対決の後
侯爵は、背中に血が滲んだ状態の王太子を支えながら出て行った。
ベネデッタに別れの言葉を告げることもなく――。
ベネデッタは座ったまま無言で見送った後、突然立ち上がって、扉に鍵をかけた。
そのまま扉に額を付けて、うつむいた。
「ふ……く……うう」
ムスが駆け寄ると、ベネデッタは泣いていた。
「わ……わたくしを何だと思っているの? 聖力さえあれば、わたくしなんて要らないってことじゃない。
感じないようにしていたけれど、わたくしだって傷ついていたのよ。
もう、いい加減にして」
「そんなの、まだまだ優しすぎるよ。もっと言ってやれ」
ムスが煽ってくる。
「騙されたから自分の責任じゃないと言うつもり?
机上の空論ばかり言っているから、簡単に騙されるのよ」
ムスは爪についた血を舐め取ってから、ベネデッタの肩に乗った。
「あいつら、どんなことを言ってたの?」
ベネデッタは扉に向かったまま涙を拭った。
「王太子は『みんな仲良く、豊かに暮らす国』って……」
「え、嘘だろ。どうやって?」
ムスが可愛い声ではなく、中年男のような声を出した。
「自分が微笑んだら、自然とそうなるって……」
「マジか。腹痛い。そんなのが国王になったら、滅茶苦茶になるじゃん」
「そうでしょう? お茶会で『どのような政策で実現していくのか』と質問したら、怒られたわ」
「婚約したの、十三歳って言ってたっけ? まあ、ギリ、子どもってことで仕方ないかなぁ」
「母親が甘やかすから、大して成長していないわよ」
王妃の顔を思い出し、怒りに顔が歪んでしまう。
「いいね、その調子。
ベネパパの方は?」
「その言い方、いやだわ。あの人は家族の理想像があって、現実をそれに当てはめたいのよ。
仕事ができる優秀な父親、貞淑な妻、元気な男の子。
自分は家族を大事にしないでも、家族は自分を尊敬して愛してくれる世界。
与えることなく、もらえると思ってるの。ただの乞食だわ」
「ああ、いるいる。そういう人たち」
ムスは相槌を打ちながら、ベネデッタの肩から降りた。
「人から奪うだけで何も持っていない人たちから、何がもらえると思っていたのかしら。
わたくしの馬鹿」
ベネデッタはどんどん興奮していく。
オッセルヴァとムスは目を合わせ、オッセルヴァが静かにうなずいた。
「じゃあ、もうあんな人たち、どうでもいいね? あんな国は要らないかな?」
ムスは棚の一番下の段から、白い布にくるまれた何かを持ってきた。
すっと白い布を外すと、出てきたのは腕輪。
「あんな国、大っ嫌いよ。なくなってしまえばいい!」
ベネデッタの叫びが白い雲のような形を作り、それが腕輪に吸収された。
だが、扉の方を見ているベネデッタは気付かなかった。
そして、その腕輪は王城の結界の石に繋がった魔道具で――その瞬間、石にヒビが入った。
王城内の教会で結界を張るべく祈りを捧げている聖女たちが、悲鳴をあげた




