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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
(十四章エピローグ) そのころトップガンは――
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14Epi-(5) 決闘のゆくえ

 ――お願い! お願い! 天儀司令勝って! まぐれでもなんでもいいですから!

 と祈りに祈る鹿島容子かしまようこの目の前では、予想に反して天儀てんぎが投げるという大事件。


 鹿島はぴょんぴょんと跳ねて歓喜。思わず、

「やりました!」

 と叫んで横にいる天童愛てんどうあいの服を引っ張った。

 

 服を引かれる天童愛はといえば、鹿島の横で目を見開いて驚き顔だ。

 

「これって勝ったんですよね? ね!」


「え、ええ。非の打ち所がない一本ですけれど」


「やったぁ! 天儀司令! かっこいいです!」

 

 小さい天儀が大きい進介を投げるというまさかの展開に鹿島は大歓喜。

 が、はしゃぐ鹿島の目の前には信じられない光景が――。

 

 投げられたトップガン進介しんすけが、

 ――ガバッ!

 と跳ね起きたと思ったら天儀へ組みにかかった。


 天儀も、

 ――こい!

 とばかりに受けて立っている。

 

 両者がまた組み合っていた。


「え、勝ったのにーー!」

 

 鹿島は悲鳴をあげながら天童愛の服をにグイグイ引っ張って、

「どうしてですか? ねえったら! どうして!」

 と非難の声。


「わたくしに、いわれましても――」

 天童愛は鹿島の勢いにタジタジだ。


 天童愛は、ジャッジがいないので、こうなることはわかりきっていたでしょうに。と、いいたいが鹿島の勢いが猛烈すぎて、落ちつて。となだめるしかない。

 

 鹿島は試合場の天儀へ向けて、

「続けたら負けちゃいます! 天儀司令ったら勝ったんですよ!」

 もう試合が終わったとばかりに叫ぶが、天儀の鹿島への対応は傲岸とした無視。

 

 ふぇ~。と鹿島は真っ青だ。

 

 天儀と進介の体格差が問題だ。両者の身長差は10センチ近い。

 鹿島が思うに、どう考えても天儀司令が不利で、長丁場になればなるほど負けちゃます! というものだ。


 ――せっかく勝ったに!

 と鹿島は全身で焦燥。


 まぐれでもなんでも勝てばいいのだ。それが仕切り直しとはありえない。いまの鹿島には、たとえ投げられなくとも、体格のいい進介に、

 ――寝技ってやつでしたっけ?

 それで天儀が組みかれる姿しか思い浮かばない。最後には間違いなく体格に劣る天儀が体力負けする。

 鹿島の脳裏には、天儀が力尽き進介に押しつぶされるようやられてしまう姿。


 あー! 両者ガッチリ組んじゃってます。最初のときは、天儀司令が一方的に有利な感じでしたけど、今回はトップガンさんも両手でちゃんと柔道着持ってます! 

 

 体格にまさる進介が、グイグイと一方的に押していく。天儀は下がる一方。

 

 鹿島が、

 ――やられちゃう!

 と思った瞬間に両者の動きが停止。

 

 天儀が釣り手をつっぱり、つまり左手で押し返したのだ。

 

 だが鹿島は安心できない。押し返せば当然、その力を利用される。というぐらい知っている。

 

 ――柔よく剛を制すってやつですよね。相手の力を利用するやつです。

 

 進介がグイグイと押しまくっていただけに、それを押しとどめた天儀の力も大きいはずだ。

 

 ――天儀司令そんなに力いっぱい押し返したらだめ!

 と思うも鹿島ののどはカラカラで、加えて焦りすぎて声が出ない。ハラハラと両手を胸の前で握るだけだ。

 

 ――投げられちゃう!

 と鹿島が必死となった瞬間に、天儀の体が進介の下へと沈み込んだ。


背負投せおいなげ!?」

 鹿島が叫ぶと、

肩車かたぐるまです!」

 天童愛が応じた。


 天儀が進介を担ぎ上げていた。

 

 進介といえば天儀の上で腹ばいのような状態で手足をバタつかせるも俎上そじょううお以下だ。なすすべがない。

 

 天儀がその状態でタタッ! と二三歩駆けて、最後は床へ叩きつけるように、

 ――ドゴーン!

