街を見つけたようです。
前回のあらすじ。スライムに負ける。
数分歩き続けると、街への往路と思わしき踏み分け道を見つけた。それを頼りにまた歩き続けるとぼんやりと街の塀らしきものが見えた。
小道の先には木製の大きな門があり、それを守るようにして兵士の格好をした人が立っている。魔物とかが街に入らないように門番をしているのだろうか。
やっと人を見つけたことに安堵と嬉しさを覚え、急いで駆け寄って声をかけようとしたところでピタリと体が止まる。
この状況を何と説明すればいいのだろうか。異世界からやってきましたなんて言って、あぁそうなのねと納得する人がいたら俺ならそんな人からは少し距離を取る。ざっと500メートルほど。
いやしかし、もしかしたら、このファンタジーな異世界なら、こんな状況は日常茶飯事かもしれない。どちらにせよ情報が欲しい。多少、不審人物に思われることは我慢するしかないだろう。
「あの……異世界から来たんですけど、元の世界に帰る方法か、それを知ってそうな人を存じないですか?」
自分が逆の立場だったら優しく病院に連れていってあげるセリフを、自分でもおかしいと思いながらも口にする。この門番は、見るからに生真面目そうな人だ。こういう人は高圧的な態度を取ったり、変な行動をしない限りは普通に対応してくれるはずだ。そんな期待を抱いて返事を待つと──
「────、──?」
──聞きなれない言語を口にした。辛うじて理解できたのは、イントネーションから察するに疑問の言葉だということ。その瞬間、根本的な問題を失念していたことを悟った。──それは、言語の違い。
自分が今までに見たことのある小説や漫画では、こんな場合、言語は普通に同じだったから勝手に通じるものだと思い込んでしまっていた。元の世界ですら国が違えば言語が違ったし、ましてや今は世界が違う。何故、そんな簡単なことに気付けなかったのか。
ひょっとしたら、あの魔法陣から異世界転移したときに事故に合ったのが原因だろうか。明らかに不具合が生じたようだったし、本来なら言語が通じるように体が作りかえられたりするのに、途中で放り出されてしまったから言葉が通じないままの状態になってしまったのだろうか。
悔やみと焦りばかりが脳を支配する中、ふと門番の方に意識を戻すと、何やら叫びながら手のひらからライター程の炎を出していた。徐々に炎は大きくなるとともに丸みを帯びていき、熱量も大きくなっているのか熱さがこっちにまで伝わってくる。
タラリ、と汗が伝った。これは熱いからか、はたまた嫌な予感が的中する前触れなのか。答えは後者だった。門番はサッカーボール並にまで膨れ上がった炎球をこちらに放り投げてきた。
「うわぁ!」
咄嗟に避けると炎球は地面にぶつかり、土に溶けていった。こちらも反撃しようと炎を出そうと試みるが出る気がさっぱりしない。恐らく魔法とかも本来は使えるようになったのだろう。しかし事故に合ったので使えない、と。
続けざまに兵士が炎球を作り出したのを見て、慌ててその場から逃げるようにして全力で走った。
何て理不尽なんだろう。異世界の目玉と言ってもいい魔法が使えないのはまだ許せるとして、言語も通じないから意思疎通も出来ない。こんなことになった理由もさっぱりわからない。
あまりの非道理さに泣きそうになりながら、俺は心の内で漸く悟った。
異世界はあくまでも別世界であって夢の世界ではないのだと。
次話、プロローグのシーンに繋がります。