さんといっしょに作ったんですけどとっても大変でした」
とたんに食いついた鹿島。お夕食のメインにはなずともアイスならちゃんとした料理で、鹿島のなかでは上位レシピ。まさか買ってきたバニラアイスを皿に盛って、
――手作りです。これぞ六花の天童愛のマジカルレシピ。どうぞめしあがれ。
なんてはずはない。
アイスっていったら、ボールでこねこねして作るに決まってますから! 鹿島は一安心。これで料理か疑問のレシピをほめる軽薄な状況から脱出だ。
天童愛はもう我慢できない。お腹に手をやって、
「うふふ。もういやだ鹿島さんったら簡単に信じてしまうのだから」
と大笑い。
鹿島は、へ? という間抜け面だ。
「いくらわたくしでもかき氷は料理とはいいませんし、アイスは難度が高いレシピではありますけど、料理を作れるか聞かれてアイスなんて答えませんからね」
「あ、冗談ですか」
鹿島は非難目と同時に気恥ずかしさ。テレテレと頭をかいた。疑問なしに、すっかり信じていたのだ。
「いえ、以前ね。お前は相変わらずだなかき氷でも作る気かって兄にいわれたのを思いだしたの」
「ほう? どういうことですか。大好きなお兄さんの正宗さまが、かき氷が好きとかです?」
天童愛は、いえ違いますよ。といってから、
「わたくしってアイスウィッチとか雪女って呼ばれてるでしょ?」
といった。
鹿島は、はい。とはいえず曖昧なうなづき。
この二つ名には怖くて高慢な女というネガティブな意味もふくまれる。はいそうです、とは返事しがたいのだ。
「わたくしが以前率いていた艦隊に参謀本部から高級将校が視察にきたのですけど、この方達があまりに高慢だったので、わたくし腹が立ってしまってね。二足機ハンガー見学で格納庫にはいったときに二足機の冷却液を天井から散布、ぶっかけてやりましたの。それで皆さん凍傷。大問題になりかけて厳重注意。そのときに呆れ顔のお兄様に、氷漬けにしてかき氷でも作る気だったのかとチクリとね、いわれたの」
「ヒエッ」
鹿島はゾッとした。冷却液といっても水から液体窒素まで様々だが、天童愛がいったのはかなり低温の化学薬品に違いない。そんなものを人にかけるとは信じられないし、天童愛の怒りのほどが知れるというものだ。
そこまで怒っちゃうことってなんでしょうかと思うが、さすがの鹿島でも、
――なにが原因でそんなに怒ったんです?
などと、あまりに恐ろしくて聞けない。
「それに雪女のわたくしの得意がかき氷ってそれらしいでしょ?」
天童愛がいたずらげ笑うが、鹿島は、
――どう、うまいこといったでしょ? みたいな顔されても。
アハハっと曖昧な笑いで対応。
「で、ところで鹿島さん。なぜ突然に料理なんです?」
「ああ! そうでした!」
鹿島はポンと手を叩いてから。
「天儀司令って男じゃないですか」
ええ、そうね。と応じる天童愛は困惑気味。まさか恋愛系の話題? と思ったからだ。いまいち鹿島の料理という切り口から、どう天儀へつながるのか不明瞭。単純に考え、情報をつなぎ合わせれば、
――えっと、つまり天儀司令に料理を作ってあげたい。
と、なりますよね。と天童愛は想像したのだ。
それって鹿島さんは天儀司令が好きになったとかということでしょうか?
若い女性が若い男性に料理を作ってあげたいとなれば十中八九そうだ。
けれど管理の立場を経験している天童愛からすれば、職場恋愛は微妙だ。天童愛は過去に部下の恋愛事情で手を焼いたのだ。特に勤務場所が同じ部屋とかだと業務に支障をきたしたことが多い。
関係がうまく行っていても問題が起きるのに、浮気などで関係がこじれて、
――もう顔を合わせたくないので配置換えしてくれ。
などと管理の立場からは面倒このうえない。
「男の人の心をつかむには胃袋からが基本です! お祖母ちゃんがいってましたから」
「それはわかりますけれど、つかんでどうするんです?」
天童愛は若干引き笑い。つかんで投げ捨てる? などと冗談を織り交ぜた。
――天儀司令を好きになっちゃったんで、料理教えてください!