 と進介を投げ捨てた。


 またも試合場が揺れた。

 鹿島の足に本日2度目の振動がつたわってきた。

 

 鹿島が、

 ――あれ?

 と、あっけにとられ、天童愛は、

 ――これは……。

 となんともいえない表情。


 そんななか試合場の天儀は進介を睥睨へいげい

「まだやるか」


「くそっ! それ嘘だ!」

 進介が天儀の白帯を指していった。


「バカめ気づくのが遅い!」


「実力をいつわるだなんて卑怯ひきょうだ!」


「俺たちは兵士だ! 卑怯も戦術の内だ!」


 これでは子供のいいあいだ。試合場には、なんとも情けない空気。

 

 ――言葉の勝負じゃない! ようは勝てばいい!

 進介が、いいあいなど不毛とばかりにスクッと立ちあがった。

 対して天儀は、納得行かないならかかってこい! とばかりだ。


 ――こうなったら徹底的にやってやる。仮にどんなに無様な結果をまねこうともだ!

 進介が覚悟を決めて闘志をみなぎらせた。


 が、そこに、

「そこまで。林氷進介りんぴょうしんすけ隊長もう勝負はついていますね」

 という声。天童愛だった。その横には鹿島だ。


「愛さんじゃましないでくれ!」


「あら、わたくしって特戦隊の作戦参与。そして少将しょうしょうですけど?」


 天童愛から凄まじい威圧感。その身にはビュンビュンと吹雪をまとっている。

 進介は気圧され、

 ――天童作戦参与。

 とバツが悪そうにいいなおした。

 

「もう、およしになったらどうです。2回とも綺麗な一本。負けを認めないのはみっともないのではなくて?」


「いえ、違います。ジャッジがいない。つまりどちらかの心が折れるまでが勝負だ! 俺の心はまだ折れてない!」

 進介が叫んで天儀を見た。

 

「俺は問題ない。弟がもういい、というまで付き合ってやるよ」

 

 天儀はくっしんを交えつつ余裕しゃくしゃくだ。

 

 これに焦ったのが鹿島だ。鹿島からすれば試合続行などとんでもない。

 ――戦えば必ず負けるリスクが有るって『戦史群像せんしぐんぞう』にもありました!

 

 鹿島からすればせっかく、私闘を嫌悪して審判を辞退した天童愛が割って入ってくれたのだ。ここで終わらせてしまいたい。

 

 鹿島がすっと息を吸い、

 ――でも。

 と口を開こうとすると天童愛がそれを制して。

「試合が決まると天儀司令は、しめわざで参ったしても落ちるまで放さないといっていましたわ。あのようすを見るに、天儀司令は寝技に自信あり、立ち勝負よりもです。弐段にだんの進介隊長なら、この意味わかりますわよね?」


 進介が、ウッとして押し黙った。


「進介隊長は立ち勝負でこれだけ無様なのですから、寝技にもつれ込んだらどうなるか。わたくしとしては恐ろしい限りですけれど」


「どうなるんです?」

 鹿島がたまらず割って入っていた。鹿島の目の前の進介は、天童愛のいわんとするところが理解できているようだが、鹿島としては柔道を知っている者同士の会話についていけない。


「落とす。活を入れる。これを7,8回は繰り返すということですね。徹底的に実力差をわからせるとなると、恐らくこれでしょう」

 

 けれど鹿島は疑問顔。専門用語が混じってわからない。


「落とす? 活を入れる? 繰り返す?」

 

 天童愛は嘆息して、つまりですね。といってから、

「首を絞めて、失神させて、蘇生術をほどこす。そしてまた首を絞めて――。このループを食らわせる」

 噛み砕いて鹿島へつたえると、

「ひぇ……」

 と鹿島は絶句。

 

 まさか本気でそんなことを? と鹿島が天儀を見ると口元が少しだけニヤついている。

 鹿島は、

 ――天儀司令のこういうところは無理です。

 と思った。

 鹿島から見た天儀司令は、笑顔がステキな頼れる先輩のような男性。ブリッジに立つ天儀はりんとしているが、

 ――私が挨拶すると屈託なく笑って返してくれていいなって。

 

