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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
二章、真のシナリオ
10/189

2-(4) 可憐なる殺人人形

 そして事件は昨日起きた。

 

 ランス・ノールについていた軍秘書の1人が、宇宙に戻ってきたおりに行動にでたのだ。この軍秘書は、ランス・ノールの星系内有力者へ政治工作について通報をこころみたのだ。だが、これは失敗に終わる。


「あの方は、私とお兄さまのつなぎ役(メッセンジャー)のはずです。なぜ挨拶へいらっしゃらないのかしら?」


 軍秘書の帰着を知ったシャンテルは、そういうと部下の1人へ軍秘書の監視を命令。


 軍秘書の背信を未然に察知し、

 ――逮捕。


 罪状は司令官と遊撃軍2個艦隊に対する背信行為。

 そして翌日、シャンテルは軍秘書の男を後ろ手に拘束させた状態で、マサカツアカツのブリッジに引き出させたのであった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 軍秘書はもみあげが太い50代の体躯は筋骨たくましい男。

 真壁総一まかべそういちという。


 その真壁はいま、裸足にシャツとズボン。後ろ手に縛られ、ひざまずかされていた。

 場所はマサカツアカツのブリッジ。

 

 真壁の目の前にはムチを手にした可憐な少女のようなシャンテル・ノール・セレスティア。

 シャンテルの大きな瞳が真壁を睥睨へいげいしていた。


「真壁さん、ですね?」

 というシャンテル。

 

 いまブリッジに内には、

 ――誰か止めろよ。

 とか、

 ――なんだこの茶番は?

 という空気がただよっている。


 そうブリッジ要員たちが驚くなか、司令代理シャンテルが突如ブリッジで公開尋問を開始したのだ。


 当然、こういった尋問は普通ブリッジでは行なわない。そもそも公開尋問など過去に行なわれたかすら怪しい。

 

 属官のレムスも、

 ――ま、お嬢さんがやりたいってんなら、どうぞ。

 というぐらいのものだ。


 そしてシャンテルから、

「レムスさん。乗馬用のムチを一つ用意してください。艦内の工廠こうしょうで作れますよね?そのモノでなくて、それらしいモノでいいんです」

 と、指示されると

 ――持ちたいってんならどうぞ。それでちょっとは自信がつくならね。

 ぐらいにしかレムスは考えていなかった。


 レムスからすれば、シャンテルの威厳不足で規律は崩壊しかけている。ランス・ノールが戻るまでこの状態は続くだろう。ならば少しでもましになる選択肢をというものだ。


 レムスを含めた8人の属官たちは、シャンテルが放送で敢然かんぜんと尋問すれば、艦隊のダラけた空気がマシになるかもしれない。と思ったのだ。


 公開尋問というシャンテルの突飛な発想に、最初は属官のほとんどが反対したが、

「このままランス・ノール司令が戻ってこられると、俺たちも処分される」

 というレムスの一言で全員が承諾した。

 

 レムスは〝俺たちも〟といったが、全員、自分たちがシャンテルのスケープゴートにされて処分されることを想像した。

 

 偉大なランス・ノール司令の唯一の悪癖である、

 ――妹の溺愛。


 8人全員が、

 ――俺たちが身代わりとなって切り刻まれる。

 と予感した。ランス・ノールは呵責かしゃくなく、貴族的な酷薄こくはくな面がある。つかえないものへの容赦はない

 そしてランス・ノールの金目銀目(オッドアイ)は何事をも見抜く魔法の目。言い訳など通用しない。というのも想像に難くない。


 シャンテルの浅知恵と、属官8人の保身により開始されたこの茶番にブリッジ内には、

 ――やめてくれ、恥ずかしい素人だな。

 という声にならい声がただよう。


 ブリッジ要員たちは、シャンテルから直接指示を得ることも多い。接する内にシャンテルの努力と優秀さを知り、親近感をいだきはじめていたところにこれだ。彼らの幻滅は大きい。加えて相手を威嚇す《いかく》るためなのか、シャンテルが手にしている乗馬用のムチも、あまりに愚かしく痛々しい。


