13 我は番ミンク
キアルが準備している間、フィンはキアルが何をしているのかをオルナに聞いていた。
マナを扱う獣同士、マナ語とでもいうような方法で意思疎通ができる。
フィンはキアルの意図を知って、魔方陣にシャドウミンクの胴体を置いた。
そして口の中でシャドウミンクに自身のマナを叩きつけた。
徹底的に「わからせた」。
横で見ているだけのソルカが何かを思い出して涙目になるほどに。
フィンが口を放すと、シャドウミンクはへなへなと魔方陣にうずくまった。
キアルはおとなしくしているシャドウミンクに首を傾げたが、魔方陣に触れて使い魔契約の呪文を唱える。
呪文自体に効果はなく、ただ相手に意図を伝えるだけだが、シャドウミンクは同意した。
と、キアルには判った。
不思議な感覚だった。
シャドウミンクの意志のようなものがじんわりと伝わってくる。
(タ ス ケ テ)
「お、おう……?」
キアルはなんだか判らないけど成功したのかな? とオルナを見れば、うむ、と頷いたので、成功したんだなと思うことにした。
初めての使い魔だ。
なし崩しではあったが、キアルは密かに高揚した。
せっかくなので、お祝いというほどではないが、干し肉となけなしのベリーを分けてやった。
シャドウミンクは大人しくキアルの膝の上でちまちまと食べ始める。
そういう様子は小動物らしく可愛かったので、キアルは和んだ。
(使い魔のことをもっとよくオルナに聞こう)
嬉しそうなキアルを尻目に、フィンとソルカ(とスナリとフロッカ)は開かれたドアからまんまと山小屋の奥へと入っていった。
◇ ◇ ◇
シャドウミンクはとあるニンゲンの影に潜んでこの島にやってきた。
そのニンゲンの家に住み着いていたからだ。
そのニンゲンは大きな家に住み、大きな食糧庫は常に様々な食料で満たされていた。
シャドウミンクは食糧庫の番人ならぬ番ミンクを自認している。
ネズミや害虫をいち早く追い払い、時には食べる。
その報酬として食料の一部をいただいている。
どろぼうテンなどと呼ばれるのは不本意だった。
そもそもテンではない。ミンクである。
小さな食糧庫だとシャドウミンクが拝借した程度ですぐにバレてしまう。
麦粒の数まで把握しているような貧相な家は危険である。
その点、そのニンゲンの食糧庫は家と同じく大きく、出入りも多く、零れ落ちるくずを拾うだけでも十分腹は満たされた。
だからそのニンゲンが住処を変える時に一緒についていくことにしたのだ。
それが大間違いだった。
新しい住処は貧相で、食糧庫は小さく、搬入される食料も少ない。
大きく減らせばバレてしまう。
近くに他のニンゲンの家はなく、集落からも遠く遠く離れている。
シャドウミンクは絶望した。
食料が全く足りない。
森に入って普通のテンやイタチのように餌を探さなくてはならない。
幸い、新しい環境にはオオカミやキツネといった敵の痕跡はなかった。
だが森フクロウや海ワシの羽音は聞いた。
見つからないために灌木や茂みの影をびくびくと移動しながら餌を探す。
落ちた木の実や小さな昆虫など、美味くもないものを食う日々だった。
さらなる不幸がシャドウミンクを襲う。
突然ニンゲンがいなくなったのだ。
食糧庫に残された食べ物も日々減っていくのみで。
シャドウミンクはただの森ミンクになった。
ニンゲンは来ない。
周囲は海に囲まれ、影はつながらない。
このまま森ミンクとして腹を減らして死んでいくのか。
シャドウミンクは嘆いた。
しかし新たなニンゲンがやって来た!
シャドウミンクは躍り上がったが、何故かマナウルフまでやってきたのには驚愕した。
見つかれば一口で食べられてしまう。
食われたくない。
せめて食糧庫に食料が搬入されるまでは。
ニンゲンは何故か食糧庫を使おうとしないが、じきに使うだろう。
それまでは森で採餌しながら時を待つ。
シャドウミンクのスニーキングミッションが始まった。
――そしてミッションに失敗し、破れかぶれになって暴れ、脅され、使い魔にされたのだった。
シャドウミンクはニンゲンの食糧庫に好んで棲み着くが、ニンゲン自体は嫌いである。
シャドウミンクをネズミと間違えて殺そうとする知能の低い連中だからだ。
そんなニンゲンについに捕まってしまった。
絶望した。
だが負けない。
シャドウミンクは、誇り高い番ミンクである。
自身の巣である食糧庫を守り、美味いものを食うのだ。
番ミンクから使いミンクに強制クラスチェンジした『スケア』は、ベリーを口いっぱいに頬張りながら、志を高くした。