 ですけど、それは天儀司令の一面にすぎないんですよね。とも鹿島は思う。

 

 鹿島は天儀の秘書官としてついているうちに、天儀はいざ口を開けば直情的、行動を起こせば急進的で、

 ――異常こわい

 と感じてしまう内面があることに気づいていた。


 つまり、鹿島に気を許した天儀が、鹿島へ垣間見せた内面は激烈な攻撃性だ。鹿島はこれを嫌った。


 天儀に不快な怖さ感じた鹿島だが、将軍は恐れられてこそ命令を徹底できる。とも考え直し、

 ――なので、この怖さも天儀司令の魅力の一つかも?

 と必死にイメージ修正。

 

 加えて鹿島は少し非難の色を込めて、

「首なんて締めたら死んじゃいますよぉ」

 涙目で訴えた。

 

 名将の名補佐官を目指す鹿島としては、天儀を理想の上司に仕立てたい。この涙目で、天儀に自重と改善をうながしたのだ。自分が天儀へ怖さも上司の資質と考え方をよせたのだ。天儀にも、

 ――冗談だよ。

 とか、

 ――試合で熱くなっていたようだ。少し度が過ぎたな。

 というような感じでよせて欲しい。

 

 けれど天儀は、

「バカめ。絞め落としたぐらいでは死なん。人間は案外頑丈だ。なんなら我が弟で20ぺんぐらい試してみるか」

 傲然として切り捨てた。

 

 最低だ。鹿島は完全に絶句。非難をとおりこし幻滅に近い感情だ。


「まぁ、野蛮ですね。わたくし司令のそういうところが苦手です」

 

 天童愛があきれていうなか、進介が、

 ――あー! もう!

 と叫んで仰向け。大の字になって転がった。

 

 負けを認めたのだ。


 俺そっちのけで話しが俺のほうが弱いって前提で進んでてつらい! 天童愛さんの冷たい視線がつらい! 鹿島さんの素朴な質問がつらい! と進介は戦意を喪失だ。


「俺はブラックベルトなのに!」


「残念! 俺は四段だ!」

 

 天儀が傲岸として放った。

 これには進介だけでなく、鹿島も天童愛も驚いた。試合を見て強いとは思ったが、そこまでとは思わない。


「大人げない! それも四段なんて強いのに人格者に見えない! 最低だ!」


「強者が人格者たれなど理想に過ぎん。現実を知れてよかったじゃないか弟よ!」


「白帯つけてくるとか詐欺だ!」


「人をよそおいで判断しちゃいかんな! 学べたな。よかったじゃないか弟よ!」


「くそっー! めちゃくちゃ強かったじゃないか! 詐欺だ!」


「はっ! 俺はな大学時代にはお前みたいな生意気な後輩を四階から帯で宙づりにしてやったことがある。それに比べればこんなもんマシってもんだ。帯をクイッと引っ張って揺らしてやるとそいつは真っ青。二度と逆らってこねえ」


 稽古けいこで使い古した帯だ。ブチッと切れればお終いだ。

 

 勝ち誇る天儀と打ちひしがれる進介。そして天儀は、お前は今日から俺の下僕だ! といわんばかりの威勢で、

「弟よ! これからもよろしくな!」

 と満面の笑み。


「ちくしょー! 兄さんはひきょうだーぁあ!」

 進介は悲痛していた。


 大の男2人が、試合だ! 決闘だ! などと勝手に大騒ぎして、

 ――結局、元の鞘に収まっただけ。

 鹿島も天童愛も、ただあきれた。

 

 そして会場からは、

 ――終わったか。

 と白けたムードで人が引けていた。場内には人はまばらだ。


 そんなか客席側では黒耀こくようが両手で端末をにぎって、

「は! これ万馬券!」

 と叫んでいた。

 

 黒耀の端末の画面には10桁の番号。天儀と進介の勝負へのけやつだ。

 

