雨を呼ぶ男は、最後まで運が悪かった
本作品はフィクションです。
作中に登場する人物・地名・伝承(夜叉姫・夜叉ヶ池に関する描写を含む)は、物語上の設定であり、実在のものとは一切関係ありません。
その男の名前は――
神代 天音
どこにでもいる、普通の社会人。
……のはずだった。
彼が生まれた日の記録には、こう残っている。
「快晴の予報が、出産と同時に豪雨へ変わる」
偶然。
そう片付けられた。
最初は。
生まれた日、空は晴れていたらしい。
だが、産声を上げた瞬間――
急に土砂降りになった。
「この子……雨男だね」
それが、俺のあだ名の始まりだった。
そして付いたあだ名が「低気圧ボーイ」。
子供の頃から、異常だった。
遠足は必ず雨。
体育祭は延期。
修学旅行は台風。
最初は笑われたが、笑えるレベルじゃない。
でも次第に、こう言われるようになる。
「お前のせいで中止になった」「また神代かよ」
冗談半分のその言葉が、少しずつ刺さっていった。
大人になってから、気づいた。
これは単なる“運”じゃないと。
それは偶然じゃなかった。
何度やっても、同じだった。
集中すると、湿度が上がる。
感情が揺れると、雨になる。
つまり――
「俺が、降らせてるのか……?」
当然、誰にも言えなかった。
言えば終わる。
頭がおかしいと思われるか、
利用されるかのどちらかだ。
だから、隠した。
何も知らないフリをした。
唯一役に立ったのは、予測だった。
天気予報より正確に、雨を当てる。
同僚に言われる。
「お前、気象庁より当たるな」
笑ってごまかす。
皮肉にも、天気の変化だけは誰より読めた。
空気の匂い、風の湿り気、雲の重さ。
俺には“わかる”。
その日も、嫌な予感がしていた。
空は晴れているのに、妙に重い。
「……降るな」
そう呟いた瞬間。
ポツッ。
やっぱり来た。
本当は違う。
当ててるんじゃない。
雨を起こしてるのかもしれない。
あの日
その日は、妙に静かだった。
風がない。
鳥も鳴かない。
空だけが、不自然に青い。
(……やばいな)
理由はわからない。
でも、確信があった。
“大きいのが来る”
交差点。
信号は青。
でも、視界が歪む。
突然の豪雨。
ブレーキ音。
横から突っ込んでくる車。
(ああ、またかよ)
人生最後まで、雨に振り回されるのか。
ちょっとだけ笑えた。
意識が消える直前――
誰かの声が聞こえた。
「見つけた」「ようやく、届いたか」
え?(……誰だよ)
暗闇の中、水の音が響く。
どこか深い場所。
“何か”がこちらを見ている。
冷たいのに、怖くない。
「長い間、待っていた」
低く、優しい声。
「雨を呼ぶ者よ」
《個体識別:神代 天音》
《適性確認》
《水属性適性:規格外》
《龍神契約:可能》
は?
体が沈む。
でも、怖くない。
むしろ――
懐かしい。
水の中なのに、呼吸ができる。
声が聞こえた。
「今度は――ちゃんと使えよ」
誰の声だったのか、
最後までわからなかった。
ちょっと待て。
次に目を開けたとき――
知らない天井。
俺は、少女になっていた。
白い肌、長い髪、見慣れない小さな手。
遠くで聞こえる、雨の音。
そして、頭の中に流れ込む名前。
「雨音」
雨に呪われた男は――
異世界で“雨を操る存在”として生まれ変わった。