 シャンテルが黙る真壁へ、

「真壁さん尋問は始まっていますよ?なにもおっしゃらないと不利になって処分することになりますけれど」

 と、ふたたび声をかけた。

 

 とたんに真壁がうんざりした色を顔。真壁からして、この公開尋問とかいう茶番は見られたものではない。

 

 真壁が嘆息一つしてから、

「お嬢さんおよしなさい。ランス・ノールは第二星系の独立を考えているようだが、あまりに無謀だ。私を開放して、お兄さんには自首を勧めろ。あんたは兄から無理やりやらされているだけだ。罪には問われない」

 といった。


「あら、そんな事実はありません。誣告ぶこくですねそれは。どうしたらそんな妄想がいえるんでしょうか」

 シャンテルが微笑みつつ応じた。


「それにお嬢さんは、まったく軍人に向いていないし、ランス・ノールも国家元首の器ではない」


「あらいやだ。このシャンテルは、ずいぶんと見くびられているのですね」


「見くびられているも何も、あんたは兵士として周囲から見られていないぞ。私は宇宙へ戻ってきて驚いた。精鋭の第三艦隊の規律はどこへ行った?たった3週間だぞ。マサカツアカツの乗員もゆるみきっている。あんたは完全に舐められている」


 このとき属官のレムスは見た。シャンテルの口元が不敵にゆがんだところを。一瞬だったが間違いない。真壁は言葉を吐くさいに首を振ったため見落としたみたいだが。


 なぜなら美しいものが歪むさまも、また美しいものだ。レムスの見たという確信はこれだ。

 

 たえず優しい微笑みしか見せなかったシャンテルが、とうとつに一瞬だけ見せた深い闇の色。

 ――美しい。

 と、こんなときなのにレムスは見とれていた。


「そうなんです。シャンテルもそれには困っているの。なにか良いアドバイスは頂けないかしら?」

 

 ため息をつくような態度でいうシャンテルへ、真壁がバカバカしいという態度をろこつにして応じる。

 

「あんたのお兄ちゃんに無謀な行為はやめろと、いますぐお電話していうんだな。そして戻ってきてもらえ」


 真壁からのでる言葉の標的が〝シャンテル〟となっていた。

 

 真壁からして、このひ弱な女の心をへし折るなど造作もない。そう真壁にとっては、この公開尋問はむしろ好つごう。小娘1人を論破すればランス・ノールの罪を公にできる。議論は頭に血がのぼったほうが負けだ。

 

 ――人格攻撃をしてお嬢ちゃんを潰す。

 大人げないが、ことは国家反逆罪だ。ランス・ノールの企図が独立にあるならそうだ。手段など選んでいる場合ではない。


 対して、シャンテルには余裕があり、表情に笑みをたたえている。

 

 ――しまりのない女だ。

 真壁がムッとなった。同時にシャンテルが手にしている乗馬用のムチが目に入った。


「それになにを手に持っている。なんだそれは、それはムチか?そんなものまで持って威圧してきても全く恐ろしさなど感じない。無理はしなさるな。アンタは向いてない」

 

 瞬間、シャンテルが笑みをたたえたまま手にしていたムチを真っ直ぐ上に思ったら、それが振り下ろされていた。

 

 同時に、

「ヴゥーッ!」

 という真壁の声にならない叫び。


 ブリッジに、ヒュッ――。というムチが飛ぶ音と、打たれる鈍い音が響いたはずだが、音はブリッジ内の人々には聞こえなかった。

 

 ブリッジ内の面々の耳底に叫び声だけが残り、真壁が床で悶絶している。

 

 ブリッジ内のすべての視線が、シャンテルへと集まった。その目の色は、

 ――恐怖。驚き。戸惑い。


 だが、シャンテルの顔には相変わらずの微笑み。とても人間をムチで力いっぱい打ちすえたようには見えない。


 ――見間違いでは?