なんて展開になれば面倒だ。
鹿島さんは夢見る超ポジティブ少女のようなところがありますから、あきらめさせるのは骨ね……。わたくしからすれば2人が付き合えば鹿島さんは絶対に泣かされます。2人は合いません。
「投げ捨てるだなんてともでもない。がっちりつかんで名補佐官! ですよ?」
「え? どういうことですか……」
「もう。天童愛さんとあろう人がわからないんですか。胃袋を鹿島に支配された天儀司令。そうなれば天儀司令のなかで私の存在は肥大。より重要な位置づけに。重要なわたし鹿島は作戦にも欠かせない存在。私の助言は超重視されちゃうこと間違いなし! 名将に対してイニシアチブ(主導権)を持つこれぞ私が理想とする名補佐官です」
天童愛はあまりにアホらしい理由に絶句。理由が斜め上すぎる。
が、エッヘンと誇る鹿島は天童愛の呆れ顔には気づかない。だって絶対いい作戦と頭から信じ込んでいるのだから。
「ふふ、実はこう見えて料理は得意なんですよ。従姉といっしょに、お祖母ちゃんに習いましたから」
「ええ、でもどうかしら。そんなに上手くいくとは思えませんけど」
「そんなことないですよ。お祖母ちゃんがよく自慢してました。お祖父ちゃんはイチコロだったって。あの気難し屋の偏屈なお祖父ちゃんがですよ?」
――といわれても……。
天童愛は苦笑い。
知らない人間の話題によくわからずというのが天童愛の心境だ。鹿島のなかでは、絶対論なのだろうが、
――その例では、まったく共感性がないのですが?
ということで、落ちついて鹿島さん。というものだ。
「もう酒保(艦内の売店)でエプロンだって買っちゃいましたから」
「でも料理をおだしするには調理場の使用許可が必要ですよね? 栄養管理課でもない場合難しいのでは」
「ふふ、天童愛さん誰だと思ってるんですが私を」
――誰ですか。
と天童愛はいいたいが、鹿島の勢いに空笑いで応じるしかない。
「わたしは筆頭秘書官。主計室の主です。そんな手続きチョチョイのチョイですよ。天儀司令の司令室(私室)の一番近い調理場で作っておだしします。天儀司令がブリッジ勤務で疲れて部屋に帰ってくるとびっくり仰天。わたし鹿島がエプロン姿で温かい料理とともにお出迎えです! これで胃袋ガッチリ! バッチリ高感度上昇!」
鹿島のみなぎる自信に、天童愛はタジタジ。どこからそんな自信が湧いてくるのか、と思いもするが、わからないでもないとも思う。鹿島は可愛い系の間違いなく美人の分類だ。
だが、鹿島の考えはあまりに浅はか。
――陥穽だらけの作戦ですけど。
と心中で嘆息。その作戦問題あり! と思い苦言。
「で、そのまま押し倒されるとかやめてくださいね」
「へ――!?」
「エプロン姿の鹿島さんも美味しくごちそうさま。場所は天儀司令の私室でしょ? そして2人きり。そんなところにエプロン姿の鹿島容子。ジ・エンドね」
「え、えぇえーー?!」
「ま、そういうのを望んでいるならいいですけれど、わたくし女性性をつかってポジションを勝ち取るとか、そういうのはどうかと思いますよ」
鹿島はアワアワするだけ。最高! と思い込んでいた作戦に思わぬ痛撃をうけ動揺でいっぱいだ。
「ええ、もちろん鹿島さんが天儀司令を純粋に恋愛対象として望んでいるなら、わたくしは文句なんてありませんよ。むしろエールを送りますけれど。違うでしょ?」
「うぅ……。天儀司令にはごめんですけど、そういう対象としてはちょっと。全然好みじゃないです。私は背が高くて笑顔がステキで優しい人がいいです」
「あら、身長はともかく天儀はあれでいて優しいほうだと思いますけど。部下には笑顔で気さくに話しかけますし、畏怖されているというより、先輩のように慕われてますけど」
「それはわかります。なんていうか上手くいえないんですけど、天儀司令は怖さがあります。怖いのの塊です。横にいて、ときおりついていけないって思います」
少し初沈気味の鹿島だが、天童愛は一安心。職場恋愛の問題はなかったのだ。そして鹿島が天儀に泣かされるといういやな想像も発生しようがない。
「軽食を作ってブリッジへ持っていくのはどうでしょうか。これなら簡単ですし」
「おお、それもいいですね」
「ええ、高感度はあがりますよ」
