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6話

Side レオンハルト


最近、息子の様子が気になっている。


アルト。


私とセレスティアのたった一人の息子だ。


数日前。


あの子は庭の大木から落ちた。


命に別状はない。


医師もそう言った。


それでも。


目を覚まさなかった。


一日。


二日。


三日。


あの時ほど生きた心地がしなかったことはない。


私はルミナス大公爵家当主。


王国でも有数の権力者だ。


しかし。


どれほど地位や財産があろうと、息子一人目覚めさせることすらできなかった。


あの無力感は今でも忘れられない。


セレスティアと結婚して十五年。


貴族としては珍しく、政略ではなく恋愛の末に結ばれた。


初めて彼女を見た時から心を奪われていた。


透き通るような銀髪。


月光を映したような蒼い瞳。


微笑むだけで周囲を明るくするほどの美しさだった。


だが彼女に惹かれたのは容姿だけではない。


優しく、芯が強く、誰に対しても誠実だった。


私は何度も彼女に想いを伝えた。


庭園を共に歩き、他愛ない話を交わし、少しずつ距離を縮めていった。


幸いその想いは彼女にも届いた。


初めて手を取り合った日の喜びは、今でも昨日のことのように思い出せる。


幾多の祝福に包まれながら、私達は夫婦となった。


しかし。


長い間子宝には恵まれなかった。


親戚達は言った。


側室を迎えるべきだと。


家臣達も遠回しに勧めてきた。


もちろん断った。


私が愛しているのはセレスティアだけだ。


それ以外の女性など考えられなかった。


そして。


五年前。


ようやく待望の子供が生まれた。


アルトだった。


産まれたばかりのアルトを抱くセレスティア。


あの日の光景は今でも鮮明に覚えている。


私は本気で思った。


天使が私達のもとへ降りてきたのだと。


その後。


嬉しさのあまり三日三晩宴を開いた。


流石にセレスティアに叱られたが。


今となっては良い思い出である。


アルトは元気に育った。


いや。


元気すぎるほどに。


木登り。


探検。


かくれんぼ。


屋敷中を走り回り、メイド達を困らせることもしばしばだった。


そんな息子が。


事故の後から少し変わった。


以前は絵本くらいしか興味を示さなかったのに。


今では毎日のように大書庫へ通っているらしい。


しかも。


メイド達へ読み聞かせを頼み、熱心に勉強しているという。


その話を聞いた時は嬉しかった。


セレスティアと二人で喜び合ったほどだ。


息子の成長は何よりも嬉しい。


しかし問題はその後だった。


七日ほど経った頃。


メイド達から報告があった。


アルトが落ち込んでいるらしい。


理由は不明。


食欲はある。


体調も問題ない。


それなのに、明らかに元気がないという。


それを聞いて以来。


私は毎晩のようにセレスティアと共にアルトの寝室へ足を運んでいた。


今も。


寝顔を見ながら考える。


何があったのだろうか。


気に入る本がなかったのか。


それとも何か悩みでもあるのか。


そういえば。


勇者や賢者について随分と興味を示していたらしい。


なるほど。


その年頃の男児なら当然か。


よし。


近いうちに王都から勇者譚や英雄伝説を取り寄せよう。


王国建国記。


勇者アレス伝。


聖剣叙事詩。


有名どころを揃えれば喜ぶはずだ。


それと。


子供用の模造剣も良いかもしれん。


勇者ごっこができるような物なら喜ぶだろう。


王都の職人に頼めば見栄えの良い品が手に入るはずだ。


どうせなら盾も用意するか。


いや。


勇者装備一式を揃えてやるのも悪くない。


「あなた」


隣から呆れたような声が聞こえる。


見るとセレスティアが苦笑していた。


「また甘やかそうとしているでしょう?」


「そんなことはない」


「顔に書いてあります」


何故だろう。


否定できなかった。


それでも。


アルトの笑顔が見られるのなら。


それくらい構わないではないか。


私は満足げに頷いた。


――この時の私はまだ知らなかった。


息子が欲しがっているのは勇者の剣ではなく。


アイドルだったということを。

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