 と誰もが思ったが、床に身を伏せ苦悶している真壁を見れば危害を加えられたことは一目瞭然。そして近くにはムチを手にし真壁を見下ろしているシャンテル。

 

 属官のレムスも目の前で起きたことが理解できない、

 ――このお嬢さんがムチで打ったのか?

 と、驚きの目でシャンテルと真壁を交互に見比べた。


 ブリッジ内の人々顔は真っ青。

 

 シャンテルは容貌に笑みをたたえたまま真壁を見下ろし、

「ごめんなさい」

 と、とつじょ謝罪を口にした。


 真壁が、

『何をいってるんだこの女は――』

 という驚きの顔でシャンテルを見あげる。

 

 真壁は鞭で打たれた反動で前のめりに倒れ、這いつくばった状態。胸を支えにして首を上げるさまは無様だ。対してシャンテルは悠然としている。

 

「ごめんなさいって謝れば、今なら許してあげますよ」

 シャンテルがニッコリと笑った。


 シャンテルの「ごめんなさい」は真壁への謝罪ではなく、

 ――謝罪の要求だった。


 真壁が愕然とし、ブリッジ内がシャンテルという恐怖の渦に呑まれていた。


「悪いことをしたらお詫びする。小さい頃お母さんに教えていたでしょ?」

 

 さとすようにいうシャンテルに真壁が、

 ――謝罪をするのはお前たち兄妹だろ!

 と心を激しくし、その激しさがそのまま外へと吹き出す。


「ファリガ、ミアンノバのためというのは片腹痛い。自分のためだとはっきり言えばむしろ清々しいほどなのに。お前の兄貴は詐欺師だ!」


「そうですか。私たち兄妹の姓がセレスティアということはご存じですか?」

 

 とたんに真壁がカッとなった。

 ――実力主義の軍で血胤けついんを誇るか!


 真壁がシャンテルをにらみつけ、

「妾腹がっ!情婦の娘が血を誇るか!」

 と、ブリッジ中に響く声で罵声を浴びせた。


 瞬間、シャンテルの双眸そうぼうが見開かれ凶暴に発光。手にしているムチが再び振り上げられた。


「お父さまとお母さまはっ!」

 と、いって一度打ち。


「愛し合ってっ!」

 と、いってから二度目。


「貴方に何がわかってっ!」

 と、いってから三度目を打った。


 ブリッジ内に真壁の悲鳴が響いた。ブリッジは水を打ったように静か。思わぬシャンテルの凶行。恐怖で冷え切っている。


 ブリッジには肩で息をするシャンテルの呼吸音と、ムチで打たれた真壁の荒い息がくっきりと浮かびあがる。

 

 対してブリッジ内の人々の顔は蒼白。この公開尋問を企画したレムスたち属官も指の一本も動かない。

 

 レムスはいま目の前にランス・ノールを見ていた。レムスたちの偉大な上官ランス・ノールは、

 ――軍規違反には呵責ない。


 いや、シャンテルのムチを振るうその身はどす黒いオーラをまとい。見せた峻厳さはランス・ノール以上。


 感情のままに激しく鞭を振るえば息があがる。

 ブリッジにはハァ――、ハァ――、とうシャンテルの荒い息。

 シャンテルは目には狂気をやどし、小さな胸が呼吸で上下し、頬は上気し汗でしっとりとうるおいを帯びてなまめかしい。

 

 レムスは不謹慎も顔を赤くし見とれていた。


 肩で息するシャンテルは息を整えつつ一旦真壁から背を向け、振り返って、

「残念ですわ。命令違反と、裏切り行為、そして上官への〝侮辱〟。私は謝罪のチャンスを与えましたよ」

 と、足下の男を睥睨した。


 振り返ったシャンテルの顔は、先程の怒りに満ちた凶暴な表情とは打って変わり微笑をたたえている。


「死刑ですね」

 だが、でた言葉は、死の宣告だった。


 司令代理の発言にブリッジ全体が慄然とし恐怖に沈んだ。

 対してシャンテルが機嫌良さげ。まるでブリッジ内の恐怖の空気を楽しむよう。


「シャンテルは無駄なことが嫌いなのです。真壁さんの死は、お兄さまの軍で有効に反映されますよ」

 

 瞬間、素早く流れる動作で、小さな拳銃を引き抜き、構え、発砲!

