3-1話
徹の言う人物のもとに向かって智琉と徹の二人は歩いていた。
徹「智琉、お前さん歳はいくつだ?」
智「十五だけど」
徹「十五か、じゃああいつと同いだな」
智「あいつってのは……」
徹「俺達が今目指してる場所にいる奴だよ」
智「俺と同じ歳でアンノウンを使ってる奴がいるのか!」
徹から聞かされた以外な事実に智琉は驚いた。
徹「アンノウンを使うのに年齢は全く関係ない。お前さんよりも歳下の奴なんかも今まで何人も見てきたぞ」
智「そ、そうなんだ」
徹「もちろん、相当歳のいった奴もいる。アンノウンを持つ者の年齢層は幅広いぞ」
それを聞いて智琉は自分の祖父、勤の事を考えていた。
智「俺のじいちゃんもアンノウンを持っていたよ。もういないけど」
徹「じいちゃんって、お前さんがアンノウンの存在を知ったのはついさっきだったんじゃないのか?」
智「そうだよ。じいちゃんが死んだのもアンノウンを知ったのも今朝の出来事だ。じいちゃんは俺を守る為に……」
徹は少し気まずそうな顔をした。
徹「そうか、悪かった……。まあなんだ、アンノウンを持つ奴ってのは大概何かしら苦労してるもんだ。お前さんが今から会う奴だってそうだ」
智琉はこれから会う人物に関する事を徹に尋ねた。
智「なあ、あんたが俺に合わせようとしてる奴ってどんな奴なんだ?」
徹「名前は衆治、歳はお前さんと同じだ。俺はこの町を基点にしているが衆治は違う。あいつは日本中の様々な場所を旅しながらアンノウンを悪用する奴を縛り上げて報酬を得る生活をしている」
智「報酬?」
徹「保安局の事は少しだけ話しただろ。あそこがアンノウンを不適切に扱ってる連中を独自に調査して検挙とかしてるんだけどな、中には指名手配みたいにその人物を公表して一般のアンノウンを持つ奴に任せるなんて事もやってんだ。んで倒したら保安局から報酬が出るっていう仕組みだ」
智「保安局がそんな事任せて良いのか?」
徹「さあな。まあかなりギリギリだろうけどな」
智「……で、その人はその報酬で日々を暮らしてる訳なのか?」
徹「別にそんな奴も珍しくないぞ。俺も一、二回くらいそうやって報酬受け取った事があるし。まあ、自分のアンノウンに自信があるのなら一度くらい挑戦してみるのもいいんじゃないか」
智「自信……。てことはその衆治って人のアンノウンは強いのか?」
徹「強いんじゃないか。あんま詳しくは言わないが……、ていうかあいつのアンノウンはよく分からん」
智「分からん、って」
徹「とりあえず一回手合わせしてみろ。そうすりゃ何か分かんだろ」
徹の雑な説明に智琉は渋々納得するしかなかった。
智「そういえば徹さん」
徹「ん、なんだ?」
智「あんたさっき、アンノウンを持つ奴は苦労している、って言ってたけど、その衆治って人には何かあったのか?」
智琉の質問に徹は少し言葉を詰まらせたが、そのまま話しを続けた。
徹「あいつはな、未知の厄災の被害者なんだよ」
智「未知の厄災って……」
徹「五年前のあの災害での死者数は数千人、生き残った人の人数も決して少なくない。そんな不運に見舞われた内の一人が衆治だ。あいつは未知の厄災で家族も無くしてる」
智「本当なのか、それ」
徹「本人から聞いた話だから事実だろうよ。詳しくはお前さんも本人に聞きゃいい」
徹の話に智琉はしばらく黙っていた。
徹「どうした?」
智「俺も同じだ、俺も一人なんだ。父さんと母さんは三年前に死んで、唯一の身内のじいちゃんもいなくなって……」
徹「……寂しいか?」
智「そりゃ、寂しいよ」
徹「だろうな、当然だ。だがな、誰かの死をいつまでも引きずっちゃいけない。死を嘆き弔う事は大切だが、それに囚われず自分の未来に繋げる事が重要だ」
徹の口から出てきた言葉に思わず智琉は唖然とした。
徹「なんだよ?」
智「いやなんか、イメージに合わない台詞だったから」
徹「そうかよ悪かったな、もう二度と言ってやんねーよ」
徹は半分不貞腐れながらも、笑いながら智琉の事を窘めた。二人の間に僅かに和やかな雰囲気と笑顔が生まれた。
智「ありがとう」
智琉はとても小さな小声で礼を言った。その言葉を徹は聞こえないフリをした。
徹「着いたぞ。ここだ」
徹が案内した場所は一棟の雑居ビルだった。
智「ここに衆治がいるんだな」
徹「その筈だ」
智「筈って」
徹「言っただろ、あいつはいろんな場所を旅する奴だ。この町にもそう長くはいないつもりだろう。俺に挨拶無しに出て行ってても何ら不思議じゃない」
智「じゃあもういない可能性も……」
徹「まあ、とりあえず行ってみりゃ分かるだろ。行くぞ、居るとすれば屋上だ」
二人は建物の中に入るとエレベーターに乗り屋上を目指した。一番上の階につくとエレベーターを降りそこから階段で屋上の出入り口まで来た。
徹「準備はいいか?」
智「ああ、大丈夫」
徹は屋上のドアを開け外を見回した。屋上の真ん中にはソファがあり、そのソファに一人の男が座っていた。
徹「おーい、衆治!」
徹はその男に近づきながらそう叫んだ。男は徹の声に気付きソファから立ちこちらに歩み寄って来た。智琉と同じくらいの歳の見た目に黒いジャケット、右手に黒い指無しの手袋をつけた男が目の前に来た。
智 (こいつが衆治……)
続く