 綾坂あやさかやアヤセもハッと気づいたが、

 ――あっそういえば……。

 と苦い表情だ。


「ふふ~ん。私の一人勝ちね。綾坂とアヤセはトップガン進介に賭けたんでしょ?」


 アヤセは天儀()しの上司の鹿島への義理立てで天儀にも賭けてはいたが、その勝ち分は負け分で帳消しどころか大負けだ。

 

「……なんてことに。アヤセ的には最低ですよこれは。勝ちぶんで新しいネール買おうと思ってたのに」


「わたしもアニメグッズ買おうと思ってたのに……」


「あ~ら2人とも皮算用ってやつだったわね」

 

 絶望する2人に対し黒耀は、ほくほく顔だ。


「私は文献買うわ。紙のやつね。しかもかわ装丁そうていで重厚な限定生産のレアなやつ。インクの香りと、しっとりした手触りがいまから楽しみだわ」


 まさに勝ち組の顔の黒耀を看過かんかできないのは、負け組の綾坂とアヤセだ。2人がギロリと黒耀を見た。

 

「な、なによ。いいでしょ。好きにつかったって。私の勝ちぶんよ」


「よくない。全然よくない」


「そうです。アヤセ的にも全然よくないですね」


「なにがよ! 私は天儀司令に賭けた誠実にね。あなた達はトップガン進介へ賭けた。それだけの話しで、条件は同じよ」

 

 必至となる黒耀だが、2人からの険悪な視線に押され気味だ。


「どうしてよ。ズルしたわけじゃなのよ。ひがんじゃっておかしいわよそれ」

 

 黒耀は、私は天儀司令のようにズルはしていないわよと、いおうとしてから、

 ――あ、試合に不正があったと認める発言はだめね。

 と慎重に言葉を選んでいた。


「ちょっと、1人でつかおうってのはないわよ。おごりなさいよ!」


「そうです! おごってください。幸せと喜びはみんなでわかちあう主計室ではそうです」


「なんでよ!」

 と黒耀が真っ赤になるも綾坂は一方的に勝利宣言。


「決まり! 今日は黒耀のおごりで第二酒保(しゅほ)菊乃居きくのい!」


「あの和食で人気の予約制のお店ですね。アヤセは一度行きたいと思ってました」

 

 場には決まったとう囲雰囲気。だが、黒耀は必死に抗戦のかまえ。が、抗弁しようと言葉を模索するも、理不尽さと焦りで頭は働かず口もワナワナとして動かない。


「それいいな。あそこは日本酒と魚が美味しいから絶対に魚だ。あと座敷がいい。俺が予約しとくよ。4人でいいよな?」

 

 かしましい女子3人を前に、それまで静観していた丞助じょうすけが参戦していた。


「ちょっと丞助まで、なに便乗しようとしてるのよ!」


「え、だって俺は調理師だぜ?」


「じゃあ菊乃居の厨房いって魚でもさばいてなさいよ!」


「あのなぁ。お前らからすれば俺はたんなる特技兵でも調理師適性Sだぞ。美食家の軍高官たちや料理関連の界隈かいわいではちょっとは注目されてるんだぜ?」


「そんなの知らないわよ。私は文献買うの!」


「あ、そっか。調理師の適性S兄貴がお客なら第二酒保の調理師たちは手を抜けないわね」


「そういうこと。それに俺がいればサービスもよくなるけど? あそこの調理師とは友達だし」


「じゃあ決まりですね。4人でいいよね黒耀?」


「アヤセェ!」

 黒耀が悲鳴をあげるも、

「ありがとう黒耀。持つべきものって友達よね。それも万馬券を当てた」

 と綾坂もアヤセも軽薄だ。

 

 そして丞助といえば、そそくさと携帯端末を操作し予約を開始。

 

「やったぜ。刺し身の盛り合わせだせるってさ!」


「そっか。慰安期間で貯蔵庫開放しましたからね」


「やりー! 黒耀ありがとね」

 

 黒耀はあんぐりと口を開けつつもホワイトフラッグ。

 

 ――本が刺し身とお酒に変わったわ……。

 と泣く泣く承諾。黒耀は、こうなれば第二酒保の菊乃居でとことん食事を堪能するしかないと心に決めたのだった。

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