思えば休養時間の他愛もない話題だが無事に一件落着。2人は歓談しながらパフェを楽しんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
後日――。
「でも、当初の作戦は決行なんですよぉ~」
鹿島は司令室内に作った料理と電子調理器を持ち込みガン待機。保温設定の電子調理器のうえには作ったスープだ。
いま、鹿島は主計部秘書課の可愛いと有名な制服のうえにエプロン。大きな真っ赤なリボンもバッチリととのえ身だしなみも完璧だ。
鹿島はこう! と思い込んだら、ちょっとやそっとじゃ止まらない。天童愛の苦言も、意味はないが山があったら登りたい、越えるべき難関としてむしろやる気を起こさせていた。
「ふふ、もしも天儀司令が可愛すぎる私に迫ってきたら防犯アラートです!」
という鹿島の手のひらのなかの防犯ブザーを。しかも艦内の警備部に直接鳴り響くやつだ。
が、私室に、女性が、手料理を作って待っている。しかも笑顔で。
これだけの条件が揃って勘違いしない男はいない。
あわれなるかな天儀。エプロン姿で待っていた鹿島の手にでも触れれば、その瞬間に警備部の詰め所にはけたたましいアラート音。ドタドタと駆けつけてきた屈強な男たちによってセクハラで逮捕だ。
「天儀司令がなにを勘違いしたか私に手を伸ばしてきたら、これを押して危機脱出です。うふふ。私は食べれませんし、食べられません。料理の彩りで添えられてるやつです。プラスチックの黄色い花とかのです」
メインじゃなく添えものとはどうなのだ。が、鹿島容子はもう止まらない。
そこへ、
――ピッ。
という解錠音。
扉が開いた。
開いた先には天儀の驚き顔。
対して鹿島は飛び切りの笑顔でお出迎え。絶対に喜んでもらえると信じ切っている。
「お、お前どうやって入った」
「へ? 合鍵ありますよ?」
「マジカ――」
普通は戦隊司令室の鍵は司令官本人と警備部しか持ち合わせない。
天儀は引きつった笑いで鹿島に応じた。
なぜなら、
――お前なんでいるんだ!
と拒絶すれば鹿島を傷つけると、とっさに思って気をつかったのだ。天儀は作り笑顔で問いかける。
「い、以前もなんどかこうやって入ったか?」
「え、初めてですよ?」
鹿島はどうして、そんなに身構えているの? と疑問顔だ。
だが、私室に勝手に他人がいれば驚く以外にない。しかも勝手に合鍵持ってますの激白だ。天儀の立場からすればストーカーの類と対面してしまったときの衝撃だ。
「それよりです。お料理作って待ったんですよ。夕食まだですよね?」
「お、おう。なんで知っている」
「やだ天儀司令ったら私って秘書官ですよ? 天儀司令の予定なんて全部知ってますよもう」
天儀はまたも引きつった笑い。
勝手に部屋に上がり込んでいた相手から、
「お前の全部を把握している」
といわれれば不気味な怖さしかない
が、不気味さにおののく天儀の前には鹿島の屈託のない笑顔。
天儀が心中でフッとため息し、
――ま、度を過ぎているが、悪気はないか。
と思った。
鹿島には激務に耐えてもらってる。やらせたいようにやらせるか。それに見てみれば俺のために料理を作ってくれたんじゃないか。無下にするのは気が引ける。
天儀は鹿島の好意に甘えることにした。が、なにかおかしい。
「おい。なにか焦げ臭くないか?」
「へ?」
「それ――」
といって天儀がスープの乗った電子調理器を指した。次の瞬間には、
「アアアー! 焦げちゃったぁあああ」
という鹿島の悲鳴が室内に響いたのだった。
――10分後。
料理の並べられた机に向かい合って座る2人。
天儀が、
「君もいっしょに食べろ」
といったのだ。
天儀からすれば1人で食べるのを鹿島に見つめられるのは、どう考えたって食べにくい。なお焦げたスープは鍋の中で放置。
天儀に向かい合って座る鹿島はうらめしそうに鍋を見た。
一番力を入れて作っただけに、とっても残念です。でも底が真っ黒に焦げ付くまでなってしまえば味は完全に別物です。口に入れれば苦い味しかしません。いえ、スープの風味と焦げ味が混ざって、絵にも言われぬ不味さのはず。そんなのお出しできないです。と鹿島は消沈。
「……うぅ。保温設定かと思ったら『強』でした。大失敗です。実家はガスなんですよぉ。電子調理器はつかい慣れてません」
そんな鹿島を見た天儀がスッと立ちあがった。
――?