 パンッ――、パンッ――、パンッ――、という鋭く軽い音がブリッジに響いた。


 真壁が力なく突っ伏し、辺りには血の鉄くささがただよい、床へは血溜まりが広がる。

 

 シャンテルの突然の狂気。

 レムスたち属官やブリッジ内の面々は、目の前で軍秘書真壁が処刑されたことより、シャンテルの拳銃を抜いて撃つまでの無駄のない動作に驚いていた。


 手練というには違うが、その所作に特に悪い点はなく、それは乗員たちシャンテルへ抱いていたイメージとは程遠い兵隊の動き。兄のうしろを、おとなしくニコニコしながらついてまわる可憐なお嬢さんではなかった。


 そしてレムスなどシャンテルにつけられた属官たちには、シャンテルが兄ランス・ノールにいわれて、かなりの時間射撃の訓練をしたのだろうということは瞬時に理解できた。

 

 努力を怠らない健気な女性であり、自身をけして誇らない。レムスが見ていたシャンテルは理想的な献身を見せる淑女。そんな淑女の裏に潜んでいた凶暴は、

 ――美しくすらある。


 レムスは興奮を覚え、心を呑まれていた。


 遊撃群2個艦隊の頼りなくて使えない可憐なお嬢さんが、

「頼もしい女王様」

 へと羽化していた。


 ブリッジ内は息もできないほどの静けさ。この静けさは恐怖だ。いま恐怖をおびた視線がシャンテルという一点へ集約している。

 

 シャンテルは、そんな恐怖の視線を気持ちよさ気に浴びながら、

「それ汚いから掃除しておいてください」

 と、属官の1人へ指示した。〝それ〟とはもちろん真壁の死体だ。


 属官2人が、全身で跳ねるようにして敬礼。間髪おかずに作業を開始する。

 

 続けてシャンテルは横にいたレムスへ。

「あ、あと臭いもひどいので、空調を強くしてください。髪に臭いがつきそうで……」

 

 レムスも兵士も死体処理する兵士たちと同様に、はいっ!と張りのある声で返事をして空調設備の調整を復唱した。

 

 復唱された指示は、設備管理のオペレーターによってすぐさま反映される。どこからか消臭剤も持ち込まれシャンテルの周囲へ撒かれる。

 

 まるで兵士たちが、シャンテルへかしずいているようだ。

 

 自身の指示に迅速に動く兵士たちと、ブリッジ内の緊張感のある空気。

 シャンテルはムチを手に微笑み一つ。


「この程度のことで、こんなに簡単に言うことが聞いていただけるようになるだなんて。この3週間、どんなにお話してもとり合って頂けなかったのに。皆さん動物なんですね。わかりました。今後はいままでと違い厳しく行きますよ。動物へなら調教です」


 レムスも属官たちも返す言葉がなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 これが成功体験となり、平時の宙間警備という単調な任務の最中に、6週間で処刑8名という異常な結果をもたらすこととなる。そしてシャンテル自らムチを振るったことも1度や2度ではない。加えて懲罰は189名、拘禁は32名。これも異常な数字である。

 

 司令代理として杓子定規に軍規を適用しまくり、

「死刑♪、そして死刑♪、これも死刑です――♪、あ、これもですね♪」

 と、嬉々として処罰の書類に判を押すシャンテル。


 レムスら属官たちにはあらがうすべはない。艦隊全体がシャンテルへ陶酔していた。


 好戦的で実力主義の第三艦隊と第四艦隊。

 上司へ求める第一条件は、

 ――強さ。

 

 この2個艦隊の兵員たちにとって強さは有能さの裏付けでもある。

 シャンテルは彼らの求めに合格したのだった……。


 そしてシャンテルからすればムチで打たねばいうことをきかない。となれば動物、いや家畜だ。

 

