ある日の貴族学園生徒会役員達の、朝起きてから夜眠るまで(7)
豚のローストにベリーのソース。
ジャガイモのポタージュ。
生野菜のサラダ。
あとは、たっぷりの白パンと新鮮なバター。
カロルとフィーリクスのディナーは、学園都市内で最高峰の料亭ではなく、もっと気軽な食堂のテーブルでおこなわれた。
ビストロとはいえ、かなり値段の張る、貴族の子女向けの店だ。
「これで、この地区のお店は、だいたい巡ったことになるかな。どこか、気に入ったお店はあったかい?」
「そうね、フィーリクス様。どこも美味しかったけれど……。一番は、二つ前のお店ね。タルタルステーキが絶品でしたもの」
ペアリングのワインを傾ける。……今日は少なめにした。
「でも、いいのかしら。シュヴァルツヴェルダーのご領主様は、もっと高級なお店をお好みなのではなくて?」
「僕もそう思ったのだけれどね。義父からの手紙には、とにかく、ありとあらゆる料理店を探って、美味しいお店を一覧にしておいてくれ、と」
「食道楽ですのね」
「うん。すごいよ、彼のこだわりは。黒い森の城には、料理人が三十人もいるんだから。学園都市のような若くて活気のある街では新しい料理が生まれやすいから、気になるんだって」
「ふふ。この街をご案内するのが楽しみですわ」
「オディロン殿の叔父でもあるから、生徒会の皆さんで食事をする機会もありそうだね。……そういえば、生徒会のほうはどう?」
「大変ですのよ。でも、やりがいがありますわ。例えば――」
若い恋人が揃っているのだ。話題が尽きることはない。
かけがえのない時間を過ごしたあとは、後ろ髪を引かれる思いを振り切って、馬車に乗って帰宅。
カロルの住まうカッサータ家の屋敷は、貴族学園にほど近い区画にある。高級住宅街であり、巨大で荘厳な屋敷が建ち並ぶ……が、実は古い屋敷が多く、老朽化が問題視されている区画でもある。
学園都市自体がすでに百年以上の歴史を持つ街であるから、初期に建てられた屋敷もまた築百年なのである。
カッサータ家の屋敷も古い。前に使っていたのが母の代らしく、つまり二十年以上前になる。その頃にはもうぼろ屋敷だったらしい。
学園都市は技術の街。家屋の設備も日進月歩だ。
そろそろ最新鋭の屋敷に建て替えるべきかもしれないが、ここまで古いと、屋敷であっても美術的な価値を持つ。扱いが難しいのだ。
カロルは身を清めてベッドに入る。
今日は疲れたが、充実した一日だった。
●
オディロンの夕食は豪勢だ。量も多い。
テーブルの上には、山盛りの白パン、湯気を上げる腸詰め類、野菜がたっぷり入ったスープなどが並ぶ。ケーキもたくさん置いてある。
学食と食材が同じなので、必然、昼と同じようなものになる。
もちろん、贅沢ができないわけではないが、シエール王家の財も無尽蔵ではないし、オディロンに渡される予算はそのうちのごく一部だ。
……中等部に遊び回って浪費したせいで、少しばかり減らされてもいる。
白パンと腸詰めを次々に口に運ぶ。
十六歳。まだまだ食べ盛りなのである。
あと、屋敷以外では、あまりたくさん食事を摂る気にならず、昼食がつい少なめになってしまう、というのもある。
「じい、ワインを。少しだけ」
「御意に。……それで、どうですかな? 書記殿と、お約束は」
オディロンが憮然とした顔で首を横に振ると、じいは愉快そうに笑った。
「二人分のグラスを用意するのは、当分、先のようですな」
「どっちにしても、ミネットは下戸だよ……」
さて、夕食を食べ終えたオディロンは、自室に戻った。
まだ寝ない。日中、屋敷に届いていた第三王子宛ての手紙をいくつか読んで、必要なものには返事をしたためる必要がある。眠る前の一仕事というやつだ。
手紙の中身は様々。
兄弟姉妹からの近況報告、貴族からの嘆願、商家からの新商品のお知らせ、株を買わないかという相談などなど……。
「お」
と、そのうちの一通を手に取って、声を上げる。
貴族や商家との付き合いではなく、王都東地区の調査に関する報告書だった。仲がよい王都の役人に頼んで、調べてもらっていたものだ。
「ようやくか」
王都東地区――きらびやかな王都の中で、もっとも貧しい区画だ。
東地区のさらに外側には、スラムも広がっている。
……栄える都市にスラムが出来上がるのは、仕方のないことなのである。
紙を広げて、確認する。
「ミネット。姓は無し。王都東地区の教会には、たまに顔を見せていた程度。ただし、その知識や学力は相当なものであり、『貴族の遺児である』『他国の諜報員である』などの噂もあったが、今回の調査では確認できず。なお、貴族学園への推薦状については、教会の腐敗もあり、おそらく買ったものだと推察される。これ以上の調査は、スラムへの立ち入りが必要……、か。なるほど……」
背もたれに体を預けて、大きく伸びをする。
「つまり、やっぱり、よくわからんということだな」
そして、俺は彼女のそういうところにも惹かれている――と、オディロンは自覚している。危険な香りに惹かれているのだと。
もう一度手紙を手に取り、文面を眺めて、微笑む。
「ミネット、君はどこから来たんだい……?」
当エピソードはここまでとなります。
次回エピソードの投稿時期は未定です。
ベーカリーよりパン屋にブーランジェリーにルビふるほうがよかったかな……?
修正するかもしれません。
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