異世界転移するようです。
前回のあらすじ。帰り道、魔法陣があった。
六芒星と円を基に、いくつもの幾何学的模様が重なり合った魔法陣。それをちょっとイタい中学生の悪戯だと笑うことができない理由が二つある。
一つ目、光っていること。
淡い紫を基調とし、様々な色に変化しながら輝いている。よく見てみると魔法陣は回転しているようにも見える。光量は結構あり、ずっと見ていると目がチカチカする。魔法陣が発する光は範囲が決まっているのか円柱のような形になっている。
二つ目、それは──
「「うおおぉぉぉぉぉおおおッッ!!」」
件の魔法陣に吸い寄せられていた。
「ソラ! 何あれ!?」
「俺が知るか!」
特殊な引力が発生している魔法陣から逃れるために、ギアを最も軽いのに変え全力で漕ぐ。自慢じゃないが、俺とカイトは毎日6キロの山道を経由して通学しているから、足腰には多少の自信がある。……のだが。
「ねぇ! コレどんどん近付いていってない!?」
「漕げ! 漕ぐんだ! 死にたくなきゃあな!」
逃げるのに必死過ぎて声が荒くなる。汗も飛び散る。さっき、死にたくなければと言ったが、別に死ぬとは限らない。だが、魔法陣に吸い込まれた小石が、光に触れた瞬間に消えてしまったのが尻目に見えた。子供の悪戯という線は完全に消える。
1秒間に10回はペダルを回しているというのに、それでも徐々に差は縮まる。初めは5メートル程あったというのに、いまや残すところ数センチだ。
あと3センチ、2センチ、1センチと縮まっていき、ついに魔法陣に触れてしまった。
咄嗟に瞑ってしまった目を恐る恐る開けてみると、無重力空間の中を漂っていた。前方の方に体が吸い寄せられゆっくりと移動していく。何だかフワフワして落ち着かない。
「ここ、魔法陣の中なのかな?」
カイトはキョロキョロと不思議そうに周囲を見渡している。それに対し、さぁ? と曖昧に返事をしておく。こんな摩訶不思議な出来事なんて初めてなのでさっぱりわからない。ただ、未知に対する感情は期待よりも不安の方が大きい。
「魔法陣ってさ、普通何かが召喚されて出てくるものだと思ってたよ」
魔法陣の中を暫く漂っていると、退屈なのかカイトがどこに言うでも無く呟いた。適応能力が高いのか、こんなビックリドッキリ空間にいるというのに呑気そうに見える。
「俺たちがその召喚される側なんじゃないのか?」
別段、答が知りたかったわけではなかったのか「そっかぁ」と適当に相槌を打たれた。
その会話を皮切りに、沈黙が訪れる。魔法陣の中を見回すと、魔法陣と同じような紋章があちこちに張り巡っていた。いったい、どこに出るのだろうか。乗りっぱなしになっていた自転車のペダルを回してみるが、速さが変わるわけではなかった。
ふと奥を見やると、淡く光っている場所があった。
「あ、出口なんじゃない?」
そうかもな、と言いかけた瞬間。突然、足元の空間が裂け、亀裂が歪み穴のようになった。先が真っ暗なソレはこの空間とは違う独自の引力を持っているのか、近くにいた俺を引き摺り込む。
「ソラぁぁぁぁ!」
カイトが焦燥の形相で手を伸ばすのを最後に、閉じる穴を呆然と眺めながら、俺はあっという間に闇に落ちていった。