「家畜のような皆さんには、家畜のような扱いが相応しいですね」

 

 そして、ムチで打ってもいうことを聞かない家畜は、

「病気持ちね。病気が感染したらよくないわ」

 ということで殺処分、処刑だった。


 シャンテルの艦隊管理には狂気に満ちた。


 サボタージュには、

 ――ごはん抜きと減俸♪

 

 命令無視には、

 ――裸に剥いて体罰♪

 汚いので私はやりませんけどね。


 そして反抗的な視線には、

 ――懲罰棒♪

 これは骨が砕けるまで殴らせます。


 シャンテルはランス・ノールが戻るまでの3週間で、

「不満げな顔をしただけで半殺しにして病院船送りにした――」

 という伝説を遊撃群2個艦隊に残した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なにあいつ。兄貴より凶悪で、よほどやばいじゃない。ランス・ノールは、とんでもない〝殺人人形ちゃん〟を管理責任者に置いていってくれたわね」


 そういうユノ・村雨は引きつった顔。

 

 第四艦隊旗艦カチハヤヒのブリッジにも、公開尋問から、

 ――公開処刑。

 へ内容が変化した司令部放送が流れていた。


 カチハヤヒのブリッジは司令ユノ・村雨以下、全員が驚愕。静まり返っている。

 

 メガネの副官セルビスも滅多に表情を変えない顔に驚きもあらわにいう。

「軍規定には『重要な決定・違反行為は、速やかに艦隊内へ告知する』という要項がありますが……」


「ああ、それを適用して、この処刑のライブ中継だったわけね。ヤバイじゃないあのお嬢ちゃん。今時テロ組織だって公開処刑なんてやんないわよ……」


 裏切った軍秘書真壁総一(まかべそういち)のブリッジでの公開処刑。


 当たり前だがシャンテル・ノールは公開処刑をする意図は当初まったくなかった。セルビスの口にしたとおり、軍規定をシャンテルなりのやり方で再現しただけだ。シャンテルにとって裏切り行為は、艦隊全体へ告知すべき重要な違反行為。そして、

 ――全体への告知には放送が公平無比。

 という素人考え。

 

「素人の方が手に負えないわね。なにするかわかったもんじゃないじゃないわ。ユノ決めた。絶対に逆らわない」


 セルビスもユノ・村雨の言葉にうなづくしかない。あんなには逆らっても何の得もない。艦隊全体がそう思った。


 そうシャンテルは、ランス・ノールと違いやはり軍人ではなく素人だった。

 ――なにをしでかすかわからない。

 それがより一層兵士たちの恐怖を煽った。


 司令部放送は終了していた。映像が切れ暗転した画面。

 

 ユノ・村雨は暗転した画面に、銃殺され横たわる軍秘書真壁の死体が見え思わず、

「あれがユノじゃなくてよかったわ。ほんと」

 そうひとりごち嫌な汗を覚える。


 シャンテル凶行は、ユノ・村雨というわがままで傲慢な女にも、力による上下関係の構築という動物的な判断を強要させたのだった。

 

 ユノ・村雨にとってシャンテルの、

『臭いが酷いので死体を片付けろ』

 という指示は瞠目どうもくもの。


 普通なら匂いが酷いからしばらくブリッジを離れるわよね。それをすぐに臭いを消せって、これが上に立つ家系、セレスティアルの血胤ってやつなのかしら。

 

 ユノ・村雨にとってシャンテルの、

「あくまで自分はここを動かない」

 という傲慢な態度は、

「あの場の主体が誰にあるか」

 をわかりやすくしめしていた。


 人間は生まれ持った本質より、立場と役割、そして〝環境〟によって強く行動が左右される。

 考えても見れば生物の優秀性の指標の一つとして環境への適応力とうのものがある。適応力、これは言い換えれば役割に徹する力をいう。つまり立場による立ち振舞の変化は、人の生物としてのさがといってもいい。

 

 実質2個艦隊の軍司令官という立場と、それに伴い求められる役割、そして戦場という非日常のストレスがシャンテルを変えていた。

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