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島流し結界師の自給自足生活〜知らない間に島に珍獣が増えていく  作者: 鷹山リョースケ


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01 地竜討伐

「勇者ジョスランの凱旋だ!」

「地竜を倒した英雄!」

「聖女マチルダさま!」


 うわああーっという歓声が遠くかすかに、だが確かにキアルのいる地下室まで届いた。

 天井近くに開けられた窓からは意外と明るい光が射す。

 キアルは簡素なベッドに横たわり、ぼんやりとその喧騒を聞いていた。



 ◇ ◇ ◇



 地方村出身の平民キアル、伯爵家三男のジョスラン、男爵家次女のマチルダは魔法学院で知り合った。

 魔力がある者はその制御を身につけるために、平民も貴族も魔法学院で学ぶ義務がある。

 学院内では身分、家庭環境、居住地、縁戚、保有魔力量、固有魔法など、さまざまなファクターで階層が作られ、その中でさらにグループが生まれる。

 そういった中でキアル達三人は知り合い、なんとなく一緒にいた。

 釣り合いが取れる仲だったとも言える。


 そうはいえどもしょせん平民と貴族、卒業後は接点もないだろうとキアルは思っていたが、学院で学ぶ間だけでもその交友は楽しいものだった。

 どうしたって生まれ育ちの差からくる視点の違いはある。

 貴族子女二人の言動に対して複雑な感情を抱えることもたまにはあった。

 だがそれでも他の平民仲間に聞く限りでは、ジョスランとマチルダは「良い貴族」だと思えた。

 期間限定とはいえ、正しく学友として、学びに遊びにと充実した日々だった。


 学院二年目のある日、キアルの故郷が消滅した。

 目覚めた地竜によって岩と泥の下に消えた。


 その知らせを聞いて、キアルは呆然とし、それから愕然とした。

 驚愕、悲嘆、絶望、そして――怒り。

 最後に残ったのは業火のように燃え盛る怒りだった。


 キアルは地竜討伐軍に志願した。

 学院生の身ではあったがキアルの固有魔法は【結界】だった。【障壁】は攻撃系の魔法と同じ制限や特徴を持つが、【結界】には独自の効果がある。

 使い分けとして、それなりに歓迎された。


 驚いたのはジョスランとマチルダも一緒に志願したことだった。

 ジョスランは【火】魔法を、マチルダは【治癒】魔法を持っている。

 ジョスランの【火】魔法は直接的な威力こそ小さいが、炎を薄く広く伸ばしたり、逆に小さく絞ったりと器用に使いこなしていた。

 マチルダの【治癒】も効果は大きくないが、出が速い。小さな切り傷程度なら痛いと感じる前に治してしまうこともできた。

 二人とも貴族として使いどころがある能力だ。

 どう考えても命の保証がない、死出の道行きに付き合うことはない。


「そうは言ってもな、俺みたいな貧乏伯爵家の三男坊の将来なんて、お寒いものなのさ」

「私だってそうよ。家の都合でどっかの金持の後妻か妾になるのがせいぜい」


 どこかで賭けに出なきゃならなかった、と二人は言った。

 自分の人生を少しでもマシなものにする為に。

 それが学友の敵討ちの手伝いなら上等だと笑った。


「俺も実戦に出たということで一応の箔が付く。どこか大きな家の家来衆に潜り込めるかもしれん」

「私も名を売れば、貴族相手の治癒師としてやっていけるかもしれない」


 二人はあくまで自身の立身出世の為と言った。

 キアルは思いがけない二人の友情に感動し、感謝した。



 討伐は難航し、犠牲者も少なくはなかった。

 キアルに与えられた役目は地竜を見下ろす丘の指揮所の、更に奥の高位貴族の子女達が茶を飲み歓談する天幕に結界を張ることだった。

 マチルダは地竜が見える後方陣地で負傷者の治療を、ジョスランは地竜がまき散らす砂煙を焼き払って後衛の視界を守っていた。


 最前線にいるのは平民の兵士や冒険者ばかりだ。その後ろに低位貴族。

 善戦はしているがじりじりと数が減っていく。

 そんな地上を見下ろしながら、指揮所の高位貴族達は召使いに傅かれ、真っ白なクロスのかかったテーブルに陶器の皿を並べ、グラスにワインを注いで、新鮮な食材による作りたての温かい食事をしていた。


 雑兵がほどよく下拵えを終えたところで、騎士が仕上げをするのだそうだ。

 適材適所だそうだ。


 キアルだって理屈は判る。

 大魔法一発で討伐できるならとっくにそうしているはずだ。

 どうしたって泥臭く「削って」いかなければならない。

 その過程を担う者、最後にとどめをさす者、それが生まれの違いというなら、そうなのだろう。

 であればキアルだって生まれに従って、こんな安全な場所で棒立ちしているのではなく、地上で身分相応に戦いに加わりたい。

 だが許可されなかった。

 高位貴族達に万が一にも危険なことがあってはならないのだそうだ。


 キアルは休憩の時に後方陣地まで様子を見に行った。

 真っ黒になって、ボロボロになって、疲れ切って休んでいるジョスランとマチルダを見つけて、キアルは再びあの怒りが込み上げた。


 天幕に絹の寝床を持ち込み、大勢の召使いにぴかぴかの鎧を着せてもらっている高位貴族の子供。

 さも自分がキアルを見出して連れてきたかのように振る舞う騎士団長。

 そんな騎士団長にぺこぺこしながらキアルの主人面で尊大に小突いてくる兵士長。

 何故こんなところに平民が、とあからさまな蔑視の目。

 何もかもうんざりだった。


 キアルは指揮所の食料庫から食料をめいっぱい盗み出すと、地上へ向かった。

 特別に振る舞いを持っていくよう命じられた、と言えば召使い達も止めなかった。彼らも思うところがあったのかも知れない。


 後方陣地に食料を置いて、キアルはそのまま地竜へ向かった。

 自分が倒せるなんて全く思っていなかったが、何もせずただ見ているだけなのが我慢ならなかった。


 そのあたりからよく覚えていない。


 思い出せるのは【結界】で地竜を押し潰そうとする自分と、いつの間にか隣にいたジョスランが意味のない言葉を喚きながら硬い鱗に向かってツルハシのように剣を叩きつけているのと、背後でマチルダが泣き叫びながら両手を二人の背に向けているのと――


 もうだめだ、とキアルは倒れた。

 視界は暗転し、指先すら動かない。

 妙に静かだ。地竜が流した血の悪臭と泥の臭い。

 意識が遠ざかるその間際で「地竜を倒したぞー!」という声を聞いた。




 ――そして、再び目覚めた時。

 キアルは地下室で寝かされていて、その扉には鍵がかかっていた。



全部で20話ぐらいの中編の予定です。

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