約束の結果
だめだ…全てが神回に見えてくる。
(我ながらそんなこと言っていいのか?)
二学期中間考査が終わって数日。
昼休み。
一年一組の教室には、いつも以上のざわめきが広がっていた。
「今日順位出るらしい!」
「終わったー……。」
「頼むから赤点だけは勘弁!」
あちこちから笑い声とため息が聞こえる。
そんな中、白石美月は自分の席で両手をぎゅっと握っていた。
(お願い……。)
(二位なんて言われたけど……。)
(本当に取れてたらいいな。)
神崎の言葉が頭をよぎる。
「俺が一位を取る。」
「お前が二位を取れ。」
「お前のこと、信じてる。」
その時だった。
ガラッ。
教室の扉が開く。
担任が一枚の紙を持って入ってきた。
「ほら、お待ちかね。」
一瞬で教室中が静まり返る。
「学年順位一覧だ。」
「うわぁぁ……。」
誰かが頭を抱えた。
担任は黒板の横へ順位表を貼る。
「はい、騒ぎすぎないようにな。」
その言葉が終わるより早く、生徒たちが前へ集まった。
「見えねぇ!」
「押すなって!」
「どこどこ!?」
白石は立ち上がれなかった。
怖かった。
もし届いていなかったら。
もし期待に応えられなかったら。
「美月!」
生田が順位表の前から大きく手を振る。
「早く!」
「え?」
「来て!」
白石は恐る恐る前へ歩く。
人の隙間から順位表を覗き込んだ。
一位。
神崎 悠真
やっぱり。
思わず微笑む。
(神崎くん、一位だ。)
そのすぐ下へ視線を落とす。
二位。
白石 美月
「……え。」
声が出なかった。
本当に。
本当に二位だった。
さらに下を見る。
三位。
中山 雫
神崎の言った通りになっていた。
「美月!」
生田が肩を掴む。
「二位じゃん!!」
「すごい!」
「八位から二位って何!?」
周りの女子たちも驚いていた。
「めっちゃ頑張ってたもんね!」
「おめでとう!」
次々と声を掛けられる。
でも。
白石の耳にはあまり入ってこなかった。
(できた。)
(応えられた。)
その思いだけが胸いっぱいに広がっていた。
◇
一方。
「神崎。」
桐生が順位表を指差す。
「一位、おめでとう。」
「ああ。」
「……っていうか。」
桐生は二位を見つめる。
「白石。」
神崎も視線を向けた。
二位。
白石美月。
神崎は小さく息を吐く。
「やっぱりな。」
「やっぱり?」
「できるって言った。」
その一言だけだった。
◇
昼休みも終わりに近付いた頃。
生徒たちが席へ戻り始める。
白石もゆっくり自分の席へ向かっていた。
「白石。」
後ろから声がする。
振り返る。
神崎だった。
「……おめでとう。」
「!」
白石は思わず立ち止まる。
神崎は少しだけ笑った。
「ほら。」
「言っただろ。」
「……。」
「二位、取れた。」
白石は何も言えない。
神崎は右手を少しだけ上げた。
「約束。」
一瞬だけ意味が分からなかった。
その右手を見て。
ようやく気付く。
(ハイタッチ……。)
恐る恐る手を上げる。
パンッ。
軽い音が教室に響いた。
「よく頑張った。」
その一言だけ残して、神崎は自分の席へ戻っていく。
白石はその場に立ち尽くしていた。
手のひらが熱い。
ほんの一瞬触れただけなのに。
心臓が苦しいくらい鳴っている。
「美月!」
生田が駆け寄ってくる。
「今見た!?」
「神崎くんからハイタッチしてたよね!?」
「う、うん……。」
白石は自分の右手を見つめる。
その手には、まだ神崎のぬくもりが残っている気がした。
「すごかったね!」
「頑張ってよかったね!」
白石はゆっくり笑う。
「……うん。」
本当に。
頑張ってよかった。
そう心から思えた。




