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魔王の願望

 休日だということもあり、動物園は多くの人で賑わっていた。俺は有智と手をつないで、動物園の中を進む。ちなみに魔王は有智をはさんだ逆隣にいる。


「沙雫兄ちゃんあそこ!あそこにキリンがいる!!」

「わ、ちょ……走るなよ!!転ぶぞ!」


 まったく、有智の元気はいつも以上だった。新たな動物を発見したとたん、俺を引っ張る勢いでその檻めがけて走り出す。後ろからゆっくりついてくる魔王が恨めしい。俺はもう汗だくだぞ。


「すっごーい!首長―い」

「あ、あっちにいるの子供だって」

「え?うそうそ!子供なのにおっきい!」


 キリンを散々見終わると、その奥にはアフリカゾウのスペースがあった。だけどやはり人気の動物。そのスペースの前はものすごい人だかりができていた。まだ4歳の有智は人の壁に阻まれ、ぞうの姿を見ることはできてない。かという俺も、そんなに背が高くはないから、背の高い親たちに阻まれ、見ることはできてない。


「ぞうさん……見えない」


 さっきからぴょこぴょこ飛び跳ねているが、全然見えるまでには至っていない。本当は肩車してあげたいけど、俺じゃ役不足かな……。ていうか、子供を肩に載せて立ち上がれる自信が、ない。

 するといきなり、有智の体が浮き上がった。


「これでどうだ?」

「うっわー!すっごい、高い!!沙雫兄ちゃん、ぞうさん見えた!!」

「よ……よかったね」

「パパありがとう!!」

「あまり暴れるなよ」


 念願のぞうを見れて喜ぶ有智に向かって、魔王が心配そうに言った。なんかこういうところ見ると、親子なんだなって改めて思い知らされる。別に疑ってたわけじゃないけどね。

 有智を肩車したまま、さらに動物園の中を歩いていく。

 いつもと違う視点でなのか、有智はさらにはしゃいでいる。その度に魔王が落ちないように文句を言ってるのが、なんだか微笑ましい。


「沙雫兄ちゃん!あっちでお昼食べよ!!」

「はいはい」


 動物園の中にある広場。そこは芝生が一面に生えていて、そこでもってきたお弁当を食べたり、駆け回ったりできるようになっている。さらには池もあってそこにいる鴨とか鯉に餌をあげることもできる。そこの広場の空いているスペースにレジャーシートを広げ、お弁当を広げた。今日は張り切って4時起きで作った。若干寝不足だけど、ね。


「いただきまーす」

「いただきます」


 まぁ……言わないのが若干一名。つか、既に食べ始めてるんだけど!?子どもの教育に宜しくないぞ。いいのかそれで。


 久々に、こんな広くて気持ちのいい場所で食べた。小学校の遠足以来だろうか。雲一つない青空の下で食べるお弁当は、どこかいつも以上に美味しく感じられる。風もなく、そこまで寒くもない日でよかった。


「ねぇ、鯉さんに餌あげてもいい?」

「あぁ。これで餌を買ってあげて来い」

「うん!」


 ちょうどレジャーシートを引いたのが、池とそれほど離れた場所でもなかった。だからなのか、有智が餌をあげたそうにうずうずしてたのは俺にもわかった。池のほとりにある餌の販売機で餌を購入した有智は、楽しそうに餌をあげている。


「ひとりで大丈夫ですかね」

「落ちたりはしないだろ。……今日はありがとうな」

「え?」


 有智から視線を話すことなく、彼は言葉を続けた。


「正直俺ひとりじゃ、あれほどまで有智を楽しませてやれなかっただろう。わかってはいるんだ。もう少し時間を作ってやらないといけないだろうというのはな。だけどそうもいかない。この休みだって、仕事を詰め込むに詰め込んでようやく取れたんだ。そのためにお前に有智を任せたりしてたんだが……」

「……」

「あれくらいの頃じゃ、まだ親が必要だろ。たまにこうしてどこかに行くと、あいつはすごく嬉しそうな顔をするんだ」


 そう言ってる、彼の顔もどこか嬉しそうに緩んでいる。俺は餌をあげる有智と魔王を交互に見ながら、ただその言葉を聞いていた。


「できればちゃんと毎日送り迎えしてやりたい。一緒にご飯食べて、風呂に入って寝てやりたい。親としてそれは当然のはずのことを、俺はまだあいつにしっかりしてやれてない」

「ならなんで……。俺のところに来る時間があるなら……、有智のために仕事片付ければいいじゃないですか」

「それは……難しいな」

「はぁ!?っ……」


 難しいという言葉が理解できず、俺は魔王の方へと視線を写した。そしたら、その魔王もいつの間にか俺の方を見ていた。


 なんで、そんな顔してるんだ。


 子供と、養護教諭。その2つを天秤にかけたら、どっちが優先されるかなんて明白だろ?なのに、なんで俺のところに来るんだよ。ほぼ毎日。下手したら一日数回来るのも珍しくないのに。


 そんな時間を仕事に当てたら、毎日とはいかなくても、今よりも会える数は増えるだろ。


「有智との時間も大事だ。だけど俺にとっては……」

「えさなくなっちゃったー!!」

「うわっ!?びっくりしたっ!」

「フッ……そろそろ、他のところを見て回るか」


 餌をあげ終えた有智に阻まれ、魔王の言葉を最後まで聞かずじまいとなった。非常に気になるけど、今はまだ知りたくない。


 何故かそんなふうに思えた。




次回:2月1日19時投稿予定です。

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