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魔王の後悔

 両手を封じられ、さらに白衣を踏んで体の身動きを封じられた俺は、もう魔王にされるがままになっていた。どれくらいの時間キスされてたんだろう。最初は軽いものだったそれも、次第に深く濃くなった。


 息も切れ、瞳の淵に涙すら溜まった俺はただ息を荒くすることしかできない。そんな俺を魔王はただ見下ろしていた。

 

「な……にすんだよ……なにしてんだよ!!あんた自分の立場わかってんのかよ!!こんなこと俺にして、ふざけんなよ!!なんなんだよ!忙しくて会えない奥さんの代わりか!?女顔だからって利用すんな!俺にだって人権くらいあんだよ!勝手に振り回すな!!もうわけわかんねーんだよ……。出てけよ……。も……来んなっ……」


 威勢の良かったのは、最初だけだった。気づけば俺は泣きながら、真上にいるやつを力の入らない拳で叩いていた。何で泣いてるのかわからなかった。自分で何を言ってるのかわからなかった。


 ゆっくりと魔王が離れたのを感じた。でも立ち去ったわけじゃない。ベッドの上に腰掛けただけだった。俺はそんな魔王に背中を向け、小さく縮こまって嗚咽を漏らしながら泣いた。


 自分の中で渦巻くこれがなんなのかわからなくて、怖くなった。


 ふと頭に現れた、暖かな感触。俺の髪の毛をすくそれが、魔王の手だとわかるのにそんなに時間はかからなかった。頭を撫でられるなんて、何年ぶり……何十年ぶりだろう。もういい歳なはずなのに、その行為が嬉しく思えた。

 落ち着かせようとしてくれてたのかもしれないけど、撫でられるたびに涙が溢れて止まらなくなった。もう息をするのも辛いくらい、泣き出した。


「もっと早く……会えてたらな」


 その言葉の少しあとに、魔王は保健室を出て行った。残した言葉の意味がわからない。様々なことが頭をめぐり、俺はどうしたらいいかわからなくなった。

 出て行けと、そう言ってた相手だったのに、ひとりでいる今がひどく寂しいと思えてしまう自分がよくわからない。



 起き上がり、シーツの上の合鍵を拾い上げた。なんの変哲もない、カードキー。なのになぜかそれがひどく大事なもののように思えた。それを両手で握り締め、そっと額に当てた。


「頭……いてぇ」


 ひどい泣き方をしたせいで、頭がひどく痛みを発した。未だしゃっくりを上げているのをこらえながら、ベッドから立ち上がる。


 ちょうどその時、放課を告げるチャイムが鳴り響いた。




次回:2月5日19時の予定です。


今回めちゃくちゃ短くてすみませんm(__)m



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