と鹿島が見つめていると、天儀は焦げたスープの鍋の取っ手をヒョイッとつかんで自身の席へ。2人分だ。鍋はそう大きくはない。
――持ってきてどうするんですか?
と鹿島が思っていると、天儀がおもむろに手にしたスプーンを突っ込んだ。
「え!? 不味い! 食べちゃダメ!!」
鹿島が叫ぶ前に、
「おいしいよ。ありがとう」
と天儀が笑った。
鹿島は、そんな偽善とは思わなかった。俺のために本当にありがとう、という真心がつたわってくる笑顔と声色だった。
鹿島感激です。と不覚にもぽーっとする鹿島の目の前では、天儀がさらにスプーンをガッガッと突っ込んで、ムシャムシャと焦げたものを食べ続けている。
「……」
と鹿島が苦い顔。
鹿島は料理に自信アリの女子だ。さすがにそれはちょっと、というものだ。
これでは味はどうでもいいということにもなりかねないし、無理して食べてもらうようなものじゃない。さすがにやめて欲しい
鹿島は、もうそれぐらいで。と思ってやんわり制止。
「えっと無理して食べなくても」
「いや、いいよ。おふくろ以外の女性の手料理なんて初めてかもしれん」
う、そういわれると。というか、その発言天儀司令のわびしい人生が見え隠れして微妙です。
けれどそこまでいうなら好きにさせよう。それに食べてもらえるなら、うれしくも、なくもなくもない。
「ありがとうございます。ごめんなさい」
「なぜ謝る」
「不味いですよね?」
「不味ければ食べない」
鹿島が、ムッとなった。焦げたスープがまずくないわけがないのだ。やはり気をつかって無理に食べてもらうのは、むしろ不快だ。
「む、嘘です。ちょっとそういうのは偽善的ですよ。焦げたのを食べてやるから恩に着ろみたいな。押し売りです」
天儀がフッと笑ってから、
「君は俺を知らんな」
と重くいった。
「え?」
「俺は最初のころ地上戦をやってた。配属先は遊撃部隊の下っ端だ」
「で、だから?」
「遊撃部隊といっても敵地に深く入り込んで潜伏。そこからの戦局にそって適宜効果的な交戦を行なうが、つまりまともな補給なんてないんだよ」
「わかりますよ。私って歴女にしてもミリオタですから、そんなところにご飯や弾薬なんて運び込むのは難しいです」
鹿島は、だからなんなんですか。と反感を思った。
「それが焦げちゃって不味いスープとなにが関係が?」
「つまりな。ドブネズミの尻尾、芋虫やトカゲとくらべりゃ十分うまい」
天儀がスプーンを口元に運びながら異常を傲然といった。
鹿島から見て、言葉を口にする天儀は少し寂しそうだが、口元をゆがませ不気味な態度。
――やっぱり天儀司令のこういうところは苦手です。
ざらつくような不快を思った。
「それにな。食に文句をつけるやつはろくなやつじゃない。ただ、黙って食うんだよ」
「むむ……。でもその考え方は理解できるかも。おいしく食べてるのに、あれやこれや文句ばかりいわれると楽しくないですから」
「だろ?」
「でもせっかくおいしく食べて欲しいって作ったんですよ? 不味いのを無理して食べられるのはちょっと違います。それに芋虫と比べておいしいなんて作った人に失礼ですよ」
「そうか――」
天儀が一転。鹿島の言葉を一理ありと態度をあらためていた。
「そうなんです。証拠に私は嫌な気分です」
鹿島の追撃。
これには天儀がムッとした顔をしたが、悪かった。と謝罪を口にした。
鹿島はツンとした態度で、
「それではお詫びのしるしに話を聞かせてください」
と上から目線。
「話? なんのだ俺の自慢話が聞きたいのか? ゴマンとあるぞ。三日三晩続けられるが――」
「もうっ。違いますったら。地上戦の話です。私って歴女でミリオタのハイブリッド。いまの話はとても興味ありですから。食事中にネズミ食べた話は引きますけど、それでも面白い話ですよ」
「おい。やはり君は勘違いしているな」
と天儀が屈託なく笑った。
鹿島は、いつもこういうふうに笑っていてくれればステキなのに、と思った。いまの天儀に鹿島の嫌う不気味さはない。
「その話も自慢話だ。いま、それを要求したということは、やはり三日三晩だな。覚悟しろよ」
天儀がまた笑った。
鹿島も笑い返した。
そして2人は食事のあとに2時間ほど歓談。鹿島は天儀との距離が近づいたなと嬉しく思った。